【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜

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17 エドウィンside

 アシュリーとは幼い頃に出会い、祖父同士の話で婚約者となったと聞かされた。

 茶色い髪の濃い緑の瞳の普通の12歳の女の子だった。
 俺はその時は17歳になっていたから、アシュリーは婚約者というより妹のようなそんな存在だった。


 俺は三男だったから伯爵家を継げる訳でもなかったし、いずれは家を出る立場だ。アシュリーは子爵家の長女だが、兄がいるから彼女と結婚しても子爵になれるわけでもなかった。
 だが、男爵位を持っているらしいと聞いて、それならという思いも少なからずあった。
 その時には俺は騎士として身を立てることを決めていたから、男爵位ではなくとも騎士伯を自力で撮ろうと考えてもいた。それほど爵位にはこだわりはなかった。


 アシュリーとは婚約者として交流はしていた。
 だが、この年齢の5歳差は大きく、彼女のすることや話すことの何もかもが幼く感じてしまっていた。


 俺が21歳の時に国境への部隊へ配属になった時、アシュリーは16歳だった。
 その頃には普通の少女になっていた彼女に「帰ってきたら結婚しよう」とそう言った。


 確かに俺はそう言ったんだ。
 

 そして国境での任務に就いてからは、お互いに手紙を送った。
 最初の頃は一週間に一度の頻度で。それが二週間に一度になり、三週間に一度になり、どんどんとその期間が空いて行った。
 二年目が過ぎることはほとんど書いていなかったような気がする。


 そして俺は非番の日に町で一人の女性を助け、その時に怪我をした。
 怪我はひどくはなかったが、背後から頭を殴られた影響でしばらくの間、仕事を休むことになった。

 そして、その後遺症なのかしばらく頭痛が続いた。


 助けた女性はミランダといってトレイル伯爵家の令嬢らしく、彼女の両親からは感謝され、ミランダ嬢も毎日のように見舞いに来てくれた。
 彼女は軽くウェーブした栗毛で深みのある茶色の少しタレた目をしていて、それがとても可愛いらしく守ってやりたいという感情が心に芽生えたのだ。

 いや、最初に見たときにそう思ったから助けたのだが、こうして見舞いに来てくれる度に、庇護欲を掻き立てられるのだ。しかも、何度も繰り返す頭痛に苦しむ度に、彼女の愛くるしい顔が俺を癒してくれた。


 そう。

 この時、俺はアシュリーのことなどすっかりと忘れてしまったのだ。

 記憶をなくしたわけではなく、記憶の奥底にしまい込んで自分の良いように考えてしまったのだ。


 手紙も書かなくなっていたから、尚更だ。


 同僚もそれを知ってか、アシュリーからの手紙はそのまま俺の荷物と一緒に溜め込んでいたらしいし。
 その手紙を受け取っていたら、今、この状況が変わっただろうか。


 今、俺の目の前にいるアシュリー。


 別れた16歳の頃と違う、大人の美しい女性に成長した彼女に、俺の言うことが伝わるのだろうか。


 どうにかしなければと思うだけで、なんにも考えが浮かばないうちに、目の前に出された婚約解消に関する書類にサインをするようにと詰め寄られた。
 今回は祖父達が交わした契約ということもあって、俺のサインがなくとも当主のサインがあればいいらしい。

 そして結局は親父はサインした。

 名目は婚約の白紙だ。
 アシュリーに傷が付かないようにとの配慮らしいが、結婚適齢期の令嬢の時間を無駄に過ごさせたことを重く見た殿下方が、慰謝料の請求を認めると判断されたらしく、後日、その連絡があるということだった。



 屋敷に戻る馬車の中からずっと、両親は俺に文句を言っている。


 なぜ手紙のやり取りをしなかった!

 なぜ婚約者のアシュリーの存在を忘れていた!

 なぜ婚約者などいないと言った!

 なぜ!

 なぜ!



 そして最後には『どうにかしてもう一度アシュリー嬢とやりなおせ』とキツく言明された。


 俺だって、そうしたい。

 アシュリーを見て、あんなに綺麗になるなんて思っても見なかった。忘れていた自分を、今更ながら殴りたい。


 アシュリー




 

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