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第一章 ラバネス半島編

28.ダイエット薬の販路について!

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転移ゲートを潜ると、部屋の中でフィーネが両手を広げてクルクルと踊っていた。


「何してるの?」

「キャー! いきなり現れないでよ!」


僕の姿を見たフィーネが悲鳴をあげて床に座り込む。


突然に現れた僕も失礼だけど、転移ゲートには呼び鈴がないんだから仕方ないでしょ。

そもそも自室だからといって、変な舞いを踊っているフィーネにも問題はあると思う。


頬を赤くしてフィーネは照れを、隠すようにソファにドスンと座る。


「シオンから私を訊ねてくるなんで初めてよね。いったいどうしたの?」

「ちょっと……痩せ薬というか、ダイエット薬を発明して……」

「ダイエット薬ですって!」


僕の言葉を聞いた途端、目を見開いてフィーネはソファから飛び上がり、僕の両手を握りしめた。


「それはホントに効果があるの? 今まで色々な薬師や錬金術師から、その手の薬を買ったけど、どれもまがい物ばかりだったわよ」

「効果はバッチリ。僕、アグウェル、レミリア、リムルとその他の人達で試してみたからね」

「レミリアとリムルも試したの。それで結果はどうだったの?」

「うん……ビックリするくらい二人とも、キレイになった……」

「ちょっとお母様を呼んでくる!」


フィーネは颯の勢いで扉を開けて、廊下へと去っていた。

しばらくするとドタバタと足音が聞こえ、荒々しくバタンと扉が開く。

フィーネと二人で現れたセレーネ王妃は、鼻息を荒くして僕に顔を近づける。


「シオン君、痩せるダイエットの薬を開発したんですって!」

「……はい、一応……」

「その話、詳しく聞かせて!」


セレーネ王妃、どうしてそんなに興奮しているのかな……もう顔が引っつきそうなんですけど……


思わず僕がセレーネ王妃の両肩を押し返すと、我に返った王妃は頬を赤く染める。


「ごめんなさい。ちょっと高ぶっちゃって」


気を取り直して僕は両手を広げて、ダイエット薬を作った経緯と、薬の使用方法と効果を丁寧に説明した。

話を聞いているセレーネ王妃とフィーネの表情は真剣そのものだった。

レミリアやリムルもそうだったけど、どうして女性って痩せることに、そんなに拘るんだろ。


スタイルが良いにこしたことはないけど、少しぐらい体重の増減があっても気にしないのに……女性に、そんなことは言えないから黙っておこう。


説明を聞き終わったセレーネ王妃は目をキラキラさせて僕を見る。


「その薬はここに持ってきてるのよね?」

「はい。こちらにあります」

「では、私もさっそく試させていただくわ」

「ズルい、私もほしい」


僕は懐から薬の入った革袋を取り出して、セレーネ王妃へ手渡した。

すると僕の目の前で、セレーネ王妃とフィーネが革袋の取り合いを始めた。


今日は落ち着いて話を聞けそうにないから、また日を改めよう。


「今日は帰ります……」


それだけ言い残して、僕は姿見の転移ゲートを潜って、王都ブリタスの店舗へと戻った。


ダイエット薬の販売ルートについて相談したかったんだけどな……

まさかセレーネ王妃が薬を欲しがるとは思ってなかったよ……予想が甘かったのは僕のミスだね。


それから一週間後、執務室でレミリアと書類整理をしていると、姿見の転移ゲートを通って、エドワードさんが姿を現した。


「失礼する。シオン君、セレーネ王妃とフィーネ王女殿下様がお呼びです」

「わかりました。すぐ行きます」


僕はすぐ席から立ち上がり、エドワードさんと一緒に姿見の転移ゲートを潜る。

するとフィーネとセレーネ王妃がソファに座って待っていた。


「この間はごめんなさい」


セレーネ王妃はフンワリと笑む。


なんだかこの前と雰囲気も違うし、お肌もツルツルしてるような……表情も穏やかで、いつもよりも数倍キレイだ……

隣にいるフィーネも、なんとなくキラキラしたオーラに包まれてるような気がする。


目をパチパチさせていると、二人がニッコリと笑む。


「あのダイエット薬すごいのよ。毎日、お通じがキチンと出てくれるの。それにほら、お肌もツルツルに輝いてくるの。もう、あの薬なしでは生きられないわ」

「私も見てお肌がピチピチでしょ。透き通るように輝いてるんだから」


……フィーネは十歳だから、肌がピチピチしてるのは当たり前だと思う……

それにしても、二人ともいつもよりもキレイになったよね。


ダイエット薬は僕の《創造魔法陣》のスキルの効果で《過剰栄養分カット》になってるから、用法さえ守れば体に悪い影響はないはずだから、飲み続けても問題はないだろう。

セレーネ王妃は足の上で両手を組み、僕に話しかけてきた。


「この前、何か相談にきたのではないの? よかったら話してみて」

「はい。実はダイエット薬の販売方法と販路について話し合いたくて……」

「これだけ効果のある薬だから、高額で販売したほうがいいでしょう。あまり安く国内に出回ると、商人達が安値で買占めを行って、高値で売買を始めるのが目に見えてるわ。または王国内の貴族達は太った方が多いから、こぞって買占めを行うかもしれないわね」


そういえば、レミリアも同じようなことを言っていたな。

セレーネ王妃は少し悩んだ後に手をポンと打つ。


「わかりました。王宮に薬を卸してくれたら、王宮から貴族達への宣伝も薬の販売いたしましょう」

「いいんですか?」

「きちんと利益をもらえば、王宮としても助かりますもの」

「私も協力するわ。だから私がダイエット薬を買う時だけは値段を安くしてね」


ホントにフィーネとセレーネ王妃に相談してよかった。


当分の間、二人がダイエット薬を購入した代金は無料にしておこう。
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