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10.現状把握、そして……
しおりを挟む「はぁ……ん、……クソ」
数分ほど両手で目を押さえて泣いていたが、さすがにこのままでいるのは恥ずかしい。それに神崎が戻ってくる前に膝のベルトを外しておかないと、逆にあれこれ言われそうだ。なので精神的に参っていたけど、それでも外してから、身体を起こした。
そして改めて室内を見渡したが、まず着替えが置かれていない。もしかしなくても、裸で生活しなければならないのか? 今は9月上旬なので寒くはないけど、心許無いので薄い布団にくるまっておく。
あと首に何か巻かれているのだが、もしや首輪……いや、これはチョーカーか。太い紐タイプで、棒状の飾りが1つ付いている。本当にただのチョーカーのようで、自分でも簡単に外せるものだった。神崎からどんな反応をされるかわからないので、今のところは外さないでおくけれど。
次にトイレで、部屋の隅に置かれているおまるが視界に入るたび、憂鬱になった。せめて病室に置かれるようなトイレにしてくれれば良かったのに。いや、あれはあれで、ちょっと嫌な気分になるけれど。
高校時代、病気を患っていた爺ちゃんの病室に置かれていたトイレを、毎日確認しにいかなければならなかった。そのせいで高校生なのに学友達とほとんど遊べなかった。それに爺ちゃんが亡くなったあとの、クソ両親のことまで久しぶりに思い出してしまい、どうにも溜息が漏れる。
あのクソ両親のせいで大学進学は諦めたし、真面目に働いたところで金をせびられるだけだと気付いて、ギャンブルに嵌るようになった。何度働けと言われようと無視しまくり、両親よりもクズになった。借金もちょくちょくするようになった。するとようやく俺から興味を失ってくれて、自由になれて家から出られたのだ。ちなみに借金はしばらくしてから、こっそり貯めていた金で返している。
とにかくトイレットペーパーやウェットティッシュ、消臭アイテムなどが収納された小さなラックが追加されているあたり、清潔さは保ってくれるつもりらしい。
壁際に掛かっている時計が5時くらいなのを確認したあと、カーテンを開けてみた。夕焼けの赤にほっとしつつ景色を見渡す。高さとしては2階か。手錠さえ外せれば飛び降りて逃げられるが、フェンスも高めなので、越えるのには少々骨が折れそうだ。
あとやけに庭が広いし、フェンスの向こうにある住宅がやけにデカイくて高級である。つまり高級住宅街であると。こういうところだと裏路地のような身を潜められる場所はきっと無いけど、そもそも人通りが滅茶苦茶少ないので、ちょっと物陰に隠れるだけでも人目からは逃れられるんじゃないだろうか。
「弘樹さん、夕食出来ましたよ」
あれこれ考えながら陽の沈んでいく外を眺めていると、ドアが開いて、神崎が部屋に入ってきた。美味そうな匂いがしてきて、反射的にそちらを見て。
「な、ん……」
驚いて、声が出てしまう。
なんだよそれ。いや、飯自体が酷いわけではない。ワゴンに乗せられているのはホカホカの白米や、手作りっぽい美味そうなおかずの数々。量だって充分ある。
だがすべてがペット用の、底が高くなっている器に盛られていた。しかも愕然としていると、1つ1つをフローリングの床に置かれていく。
犬猫のように、かしずいて食べろと示されているようだ。言葉で明確にそう命令されたわけではないが、この状況で違う意図があるなら教えてほしい。
箸かスプーンがないかと、無駄なのはわかっているのにワゴンを見てしまう。結局見つけられなくて、動けなくて。
戸惑いながら神崎を見ると、彼は椅子に腰掛けて、無言でこちらを見つめてきた。そうして視線だけで、足元に並べた夕飯を、ペットのように食べるよう強要してくる。
当然――食べられるわけがなかった。
ベッドの上で丸まり、ぐうぅぅと鳴る腹を両腕で押さえて、どうにか空腹に耐える。
午後5時頃に出された夕食は、結局食べられなかった。どうしてもベッドから降りられずにいたら、30分ほどで神崎が食事を全部下げてしまったから。
そのあとも、2回同じように食事を出された。夜11時頃と、午前3時頃。腹はすげぇ減っていたけど、どうしたって犬のようには食べられそうになくて、2回とも顔を背け続けた。
神崎は神崎で食べなくても何も言わないし、30分経ったら問答無用で飯を引っ込めてしまう。置いていってほしいけれど、そう告げようものなら、顔を近づけて食べれば良いと返答されるだけだろう。
次にドアが開いたら、体当たりして奪うか? いや無理だ。ドアが開いたらワゴンが先に入ってくるし、床に並べられている間にそんなことをしたら、せっかくの飯を床にぶちまけちまう。そうして朝方のように貞操帯を付けられて放置されたまま、二度と持ってきてくれなくなったら……本当にに餓死してしまう。
どうしても嫌な未来しか浮かばないし、とにかく腹が減っていて朦朧としてきた。何か食べたい。次はいつ持ってきてくれるんだろう?
のろのろ顔を上げて時計を見たら、朝5時半だった。ここに連れてこられてから1日以上が経過してるし、飯なんて30時間くらい食べていない。
水はペットボトルでくれるので飲めるけど、水分だけで腹を満たすのは無理だった。それに栄養が無いせいか、手足が震えてきている。何か、何か食べたい。腹を満たしたい。
次に神崎が来るのは、いつだろうか。それまでに、俺は生きていられるのだろうか?
ああ、腹が減った。何か食べたい。何か……ああ、腹が減った。腹が……。
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