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しおりを挟む父の書斎に行き、事の仔細を報告した。
「クリストハルト様が婿入りすれば、私の立場はありません。この家を出ようと思います。今までお世話になりました」
「そうか」
彼は完全にクリストハルトに迎合しているので、引き止められもせず、冷たく返されるだけだった。はなからこの人をあてにしようとは思っていないが、実の親に見放されたのを実感すると、やっぱり悲しい。
物言いたげに父を見つめて突っ立っていると、父がテーブルにペンを置いて、こちらを威圧的に睨んだ。
「なんだその顔は。何か不満があるなら言ってみろ」
「いいえ。何でもありません」
「ならさっさと出ていけ。その気味の悪い目をあまりこちらに向けるな。目障りだ」
「…………」
彼は、なんでも見透すネラの光る瞳を昔から嫌悪している。だから、目も合わせようとしない。
「お仕事中失礼しました。ではこれで」
もしかしたら、何かひとつでも励ましの言葉があるのではないかとどこかで期待していた。「達者でやれ」とか「すまない」とか、僅かでも労る言葉を掛けてくれたら、どんなにか救われたのに。
けれど、励ましの言葉はなく、書斎を出る直前、ドアノブに手をかけたネラに「気味の悪い女だ」と吐き捨てた。
昔っから愛情のない人だった。結局彼が大切なのは仕事と金だけ。娘さえも立身の道具に過ぎないのだ。だから、要らなくなったらぽいと捨てることができてしまう。
(だめね、私ったら。期待するだけ無駄だって分かっていたじゃない)
肩を落としながら、自室へ戻った。
さて、これからどうしよう。
家を出ると言ったはいいものの、リリアナの言う通り全盲の自分が自立してやっていくのは、簡単ではない。でも、困ったときに助けてくれる人もいない。
全盲になってからまだ一ヶ月。日常生活もままならない状態で、いきなり働いて生計を立てていくのはさぞ大変だろう。また、曲がりなりにも貴族令嬢として育ってきたため、世間知らずだという自覚はある。
ソファに腰を沈めてしばらく思い悩み、決めた。
(占い師になろう)
たったひとつだけ、あてがあるとしたら、それは占いだ。
ネラには生まれつき透視能力がある。他人の過去も未来も見透すことができて、ずっと趣味で色んな人を占ってきた。
屋敷の一室をサロンにして、無料で毎日数人ずつ依頼を受けていた。実力が口コミで広がっていき、いつの間にか予約が半年先までいっぱいになっていたほど。
今までに何件か、「専属占い師にならないか」と打診をもらっている。その中でも有名な占いバーを訪ねてみることにしよう。
(落ち込んでる場合ではないわ。修道院に入れられる前に自分でなんとかしないと)
義妹の思い通りにはなりたくない。図らずも政略結婚が白紙になって、しがらみはなくなった。
だからこれからは、家のことは気にせず自分の足で自由に生きていこうと思う。
周りに翻弄される人生はこれで終わりだ。
そう決心して、さっそく外行きの服に着替え、杖を持って家を出た。
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