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第三章「騎士と姫と魔法使い」
第31話「淡い理想」
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マイクリクス王国王都には地下へと続く通路が点在する。その通路を抜けると、そこには王都全体を網羅する、巨大な地下水路が広がっていた。
この地下水路は、この地に王都が造られた頃に造られ、今なお王都に新鮮な水を運び、下水を下流へと運んでいた。あまりに大きく、そして古いため、多少の補修などはされているものの、今ではほとんど人の手が入っておらず、この地下水路の全容を把握する者はいないと言われている。
『竜の英知によりもたらされし物』。この巨大な水路はそう呼ばれており、小国であり、作られた時期も非常に古い事、現在でもどのようにして作られたか変わらない技術力から、そう名付けられ、この地に竜が居た証拠の一つとされている。
王都という国の中心にありながら、全容が分からない建造物として、この地下水路はその歴史的背景とは裏腹に、王都の犯罪者達の最後の逃げ場とされ、王都に居ながら王都に居られない者達が、この場所にスラムを築き、王都で最も治安の悪い場所とされていた。
王都の地上から地下水路へと降りると、前を歩く青白いローブを纏った人物が、片手で軽く空を撫でる。すると、ローブの人物が手を振ったあたりに、青白い光の光源が生まれ、闇に閉ざされていた地下水路を照らしだす。
「それで、何処へ向かえばいい?」
灯りがともり、当たりが見える様になる、ローブを纏った人物は、視線だけフィーヤの方へと向け、尋ねて来る。
聞き馴染んだ声。けれど、距離を感じさせる無感動な声に、フィーヤは小さく眉をひそめる。
「そのまま真っ直ぐ進んでください」
怒りの感情以外を見せる事の無い黄金色の瞳に、フィーヤは質問を返すことなく、そう行く道を示す。ローブを纏った人物は、それに頷いて返事を返すと、前へと向き直り歩き出す。
網目の様に複雑に広がる地下水路をフィーヤとローブの人物は、会話を交わすことなく歩く。
暗い水路の脇道には、所々ランタンなどが灯され、その小さな明かりと排水溝から差し込む微かな光を求め、掘っ建て小屋の様な建物が肩を寄せ合う様に並び、それらの影から、怯えと敵意の混じった視線が覗いていた。
法により、地上を追われた者達の姿がそこに有った。
少しでも彼らの地に踏み入れば、容赦なく襲われる。そんな空気が漂っていた。
人の居る危険場所を避け、迂回しながら目的の場所へと向かう。地上へと続く通路から遠ざかるに連れ、人の住む場所が狭く、少なくなっていく。
そして、一時間ほど水路を歩くと、人の気配は消え去り、暗く静かな、忘れ去られた遺跡の様な区画が顔を出す。
人の気配などは無く、どこまで続いているかさえ分からなくさせる迷路のような水路を、フィーヤとローブを纏った人物は、無言のまま歩き続ける。
時間と距離感が無くなり始めた頃、水路の先、さらに地下へと続く道が顔を出す。そこは、無機質に作られていた水路とは明らかに作りが異なっており、所々意匠が掘られ、そして階段や道幅などが、人のそれに合わせて作られていないと分かるほど大きく、不釣り合いな物だった。
地下へと続く通路の前まで来ると、フィーヤとローブの人物は足を止める。
「ここか?」
広く、大きな地下への入り口を目にし、ローブの人物が呟く。
「はい」
ローブの人物の呟きに、フィーヤは答える。
ここまで来れば、もう見つけ出す事は困難だろう。安全は確保された。そう理解しているのに、フィーヤの声はそれほど浮いたものではなかった。
「進まないのか?」
地下への入り口に目を向けたまま動かないフィーヤに、ローブの人物がそう尋ねて来る。
「あ、えっと……少し、待ってくださいますか?」
その問いかけに、揺れる声でフィーヤは答えを返す。
一度、来た道へと目を向ける。自分を逃がすためにあの場に残ったレリアの事が心配だった。
レリアならここへの道は知っており、もし無事で、追ってから逃れていればここへやってくるはずだ。それを期待し、来た道へと目を向けていた。
光源は、ローブの人物が灯した明かりだけで、背後の道は暗い闇に閉ざされていた。そこらか人がやってくる姿など見られはしなかった。
しばらく待ち、諦めと、大きな喪失感が心を満たす。反応のない道から目を逸らし、地下へと続く道へと目を向ける。そして――
ガツ。と固い地面をする様な音が、辺りに反響し背後から響く。遠く離れた場所から響く音。
自分たちが発する音だけしかなかったこの場所で響いたその音に驚き、フィーヤは慌てて振り返る。
背後の道に、赤く淡い明かりが差し込んできた。人影が二つ、その淡い明かりの中に見えた。
一つは、直ぐ傍に居る人物と同様の青白いローブを身に纏った人物。もう一人は、見慣れた近衛騎士の服装をした女性――レリアの姿だった。
「ご無事……でしたか……」
レリアとローブの人物が、フィーヤ達の傍に近付き、姿を確認すると、レリアは顔を綻ばせ、安堵の息を付いた。それに対し、フィーヤは複雑そうな表情を返す。
所々服が裂け、その下から裂傷を見せるレリアの姿。その姿で、どれほどの目に遭ったかおおよそ見当がついた。それが痛ましく、その事に対する罪悪感が胸の中を支配する。
一度目を閉じ、深く息をする。
紆余曲折あったものの、大よそ予定通り逃げだす事ができた事に感謝しよう。そう言い聞かせると共に気持ちを切り替える。そして、降って沸いた事柄に目を向ける。
息を付き、目を開く、そしてローブを纏った人物二人に目を向ける。
「助かりました。アーネスト、それからアルミメイア」
二人の名を告げ、フィーヤは深く頭を下げる。誠意をこめ、そして、親密で無い事を示す様にして、感謝を告げる。彼ら二人と自分たちは何の関係もない間柄だと示す様に、頭を下げる。
彼らが関わってしまったら、彼らは私のせいで死の危険にさらされてしまう。そうさせないために、
「ご苦労様です。後は、私達でどうにかしますから……あなた方は、元の、あるべき場所へと戻ってください」
拒絶の言葉を口にする。
距離を開き、相手の出方を伺う様な少しの間が開く。ローブを身に纏った人物――アーネストとアルミメイアは、その間口を開くことは無かった。
フィーヤは下げた頭を上げる。アーネストとアルミメイアは、未だにこちらへと視線を向けていた。
「そう言って、また、拒絶するのですね……」
顔を上げたフィーヤに、アーネストは、そうため息にも似た声をかけてきた。
「これは、私の問題で、あなた方には関係のない事です。ですから、危険を冒してまで、関わる必要はありません」
きっぱりと断りの言葉を口にする。
「そうですね。あなたにとっては、関係ない事かもしれません。けれど、私は、ただフィーヤ様を助けたいから助けたわけではありません。私には目的があります。そのために、フィーヤ様の力が必要だと思ったから、フィーヤ様を助けたのです」
フィーヤの言葉に対するアーネストの答え。その答えに、フィーヤは驚き、同時にどうしようもない悲しさを覚えた。
「私の力……それは、私の王族としての力ですか?」
フィーヤは静かに聞き返す。
フィーヤは特別力のある貴族と国王の間に生まれたわけでは無い。それ故に、フィーヤから王族という価値を取り払ってしまえば、ほとんど価値の無い人間となってしまう。そうであるためか、今までフィーヤに近付いてきた人間の殆どが、フィーヤの王族としての立場と力を求め、より強く自分にはそれしかないのだと突き付けられてきた。
フィーヤが王族としてある事で起こる悲劇。それを避けるため、そんな彼らをフィーヤは嫌い、拒絶してきた。そして、それが辛くて、手を伸ばした目の前の相手は、フィーヤに王族である事を求めた。それはまるで、フィーヤは王族としてあるしかないと、改めて突き付けられたようだった。
「あなたは、そういったものには興味の無い人だと思っていました……」
揺れる心が声となり、アーネストへと届けられる。
「そうですね。確かに私は、地位だとか権力だとかに対して、今まで興味はありませんでした……ですが、今は、今の目的を果たすためには、それなしでは出来ないと思いました」
「そう……ですか」
フィーヤはそっと目を伏せる。
「けれど、残念ですね。私にはもう……その力さえほとんどありません。私につき従う家臣などほとんどいません。そんな私に付いたところで、何のメリットもありませんよ?
むしろ、反逆者として罰せられる可能性の方が高いでしょう。それなのに、私を選ぶのですか?」
「確かに力や地位を求めるだけなら、フィーヤ様を選ぶことは無かったでしょう。けれど、私はただ、力や地位だけを求めているわけではありません。あなたが思う気持ちと、考えに、この人となら、私の描く望みを叶えられるかもしれない。そう思ったから、あなたを選んだのです」
「そう……ですか」
気持ちの籠ったアーネストの言葉に、フィーヤは冷めた様な冷たい声で答えを返す。そして、アーネストの隣に立つアルミメイアへと目を向ける。
「あなたも……同じ考えなのですか?」
フィーヤの問いかけにアルミメイアは、黄金色の視線を返し、そして鋭く睨みつけてくる。
「別に。力だとか、権力だとか、地位だとか、そういったものは私にはわからない。だから、そういったものは全部、こいつに任せてる。
私はただ、お前に言いたいことがあった。それだけだ」
「言いたいこと?」
「お前。私を『友達』って呼んだよな?」
ギロリと強く、怒りの視線を向けてくる。
「そう、ですね」
「なら、何で勝手にいなくなった。なんで、一人で全部決めて、いなくなった。それが、お前の言う『友達』に対する態度なのか?
私は、正直『友達』というものについては、深く知らない。けど、そういうものじゃないと思ってる。違うのか?」
鋭い視線を向けたまま、アルミメイアは問いかけてくる。
「違う。と思います」
フィーヤは静かに、揺れる声で答えを返した。
『友達』。その言葉は、決してでまかせで口にした訳では無い。もしかしたら、そう願いを込めて口にした言葉だった。けれど、心の何処かでは、自分はそういった相手を持つことは出来ないと思っていない。その事を突かれ、フィーヤの心は大きく揺れる。
「私は、『友達』と呼べる相手はほとんどいないから、正直お前に『友達』だと言われた時、少し嬉しかった。けど、お前はそれを裏切った。そんな自分勝手なお前に、怒りを覚えた。
それを、お前に言いたかった。だから、ここに来た」
小さく怒気の孕んだ声で、吐き捨てるとふてくされた様に、アルミメイアは視線を逸らした。
「ごめんなさい」
目を伏せ。フィーヤは謝罪を口にする。けれど、そこ声と表情には、少しだけ嬉しさが浮かんでいた。
フィーヤは視線を上げる。そして、再びアーネストへと目を向ける。
「一つ、聞いて良いですか? あなたの望むものとは、何ですか?」
アルミメイアの『友達』という言葉に、少しだけ心にあった固さが崩れ、『もしかしたら』という気持ちが沸いてくる。それを確かめる様にフィーヤは尋ねた。それに、アーネストは少し迷ってから口を開く。
「前に、フィーヤ様が言いましたよね。『竜がいれば、もしかしたら、彼らが飛竜達を解放してくれる』と、私はそんな未来を望みます。竜の力ではなく、私達の手で、それを成す事を望みます。それだけです」
アーネストはフィーヤの問いに、小さく笑って答えた。
「それは……難しい問題ですね」
そして、フィーヤはそれに、小さく笑みを浮かべ返事を返した。
この地下水路は、この地に王都が造られた頃に造られ、今なお王都に新鮮な水を運び、下水を下流へと運んでいた。あまりに大きく、そして古いため、多少の補修などはされているものの、今ではほとんど人の手が入っておらず、この地下水路の全容を把握する者はいないと言われている。
『竜の英知によりもたらされし物』。この巨大な水路はそう呼ばれており、小国であり、作られた時期も非常に古い事、現在でもどのようにして作られたか変わらない技術力から、そう名付けられ、この地に竜が居た証拠の一つとされている。
王都という国の中心にありながら、全容が分からない建造物として、この地下水路はその歴史的背景とは裏腹に、王都の犯罪者達の最後の逃げ場とされ、王都に居ながら王都に居られない者達が、この場所にスラムを築き、王都で最も治安の悪い場所とされていた。
王都の地上から地下水路へと降りると、前を歩く青白いローブを纏った人物が、片手で軽く空を撫でる。すると、ローブの人物が手を振ったあたりに、青白い光の光源が生まれ、闇に閉ざされていた地下水路を照らしだす。
「それで、何処へ向かえばいい?」
灯りがともり、当たりが見える様になる、ローブを纏った人物は、視線だけフィーヤの方へと向け、尋ねて来る。
聞き馴染んだ声。けれど、距離を感じさせる無感動な声に、フィーヤは小さく眉をひそめる。
「そのまま真っ直ぐ進んでください」
怒りの感情以外を見せる事の無い黄金色の瞳に、フィーヤは質問を返すことなく、そう行く道を示す。ローブを纏った人物は、それに頷いて返事を返すと、前へと向き直り歩き出す。
網目の様に複雑に広がる地下水路をフィーヤとローブの人物は、会話を交わすことなく歩く。
暗い水路の脇道には、所々ランタンなどが灯され、その小さな明かりと排水溝から差し込む微かな光を求め、掘っ建て小屋の様な建物が肩を寄せ合う様に並び、それらの影から、怯えと敵意の混じった視線が覗いていた。
法により、地上を追われた者達の姿がそこに有った。
少しでも彼らの地に踏み入れば、容赦なく襲われる。そんな空気が漂っていた。
人の居る危険場所を避け、迂回しながら目的の場所へと向かう。地上へと続く通路から遠ざかるに連れ、人の住む場所が狭く、少なくなっていく。
そして、一時間ほど水路を歩くと、人の気配は消え去り、暗く静かな、忘れ去られた遺跡の様な区画が顔を出す。
人の気配などは無く、どこまで続いているかさえ分からなくさせる迷路のような水路を、フィーヤとローブを纏った人物は、無言のまま歩き続ける。
時間と距離感が無くなり始めた頃、水路の先、さらに地下へと続く道が顔を出す。そこは、無機質に作られていた水路とは明らかに作りが異なっており、所々意匠が掘られ、そして階段や道幅などが、人のそれに合わせて作られていないと分かるほど大きく、不釣り合いな物だった。
地下へと続く通路の前まで来ると、フィーヤとローブの人物は足を止める。
「ここか?」
広く、大きな地下への入り口を目にし、ローブの人物が呟く。
「はい」
ローブの人物の呟きに、フィーヤは答える。
ここまで来れば、もう見つけ出す事は困難だろう。安全は確保された。そう理解しているのに、フィーヤの声はそれほど浮いたものではなかった。
「進まないのか?」
地下への入り口に目を向けたまま動かないフィーヤに、ローブの人物がそう尋ねて来る。
「あ、えっと……少し、待ってくださいますか?」
その問いかけに、揺れる声でフィーヤは答えを返す。
一度、来た道へと目を向ける。自分を逃がすためにあの場に残ったレリアの事が心配だった。
レリアならここへの道は知っており、もし無事で、追ってから逃れていればここへやってくるはずだ。それを期待し、来た道へと目を向けていた。
光源は、ローブの人物が灯した明かりだけで、背後の道は暗い闇に閉ざされていた。そこらか人がやってくる姿など見られはしなかった。
しばらく待ち、諦めと、大きな喪失感が心を満たす。反応のない道から目を逸らし、地下へと続く道へと目を向ける。そして――
ガツ。と固い地面をする様な音が、辺りに反響し背後から響く。遠く離れた場所から響く音。
自分たちが発する音だけしかなかったこの場所で響いたその音に驚き、フィーヤは慌てて振り返る。
背後の道に、赤く淡い明かりが差し込んできた。人影が二つ、その淡い明かりの中に見えた。
一つは、直ぐ傍に居る人物と同様の青白いローブを身に纏った人物。もう一人は、見慣れた近衛騎士の服装をした女性――レリアの姿だった。
「ご無事……でしたか……」
レリアとローブの人物が、フィーヤ達の傍に近付き、姿を確認すると、レリアは顔を綻ばせ、安堵の息を付いた。それに対し、フィーヤは複雑そうな表情を返す。
所々服が裂け、その下から裂傷を見せるレリアの姿。その姿で、どれほどの目に遭ったかおおよそ見当がついた。それが痛ましく、その事に対する罪悪感が胸の中を支配する。
一度目を閉じ、深く息をする。
紆余曲折あったものの、大よそ予定通り逃げだす事ができた事に感謝しよう。そう言い聞かせると共に気持ちを切り替える。そして、降って沸いた事柄に目を向ける。
息を付き、目を開く、そしてローブを纏った人物二人に目を向ける。
「助かりました。アーネスト、それからアルミメイア」
二人の名を告げ、フィーヤは深く頭を下げる。誠意をこめ、そして、親密で無い事を示す様にして、感謝を告げる。彼ら二人と自分たちは何の関係もない間柄だと示す様に、頭を下げる。
彼らが関わってしまったら、彼らは私のせいで死の危険にさらされてしまう。そうさせないために、
「ご苦労様です。後は、私達でどうにかしますから……あなた方は、元の、あるべき場所へと戻ってください」
拒絶の言葉を口にする。
距離を開き、相手の出方を伺う様な少しの間が開く。ローブを身に纏った人物――アーネストとアルミメイアは、その間口を開くことは無かった。
フィーヤは下げた頭を上げる。アーネストとアルミメイアは、未だにこちらへと視線を向けていた。
「そう言って、また、拒絶するのですね……」
顔を上げたフィーヤに、アーネストは、そうため息にも似た声をかけてきた。
「これは、私の問題で、あなた方には関係のない事です。ですから、危険を冒してまで、関わる必要はありません」
きっぱりと断りの言葉を口にする。
「そうですね。あなたにとっては、関係ない事かもしれません。けれど、私は、ただフィーヤ様を助けたいから助けたわけではありません。私には目的があります。そのために、フィーヤ様の力が必要だと思ったから、フィーヤ様を助けたのです」
フィーヤの言葉に対するアーネストの答え。その答えに、フィーヤは驚き、同時にどうしようもない悲しさを覚えた。
「私の力……それは、私の王族としての力ですか?」
フィーヤは静かに聞き返す。
フィーヤは特別力のある貴族と国王の間に生まれたわけでは無い。それ故に、フィーヤから王族という価値を取り払ってしまえば、ほとんど価値の無い人間となってしまう。そうであるためか、今までフィーヤに近付いてきた人間の殆どが、フィーヤの王族としての立場と力を求め、より強く自分にはそれしかないのだと突き付けられてきた。
フィーヤが王族としてある事で起こる悲劇。それを避けるため、そんな彼らをフィーヤは嫌い、拒絶してきた。そして、それが辛くて、手を伸ばした目の前の相手は、フィーヤに王族である事を求めた。それはまるで、フィーヤは王族としてあるしかないと、改めて突き付けられたようだった。
「あなたは、そういったものには興味の無い人だと思っていました……」
揺れる心が声となり、アーネストへと届けられる。
「そうですね。確かに私は、地位だとか権力だとかに対して、今まで興味はありませんでした……ですが、今は、今の目的を果たすためには、それなしでは出来ないと思いました」
「そう……ですか」
フィーヤはそっと目を伏せる。
「けれど、残念ですね。私にはもう……その力さえほとんどありません。私につき従う家臣などほとんどいません。そんな私に付いたところで、何のメリットもありませんよ?
むしろ、反逆者として罰せられる可能性の方が高いでしょう。それなのに、私を選ぶのですか?」
「確かに力や地位を求めるだけなら、フィーヤ様を選ぶことは無かったでしょう。けれど、私はただ、力や地位だけを求めているわけではありません。あなたが思う気持ちと、考えに、この人となら、私の描く望みを叶えられるかもしれない。そう思ったから、あなたを選んだのです」
「そう……ですか」
気持ちの籠ったアーネストの言葉に、フィーヤは冷めた様な冷たい声で答えを返す。そして、アーネストの隣に立つアルミメイアへと目を向ける。
「あなたも……同じ考えなのですか?」
フィーヤの問いかけにアルミメイアは、黄金色の視線を返し、そして鋭く睨みつけてくる。
「別に。力だとか、権力だとか、地位だとか、そういったものは私にはわからない。だから、そういったものは全部、こいつに任せてる。
私はただ、お前に言いたいことがあった。それだけだ」
「言いたいこと?」
「お前。私を『友達』って呼んだよな?」
ギロリと強く、怒りの視線を向けてくる。
「そう、ですね」
「なら、何で勝手にいなくなった。なんで、一人で全部決めて、いなくなった。それが、お前の言う『友達』に対する態度なのか?
私は、正直『友達』というものについては、深く知らない。けど、そういうものじゃないと思ってる。違うのか?」
鋭い視線を向けたまま、アルミメイアは問いかけてくる。
「違う。と思います」
フィーヤは静かに、揺れる声で答えを返した。
『友達』。その言葉は、決してでまかせで口にした訳では無い。もしかしたら、そう願いを込めて口にした言葉だった。けれど、心の何処かでは、自分はそういった相手を持つことは出来ないと思っていない。その事を突かれ、フィーヤの心は大きく揺れる。
「私は、『友達』と呼べる相手はほとんどいないから、正直お前に『友達』だと言われた時、少し嬉しかった。けど、お前はそれを裏切った。そんな自分勝手なお前に、怒りを覚えた。
それを、お前に言いたかった。だから、ここに来た」
小さく怒気の孕んだ声で、吐き捨てるとふてくされた様に、アルミメイアは視線を逸らした。
「ごめんなさい」
目を伏せ。フィーヤは謝罪を口にする。けれど、そこ声と表情には、少しだけ嬉しさが浮かんでいた。
フィーヤは視線を上げる。そして、再びアーネストへと目を向ける。
「一つ、聞いて良いですか? あなたの望むものとは、何ですか?」
アルミメイアの『友達』という言葉に、少しだけ心にあった固さが崩れ、『もしかしたら』という気持ちが沸いてくる。それを確かめる様にフィーヤは尋ねた。それに、アーネストは少し迷ってから口を開く。
「前に、フィーヤ様が言いましたよね。『竜がいれば、もしかしたら、彼らが飛竜達を解放してくれる』と、私はそんな未来を望みます。竜の力ではなく、私達の手で、それを成す事を望みます。それだけです」
アーネストはフィーヤの問いに、小さく笑って答えた。
「それは……難しい問題ですね」
そして、フィーヤはそれに、小さく笑みを浮かべ返事を返した。
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