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28 カイトside

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「アーサー様、奥様にはいつも御贔屓にしていただいてるから了承しましたが、こんなお願いを聞くのは今回だけですからね」


 店の奥の部屋でマルグリッドが駐留騎士団の隊長でもあるアーサーに不満げな顔をしてそう言っていた。


「悪いな店主。また店に顔を出すから今回だけは頼む」

「わかりました。仕方ないですね、約束ですわよ」


 それから奥に続く扉を隠すように衝立を立て、そこから店の一角に置いたテーブルが隠れたまま見えるように位置を調整した。


 その場にいたのはアーサーとジェイク、そして俺の三人だった。

 アーサーはジェイクの報告書を読んでマルグリットに協力を仰ぎ、まずエミリアが俺の探しているリア本人なのかを確認をすることにした。そしてこの日エレミアたちが訪れることを聞いてこの計画を立て、この部屋で彼女たちが来るのを待っていた。


 しばらくすると、店の扉が開いて一組の母子が入ってきた。その姿を見て俺は息をのんだ。その表情を見る限り間違いなくリアは彼女なのだろう。


 7年ぶりに見る彼女は、あの日の面影をわずかに残し大人の女性に成長していた。そして彼女がつないだ手の先には自分にそっくりな男の子の姿がある。

 その姿を見て嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが入り混じり、涙が流れ出て後ずさる。その時にガタンと音を立ててしまい彼女の視線がこちらを向いた。


 マルグリットが胡麻化したことで難を逃れ、そのまま二人の話を聞いていた。彼女がこの町へたどり着いてからの事を、そして子供の事を。

 エミリアは俺に子供の事を伝える気はないと言い、独りで育てるという彼女にどういう顔で会えばいいのだろうかとそればかりを考えていた。

 今この場で顔を出すことは避けた方がいいかもしれないと思い始め、彼女が店を出たと同時に部屋の奥へと戻った。

 アーサーが行かないのかと聞いてくるが、俺は自分の身体が動かないことに気が付いた。おそらく怖いのだろう。拒否されるかもしれないと思うと一歩が踏み出せない。あんなに探し続けた彼女がすぐそこに、手を伸ばせば届く場所にいるのに。


 座って頭を抱える俺はこの先どうするか考えようとしていると、彼女たちを見送ったマルグリットが慌てて部屋に飛び込んできた。


「大変です!エミリアたちが旅に出るって…」
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