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アンスリー地区に入り、解放されている領主様の屋敷の庭園の近くで馬車を降りて、庭園に向かって歩き出す。すると、行列が見えてきて訪れる人の多さに驚いた。
「ねえ、お母さん。人がたくさんいるね」
「そうね。レイモンド、入るのに列に並んで待たなきゃいけないけど、どうする?待てる?」
子供にこの行列は辛いだろうと考えてそう言ったのだが、レイモンドは私の顔を見上げてニコッと笑い、「お母さんと一緒に並んで待てるよ」と繋いでいる手をぎゅっと握った。
こんなに良い子に育ったよと、セッテさんやアリッサさんに報告して心からの感謝を伝えたい。
「そう?じゃあ、帰りに屋台で何か食べようね」
「ほんと?わーい。お母さん、大好き」
「私も大好きよ」
しっかりとレイモンドを抱きしめて、配られた庭園の地図を見ながらどこからどうやって回るかの話をした。前に並んでいた老夫婦も話の輪に入り、レイモンドもその夫婦に褒められたり頭を撫でられたりとご満悦の表情を浮かべていた。
話をしていたからか、思っていた以上に待ち時間は苦にならなかった。レイモンドも入り口が近くなるにつれて「もうすぐだね」とワクワクした顔をしている。
「次の方、入ってください」
係員から声をかけられ、案内の看板に沿って庭園への小径を進んだ。
人でごった返す事がないように人数制限がされているようで、比較的ゆったりと見ていられる。そして要所要所に騎士の姿が見え、屋敷に侵入したり、植物を毀損しないように見張っているようだった。
私達には関係のないことだしと、庭園の奥へと進んでいくと、町中ではあまり見ない花や見事な蔓薔薇のアーチ、池に掛けられた小さな橋から見える魚、大きな木の木陰に置かれた可愛らしいベンチなど、もっとゆっくりとしていたいと思うほど、そして心が洗われるようなそんな気持ちになった。
芝生広場になっている場所に休憩用にとベンチがいくつか並べられていて、飲食は禁止されているが、水だけは許可が下りているみたいでカップを持つ人がチラホラ見える。
レイモンドと二人で芝生広場の中心へと歩いていくと、後から来た人がぶつかってきてレイモンドが転んでしまったのだ。
「いたっ…」
「レイモンド!大丈夫?」
私はすぐに抱き上げて怪我をしていないか見た。怪我をした感じはなかったが、ぶつかってきた人間をチラッと見て「危ないじゃないですか」と言ってしまった。
その人は年齢が40超えたくらいの男性で、どう見ても酔っぱらいにしか見えない。
「なんだぁ?お前。お前らがチョロチョロしてるからこぼれただろうが」
空になったカップを見せて、服が濡れたと言って暴れ始めた。それを見た騎士がすぐに飛んできて「どうしましたか?」と声をかけてくれたので、「この人が子供にぶつかったのに謝らないの」と訴えた。確かに私たちは立ち止まっていたし、チョロチョロはしていないのだもの。周囲の人も見ていた人は同意してくれたし、騎士の人達もこの男性の行動には注視していたみたいで、男性の持つカップを手に取り、においを嗅いで「酒か……」とぽつりと呟いた。
「すみません。ここは水のみが許可されています。このお酒はどこから持ち込まれたのですか?」
騎士の一人が厳しい声でその男性を問いただすと、慌てて逃げ出そうとして取り押さえられていた。
「ここでの迷惑行為は許されるものではありません。御同行を」
そう告げて、男性をどこかへと連れて行った。そして残された私達に残っていた若い騎士が「すみません。あの男性の行動には目を向けていたのですが」そう言いながらレイナルドの前に跪き目線を合わせて優しい顔をした。
「ぼく?怪我はないかな?念のために確認させてほしいんだけど、いいかい?泣かないのは強いな。幾つだい?」
「僕、泣かないよ。強いんだからね。だってもう6歳だもん」
頷いたレイモンドを抱き上げて、「ではお母さんにも少し話を聞きたいので」そう言って庭園脇の騎士団の控室らしき部屋へと案内された。
レイモンドはがっしりとした騎士に抱き上げられて顔を上気させ、喜んでいるようだ。確かに、父がいないのだから大人の男性と触れ合う機会は格段に少ないのだから、仕方ないだろう。
部屋に入ってレイモンドが怪我をしていないかを確かめてもらっている間、何があったのかを軽く説明した。見ていた人からも聞いていたらしく、なぜここに連れてこられたのだろうかと疑問だったが、レイモンドのことを考えてくれたのだろうか。
「ねえ、お母さん。人がたくさんいるね」
「そうね。レイモンド、入るのに列に並んで待たなきゃいけないけど、どうする?待てる?」
子供にこの行列は辛いだろうと考えてそう言ったのだが、レイモンドは私の顔を見上げてニコッと笑い、「お母さんと一緒に並んで待てるよ」と繋いでいる手をぎゅっと握った。
こんなに良い子に育ったよと、セッテさんやアリッサさんに報告して心からの感謝を伝えたい。
「そう?じゃあ、帰りに屋台で何か食べようね」
「ほんと?わーい。お母さん、大好き」
「私も大好きよ」
しっかりとレイモンドを抱きしめて、配られた庭園の地図を見ながらどこからどうやって回るかの話をした。前に並んでいた老夫婦も話の輪に入り、レイモンドもその夫婦に褒められたり頭を撫でられたりとご満悦の表情を浮かべていた。
話をしていたからか、思っていた以上に待ち時間は苦にならなかった。レイモンドも入り口が近くなるにつれて「もうすぐだね」とワクワクした顔をしている。
「次の方、入ってください」
係員から声をかけられ、案内の看板に沿って庭園への小径を進んだ。
人でごった返す事がないように人数制限がされているようで、比較的ゆったりと見ていられる。そして要所要所に騎士の姿が見え、屋敷に侵入したり、植物を毀損しないように見張っているようだった。
私達には関係のないことだしと、庭園の奥へと進んでいくと、町中ではあまり見ない花や見事な蔓薔薇のアーチ、池に掛けられた小さな橋から見える魚、大きな木の木陰に置かれた可愛らしいベンチなど、もっとゆっくりとしていたいと思うほど、そして心が洗われるようなそんな気持ちになった。
芝生広場になっている場所に休憩用にとベンチがいくつか並べられていて、飲食は禁止されているが、水だけは許可が下りているみたいでカップを持つ人がチラホラ見える。
レイモンドと二人で芝生広場の中心へと歩いていくと、後から来た人がぶつかってきてレイモンドが転んでしまったのだ。
「いたっ…」
「レイモンド!大丈夫?」
私はすぐに抱き上げて怪我をしていないか見た。怪我をした感じはなかったが、ぶつかってきた人間をチラッと見て「危ないじゃないですか」と言ってしまった。
その人は年齢が40超えたくらいの男性で、どう見ても酔っぱらいにしか見えない。
「なんだぁ?お前。お前らがチョロチョロしてるからこぼれただろうが」
空になったカップを見せて、服が濡れたと言って暴れ始めた。それを見た騎士がすぐに飛んできて「どうしましたか?」と声をかけてくれたので、「この人が子供にぶつかったのに謝らないの」と訴えた。確かに私たちは立ち止まっていたし、チョロチョロはしていないのだもの。周囲の人も見ていた人は同意してくれたし、騎士の人達もこの男性の行動には注視していたみたいで、男性の持つカップを手に取り、においを嗅いで「酒か……」とぽつりと呟いた。
「すみません。ここは水のみが許可されています。このお酒はどこから持ち込まれたのですか?」
騎士の一人が厳しい声でその男性を問いただすと、慌てて逃げ出そうとして取り押さえられていた。
「ここでの迷惑行為は許されるものではありません。御同行を」
そう告げて、男性をどこかへと連れて行った。そして残された私達に残っていた若い騎士が「すみません。あの男性の行動には目を向けていたのですが」そう言いながらレイナルドの前に跪き目線を合わせて優しい顔をした。
「ぼく?怪我はないかな?念のために確認させてほしいんだけど、いいかい?泣かないのは強いな。幾つだい?」
「僕、泣かないよ。強いんだからね。だってもう6歳だもん」
頷いたレイモンドを抱き上げて、「ではお母さんにも少し話を聞きたいので」そう言って庭園脇の騎士団の控室らしき部屋へと案内された。
レイモンドはがっしりとした騎士に抱き上げられて顔を上気させ、喜んでいるようだ。確かに、父がいないのだから大人の男性と触れ合う機会は格段に少ないのだから、仕方ないだろう。
部屋に入ってレイモンドが怪我をしていないかを確かめてもらっている間、何があったのかを軽く説明した。見ていた人からも聞いていたらしく、なぜここに連れてこられたのだろうかと疑問だったが、レイモンドのことを考えてくれたのだろうか。
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