2 / 32
ミト_01
2.発熱と血液検査
しおりを挟む
ミトを乗せた車椅子はホムンクルスたちの居住棟に向かった。まだ誰もいない食堂の横を抜け、同じ形の扉がいくつも並ぶ廊下を進む。やがて「F」と書かれた扉の前に辿りつくと、警備員は車椅子を止めた。
ノックや声かけもなく扉を開く警備員。部屋の中にいた二体のホムンクルスが振り返る。さきほどまでのミトと同じ白いTシャツと白い首輪をしているが、履いているのは白いハーフパンツだった。
「あ、ミト。おかえり」
「今日は能力測定だったよな。怪我をしたんだね」
薄紫色のクセのある髪をした、ミトよりもやや幼い容姿のホムンクルス、ムツミ(623)。それからミトよりも少し背が高く、青みがかった艶のある紫色の髪をしたイロハ(168)。二人が部屋から出てきてミトを迎えた。
「大丈夫?」
たずねるムツミにミトは少しだけ笑顔を見せる。
「こっちに帰ってこれるくらいには平気だ。ただちょっと疲れてて……」
「そっか。……ベッドまで連れてくよ、俺につかまって」
イロハがミトの右腕を引いて、その腕の下に自分の肩を差し入れるようにしてミトを立ち上がらせる。立ち上がった直後、ミトはほんの少しふらついたが、イロハとムツミがそれを支えた。
部屋の右手前、ミトのベッドに向かって歩き出すイロハ。ムツミが警備員を振り返ってペコリと頭を下げる。
「ミトを連れてきてくれて、ありがとう」
警備員はうなずきもせず、車椅子を畳んで、それを押しながら戻っていった。
イロハに助けられながら自分のベッドに横になると、ミトはほっと息を吐きだした。
部屋の四隅にシングルベッドが置かれた、ホムンクルスたちの居室。本棚つきのブース型の机や小さなチェストがベッドとベッドの間に置かれ、ゆるやかに空間を仕切っている。
部屋の壁に設けられた窓には自然光を模した光を映すパネルがはめ込まれ、それは今、夕方の黄色い光を室内に投げかけていた。
「夕食まで少し寝てなよ」
イロハがミトの身体に毛布をかぶせてくれる。
やわらかく温かい感触に包まれ、ミトは黙ってうなずいた。
「今日の夕食は、僕たちがここまで持ってきてあげるから、ゆっくり寝てて」
ムツミが、いたわるようにミトの額をなでながら言う。
それに笑顔で応えて、ミトは目を閉じた。
◆
ひんやりとしたものが額に触れて、ミトは目を覚ました。
「あれ……? 夜凍先生?」
夜凍が、ミトの居室のベッドの横に立ち、ミトの額に手を当てていた。その隣には、看護師もいる。一体どうしたのだろう。
ミトは昨日の夕方、この部屋に戻ってくると、すぐに眠りについた。少し寝た後にムツミたちが食事と薬を持ってきてくれ、それを摂ってからまた眠ったはずだった。
ミトは夜凍の手越しに部屋の時計を確認する。時刻はまだ、起床時間より少しだけ早かった。
「熱が出ているな……」
ミトの額から手を放し、手元のタブレットの画面を確認しながら夜凍が言う。どうやらミトの身体に埋め込まれたモニタリングチップが発熱の信号を発したらしい。夜凍はそれをうけて、様子を見にやって来たようだった。
夜凍は、タブレット端末をミトの個人机の上に置くと、ミトの身体をおおう毛布をめくった。心地よかったぬくもりを引きはがされ、ミトが小さく身震いする。
夜凍は己の首にかかっていた聴診器を耳に装着すると、ミトの襟元からそれを差し入れ、ミトの胸にあてがった。ひんやりとした感触に、ミトの背中をぞわぞわとした感覚が這い上がる。夜凍は聴診器を幾度か当てなおし、少し時間をかけながらミトの呼吸の音や心音を聞いた。
ミトが視線をめぐらせると、起きてきたイロハとムツミが、少し心配そうな顔でこちらを見ていた。大丈夫というように、ミトは小さくうなずく。そんなミトを夜凍がチラリと見たが、夜凍は何も言わず聴診器を外し、自分の首にかけなおした。
夜凍が隣の看護師に言う。
「採血セットを」
「はい」
看護師はすぐに、手にした銀のトレイを夜凍に差し出した。
夜凍が駆血帯をミトの右腕に巻きつける。消毒のひんやりとした感触と、採血用の針が刺さるチリっとした小さな痛み。試験管の中にミトの血液が吸い出されていく。
二本の試験管に血液を採取すると、夜凍はミトの腕から針を抜き、小さな絆創膏を貼り付けた。駆血帯も外して、ミトの身体に毛布をかける。
「血液検査の結果によっては、病室のほうに移らせる。今日は腕の傷の再確認もあるから、後で警備員に迎えに来させよう」
それから夜凍はイロハとムツミに向かって言った。
「検査の結果が出るまでは、この部屋で休ませる。お前たちは朝食の時間になったら310番の分を運んでやれ」
イロハが答えた。
「はい」
ノックや声かけもなく扉を開く警備員。部屋の中にいた二体のホムンクルスが振り返る。さきほどまでのミトと同じ白いTシャツと白い首輪をしているが、履いているのは白いハーフパンツだった。
「あ、ミト。おかえり」
「今日は能力測定だったよな。怪我をしたんだね」
薄紫色のクセのある髪をした、ミトよりもやや幼い容姿のホムンクルス、ムツミ(623)。それからミトよりも少し背が高く、青みがかった艶のある紫色の髪をしたイロハ(168)。二人が部屋から出てきてミトを迎えた。
「大丈夫?」
たずねるムツミにミトは少しだけ笑顔を見せる。
「こっちに帰ってこれるくらいには平気だ。ただちょっと疲れてて……」
「そっか。……ベッドまで連れてくよ、俺につかまって」
イロハがミトの右腕を引いて、その腕の下に自分の肩を差し入れるようにしてミトを立ち上がらせる。立ち上がった直後、ミトはほんの少しふらついたが、イロハとムツミがそれを支えた。
部屋の右手前、ミトのベッドに向かって歩き出すイロハ。ムツミが警備員を振り返ってペコリと頭を下げる。
「ミトを連れてきてくれて、ありがとう」
警備員はうなずきもせず、車椅子を畳んで、それを押しながら戻っていった。
イロハに助けられながら自分のベッドに横になると、ミトはほっと息を吐きだした。
部屋の四隅にシングルベッドが置かれた、ホムンクルスたちの居室。本棚つきのブース型の机や小さなチェストがベッドとベッドの間に置かれ、ゆるやかに空間を仕切っている。
部屋の壁に設けられた窓には自然光を模した光を映すパネルがはめ込まれ、それは今、夕方の黄色い光を室内に投げかけていた。
「夕食まで少し寝てなよ」
イロハがミトの身体に毛布をかぶせてくれる。
やわらかく温かい感触に包まれ、ミトは黙ってうなずいた。
「今日の夕食は、僕たちがここまで持ってきてあげるから、ゆっくり寝てて」
ムツミが、いたわるようにミトの額をなでながら言う。
それに笑顔で応えて、ミトは目を閉じた。
◆
ひんやりとしたものが額に触れて、ミトは目を覚ました。
「あれ……? 夜凍先生?」
夜凍が、ミトの居室のベッドの横に立ち、ミトの額に手を当てていた。その隣には、看護師もいる。一体どうしたのだろう。
ミトは昨日の夕方、この部屋に戻ってくると、すぐに眠りについた。少し寝た後にムツミたちが食事と薬を持ってきてくれ、それを摂ってからまた眠ったはずだった。
ミトは夜凍の手越しに部屋の時計を確認する。時刻はまだ、起床時間より少しだけ早かった。
「熱が出ているな……」
ミトの額から手を放し、手元のタブレットの画面を確認しながら夜凍が言う。どうやらミトの身体に埋め込まれたモニタリングチップが発熱の信号を発したらしい。夜凍はそれをうけて、様子を見にやって来たようだった。
夜凍は、タブレット端末をミトの個人机の上に置くと、ミトの身体をおおう毛布をめくった。心地よかったぬくもりを引きはがされ、ミトが小さく身震いする。
夜凍は己の首にかかっていた聴診器を耳に装着すると、ミトの襟元からそれを差し入れ、ミトの胸にあてがった。ひんやりとした感触に、ミトの背中をぞわぞわとした感覚が這い上がる。夜凍は聴診器を幾度か当てなおし、少し時間をかけながらミトの呼吸の音や心音を聞いた。
ミトが視線をめぐらせると、起きてきたイロハとムツミが、少し心配そうな顔でこちらを見ていた。大丈夫というように、ミトは小さくうなずく。そんなミトを夜凍がチラリと見たが、夜凍は何も言わず聴診器を外し、自分の首にかけなおした。
夜凍が隣の看護師に言う。
「採血セットを」
「はい」
看護師はすぐに、手にした銀のトレイを夜凍に差し出した。
夜凍が駆血帯をミトの右腕に巻きつける。消毒のひんやりとした感触と、採血用の針が刺さるチリっとした小さな痛み。試験管の中にミトの血液が吸い出されていく。
二本の試験管に血液を採取すると、夜凍はミトの腕から針を抜き、小さな絆創膏を貼り付けた。駆血帯も外して、ミトの身体に毛布をかける。
「血液検査の結果によっては、病室のほうに移らせる。今日は腕の傷の再確認もあるから、後で警備員に迎えに来させよう」
それから夜凍はイロハとムツミに向かって言った。
「検査の結果が出るまでは、この部屋で休ませる。お前たちは朝食の時間になったら310番の分を運んでやれ」
イロハが答えた。
「はい」
10
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
月弥総合病院
僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる