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32.キスをする
しおりを挟む仕事をするようになってから約2週間が経過し、11月25日。1日の仕事を終えると、神崎から紙を渡された。
「これ、給料の明細書です。先日も言いましたが、毎月25日に払いますから。なので今回だけは2週間分です」
この前、神崎と給料振込み用の銀行通帳を作りにいった時に、いろいろ説明を受けた。給料の支払い方法とか、社会保険とか。ちなみに神崎は会社を設立しており、内容は情報収集だそう。つまり探偵業である。まさか神崎自身が探偵だとは思わなかった。社員はいないけど、頼めば手伝ってくれる知人は、何人もいるらしい。
とにかく給料である。今回は7万円。ここに住んでいるかぎり家賃や生活費を払う必要が無く、7万円そのまま自由に使える。さて、何に使おうか……実は、すでに決めている。
その日の夜。風呂から上がり、いろいろ準備してから、いつものように神崎の部屋へ。そのさいリビングに置いておいたバッグから、下ろしてきた7万円をバスローブの中に隠す。そしてベッドに座ったら、その金を神崎に差し出した。
「これで、神崎を買わせてほしい」
ついでに土下座する。
「……俺を買う、ですか?」
神崎にしては珍しく、戸惑っているような声が聞こえて、申し訳無くなった。
そもそも金で買うべきものじゃないのはわかっている。でももう我慢出来無いのだ。一緒のベッドで寝るだけでなく、素股されるようになって、顔以外のあちこちにキスされるようになって。もっとその先をしてほしくなっても仕方無いではないか。
「弘樹さん、顔を上げて」
下げていた頭を撫でられた。おずおず顔を上げれば、神崎は優しげに微笑んでくる。
「買うということは、俺に何かしたいわけですよね? 何をしたいんですか?」
「……えっと。う、後ろに、……神崎のチンコ、入れてほしい」
うう、言ってしまった。しかもまた神崎は無言になってしまうし。居た堪れないので、早く返答してほしい。
しかし1分ほど待っていると、クツクツ喉を震わせて笑い出すではないか。う、うう……。
「や、やっぱりこれはナシで」
「ああ、すみません。からかったり馬鹿にしたわけではないんです。俺の予想から大きく外れたことが、面白くて。俺としては、いつ我慢出来無くなり、入れてほしいと強請ってくるのか待っていたんですけどね。……さすがは弘樹さんだ。あれだけ快楽に弱くなっても、流されないんですから。素晴らしい精神力です」
え。強請ってくるのを待っていたって。つ、つまりオモチャを入れられている時に頼めば、抱いてもらえたという? わざわざ金を下ろしてこなくても……。
「あああの、でも俺、神崎が好きなんだけど!?」
「はい、俺も好きですよ。むしろそうなるように、2ヶ月間で調教したつもりなので。貴方みたいな貴重な人、俺が手放すはずないでしょう」
俺は下心アリなんだぞ、頼んだだけで抱いてくれるなんて、そんなに優しくされたら勘違いしちまうだろ!? と混乱しながらもどうにか伝えようとしたら、なんと肯定されてしまった。しかも、そうなるように調教したと。
では俺が神崎を好きになったのは、神崎の計算のうちなのか? というか今、咄嗟に告白しちまったし、同意を貰えたわけで。
気付いたら、グワッと身体が熱くなった。恥ずかしい、だが滅茶苦茶嬉しい。
「弘樹さん、顔真っ赤。可愛い」
「あ、ああのでも、俺は男で」
「俺に世間的な常識を求められても、困ります」
そのとおりである。ぐうの音も出ない。
何も言えなくなってしまい、このあとどうすれば良いかもわからずに黙っていると、神崎がベッドに置いていた金を拾った。
「この金は、せっかくなので貰っておきます。貴方の初給料を俺に使おうとしてくれたのは、とても嬉しいですから」
俺の空振っていた行動や感情をきちんと受け取ってくれるあたり、本当イイ男だ。惚れ直してしまう。
神崎は金をテーブルに置くと、再びベッドに座ってきた。顔を近づけられるので咄嗟に目を瞑れば、予想に反して体重を掛けられ、ベッドに倒された。上に乗りかかられて、また顔を近づけられる。
「キス、して良いですか?」
そんな間近で、しかも官能的な声で聞いてこないでほしい。してほしいから、頷くけど。すると、ふにっとした感触が唇に落ちてきた。一瞬のことでよくわからなかった。いや、柔らかかった気はする。
「…………も、もう1回、頼む」
「ええ、いくらでも」
柔らかく微笑まれて、また唇が触れてきた。
キス、している。神崎とキスしている。しかも今度は離れていかない。
ちゅ、ちゅと何度か吸われたあと、唇を舐められて、咄嗟に唇を開いた。すると舌が入ってきて、舌先が少しだけ触れ合う。それだけで気持ち良くて、もっと感じたくて、俺からも舌を出した。するとすぐに絡んでくる。ゆっくりと舐められ、くちゅくちゅと唾液が混ざっていく。
「ん、んふ……、ふ……ぁ」
すごく気持ち良くて、緩やかな快感に、だんだんぼんやりしてきた。ひたすら絡み合っている舌が震えるし、身体もヒクヒクしている気がする。
「ふぁ、ん、ん……ん、んむ」
「ん……、ふ……んん」
優しくも深く、まるで呼吸さえも飲まれているような感覚。
ぴちゃぴちゃと弄られる舌に蕩けそうになりながら、しかし咥内に溜まっている唾液がちょっとつらくて、喉を鳴らした。すると飲みやすくしようとしてくれたのか、唇が離れていく。
飲んでいる最中にも、頬や眦にキスされた。ちゅ、ちゅ、と唇が振ってくるのが、くすぐったいけど気持ち良い。そうしてちょっと笑いながらも目を開けると、すぐそこで、神崎の優しげな双眸とぶつかる。
「キス、しちゃいましたね」
「ん。……、……ん」
頷きつつも、じわりと涙が滲んだ。
神崎とキスをした。優しいキスだった。すごく嬉しい。
「ふふ、可愛い人」
感極まっていたら、ちゅっと、また触れるだけのキスをされた。
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