30 / 38
30.勝負する
撫でられるのが嬉しくて、どうにも言葉に詰まっていると、手が離れていった。チラリと確認すると、神崎はじっと俺を見つめたまま。気恥ずかしくて視線を逸らしたら、小さく苦笑される。
「ねぇ弘樹さん。実は貴方を買ってから、今日でちょうど2ヶ月なんですよ。1ヶ月で1億。貴方はその金額に値するだけの生活を送ってきた。なので、もう自由です。どこへでも行けますよ」
「えっ」
突然別れみたいなことを言われて、ビックリした。しかし神崎は、愉しげに目を細めている。
あぁ良かった。そうだよな、これで別れのはずがない。尿道プラグを入れられた時、神崎自身が言っていたのだから。『これさえも受け入れるのであれば、貴方と相対することは、もう二度と無い』と。つまり受け入れなかったら、これからも戦えるという意味である。
神崎は再戦を望んでくれていた。俺とまた戦いたいと、ずっと思ってくれていた。天才ギャンブラーにギャンブルの腕を認められていたなんて、素直に嬉しい。
だから戦おう。そのために、俺はここまで来た。
「神崎。メモ紙と、ボールペンあるか?」
「俺は持っていませんが、確かチェストの上に……ああそういえば、寿司を放置したままでしたね。それに窓を開けたままでは風邪を引いてしまいますし、あちらに戻りましょうか」
彼が窓を閉めている間に、俺も立ち上がった。以前のように素早く動けないのは承知しているが、さすがにこの距離を抱き上げられたくはない。
神崎の言っていたようにテレビの置かれているチェストを確認すると、メモ帳とボールペンを発見した。それを持ち、座椅子に腰掛ける。神崎が皿に醤油を入れてくれている間に、1枚には○印を、もう1枚には✕印を描いた。
「出来た。神崎、俺と勝負しよう。○を引いたら勝ちで、✕だったら負け。俺が勝ったら、その……ま、まずは友達になってほしい」
神崎に向けて、2枚の紙を裏返しで提示する。薄っぺらい紙なので、○も✕も透けて見えているだろう。見えていないと意味がない勝負である。
「……なるほど。これ、負けた場合のリスクはありますか? それと俺が勝った場合の条件は、こちらから提示して構いませんよね?」
「おっ、おう」
この程度の勝負に条件を足されるなんて想定していなくて、反射的に頷いてしまった。
俺としては、あくまでも友達になってもらえるかどうかだったんだが。これまでの生活からして、神崎はきっと友達になってくれる。そこから徐々に関係を深めて、いつか恋人になれれば良いと考えていた。
だが神崎は、勝つつもりでいる、よな? 条件を付け足してきたということは、そういう意味だろう。そうか、俺達は対戦相手にはなれても、友達にはなれないのか。
紙を引かれる前から落ち込んで、彼の手が○を取ろうとするから、さらに落ち込んでしまう。そしてそのまま引かれてしまった。そうか……。
「では俺が勝ったので、弘樹さんはこれからずっと、俺の家に住んでください」
「…………え? ……えっ?」
「それと弘樹さんが負けたリスクは、そうですね。1つだけ言うことを聞いてもらいましょうか。というわけで、ハウスキーパーとしてうちで働いてもらいます。もちろん給料は出ますよ」
「きゅ、給料」
神崎からの同居提案に滅茶苦茶驚いて、でもすごく嬉しくて舞い上がりそうになったのに、給料という言葉にズシンと胸が重くなった。
まともに働いたら、あのクソ両親にせびられるかもしれない。いや、もう10年前のことだ。きっと絶縁したまま、再会することはない。そう思うのに、どうしても不安が拭いきれなかった。
もしかしたら探偵とかに頼んで、すでに居場所を特定されているかもしれない。仕事して稼ぐようになったら、連絡入れるみたいな契約を交わしているかもしれない。俺を所有物としか思っていなかった人達だ、それくらいしていても不思議ではない。学生時代は爺ちゃんがいたから、緩和されていただけである。
「働くのは、不安ですか?」
無言でいたら、神崎がそう聞いてきた。そのとおりなので頷く。
「大丈夫ですよ。俺が囲うんですから、貴方の足取りを追うことは出来ません」
「……もしかして、知ってるのか?」
「ええ、弘樹さんのことは調べましたから。両親共に仕事はしているものの、父親はギャンブル狂、母親はホスト通い。どちらも弘樹さんの育児はまともにしておらず、祖父母に預けられていた。しかし祖母は14歳の時に、祖父は18歳の時に他界。高校卒業後、両親に仕事して金を入れろと命令された為、ギャンブルで借金を作ることで、彼らから逃れました」
全部合っている。すごいが、どうやって調べたんだろう。やはり探偵に依頼したのだろうか?
「駄目な両親でしたね。特に父親。パチンコ依存症なのは好きにすれば良いですけど、息子の金を当てにしなければならないほど負けが込んでいるなら、大人しく辞めるべきです。ギャンブルに必要なのは、結局のところ才能なんですから」
そうだな。パチンコで儲ける方法というのはネットによく載っているが、機械相手でもいろんな技術が必要になる。人間同士で対戦した方が、まだ稼げるんじゃないだろうか。そういう募集も検索すれば出てくるし、実際、俺はそうやって稼いできた。まさか裏世界から目を付けられるとは、思っていなかったけど。
「とにかく、貴方を害そうとする人間に、貴方の足取りは絶対に捕らえられません。なので安心してください」
神崎がそこまでハッキリ言うなら、本当に大丈夫なのだろう。そうか、これからも一緒にいられるんだな。
嬉しさのあまり、顔が緩んでしまう。すると神崎も笑みを零し、机越しに腕を伸ばしてきた。気恥ずかしさを感じながらも頭を向けると、優しく撫でられる。
あぁ好きだ。神崎が、すげぇ好きだ。いつかこの想いを伝えられるように、これから頑張ろう。
内心意気込みながら、恥ずかしさを誤魔化すように寿司を食べた。高級大トロはすごく美味かったし、なにより神崎と一緒に食べるというのが、とても嬉しかった。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか
相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。
相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。
ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。
雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。
その結末は、甘美な支配か、それとも——
背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編!
https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
【完結】兄さん、✕✕✕✕✕✕✕✕
亜依流.@.@
BL
「兄さん、会いたかった」
夏樹にとって、義弟の蓮は不気味だった。
6年間の空白を経て再開する2人。突如始まった同棲性活と共に、夏樹の「いつも通り」は狂い始め·····。
過去の回想と現在を行き来します。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!