クレイジー&クレイジー

柚木ハルカ

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side神崎慧 : 狂気 後


 大地と出会ったことで、彼らと時々麻雀をするようになった。しかも1回も負けないでいると、金を賭けた場に誘われるようになる。
 麻雀以外でも負けることはなく、何億も賭けた場であろうと勝ち続けたら、次第に闇世界から恐れられるようになった。高金額での代打ち依頼が、よく来るようになった。

 大地が若頭になれたのは、彼いわく、俺がイカれているから。常人ではありえないほどの頭脳と、狂っている精神で、勝ち続けているからだと。それと清水組からの依頼は大地からでないと受けないので、必然的に大地の功績となるからだろう。

「大地さんには感謝していますよ。貴方がアレの代わりになってくれたから、今の俺があるんです」
「……以前はアレの話をしたら、笑顔でキレてたのになぁ。まさか自分から話してくるなんて、人は変わるもんだ。これが恋ってやつかね」
「愛ってやつですよ」
「そうかよ。はぁ、こりゃ頑張らないといけないな」

 2人で吸い終えた煙草を灰皿に押し付け、ちゃんとテーブルを片付けてから、中に戻る。
 コーヒーは、ダイニングテーブルに用意されていた。それから弘樹さんが事前に買っておいてくれた、ケーキも。

「準備、ありがとうございます」
「どういたしまして。神崎はここな」

 俺のところにはチーズケーキで、弘樹さんのところにはモンブラン。大地は弘樹さんの対面に座り、俺の向かいが岬さんになった。

 椅子に座るとすぐに、大地さんは懐から名刺を出す。

「きちんと自己紹介するのは初めてだな。改めて、俺はこういうもんだ」
「え、あ……はい」

 ケーキ皿付近に置かれた名刺を、少々戸惑いながらも見つめる弘樹さん。たぶん拾うべきかどうか迷ったのだろう。結局そのまま見つめて、そして。

「……神崎大地。……神崎……え。……えっ?」

 俺と同姓であることに気付いて、驚いたようにこちらを見てきた。なので、彼の求めている答えを告げる。

「血は繋がっていませんが、親子ですよ。養子縁組です」
「慧は中学生になる前に、両親を亡くしているんだ。だから俺が引き取った。慧の義父になってから、もう13年経っている。血は繋がっていないが、親としての責任はきちんと果たしてきたつもりだ」

 確かに果たしている。ガキ1人は世間的に問題だからと、養子縁組が確定するより前から彼のマンションに一緒に住ませてもらったし、料理を作ると褒めてくれた。中学校で必要なものはなんでも買ってくれて、修学旅行費も出してくれ、授業参観や3者面談も来てくれた。
 実父はクズなので論外だが、母も精神的に追い詰められていたからか、学校方面は蔑ろにしていた。なので衣食住も、学校方面も、どちらに対してもきちんと親の義務を果たしてくれた義父には、感謝しかない。

 ――そして、今も。

「弘樹。コイツはヤクザの息子だし、ヤクザの俺が言うのもなんだが、精神的にイカれている部分がある。常人からだいぶ逸脱している。それでもどうか、息子を頼む」

 父親として、息子のパートナーに頭を下げる大地。これが彼なりのケジメなのだろう。相変わらず義理堅い男である。だからこそ彼の息子になろうと思えたのだが。

 頭を下げられた弘樹さんは、少し逡巡したのち、姿勢を正して同じように頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。その……大地さん」
「おお、よろしくな。……、ッ……はぁー、良かった。ヤクザが身内なんて嫌だと言われたら、どうしようかと思ったぜ」

 法的に結婚するのは無理だとわかっているにもかかわらず、俺達が結婚したものとして考えてくれる大地は、素晴らしい父親である。





 挨拶を終えたあとは、ケーキを食べながら世間話をした。といってもこの面々なので、会話内容はギャンブルについてがほとんどである。そんな中、弘樹さんがこんな疑問をぶつけてくる。

「そういえば神崎は、俺達の間ではどこにも属していないギャンブラーだって噂されていたんだけど。でも実際は、清水組に属してるってことだよな?」
「いいえ。親がヤクザなだけで、俺はどこにも属していませんよ。依頼料によって、清水組と敵対したこともありましたし」
「ああ、そんなこともあったな。5、6年前だったか? まだ俺が若頭になる前のことだが、俺をライバル視していた奴が、慧への依頼料を減らそうと言い出してな。俺の息子だからと。だが慧自身はヤクザじゃねぇし、清水組への義理も無く、すでにあちこちから引く手あまただ。当然依頼料の高い方を選ぶ。んでうちと敵対して、かなりの額を搾られちまったわけだ」
「そのあとでしたね。神崎さんが、若頭に任命されたのは」
「オメーが補佐になったのもな」

 納得出来たのか、弘樹さんは頷く。しかしその表情は、どうしてか悩ましげだ。

 なので約2時間後。彼らが帰ったあと、ソファに座って一息ついたところで、問いかけてみた。

「弘樹さん、どうしました? 何か気になることがありましたか?」
「あ……そのさ。神崎と大地さんは、親子だから苗字が同じだろ? それに岬さんは、大地さんのことを神崎さんって呼んでいたじゃないか。……つまり間違いやすいから、その……お前のこと、け、慧って、呼ぶべきかな、なんて。ほら俺達、結婚したんだし。苗字より、名前で呼ぶべきかなって」

 ずいぶん可愛らしい悩みを聞かされて、つい喉を鳴らしてしまった。するとテレを隠すようにムッとされるから、愛しさが込み上げてきて、さらに笑ってしまう。するとそっぽを向いてしまう弘樹。そんな彼に向かって、腕を広げる。

「おいで、弘樹さん」

 そう誘えば、チラリとこちらを確認してきたあと、勢いよく腕の中に入ってきた。反動のまま横になれば、胸元にグリグリと顔を押し付けられる。くすぐったさに笑いながらも、あたたかな温もりを抱き締めて、頭をそっと撫でた。

「名前で呼んでいただけたら、とても嬉しいです」

 実際のところ、呼び名なんてものに、こだわりはない。しかし弘樹さんが呼びたいのなら、そうしてほしい。

 弘樹は顔をおずおず上げてくると、頬を赤らめながらも、口を開いた。

「け……、……けい?」
「はい、弘樹さん」
「慧、慧」
「はい、弘樹さん」
「慧。……へへ」

 嬉しくなってきたのか笑いながら、また顔をグリグリ埋めてきた。本当、可愛い人だ。愛しくてたまらない。

 大地さんも言っていたが、弘樹さんと出会う前まで、裏世界の者達にハメられた人を助けることは何度もあった。
 自分から破産した人間を助ける義理はないので見捨ててきたが、騙された人達は、どうにかすべきである。なので彼らの借金は俺の依頼料で消してやり、その代わり要請したら必ず手助けすることを了承させた。

 ちなみに弘樹さんを監禁してからは、公共施設にはバイトとして彼らを配置したし、そもそもこの周辺は清水組に所縁のある者達が住んでいるので、裸で逃げたとしても警察に通報されることは無かったりする。
 あと助けた中にはタクシーの運転手もいたので、弘樹さんを乗せるよう頼んだり。

 彼らの中には、弘樹さんと同じように殺されかけた人もいた。その誰もが、涙を流しながら、許してくださいと謝罪していたのだ。彼らは騙されただけであって、決して悪くないのに。そうして必死に命乞いをする。

 ……弘樹が、初めてだった。アレと同じように銃口を突き付けられながら、しかし謝罪も命乞いもせず、さらには相手を睨み付けたのは。死の恐怖に駆られながら、それでも絶対に屈しないという、意思の強さ。

 欲しい、と思ってしまったのだ。どんな手を使っても、俺のものにしたいと。

 監禁生活最終日、弘樹さんに監禁した理由を教えたが、あんなものすべて捏造である。それらしいことを並べただけ。
 実際は俺に惚れさせて、俺から離れられなくするための監禁だった。俺達はどちらも男だし、弘樹さんは見るからにLGBTではない。そんな人が何もせず同性に惚れる可能性は、限りなく低い。

 だから調教した。俺を好きになるように。

 結果として彼は俺を好きになり、自分から俺の腕の中に飛び込んでくるようになった。

 ああ、なんて可哀想な人だろう。こんな狂っている人間を好きになってしまうなんて。
 少々憐れに思うものの、そんな感情を簡単に凌駕するほど、愛しさが溢れてくる。

「弘樹さん、愛してますよ」
「へっ。あ……俺も。……け、慧を、愛してる」

 頬を紅潮させながらも、愛を返してくれる弘樹の唇に、ちゅっと軽くキスをする。すると弘樹さんはぱちくり瞬きしたあと、照れながらも、自分から唇を寄せてきた。

  ...end.

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