37 / 38
side神崎慧 : 狂気 中
しおりを挟むまず俺の両親についてだが、母親は自殺で11歳の時に他界しており、父親はクズだった。ギャンブル狂なうえ、育児は母に任せきり。しかも母に対するDVの数々。
俺が被害をこうむることは、ほとんど無かった。小さい頃には常に母に庇われていたし、母親のいないところで殴られたこともあったが、10歳過ぎたら反撃出来るようになった。腕を掴んで足払いして倒し、隠し持っていたナイフを首に当てて殺すと脅したところ、それきり俺に何かしてくることは無くなったのだ。弱者にしか粋がれないクズということが判明して、呆れもした。
だからこそ庇ってくれていた母に対しては、どうして離婚しないのかという疑問ばかりが浮かんだ。しかも結局、耐え切れなくなり自殺である。首を吊って死んでいる母を見ても、当然ながら涙なんて出なかった。
俺は自分で言うのもなんだが、子供ながらに頭が切れて、行動力もあった。母が亡くなった時には俺が親戚に電話したし、いろいろ手続きしたほどである。必要な情報はネットで検索すればだいたい出てくるので、簡単だ。
父親は、母が亡くなったことで箍が外れたようで、どんどん借金を増やしていった。そんな彼に反して、俺は母の通帳に残っていた幾ばくかを資金にして、株式投資でどんどん金を増やした。未成年でも投資に必要な口座を持つことが出来るし、スマホがあれば事足りるので、気付かれる心配もない。
まぁそもそも父は、母が死んでからというものの、家に帰ってくるのも稀になっていたが。殴ろうとすれば返されるだけと理解していたからだろう。しかし俺が自力で生活可能な人間でなければ、育児放棄で罪に問われている行動である。
そんな父は借金まみれになり、母が他界してから1年後、とうとうヤクザに捕まった。それが清水組だ。クズな父親は俺を売ろうとしたようで、学校帰りの俺も連れていかれた。そうして大地さんと出会った。
父は何人ものヤクザに囲まれ、脅えていた。俺が現れた瞬間、助けてくれと叫んでくる。そんな声を無視して、大地は俺に告げてきた。
『勝てば借金はチャラにしてやる。だが負ければ、お前さんの父親を殺す』
そう言われた時、笑いたくて仕方無かった。いっそすぐにでも殺してくれれば良いのに、と。だが勝負内容だろう麻雀卓が置かれており、興味をそそられたので、勝負を受けることにした。
麻雀のルールをスマホで調べようとしたところ、見かねて教えてくれたのも大地だ。そして大地含めたヤクザ3人と勝負した。結果は――引き分けである。勝って父親を助けたくはないが、負けたくもなかったから。
大地達は驚いていた。半荘して、4人全員の点数が同じなのだから。どうすればそんな奇跡が起こるのかと。計算してそうなるように調整しただけだが、彼らからすれば驚きの出来事だったようだ。
だがとにかく負けではなかったからか、父は喜んでいた。さすが俺の息子だとかなんとか。その声がひどく癇に障ったのを、今でも覚えている。だから提案した。
『ねぇヤクザさん。もう半荘して俺が勝ったら、俺の願いを1つだけ叶えてくれませんか?』
引き分けなんていう結果に、ヤクザである彼らは納得しない。だから飲んでくれた。しかし相手は俺である。よって彼らは、大差で負けた。
言葉も出せずにいるヤクザ達と、やはりイキがる父親。
勝負を全部チャラにしようとしてか、1人が舌打ちして、俺に銃口を向けてきた。しかしセーフティを下ろしていないので、現状弾が飛んでくることはない。そんな男に対して、大地が止めろと咎めてくれた。負けを認めるとは、ヤクザでありながらなかなか信頼出来る人である。
だからこそ俺は、大地に願いを告げたのだ。
『では貴方がたに依頼します。拘束しているそこの男を、殺してください』
少しばかり沈黙が漂った。けれどすぐに父親が喚き出して、それを周囲が取り押さえる。
『一応、理由を聞いておこうか』
『ソイツは事あるごとに母に暴力を振るい、自殺に追い込んだ男です。それに学校まで迎えに来られたので知っているでしょうが、俺はまだ小学生なんですよ。そんな息子に生活費を1円も渡さず、放置していました。そんなクズ、生きていてほしいと思いますか? むしろ今すぐ死んでほしいですね』
『なるほど。血が繋がっているだけの他人であるお前さんを、巻き込んじまって悪かったな。おいヤッちま……ああと』
俺を気遣うように見てくる彼に、新鮮な気持ちになりながらも、ニコリと微笑んでみせる。
『安心してください。死体を見ても、恐怖を感じることはないので。首吊って死んでいる母の死体を下ろした時も、特別何かを感じることはありませんでしたし』
『…………そうか。死体はこっちで引き取るぜ。売れるもんがたくさんあるんでね』
『では行方不明ということで。捜索願いは出しておきます』
額に銃口を突きつけられた父は、恐怖に駆られてひどく暴れたし、慧許してくれと泣き叫んだ。父さんが悪かったと。こういう状況になって初めて謝罪してくる男に、やはり呆れしか感じない。しかも俺が無言のまま蔑んだ視線を向けていると、助けてもらうのは無理だと悟ったのか、罵声を浴びせてくるし。本当に救えないクズである。
奴は最終的に、銃を持っているヤクザ相手に命乞いをし始めた。今になって泣くくらいなら、最初から多額の借金などしなければ良かったのだ。ギャンブルという狂楽に自ら浸っていたのだから、自業自得である。
そうして俺が見ている中、血が繋がっているだけの他人は、額から血を流して死んだ。
応援ありがとうございます!
12
お気に入りに追加
574
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる