13 / 33
13
しおりを挟む
今住んでいるキャズウェル州は、グランルー王国第三の州でもあり、その州都でもあるマンデビルは国内でも最大級の貿易量を誇るアーレイ港を抱える港町だ。
私とレイモンドが住んでいるのはそのアーレイとカレパス湾を挟んだ向かいにあるドーフィン漁港横のエデン地区だ。
このマンデビルは、東西に40キロ南北に60キロもある大きなカレパス湾を中心に町が発展し、湾の西側は貿易港を抱えるマンデビル中心部で、東側が一般居住区域のエデン地区とドーフィン漁港が並び、マンデビル中心部から北側には貴族街のアンスリー地区が広がっている。
この貴族街に領主の住む屋敷もあるらしい。
そして湾の数キロ沖合に浮かぶ周囲7キロほどのコデン島は、手つかずの自然が残っているらしく、現在は一部の場所のみ人の立ち入りが許可されている。制限されるほど珍しい植物や動物が存在しているという話だが、行ったことがないのでどうなのかは知らない。
そしてこの島が沖合にあることで、嵐で海が荒れても湾内に影響が出ることは少ないらしいことも、ここが貿易港として栄えた理由の一つだという話だ。
そして貿易港に近い中心部は貴族街も隣接しているためか物価も高く、人の出入りも他民族も多くて治安も正直言って安全とはいいがたい。
だが、この町の活気のある雰囲気が気に入り、この町に入り偶然たどり着いたこの漁港に近いエデン区画が私の理想の、そしてこの先の新生活を始めるのにも最適だと思ってここに定住先に決定した。
エデン地区の周辺にある高い建物は見張り台と時計塔くらいで、漁港も少し離れているから朝の喧騒は聞こえてこないし、商店街もあり週末には市も出るし何より物価が安い。
治安に関しては騎士団の駐在もあるが、どうしても貿易港付近の警備に人が割かれるため、他の地域では騎士団よりも地元の若者を中心に構成された自衛団のほうが頼りにされていたりもする。そうなると、エデン地区は自衛団の規模が大きいので、マンデビルの中では一番安全な地域かもしれない。
それに運が良かったのかこの町にたどり着いた時期が丁度引っ越し時期で空き家の数も一年を通して一番多い時らしく、それもあってか家賃も格安で一軒家を借りられた。まあ、そこの大家のセッテおばさんが私の身の上話を聞いて同情してくれたことも大きいかもしれないけど。
「何時でも頼っていいからね。ほんと、男なんてろくでもないねぇ」
そう言って背中をバシバシ叩かれ、大笑いされた。なんでも、大家さんは浮気をした旦那さんを追い出して一財産を築き上げたらしい。それが今ではいくつもの貸家を持つまでになったとか。凄いとしか言えない。
「エレミアだったかい?私の家はすぐそこだから、困ったことがあったらいつでも顔を出すんだよ」
そう言って、今度は頭を撫でられた。もうそんな年齢ではないのだが、自分のおばあちゃんのような人に頭を撫でられると、子供に戻ったような気持になって涙が出そうになった。
そして即決したのだが、それに対して後悔はない。
大通りに出れば、貿易港そばの地域までの馬車も頻繁に運行されているし、欲しいものが売り切れていても次の日には手に入る位、物流面では不便が全くと言ってない。生まれ育った子爵領のほうがド田舎すぎでここの生活が快適すぎる。
その後、セッテさんは、私の刺繍の腕前が上級者だと知り、マルグリットさんの店を紹介してくれたり町の案内を買って出てくれて、美味しい店や安い店を教えてくれたりしてくれる本当のおばあちゃんのような存在になった。
家を借りてしばらくしてから私の体調不良にいち早く気が付き、医者へと無理やり連れて行かれ子供ができていることが分かった時には、相手の男に対して(カイのことよね)何をしているんだと怒り狂っていたので、実は……と詳細を話すと、呆れられた。
まあ、同意の元という事もありセッテさんも「エレミアが納得してるならいいさ。そいつの代わりに私が面倒見てやるよ」と、家族宣言をしてくれたのだ。
そして生まれたレイモンドのことをひ孫のように可愛がってくれるので、その姿を見ては家族っていいなと心がほんわかと温かくなるのを感じたものだ。
そして、もしここにカイがいたら…なんて考えたこともあった。
まあ、叶うことのない夢だから、想像に留めておいた。セッテさんもカイを見つけられないだろうと理解しているのか、それからは彼の事を口にすることはなかったな。
私とレイモンドが住んでいるのはそのアーレイとカレパス湾を挟んだ向かいにあるドーフィン漁港横のエデン地区だ。
このマンデビルは、東西に40キロ南北に60キロもある大きなカレパス湾を中心に町が発展し、湾の西側は貿易港を抱えるマンデビル中心部で、東側が一般居住区域のエデン地区とドーフィン漁港が並び、マンデビル中心部から北側には貴族街のアンスリー地区が広がっている。
この貴族街に領主の住む屋敷もあるらしい。
そして湾の数キロ沖合に浮かぶ周囲7キロほどのコデン島は、手つかずの自然が残っているらしく、現在は一部の場所のみ人の立ち入りが許可されている。制限されるほど珍しい植物や動物が存在しているという話だが、行ったことがないのでどうなのかは知らない。
そしてこの島が沖合にあることで、嵐で海が荒れても湾内に影響が出ることは少ないらしいことも、ここが貿易港として栄えた理由の一つだという話だ。
そして貿易港に近い中心部は貴族街も隣接しているためか物価も高く、人の出入りも他民族も多くて治安も正直言って安全とはいいがたい。
だが、この町の活気のある雰囲気が気に入り、この町に入り偶然たどり着いたこの漁港に近いエデン区画が私の理想の、そしてこの先の新生活を始めるのにも最適だと思ってここに定住先に決定した。
エデン地区の周辺にある高い建物は見張り台と時計塔くらいで、漁港も少し離れているから朝の喧騒は聞こえてこないし、商店街もあり週末には市も出るし何より物価が安い。
治安に関しては騎士団の駐在もあるが、どうしても貿易港付近の警備に人が割かれるため、他の地域では騎士団よりも地元の若者を中心に構成された自衛団のほうが頼りにされていたりもする。そうなると、エデン地区は自衛団の規模が大きいので、マンデビルの中では一番安全な地域かもしれない。
それに運が良かったのかこの町にたどり着いた時期が丁度引っ越し時期で空き家の数も一年を通して一番多い時らしく、それもあってか家賃も格安で一軒家を借りられた。まあ、そこの大家のセッテおばさんが私の身の上話を聞いて同情してくれたことも大きいかもしれないけど。
「何時でも頼っていいからね。ほんと、男なんてろくでもないねぇ」
そう言って背中をバシバシ叩かれ、大笑いされた。なんでも、大家さんは浮気をした旦那さんを追い出して一財産を築き上げたらしい。それが今ではいくつもの貸家を持つまでになったとか。凄いとしか言えない。
「エレミアだったかい?私の家はすぐそこだから、困ったことがあったらいつでも顔を出すんだよ」
そう言って、今度は頭を撫でられた。もうそんな年齢ではないのだが、自分のおばあちゃんのような人に頭を撫でられると、子供に戻ったような気持になって涙が出そうになった。
そして即決したのだが、それに対して後悔はない。
大通りに出れば、貿易港そばの地域までの馬車も頻繁に運行されているし、欲しいものが売り切れていても次の日には手に入る位、物流面では不便が全くと言ってない。生まれ育った子爵領のほうがド田舎すぎでここの生活が快適すぎる。
その後、セッテさんは、私の刺繍の腕前が上級者だと知り、マルグリットさんの店を紹介してくれたり町の案内を買って出てくれて、美味しい店や安い店を教えてくれたりしてくれる本当のおばあちゃんのような存在になった。
家を借りてしばらくしてから私の体調不良にいち早く気が付き、医者へと無理やり連れて行かれ子供ができていることが分かった時には、相手の男に対して(カイのことよね)何をしているんだと怒り狂っていたので、実は……と詳細を話すと、呆れられた。
まあ、同意の元という事もありセッテさんも「エレミアが納得してるならいいさ。そいつの代わりに私が面倒見てやるよ」と、家族宣言をしてくれたのだ。
そして生まれたレイモンドのことをひ孫のように可愛がってくれるので、その姿を見ては家族っていいなと心がほんわかと温かくなるのを感じたものだ。
そして、もしここにカイがいたら…なんて考えたこともあった。
まあ、叶うことのない夢だから、想像に留めておいた。セッテさんもカイを見つけられないだろうと理解しているのか、それからは彼の事を口にすることはなかったな。
1,128
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです
hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる