王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)

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十二、不穏

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「ねえ、聞いてぴぃちゃん。今日はね、先生たちにたくさん誉めていただいたの。『デュルフェ公爵家に相応しい淑女におなりですね』ですって!苦手な歴史も頑張った甲斐があるというものね」 

 言いつつピエレットは、特別仕様のブラシで、毎夜恒例となっている孔雀のぬいぐるみの手入れを始める。 

「それからね。エヴァ様から、きれいなお花が添えられたお手紙をいただいたの。お忙しくて、まだお会いするのは難しいらしいのだけれど、ルシール王女殿下の婚約破棄のお話は、うまくいきそうなのですって。『これで、ルシールも幸せになれる。バルゲリー伯爵夫妻のお蔭だ』って。今度、王家からもお礼をしたいって。私もね。本当にうまくいって、ルシール王女殿下がお幸せになれればいいなと思うの」 

 特製のブラシで丁寧に孔雀のぬいぐるみの全身を梳いて、羽繕いの後の如く整えると、今度はもっと小さく毛先の柔らかなブラシに持ち替え、ぬいぐるみの羽に付けられている小さな宝石を、ひとつひとつ、丁寧に磨き始める。 

「本当よ?結果として、私がエヴァ様から婚約を・・か・・解消されたとしても」 

 うっ、と言葉に詰まりつつ、嘘ではないとピエレットはぬいぐるみに宣言した。 

「だっ・・だってねぴぃちゃん。私、本当にエヴァ様が好きなの」 

 存分に宝石をブラシで磨いたピエレットは、今度は柔らかな布を手に、宝石を優しくぬぐい始めようとして、その動きを不意に止め、布をきゅっと握り締める。 

「好きだから、エヴァ様には幸せになってほしい。けど・・うっうっ・・ぴぃちゃあん。本当に婚約を白紙に、ってなると思う?」 

 言いつつピエレットは、ひしとぬいぐるみを抱き寄せ、うるうると孔雀の瞳を見つめた。 

 その瞳は、少し緑がかった青の宝石。 

『ピエレットの瞳は、俺の瞳を少し淡くしたような色だね』 

 と出会いの頃嬉しそうに言った、そのエヴァリストの瞳と同じ色。 

「うっうっ・・・ごめんね、ぴぃちゃん。もう大丈夫。さ、お目目もお手入れしましょうね」 

 まるでエヴァ様の瞳のよう、と思いつつ、ピエレットは、エヴァ様の優しい瞳を思い出せば涙も止まり、また溢れる、と矛盾する気持ちを抱えつつ、こちらも特製のブラシと布で丁寧に磨き上げた。 

「あ、そういえばね、ぴぃちゃん。エヴァ様のお手紙に『隣国には、怪しい術を使う者がいるらしい』とあったのだけれど、怪しい術って何かしらね」 

「お嬢様!ピエレットお嬢様!」 

 ピエレットが、器用にも半分泣きながら首を傾げた時、家令が部屋へと飛び込んで来た。 

「大変です、お嬢様。デュルフェ公爵令息様が、王城にてお倒れになったと、今、伝令が」 

「!!・・それで、わたくしに登城の許可は下りていますか?」 

「はい。すぐにも、お越しくださるようにとのことでございます」 

「分かったわ。急ぎ支度を。それから王城とデュルフェ公爵家へ、わたくしもすぐに向かうと連絡を入れて。お父様とお母様、それからお兄様にも、わたくしが王城へ向かったとご報告しておいて」 

「はい」 

 ピエレットの指示に、家令は既に連れて来ていた侍女を部屋へと入れ、自分は連絡を入れるべく急ぎその場を後にした。 


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