38 / 38
side神崎慧 : 狂気 後
しおりを挟む大地と出会ったことで、彼らと時々麻雀をするようになった。しかも1回も負けないでいると、金を賭けた場に誘われるようになる。
麻雀以外でも負けることはなく、何億も賭けた場であろうと勝ち続けたら、次第に闇世界から恐れられるようになった。高金額での代打ち依頼が、よく来るようになった。
大地が若頭になれたのは、彼いわく、俺がイカれているから。常人ではありえないほどの頭脳と、狂っている精神で、勝ち続けているからだと。それと清水組からの依頼は大地からでないと受けないので、必然的に大地の功績となるからだろう。
「大地さんには感謝していますよ。貴方がアレの代わりになってくれたから、今の俺があるんです」
「……以前はアレの話をしたら、笑顔でキレてたのになぁ。まさか自分から話してくるなんて、人は変わるもんだ。これが恋ってやつかね」
「愛ってやつですよ」
「そうかよ。はぁ、こりゃ頑張らないといけないな」
2人で吸い終えた煙草を灰皿に押し付け、ちゃんとテーブルを片付けてから、中に戻る。
コーヒーは、ダイニングテーブルに用意されていた。それから弘樹さんが事前に買っておいてくれた、ケーキも。
「準備、ありがとうございます」
「どういたしまして。神崎はここな」
俺のところにはチーズケーキで、弘樹さんのところにはモンブラン。大地は弘樹さんの対面に座り、俺の向かいが岬さんになった。
椅子に座るとすぐに、大地さんは懐から名刺を出す。
「きちんと自己紹介するのは初めてだな。改めて、俺はこういうもんだ」
「え、あ……はい」
ケーキ皿付近に置かれた名刺を、少々戸惑いながらも見つめる弘樹さん。たぶん拾うべきかどうか迷ったのだろう。結局そのまま見つめて、そして。
「……神崎大地。……神崎……え。……えっ?」
俺と同姓であることに気付いて、驚いたようにこちらを見てきた。なので、彼の求めている答えを告げる。
「血は繋がっていませんが、親子ですよ。養子縁組です」
「慧は中学生になる前に、両親を亡くしているんだ。だから俺が引き取った。慧の義父になってから、もう13年経っている。血は繋がっていないが、親としての責任はきちんと果たしてきたつもりだ」
確かに果たしている。ガキ1人は世間的に問題だからと、養子縁組が確定するより前から彼のマンションに一緒に住ませてもらったし、料理を作ると褒めてくれた。中学校で必要なものはなんでも買ってくれて、修学旅行費も出してくれ、授業参観や3者面談も来てくれた。
実父はクズなので論外だが、母も精神的に追い詰められていたからか、学校方面は蔑ろにしていた。なので衣食住も、学校方面も、どちらに対してもきちんと親の義務を果たしてくれた義父には、感謝しかない。
――そして、今も。
「弘樹。コイツはヤクザの息子だし、ヤクザの俺が言うのもなんだが、精神的にイカれている部分がある。常人からだいぶ逸脱している。それでもどうか、息子を頼む」
父親として、息子のパートナーに頭を下げる大地。これが彼なりのケジメなのだろう。相変わらず義理堅い男である。だからこそ彼の息子になろうと思えたのだが。
頭を下げられた弘樹さんは、少し逡巡したのち、姿勢を正して同じように頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。その……大地さん」
「おお、よろしくな。……、ッ……はぁー、良かった。ヤクザが身内なんて嫌だと言われたら、どうしようかと思ったぜ」
法的に結婚するのは無理だとわかっているにもかかわらず、俺達が結婚したものとして考えてくれる大地は、素晴らしい父親である。
挨拶を終えたあとは、ケーキを食べながら世間話をした。といってもこの面々なので、会話内容はギャンブルについてがほとんどである。そんな中、弘樹さんがこんな疑問をぶつけてくる。
「そういえば神崎は、俺達の間ではどこにも属していないギャンブラーだって噂されていたんだけど。でも実際は、清水組に属してるってことだよな?」
「いいえ。親がヤクザなだけで、俺はどこにも属していませんよ。依頼料によって、清水組と敵対したこともありましたし」
「ああ、そんなこともあったな。5、6年前だったか? まだ俺が若頭になる前のことだが、俺をライバル視していた奴が、慧への依頼料を減らそうと言い出してな。俺の息子だからと。だが慧自身はヤクザじゃねぇし、清水組への義理も無く、すでにあちこちから引く手あまただ。当然依頼料の高い方を選ぶ。んでうちと敵対して、かなりの額を搾られちまったわけだ」
「そのあとでしたね。神崎さんが、若頭に任命されたのは」
「オメーが補佐になったのもな」
納得出来たのか、弘樹さんは頷く。しかしその表情は、どうしてか悩ましげだ。
なので約2時間後。彼らが帰ったあと、ソファに座って一息ついたところで、問いかけてみた。
「弘樹さん、どうしました? 何か気になることがありましたか?」
「あ……そのさ。神崎と大地さんは、親子だから苗字が同じだろ? それに岬さんは、大地さんのことを神崎さんって呼んでいたじゃないか。……つまり間違いやすいから、その……お前のこと、け、慧って、呼ぶべきかな、なんて。ほら俺達、結婚したんだし。苗字より、名前で呼ぶべきかなって」
ずいぶん可愛らしい悩みを聞かされて、つい喉を鳴らしてしまった。するとテレを隠すようにムッとされるから、愛しさが込み上げてきて、さらに笑ってしまう。するとそっぽを向いてしまう弘樹。そんな彼に向かって、腕を広げる。
「おいで、弘樹さん」
そう誘えば、チラリとこちらを確認してきたあと、勢いよく腕の中に入ってきた。反動のまま横になれば、胸元にグリグリと顔を押し付けられる。くすぐったさに笑いながらも、あたたかな温もりを抱き締めて、頭をそっと撫でた。
「名前で呼んでいただけたら、とても嬉しいです」
実際のところ、呼び名なんてものに、こだわりはない。しかし弘樹さんが呼びたいのなら、そうしてほしい。
弘樹は顔をおずおず上げてくると、頬を赤らめながらも、口を開いた。
「け……、……けい?」
「はい、弘樹さん」
「慧、慧」
「はい、弘樹さん」
「慧。……へへ」
嬉しくなってきたのか笑いながら、また顔をグリグリ埋めてきた。本当、可愛い人だ。愛しくてたまらない。
大地さんも言っていたが、弘樹さんと出会う前まで、裏世界の者達にハメられた人を助けることは何度もあった。
自分から破産した人間を助ける義理はないので見捨ててきたが、騙された人達は、どうにかすべきである。なので彼らの借金は俺の依頼料で消してやり、その代わり要請したら必ず手助けすることを了承させた。
ちなみに弘樹さんを監禁してからは、公共施設にはバイトとして彼らを配置したし、そもそもこの周辺は清水組に所縁のある者達が住んでいるので、裸で逃げたとしても警察に通報されることは無かったりする。
あと助けた中にはタクシーの運転手もいたので、弘樹さんを乗せるよう頼んだり。
彼らの中には、弘樹さんと同じように殺されかけた人もいた。その誰もが、涙を流しながら、許してくださいと謝罪していたのだ。彼らは騙されただけであって、決して悪くないのに。そうして必死に命乞いをする。
……弘樹が、初めてだった。アレと同じように銃口を突き付けられながら、しかし謝罪も命乞いもせず、さらには相手を睨み付けたのは。死の恐怖に駆られながら、それでも絶対に屈しないという、意思の強さ。
欲しい、と思ってしまったのだ。どんな手を使っても、俺のものにしたいと。
監禁生活最終日、弘樹さんに監禁した理由を教えたが、あんなものすべて捏造である。それらしいことを並べただけ。
実際は俺に惚れさせて、俺から離れられなくするための監禁だった。俺達はどちらも男だし、弘樹さんは見るからにLGBTではない。そんな人が何もせず同性に惚れる可能性は、限りなく低い。
だから調教した。俺を好きになるように。
結果として彼は俺を好きになり、自分から俺の腕の中に飛び込んでくるようになった。
ああ、なんて可哀想な人だろう。こんな狂っている人間を好きになってしまうなんて。
少々憐れに思うものの、そんな感情を簡単に凌駕するほど、愛しさが溢れてくる。
「弘樹さん、愛してますよ」
「へっ。あ……俺も。……け、慧を、愛してる」
頬を紅潮させながらも、愛を返してくれる弘樹の唇に、ちゅっと軽くキスをする。すると弘樹さんはぱちくり瞬きしたあと、照れながらも、自分から唇を寄せてきた。
...end.
78
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる