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しおりを挟む王衛隊の屯所にて。
ネラとオペラに行く約束をした翌日。浮き足立っているところを部下のカイセルに茶化された。
「隊長~なんか今日いつもより機嫌よくないですか? さてはまた、例の占いに行ったっすね。占いなんてあてになりませんよ。あーいうのって確か、バナナ効果って言うんす」
占いなどで、誰にでも当てはまることを言われているのに、あたかも当たっているかのように思い込む心理現象を、バナナ効果……ではなく、バーナム効果という。
「それを言うならバーナム効果だ。黙って仕事しろ」
「バナナくれんなら」
「森へ帰れ馬鹿」
部下をあしらいつつ、ネラのことを思い出す。店に通う内に少しずつ、心を開いてくれている気がする。
「隊長みたいな空気読めなくて話もつまらない顔と剣だけが取り柄の石頭が、占いに傾倒すんなんて意外です」
「全部占いに関係ないな。ただの悪口だな」
「気のせいです」
別に、占いにハマっている訳ではない。フレイダが執心しているのはネラだ。
フレイダには前世の記憶がある。
前世ではミハイルという名前の男だった。
今は滅びたヴェルシア教皇国で司教枢機卿をしていて、あらゆるものを見透す預言の聖女アストレアの護衛役を務めていた。
美しく優しい人で、身の程知らずだと知っていながら密かに恋心を寄せていた。
しかし、彼女は無実なのに『裏切りの聖女』という汚名を被った上にフレイダを庇って死んだ。死の間際に「いつか必ず会える」と言い残して。
預言の聖女の最期の言葉を信じ、生まれ変わった今も彼女を探し続けた。
そして、ネラを見つけた。
アストレアと瓜二つの容姿と、光を帯びた瞳を見たとき、生まれ変わりだと確信した。神の啓示で選ばれる聖女は、瞳孔に光の輪が刻まれているから。預言の聖女は透視能力を得るために、視力を失う。ネラは今世でもその特性を引き継いで盲目になっていた。
ネラは前世のことを覚えていないようだが、思い出してくれなくたって構わない。再び会えただけで夢のようだから。
「カイセル。デートで何をしたら女性は喜ぶと思う?」
「んー、そうっすねぇ」
すると、カイセルはいたずらに口角を持ち上げて言った。
「こーいうのはさ、喜ばせようって気持ちがあれば十分なんすよ。楽しんできてくださいそしてリア充爆発しろ」
ひと言余計だ。
前世のアストレアは、女の子らしい楽しみのひとつも味わえていなかった。だから今度は、めいいっぱい楽しいことを経験させてあげたい。沢山好きなものを食べて、好きな服を着て、好きな場所に行って……。あわよくば笑顔を見せてほしい。
前世は身分差から、想いを伝えることもできずに決別してしまった。これからは好きな気持ちを伝えていくつもりだ。そして、前世では守りきれなかった彼女のことを次こそは守りたい。
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