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リュカ(本編補足)
23話
しおりを挟む第8ダンジョン攻略を終えて、翌日に一度会えたあとは、またしばらくお預けになった。
ザガンの傍にいれば、少しは死への恐怖を和らげられるかもしれない。けれど馴れ合ったせいで努力を怠ってしまい、結果として死んでしまうなんて、あまりにも馬鹿げている。
自分なりの最善を尽くす為に。そのスタートラインとしてザガンに認めてもらう為に、8月終わりの4日間は朝から晩までギルドマスターの世話になり、ひたすら鍛錬を積んだ。
そして第9都市に移動し、9月10日。久しぶりにザガンと会えて嬉しかったけど、徹夜したことは窘めておいた。焦るのはわかるけど、3日間徹夜なんてしたら、注意力散漫で死んでしまうかもしれないじゃない。でも頑張って反論しようとするのも、結局謝っちゃうのも可愛いなぁ。はぁ大好き。
ザガンとの手合わせは負けてしまったけれど、ドラゴン戦に参加することを許してもらえて、安堵する。
「……リュカの剣は、他者を守る為に振るわれるものだと感じたから。受け止めていて、心地良かった」
そんなふうに褒めてもらえたのも、嬉しかったな。この剣で、絶対に君を守るよ。
国民については、きっと大丈夫だろう。ザガンがあんなに素晴らしい魔導バリアを作ってくれたのだから。それに公爵に闇組織のことを伝えたところ、都市を覆っている魔導バリアの強化や、騎士達の警戒態勢の強化をすると約束してくれた。もし俺達がドラゴンを逃してしまったとしても、彼らが国民を守ってくれる。
ちなみにその晩のエッチは、すごく驚いた。君が突然、上になるなんて言ってくるから。俺に入れたいのかと、ものすごく焦っちゃった。
いやもちろんザガンも男だし、しかも俺より強いから、組み敷かれるばかりは嫌というのもわかる。でも俺は君を抱きたいというか……入れられるのはどうしても無理そうだったので、どうにかザガンの気分を変えるしかない。
でも途中で勘違いだったのが判明したし、なんならザガンから腰を下ろして、俺のペニスを咥えていってくれた。どんどんエッチになっていくザガン、すごく可愛い!
翌日、ノエル達から預かったものを渡してからホテルを出たけど、どうしても引き止めたくて抱き締めた。
次会えるのは、対ドラゴン戦。とても危険で、もしかしたらザガンは命を落としてしまうかもしれない。俺だって参戦したら、無事でいられるかわからない。もし可能なら、このまま誰にも見つからない場所に攫ってしまいたい。
でも逃げるわけにはいかない。この都市が襲われるとわかっているのだから。それにザガンも、同じ闇属性として国を滅ぼそうとする彼らを絶対止めなければならないと決意し、立ち向かう覚悟を持っている。ならば俺は、その背中を支えるのが役目だ。
だから、いってらっしゃいと告げる。次会えた時、君が無事なまま腕の中に帰ってきてくれるようにと、願いを込めて。するとザガンは戸惑いながらも、いってきますと応えてくれた。それに少し離れたあと、こちらを振り返ってくる。
独りではなく、俺と一緒に生きようとしてくれている。そんなザガンの変化が、とても嬉しかった。
9月25日。アカシックレコードに記されている通り、幾度となく繰り返してきた日と違わず、ザガンがダンジョン攻略を終えた。そしてザガンの予想通り、闇組織はダンジョン前で彼を待ち伏せていた。
俺達は彼らの会話を通信越しに、しかしダンジョン大広間で聞いていた。すぐそこで、ザガンが闇組織と相対している状態。今日はずっとセーフティ空間で待機していて、いつでも大広間に転移出来るようにしていたから。
飛び出そうとするミランダやノエルを押さえて、ザガン達が移動し始めたら通信機をノエルに預け、俺だけが彼らを追っていく。成長した魔力操作のおかげか、気付かれることはない。結果として30回以上ループしてきた中で初めて、ドラゴンが召喚された直後にザガンと合流出来た。
とりあえず今まで何度もザガンを殺してきた男、しかもザガンに陵辱するなんて言葉を吐くような変態は背後から思いっきり蹴飛ばし、倒れたところを力いっぱい踏ん付けて、ショックウェーブで気絶させておく。それでも怒りが収まらないので、もう1回踏んだ。股間を狙わなかっただけありがたく思ってほしい。
驚いていたザガンを抱き締めると、俺の温もりに安心したのか、硬くなっていた身体や表情がちょっと緩んだ。1人で怖かったよね、大丈夫、俺がいるからね。
そうしてドラゴン5体と戦闘したのだけど、ザガンの用意してくれた魔導バリアのおかげで善戦した。ノエル達も参戦して、みんなで協力して……最終的に、ザガンの素晴らしい魔法で勝負は決した。あれ、究極魔法だよね? あんなに強力ですさまじい魔法、初めて見た。
とにかく戦闘は終了。ザガンは魔力を使いすぎてフラフラになっていたけど、気絶するほどではなく、自分でMPポーションを飲めた。それでも心配で見つめていると、ザガンがふわりと微笑んでくる。
「リュカ。俺を助けてくれて、ありがとう。お前のお陰で、俺は生きている」
「ザガン……。うん、良かった。君が無事で。本当に、本当に良かった」
感極まり、ぎゅううと彼を抱き締めた。ああ、ザガンが生きている。いつもここで死んでしまっていたザガンが、ドラゴン戦を終えても無事に生きている。嬉しい、嬉しい!
ザガンも心から安心したみたいで、完全に身体を預けてくれている。防具越しだけど、魔力を使いすぎて少し冷たくなっているのがわかる。
約3ヶ月間ずっと恐怖に耐えてきて、偉かったね。素肌で抱き合えばきっと癒されるし、魔力も回復してあげられるから、屋敷に帰ったらいっぱいエッチしようね。
そう、思ったのに。なんで? なんでこんなことに!
いやわかってる。馬鹿な女がザガンを攻撃して、彼を庇ったノエルが大怪我を負い、俺とニナでその女に制裁を加えた。ついでにそんな犯罪者の言葉を鵜呑みにした騎士達にも説教して、どうにか怒りを静めたところで、闇組織に囲まれてしまったんだ。
気絶したノエルおよび、回復していたベネットとシンディを人質に取られて……対価はザガンの命? 殺すぞ。
結局ザガンの所持していた星の欠片を渡すしかなく、渡したところで闇組織は引き下がりはしなかった。でも相手の言葉は、元々あの馬鹿女が闇属性に吐いた暴言である。
『奴らは闇属性というだけで、我々を殺そうとする。殺さなければ、こちらが死ぬのですよ。貴方もこの女性がいなければ、危なかったじゃないですか』
そうだ、あの馬鹿女はザガンを殺そうとした。それに騎士達も、ザガンが闇属性だからと憎悪を向けた。それは彼らに向けたものと同義である。彼らも闇属性なのだから。よってここにいる者達が闇組織に殺されたとしても、自業自得。
死ねば良い。俺のザガンを害するものなど、全部、全部、全部! この世から消えれば良い!
……なのに君は、騎士達を守ろうとして魔法を使った。すでに魔力枯渇しかけていたのに、闇組織100人を止める為に、あんな精密な魔法を放つなんて。
当然ながら身体が持つはずもなく、闇組織が引いたあと、ザガンは倒れた。
慌てて駆け寄ったけど、魔力枯渇のせいで顔色が真っ青になっているし、頬がひどく冷たい。MPポーションを飲ませようと口移ししても、喉すら動かないようで嚥下してくれず、身体がどんどん冷たくなっていく。脈が遅くなっていく。
なんでこんなことに。どうしよう、ザガンが死んでしまう。またザガンが、死んで。
「あ、あああ……そんな……嫌だザガン、死んだら嫌だ! お願い、お願いだから……ッ!」
「リュカ、今すぐここに入れ! そしてこの媚薬を飲んだら、ザガンの中にひたすらおぬしの魔力を出し続けろ! やればきっと生きられる!」
ほとんど思考停止してしまっていたからか、カミラに怒鳴られるまま傍に置かれたテントに入り、媚薬を飲んですぐにペニスを勃起させてザガンを抱いた。彼の胎内でペニスを刺激させて射精するのだけど、何度出してもすぐに吸収されるし、身体は冷たいまま。焦りそうになる心は、テントの隙間から補充される媚薬で誤魔化し続けた。
ザガンの胎内に精液が溜まるようになったのは、それから半日以上経ってから。刺激すれば声も漏れるようになり、一命を取り留めたことに心底安堵して、涙が零れてしまった。良かった……本当に、良かったっ。外からずっとサポートしてくれていたカミラも、ホッと息をつく。
公爵達への対応は、全部ノエルがしてくれたみたいだった。ひとまず空気を入れ替えようとテントを開けたらすぐに顔を覗かせ、ザガンが呼吸しているのを見ると、俺以上に号泣する。
そのあとも俺達は都市に戻らず、そこで野営した。たくさん胎内に精液を出しても、数時間すれば無くなってしまう。だから俺はほとんど眠れず、ザガンのこと以外は手が回らなくなってしまった。
看病し続けたからか、3日経過した頃には、ザガンの体温はほぼ元通りになっていた。脈も基本的には正常である。しかしどうしてか目を覚まさないし、ふとした瞬間、魔力が抜けて体温が下がってしまっていた。
原因がわからず焦燥感に駆られたが、10月になり次の都市へ移動することになった。
その準備は仲間達が全部してくれたし、出発時にはマニフィーク公爵が見送りに来てくれた。彼はザガンを抱えている俺に、深々と頭を下げる。第9都市を守ってくれてありがとう、騎士達を守ってくれてありがとうと。
それは明らかに、ザガンへの言葉だった。さすがは4大公爵家、国民達の闇属性に対する差別より、王子である俺の意向を優先してくれる。ただ公爵がザガンを優しい眼差しで見ているのは、それだけが理由ではないだろう。あの場にいた彼もまた、高潔な意思を持つザガンに、守られたから。
――『あの者達も、お前達も。同じ人間だ。ならば俺にとっては、どちらも守るべき存在だ』。
俺はザガンを傷付ける人間なんて全部消したかったのに、当のザガンは全部守ろうとした。その精神と実行力は本当に素晴らしいし、だからこそ闇組織の男さえも心を動かされ、引いたのだろう。俺も王子として本来そうあるべきだと、何度も自分に言い聞かせてきた。
だが最愛のザガンを傷付ける人間達を、許せるはずがない。しかも結果として、ザガンは死の淵にまで追いやられた。俺がいなければ、確実に死んでいた。あんな者達を守った結果、君が死んでしまうなんて……俺を置いて死のうとするなんて、そんなの許せるはずがない。
君を失うかもしれないと想像するだけで、恐怖と悲しみで胸が張り裂けそうになり、嗚咽が止まらなくなる。怖くて発狂しそうになる、泣き叫びたくなる。もしすぐに君の元へいけるのなら、いくらでも自分の腹を刺して、死に続けたいと思ってしまう。
10月5日には第10都市に到着し、出迎えてくれた領主にザガンのことを告げ、すぐに新たな貸家に移動した。ザガンはまだ起きない。
何度も声をかけて、そのたび返事をしてくれないかと期待するけれど、ずっと眠ったまま。目を離してる隙に亡くなってしまうかもしれないと思うとどうしても怖くて、寝落ちしては3時間ほどで起きて、呼吸していることにホッとするのを繰り返している日々。果たしていつまで、こんな生活が続くのか。
「……お願いだから、目を覚まして。……ザガン、聞いてる?」
もしかして、ずっと起きてくれないの? 確かにあの状況から生きてるだけでも奇跡に近いから、高望みすべきではないのかもしれないけど。
でももう知っているんだ。じっと見つめてくる赤い双眸に、俺が映ることの嬉しさを。君をずっと観察してきたからか無表情でも何を考えているかわかるようになったし、逆にたまにだけど、感情を顔に出してくれるようになった。自分が笑顔になっているの、君は気付いていたのかな?
ねぇザガン、お願いだから目を開けて? そしてまた俺に微笑みかけてよ。
「……ねぇザガン、なんで起きないの。なんで……っ」
ずっと目を瞑ったままの君を見ているだけで、悲しくてボロボロ涙が零れてしまう。せめて魔力から君の想いを感じたいのに、いくら抱き締めても伝わってこないから、さらに泣いてしまう。
「――……リュカ、……ん」
だからザガンの声が聞こえてきた時、また錯覚なのかと疑ってしまった。けれど確かに目を開けて、俺を見つめてきていて……驚いているうちに、ザガンが俺の頬に触れてきたんだ。
「ふっ……いつもの格好良さが、半減してしまっているな」
その瞬間、涙が溢れて止まらなかった。嬉しくて。本当に嬉しくて、ザガンをきつく抱き締める。するとザガンから幸せなのが伝わってくるから、涙腺は壊れたんじゃないかというくらい、泣いてしまった。
どうにか涙が止まったあとは、喜びを噛み締めつつ、ザガンに今までのことを説明した。俺がどれだけ泣いたかも。ザガンから素直に無茶したことを謝ってくれるから、ちょっと責めちゃったりもした。だって本当に苦しかったんだ。君がいないと、俺は狂ってしまうんだよ?
しばらくしてザガンが動けるようになると、リビングに移動した。ベネットに泣かれたあと、中庭にいるメンバーを確認するザガン。シンディがいないことに不安そうだったから居場所を教えると、すごくホッとしていた。
何故なのかちょっと考えて、すぐに思い至る。そういえばアカシックレコードでは、ノエル以外は好感度が低いと、ここに来るまでに仲間から離脱してしまうんだったね。
そのように情報としては知っているけど、30回以上タイムリープしてきた中で、誰かが離脱したことは一度も無い。エンディングに影響があるわけではないし、イベントスチル? というのも無いから、タイムリープには無関係のものとして処理していた。
その判断をしていて良かったと、後ろからザガンを抱き締めながら安堵する。ふふ、すぐに彼女達の安否を確認するなんて、相変わらず優しいね。
ノエルはザガンに気付くと、ボロボロに泣きながら勢いよくザガンに抱き付いた。兄様と何度も呼んじゃっているけど、ザガンも否定はしない。しかもそのあと、きちんと兄と認めさせているし……ノエルの粘り勝ちだなぁ。
ちなみに俺は肉が好きなんじゃなくて、ザガンの好きなものが好きなんだよ。わざわざ言わないけどね。
そしてその日の夜は、本当に幸せだった。だってザガンが目覚めてくれただけでなく、初めて「好き」の言葉を返してもらえたから。
もちろん今までも、エッチしている時に、魔力からそういう感情が伝わってくることはあった。俺に抱かれて幸せだなんて、俺を好いているのと同意義でしょ? でもザガンが自分の想いをきちんと認識して、言葉にして返してもらえるのは格別で、歓喜で胸がいっぱいになる。
「――俺は、リュカが好きだ」
しかもちゃんと告白し直してくれるのも、男前だし格好良いし、すごく可愛い。もうホント好き。愛してる。
ザガンが目を覚ましてくれた。今までこの時期にはザガンの亡骸を持ち運んでいたのに、今は生きて傍にいて、俺を見つめてくれる。なんて幸せだろう。寝顔も……見つめていたら怖くなって、つい起こしちゃったけど。ごめんねザガン、明日からはもう大丈夫だから。
久しぶりのデートも、とても楽しかったな。恐怖や焦燥が無くなり、のんびりした空気でデート出来るなんて、ホント幸せ。
でもまだ病み上がりだから心配なのに、君は俺にダンジョン攻略に行けと言う。なんで? 寝不足ぐらい平気だよ? 君と離れてしまう方が絶対つらいのに。
しかも落ち込んでいるところに、愕然とする事実が判明した。そう、邪神についてである。まさか邪神=月の女神であり、しかもずっと国を守っていたなんて。
「……そっか。邪神を倒しちゃ、いけなかったんだね。……そう。それで……何度もっ」
どうしていつも、邪神を倒した直後にタイムリープしていたのか。そしてどうして、月を見せられていたのか。その理由がとうとう判明した。そう、俺が邪神を倒していたからだ。そのせいでソレイユ王国は滅亡するし、今まで彼女が処理していた瘴気が世界中に溢れるような事態になり、世界崩壊までいくのだろう。
何度もタイムリープしていた原因は、俺自身だった。ヒントも毎回提示されていた。そんな状況で長年苦しんだところで、自業自得である。それに国を守るどころか、滅亡の片棒を担いでいたとは、なんて愚かで無様なんだろう。
ザガンはまだわからないことばかりだと言うけれど、もう充分だよ。邪神を倒さなければ良いだけ。それでもう、俺達は未来へ進める。
今まで苦しんできたことが、グルグル頭の中で回っていく。あれもこれも全部全部全部、無意味なことだった気がしてくる。……ううん、違うよね? だって今の俺には、ザガンがいるもの。俺だけのザガン、君が傍にいてくれるだけで、俺は前を向いていられる。
だから離れたくないのに、ノエルは俺達を離そうとするし、ザガン本人からも提案されてしまった。最初は反論したけど、すぐに俺を心から想ってくれているからというのがわかって、結局折れることに。
俺が不調なの、心配してくれていたんだね。俺が苦しんでいるのを、自分のせいだと思っているんだね。ごめんね、本当のことが言えなくて。でもこんなにも心配してもらえるなんて、すごく嬉しい。ありがとうザガン、大好きだよ。
翌朝。ザガンからとっても可愛い、いってらっしゃいのキスを貰い、ザガンとノエルに見送られてダンジョン攻略に向かう。
自分では気付いてなかったんだけど、本当に体調が良くなかったみたいで、どうにも身体に力が入らず時々危ない場面があった。みんなで足並み揃えて慎重に進んでいたのが、功を奏してくれた。リュカが不調でノエル不在なのだから当然だと、言われちゃったけど。
体調不良で魔力が乱れていると魔力操作が上手くいかず、身体強化も思うように出来無い。だからとにかく食べて寝ろと叱られた。カミラが睡眠薬も処方してくれたので、眠る前にちゃんと飲む約束をする。
その夜、ザガンと通信機で話した。君の温もりを感じられないのは寂しいけれど、君に言われたようにダンジョン内だからと納得出来るし、心も落ち着いている気がする。通話越しでも、ザガンは可愛かったし。
独りで眠るのは久しぶりで、でも独りだから静かなのは当然のこと。睡眠薬のおかげもあってすぐに眠くなり、気付けば翌朝になっていた。
起きたら頭も身体もすごくスッキリしていて、ちょっとビックリする。そっか、寝不足ってあんなに不調をきたすものだったんだね。タイムリープし続けていた頃に比べたら、ありえないくらい幸せで精神も安定してるから、ちょっと寝不足なくらい問題無いと思ってたんだけど……。
でも結局、その精神が不安定だったのか。腕の中にいるザガンが、起きないかもしれないという恐怖。そして君が言っていたように、離れたことでその恐怖が薄らいだ。ザガンすごいね? とすぐに通信機で伝えたところ、向こうも寝起きだったのか眠たそうな声で、それでも満足そうに「そうか」と返答された。
そうして2週間後。久しぶりに再会したザガンは、圧倒的強者に戻っていた。膨大な魔力でほんの少しだけ周囲を威圧している、その静寂の気配。元気になってくれたことが嬉しくて、両手を広げれば、威圧を消して腕の中に入ってきてくれる。
「おかえりザガン、お疲れ様」
「リュカも、おかえり。お疲れ」
ああ……ようやく無事な君が、この腕の中に帰ってきた。本当に、お疲れ様。
こうして念願だったザガンの仲間入りが、ようやく果たされた。
まぁ再会した翌朝から、いきなりミランダとどこかに行っちゃったのには驚いたけど。でもそのあと、いっぱいエッチ出来たのは嬉しかったな。素肌を触れ合わせてザガンの温もりを感じるだけでも、とても幸せだ。
いつもの旅生活も戻ってきて、お昼過ぎからは以前のように、ザガンと冒険者ギルドで依頼をこなした。以前と違うのは、屋敷からずっと一緒だということ。ホント幸せ。あと31日のハロウィンでは仮装したんだけど、黒猫ザガンがあまりにも可愛すぎて、悶えずにはいられなかった。もう大好き、愛してる。
しかしザガンが仲間になってくれたと思っていたのは俺だけだったみたいで、ザガンは11月になると、俺を置いて先に行こうとした。闇属性だからという理由で。今度こそ絶対守るから、俺の傍にいて? そんなふうに言葉を尽くしたら頷いてくれたし、正直その時の君はすごく可愛かった。けれど心臓に悪いから、もう二度と離れようとしないでほしい。
ずっと懸念していたザガンの死は、無事乗り越えられた。だったらこれからは、本格的に闇属性への差別をどうにかしないといけない。なんの憂いも無く、君が俺の傍にいられるようにしないといけない。
でもどうすれば良いんだろう? 今までは邪神を倒したら、差別を無くせると思っていた。だが邪神は、決して倒してはいけない存在である。ではどうすれば良い? 王である父上に進言するのは確定だが、王からの言葉でも、納得する貴族はあまりいないだろう。他に出来ること……。
いろいろ考えながらも、これからずっとザガンといられることが嬉しくて、イチャイチャしながら第11都市へ向かう。
その道すがら、あと少しで到着するという早朝。起きたらザガンが腕の中にいなくて、慌てて外に出ると、テント付近にいてくれて。ホッとして抱き締めたところ、ザガンから感情が伝わってきた。とてつもなく強い意志なんだけど、具体的な内容はわからない。
しかも俺を見返してきた赤い双眸もまた、とてつもなく強い輝きを湛えていた。何を言われるのか判断付かなくて戸惑っていると、ザガンは頭に巻いていたターバンを取り、俺の首に巻いてくれる。
太陽の下に晒された黒髪はとても綺麗で、でも俺から視線を外したその横顔は、なんだか寂しそうで。再び俺を見つめてきた時に紡がれた言葉は、決意に満ちていた。
「リュカ、俺はこれからずっと――この黒髪を隠さずに、生きていく」
黒髪を晒すと、どういう事態を引き起こすのか。それを説明してきたうえで、ザガンはこのように告げてきた。君を好きになった俺が、人々から糾弾されたり嘲笑されずに済むようにすると。君が大好きという想いを、誰からも傷付けられないようにすると。だから黒髪を晒していきながら、闇属性の差別を無くすと。
その言葉に、俺は勘違いしてしまった。差別が無くなるまで一緒にいられないという意味かと思い、そう聞き返してしまった。また俺から離れてしまうのかと、不安になったから。
それが間違いだと気付いたのは、ザガンの気配が完全に消えたからだ。魔力が消えただけじゃない、抱き締めているのに体温を感じなくなっている。まるで別の物体を抱いているみたいな錯覚がするし、注視しないと焦点すら合わなくなってくる。
「すまないリュカ、先程の言葉は忘れてくれ。俺は独りで歩いていく。何十年掛かるかわからないから待つ必要は無いが、いつか闇属性への差別が消えた日には、お前に会いに」
その言葉を最後まで言われる前にキスして唇を塞ぎ、ザガンを抱き締めたままテントの中に戻った。そして何度も謝罪する。傷付けてしまってごめんと。
俺のことを好きになってくれて、俺と一緒に生きたいと願い、黒髪を晒す決意をしてくれたんだよね。俺が隣にいれば、どれだけ悪意を向けられても大丈夫だからって。それほど俺を頼りにしてくれたのに、俺からその決意を否定されたんだから、ショックを受けて当然だ。本当にごめん。
ザガンを傷付け悲しませてしまったことが苦しくて、どうにか許してほしくて、言葉を紡ぎながらあちこちにキスをする。少しでも閉ざされた心を緩められるように、優しく触れていく。
するとザガンは、言葉を返してくれた。
「俺も、ずっと傍にいられるように、努力しようと思ったんだ。リュカに守られながらも、リュカを守っていこうと。……2人で一緒に、頑張ろうと。その方法を、伝えていたつもりだった」
あぁそうか、そうだったんだね。
今までのザガンは、誰かに頼ろうとせず独りで前に進んでいく人だった。俺はそんな君の背中を追い、腕を掴んで無理矢理俺に寄りかからせていた。でも今は、隣を歩こうとしてくれているんだ。手を繋いで、俺と一緒に頑張ろうとしてくれている。
いつの間にか寄り添ってくれていたザガンに、愛しさが溢れた。あまりにも嬉しくて、涙が滲みそうになる。愛してるよザガン、俺達はこれからずっと、2人一緒だからね。
応援ありがとうございます!
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