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十一、次への一歩 果実の約束
しおりを挟む「ルシールの婚約を破棄できる?しかも、あちら有責でとは。レッティ。一体、どういうことだ?」
「はい。実は、両親が隣国で聞いて来た話なのですが」
そう前置きして、ピエレットはまず、母ブリュエットが言っていた情報規制の話をする。
「・・・それは。つまり、バルゲリー伯爵夫人のご生家には、王家に関する醜聞が伝わらないようしているというのか。王家自ら」
それでは、バルゲリー伯爵夫人のご生家にもご迷惑が、と呟くエヴァリストにピエレットは緩く首を横に振った。
「その点は問題ありません。ご心配くださって、ありがとうございます」
「しかし、話が伝わらないようにしている、という状態なのは間違いがないのだろう?」
それは、貴族社会に於いて外野に置かれているということではないか、なのに心配ないとは得心がいかない、と目力強く言うエヴァリストに、ピエレットが淡い笑みを浮かべる。
「はい、それは、そのようです。とは言っても、そうされている、という情報をくださる皆様が周りにいらっしゃる、というより、貴族は一部を除いて対王家という形で結束しているそうなので、何の問題もないそうです」
あちらの王家は、威信も何も無いようです、とピエレットは言い、それよりもエヴァリスト様がご心配くださる方が嬉しいです、と無邪気に笑った。
「ああ・・今の笑顔もかわいい・・・癒される」
「エヴァ様?」
「いや。しかし、それで婚約破棄というのは?しかも、相手有責となると、かなりの事実、証拠が必要となるが」
こほん、と喉を整え言ったエヴァリストに違和感を覚えるも、ピエレットはもうひとつの情報、父バルゲリー伯爵が、隣国子爵家で聞いた話を口にした。
するとその途端、エヴァリストの表情が厳しく引き締まる。
「ルシールとの婚姻前に、婚外子がいるということか」
「はい。子爵家のご令嬢が秘密裡にご出産された。そしてその赤子の父親は第三王子殿下である、という証拠は、父が既に掴んで来ております」
そう言うとピエレットは、父に託された書類をエヴァリストに渡した。
「バルゲリー伯爵は、何と?」
その書類に素早く目を通したエヴァリストが、凛とした表情でピエレットに問う。
「父は、まずエヴァリスト様に、この事実をご存じかどうか確認するように、とわたくしに申しました。その後は、王家、及びデュルフェ公爵家に従うと」
「感謝する。これがあれば、確かにルシールと隣国第三王子の婚約破棄の話を、こちら有利で進めることが可能だ」
そして、言葉を言い終えるより早く立ち上がったエヴァリストが、そっとピエレットを抱き寄せる。
「ありがとう、レッティ。早速、父と話をしてみる。バルゲリー伯爵は、今日は?」
「母と共に、領地の生産の関係で、視察に行っております」
商人として、伯爵として、一日としてじっとしていない、とピエレットは忙しく動き回る両親を思った。
「それでは改めて、お礼に伺うと伝えてくれ」
「はい。お気をつけて」
慌ただしく帰っていくエヴァリストを馬車まで見送ろうと歩き出せば、ちょうどエヴァリストが持って来た果実を運んで来る途中の侍女と行き会う。
「ああ。あの果実を食べるレッティを見たかった・・・甘くておいしいって笑うレッティ・・かわいい・・・」
「エヴァ様?何か、おっしゃいましたか?」
「いや。あの果実をレッティと共に食べたかったと思って」
どぎまぎと言うエヴァリストに、ピエレットも同じ気持ちだと頷いた。
「わたくしも、エヴァ様といただきたかったです。次にお見えになる時では、遅いのですよね?大丈夫であれば、保管しておきますが」
特殊な保管方法などあれば、と縋るように言うピエレットの言葉に、エヴァリストも残念そうに首を横に振る。
「完熟の状態で、もいで来たからな。今日食べるのが一番だ」
もし腐らないのなら、特別な方法を用いてでも共に食せる次の機会を待とうと思ったピエレットだが、やはりそうはいかないらしい。
「残念です」
しゅんとしてしまったピエレットを、こういう表情も可愛いと内心で愛でながら、エヴァリストは一つの提案をした。
「ピエレット。では、また持って来てもいいか?」
その言葉に、ピエレットの瞳が一瞬で輝く。
「はい!もちろんです。あ、でも。ご迷惑ではありませんか?」
不安そうに首を傾げるピエレットに、エヴァリストは力強く首を横に振った。
「迷惑などではない。俺も、非常に残念だったからな。よかった。これで、心置きなく行ける」
次回を楽しみに面倒ごとを片付けて来る、とエヴァリストも晴れ晴れとした表情になる。
「エヴァ様」
「ではな、レッティ。また連絡する」
「はい。お気をつけて」
颯爽と馬車へと乗り込んだエヴァリストが、窓から顔を覗かせ、胸元を二度ほど拳で軽く叩くと、ピエレットに輝くような笑顔を見せた。
「うまく事が運びますよう、お祈りしております」
そんなエヴァリストに小さく手を振り返し、ピエレットは遠くなる馬車をいつまでも見送っていた。
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