人形たちの箱庭

黒羽オウリ

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ミト_01

2.発熱と血液検査

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 ミトを乗せた車椅子はホムンクルスたちの居住棟に向かった。まだ誰もいない食堂の横を抜け、同じ形の扉がいくつも並ぶ廊下を進む。やがて「F」と書かれた扉の前に辿りつくと、警備員は車椅子を止めた。
 ノックや声かけもなく扉を開く警備員。部屋の中にいた二体のホムンクルスが振り返る。さきほどまでのミトと同じ白いTシャツと白い首輪をしているが、履いているのは白いハーフパンツだった。
「あ、ミト。おかえり」
「今日は能力測定だったよな。怪我をしたんだね」
 薄紫色のクセのある髪をした、ミトよりもやや幼い容姿のホムンクルス、ムツミ(623)。それからミトよりも少し背が高く、青みがかった艶のある紫色の髪をしたイロハ(168)。二人が部屋から出てきてミトを迎えた。
「大丈夫?」
 たずねるムツミにミトは少しだけ笑顔を見せる。
「こっちに帰ってこれるくらいには平気だ。ただちょっと疲れてて……」
「そっか。……ベッドまで連れてくよ、俺につかまって」
 イロハがミトの右腕を引いて、その腕の下に自分の肩を差し入れるようにしてミトを立ち上がらせる。立ち上がった直後、ミトはほんの少しふらついたが、イロハとムツミがそれを支えた。
 部屋の右手前、ミトのベッドに向かって歩き出すイロハ。ムツミが警備員を振り返ってペコリと頭を下げる。
「ミトを連れてきてくれて、ありがとう」
 警備員はうなずきもせず、車椅子を畳んで、それを押しながら戻っていった。

 イロハに助けられながら自分のベッドに横になると、ミトはほっと息を吐きだした。
 部屋の四隅にシングルベッドが置かれた、ホムンクルスたちの居室。本棚つきのブース型の机や小さなチェストがベッドとベッドの間に置かれ、ゆるやかに空間を仕切っている。
 部屋の壁に設けられた窓には自然光を模した光を映すパネルがはめ込まれ、それは今、夕方の黄色い光を室内に投げかけていた。
「夕食まで少し寝てなよ」
 イロハがミトの身体に毛布をかぶせてくれる。
 やわらかく温かい感触に包まれ、ミトは黙ってうなずいた。
「今日の夕食は、僕たちがここまで持ってきてあげるから、ゆっくり寝てて」
 ムツミが、いたわるようにミトの額をなでながら言う。
 それに笑顔で応えて、ミトは目を閉じた。



 ひんやりとしたものが額に触れて、ミトは目を覚ました。
「あれ……? 夜凍先生?」
 夜凍が、ミトの居室のベッドの横に立ち、ミトの額に手を当てていた。その隣には、看護師もいる。一体どうしたのだろう。
 ミトは昨日の夕方、この部屋に戻ってくると、すぐに眠りについた。少し寝た後にムツミたちが食事と薬を持ってきてくれ、それを摂ってからまた眠ったはずだった。
 ミトは夜凍の手越しに部屋の時計を確認する。時刻はまだ、起床時間より少しだけ早かった。
「熱が出ているな……」
 ミトの額から手を放し、手元のタブレットの画面を確認しながら夜凍が言う。どうやらミトの身体に埋め込まれたモニタリングチップが発熱の信号を発したらしい。夜凍はそれをうけて、様子を見にやって来たようだった。
 夜凍は、タブレット端末をミトの個人机の上に置くと、ミトの身体をおおう毛布をめくった。心地よかったぬくもりを引きはがされ、ミトが小さく身震いする。
 夜凍は己の首にかかっていた聴診器を耳に装着すると、ミトの襟元からそれを差し入れ、ミトの胸にあてがった。ひんやりとした感触に、ミトの背中をぞわぞわとした感覚が這い上がる。夜凍は聴診器を幾度か当てなおし、少し時間をかけながらミトの呼吸の音や心音を聞いた。
 ミトが視線をめぐらせると、起きてきたイロハとムツミが、少し心配そうな顔でこちらを見ていた。大丈夫というように、ミトは小さくうなずく。そんなミトを夜凍がチラリと見たが、夜凍は何も言わず聴診器を外し、自分の首にかけなおした。
 夜凍が隣の看護師に言う。
「採血セットを」
「はい」
 看護師はすぐに、手にした銀のトレイを夜凍に差し出した。
 夜凍が駆血帯をミトの右腕に巻きつける。消毒のひんやりとした感触と、採血用の針が刺さるチリっとした小さな痛み。試験管の中にミトの血液が吸い出されていく。
 二本の試験管に血液を採取すると、夜凍はミトの腕から針を抜き、小さな絆創膏を貼り付けた。駆血帯も外して、ミトの身体に毛布をかける。
「血液検査の結果によっては、病室のほうに移らせる。今日は腕の傷の再確認もあるから、後で警備員に迎えに来させよう」
 それから夜凍はイロハとムツミに向かって言った。
「検査の結果が出るまでは、この部屋で休ませる。お前たちは朝食の時間になったら310番の分を運んでやれ」
 イロハが答えた。
「はい」
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