人形たちの箱庭

黒羽オウリ

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ムツミ_02

初ヒート

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「ぅ……ふっ」
 その夜、イロハとミトの目を覚まさせたのは、ムツミの苦しそうな息づかいだった。
「ムツミ、大丈夫か?」
 ムツミと向かい合わせのベッドを使っているミトが、起き出してムツミの顔を覗き込む。やや遅れてイロハもまたムツミのベッドサイドにやってきた。
「う……ミト、イロハ」
 うっすらと目を開け、二人を見返すムツミ。その瞳は潤み、頰も紅潮し、額には汗をかいている。一見すると、熱があるようにも見える、その姿。
「ムツミ?」
 ミトが手を伸ばし、熱を確かめるようにムツミの頰に触れた。
「っ……ぁ」
 ムツミの身体が大げさに震える。
 その様子に、イロハとミトは顔を見合わせた。
「これって……」
「うん」
 そのとき、三人の居室の扉が外から開けられた。
 ヨレっとしたシャツの上に白衣だけを引っかけ、髪の毛もどこか乱れたままの夜凍が、珍しく少し慌てた様子で入ってきた。夜凍の後ろには看護師と空の車椅子を押す警備員もいる。
「……」
 夜凍はイロハとミトの顔をチラリと見ると、何も言わず、ムツミの毛布をめくった。タブレットでムツミの体内に埋め込まれたチップから送られてくるデータを確認しつつ、ムツミの頰や首に軽く触れ、体温を確認する。そして言った。
「ヒートだな」
 顔を見合わせるイロハとムツミ。
 夜凍が警備員に目で合図し、警備員が車椅子を用意する。
 その隙にミトがムツミに駆け寄った。
「最初はちょっと大変だけど、次からは抑制剤もらえるから……」
 ミトの後ろでイロハもうなずく。
「……」
 ムツミはぼんやりとした表情で、二人を見返してうなずいた。
 警備員がムツミの身体を抱き上げ、車椅子に乗せる。
「連れていけ」
 夜凍が言って、車椅子が動き出す。
 イロハとミトは肩を寄せ合うようにして、連れていかれるムツミを見送った。

 ムツミが連れて行かれたのは、測定室だった。無機質な白い壁の部屋。入り口から向かって右側の壁には大きなガラス窓があり、その向こうは薄暗い観察室になっている。測定室の中央には、ふだんは処置台にも似た無機質なベッドが置かれているが、今日はふつうの医療用のベッドが置かれていた。
 警備員がベッドサイドに車椅子を停めると、看護師はムツミの衣服を脱がせはじめた。ゆったりとしたTシャツと、ウェストがゴムのハーフパンツは、大した抵抗もなく剥ぎ取られてしまう。さらに看護師はムツミをベッドに寝かせると、下半身を覆う下着さえも取り去ってしまった。その下着はすでに、何もせずとも溢れてくる愛液にグッショリと濡れている。足の間では、ムツミの象徴がゆるやかに頭をもたげていた。
「ぁ……やだ」
 ムツミは小さく声を漏らしたが、抵抗する力はない。身体が熱く、意識もどこか朦朧としており、ただ横になっているだけで息が上がる。
 ベッドサイドに立った夜凍がゴム手袋を装着しながら、冷えた目で、裸体のムツミを見下ろした。
「623番、初回のヒートだな」
 そうして夜凍は、ムツミの鎖骨の下のバーコードを読み取ると、ムツミの首筋に触れた。ビクリと反応するムツミの身体。
「体温も上昇……38.1度か」
 傍らのモニタでムツミのデータを確認する夜凍。そうして夜凍は言った。
「次は感度と濡れ具合の確認だ。動くなよ」

「ぅ……ふっ、あぁっ」
 ゴム手袋に包まれた夜凍の手が、指が、ムツミの身体を這っていく。頰、唇、首筋、そして乳首。
 淡く色づき、尖った胸の飾りをつままれ、指の中で転がされ、ムツミは背中を弓なりにそらせて声をあげた。今まで感じたことのない、鮮烈な感覚が全身を駆け巡り、身体がビクビクと跳ねる。動くなと言われてはいても、身体がよじれ、バタつく足がシーツを蹴った。
「うっ……あ、んんっ、はぁ……なに、これ?」
 目尻に涙を浮かべるムツミ。ムツミの反応を冷えた目で観察しながら、夜凍が答える。
「性的な興奮に伴う快楽、いわゆる『感じる』という状態だ。ベータやアルファでも感じることはできるが、オメガは特にそれを受け取りやすくできている。ヒート中は尚更だ」
 そうして夜凍は小さく付け加えた。
「感度は十分だな」
 さらに夜凍はムツミの膝を曲げさせて割り開き、その奥にあるものを覗き込んだ。朦朧としながらも、ムツミが羞恥に細い悲鳴を上げる。
「や……見ないで」
 夜凍はその訴えを完全に無視し、ムツミの蕾に指を伸ばした。ムツミの身体が跳ね上がる。
「……濡れ方も十分のようだ」
 そうして夜凍はムツミの蕾に、指をゆっくりと差し入れた。
 まだ初めてであるにも関わらず、ムツミの蕾はまるで悦ぶようにそれを受け入れ、うごめく。
「や、やぁ……やめ、そんなところ、触らない……で。んんっ」
 ムツミはシーツをつかみ、首を振る。
 夜凍がムツミの中を確かめるように指を動かしつつ、小さくため息をついた。
「ここを使って客を喜ばせることは、もう『学習』しているだろう」
「んんっ……で、も……っああっ」
 しばらくの間ムツミの中を探っていた夜凍が、不意に指を引き抜いた。
 その刺激にも、ムツミが高い悲鳴を上げる。
「ほぐれ具合も十分だな」
 それから、夜凍は目で看護師に合図をした。それを受けた看護師がムツミの手首と足首に拘束帯を着ける。そして、小さく首を振るムツミを無視し、両手は頭の上でバンザイをするように、左右の足は開いた状態で固定してしまった。
 夜凍が手袋を外しながら、ムツミを見下ろして言った。
「初回のヒートだ。データを取る」
 中途半端に快楽を与えられ、放り出され、ムツミは肩で息をしながら夜凍を見上げる。
「これから48時間、2時間おきに採血と検査を行う。自分で慰めるのを阻止するため、拘束は外さない」
 夜凍がワゴンから採血セットを取り出した。拘束された左腕に駆血帯が巻きつけられ、消毒のヒヤリとした感触がムツミの肌を走る。針が刺さる、チリっとした痛み。しかし今のムツミにとって、それは身体を駆け巡る熱に比べれば些細なものだった。
 試験管に血液が吸い出されていく。
「初回の採血完了。次は2時間後だ」
 夜凍が採血セットを片付ける。
「水分補給は点滴で行う。無理に動こうとはするなよ」
 そう言い残して、夜凍と看護師は部屋を出て行った。

 ムツミは拘束されたベッドの上で白々とした照明に照らされながら、身体の中に渦巻く熱に耐えた。
 何をどうしたいのかは、よく分からない。けれども、触れたい、何かで和らげたいという衝動が湧き上がる。さっき夜凍に触れられたときに感じた、あの感覚。あれをもう一度味わいたい、あの中に溺れたい。そう思うのに手は動かせず、足を閉じてすり合わせることさえもできない。
 時間の感覚が曖昧になる。どのくらい経ったのかも分からなくなる。
 やがて再び扉が開き、夜凍が入ってきた。
「2時間後の採血だ」
 再び針が刺され、血液が採取される。夜凍がモニタを確認し、ムツミの足の間でゆるやかに立ち上がり、蜜をこぼすムツミ自身と、その奥にある蕾の様子を確認する。
「体温の上昇も継続、濡れ具合も十分だな」
 これが何度も繰り返された。
 4時間後、6時間後、8時間後。
 その度に針が刺され、血液が採取され、触れられはしないままに、蕾の様子が確認される。
 ムツミの意識は朦朧とし、まるで電源が切れるかのように短い眠りに落ちた。しかしそれさえも、採血で寸断される。
 途中、何度か夜凍ではない医師が採血に来たような気もする。
「っ……も、……むり、たすけ……て」
 ムツミは弱々しく訴えたが、夜凍は表情を変えない。
「まずはデータ収集だ。しばらくがまんしろ」
 淡々と採血を続ける夜凍。

 48時間が経過する頃には、ムツミの腕は針の跡だらけになっていた。腕だけでは足りず、足の甲にも針の跡がある。
 夜凍がモニタを確認しながら言った。
「ヒートのピークは過ぎたようだな……」
 夜凍の手がムツミの身体をたどる。
「っひ……あぁ」
 乳首に、内腿に触れられ、跳ね上がるムツミの身体。
 冷えた目でムツミを見下ろしながら夜凍はムツミの性器に触れた。形を確かめるようにゆるく握り込み、軽く掻く。
「ああっ……はっ、ああん」
 すっかり枯れたムツミの声が高くなった。
「精液を採取する。我慢せず出せ」
 そうして夜凍は、左手に持った試験管をムツミの性器の先にあてがいながら、右手でムツミの性器を掻きはじめた。
 リズミカルなその動きに、ムツミの身体がガクガクと震える。
「ううぅ……ああっ」
 夜凍は我慢するなとは言ったが、全裸で拘束され、性器を掻かれながら精液を採取されるという羞恥。ムツミはこみ上げてくる衝動を堪えようと首を振ったが、長くはもたなかった。
「っ……あああっ」
 ムツミの性器の先から、白濁が勢いよく吐き出される。
 夜凍は眉ひとつ動かさず、それを試験管に受け止めた。
「ふむ……量も十分だな」
 朦朧としつつも、ようやく解放された熱と、羞恥とに苛まされ、ムツミはぐったりとベットに沈み込む。
 夜凍はそんなムツミを一瞥すると、足の拘束だけを外した。
 ムツミの腰の下に枕を入れ、ムツミの膝を曲げさせて左右に開く。
 露わになるムツミの蕾。
 羞恥に首を振るムツミを、夜凍が冷たく見下ろす。
「オメガならば、わざわざ解す必要もないんだが……あまり苦しめるのもかわいそうだからな」
 そうして夜凍はムツミの蕾に手袋に包まれた手で、人差し指と中指を揃えて差し込んだ。
「んんっ! ……あああっ!」
 悲鳴を上げるムツミ。痛みなのか、苦しさなのか、それとも、やっと与えられた快楽に対する悦びなのかは分からない。けれどもムツミの蕾は、まるで待ち構えていたかのように夜凍の指を食み、うねうねとうごめいた。
「さすがオメガだな……」
 夜凍が指を動かす。中をかき混ぜるように、内壁を抉るように、そしてまるで性交の際の男根の動きのように。
 そのたびにムツミは嬌声とも悲鳴ともつかぬ声を上げ、身をよじった。
 やがて夜凍の指が、ムツミの中にある、ある一点に触れた。
「ああっ!」
 跳ね上がるムツミの身体。
 夜凍が、繰り返しそこを刺激する。
「この場所をよく覚えておけ。ここで客を受け止めてやれば、客を悦ばせられる」
 ムツミは生理的な涙を流しながら首を振り、与えられる快感に身を震わせた。

 どれほどそうしていただろうか。ノックの音がして、測定室の扉が開けられた。警備員が誰か……いや、何かを伴って入ってくる。
 ベッドサイドに連れてこられる、ソレ。そしてムツミは、ソレの姿に気づくと、鋭い悲鳴を上げた。
「や……やだっ! イヤだよ!」
 それは、人の姿をした、けれどもムツミたちホムンクルスとは全く異なる性質を持つものだった。アンドロイド。ムツミたちのような生体を持つわけでもなく、人工的に作られた無機質な疑似肉体と、明確な感情は持たずに、ただ命令だけに従うロボット。
 アンドロイドの用途はさまざまだったが、ここに連れて来られたのは、その中でも特に性の玩具として使われる、セクサロイドだった。
 それを見た夜凍がうなずき、ムツミの中から指を引き抜く。
「準備はできている。ヒートが終わるまで、満足させてやれ」
 うなずいたセクサロイドがベッドに上がり、ムツミの身体にのしかかる。
「いや……やだっ! やめっ……ぅ」
 ムツミの叫び声は、セクサロイドの口づけの中に奪われていった。
「んんっ……んんーーーー!!」
 やがてセクサロイドがムツミの膝裏に手をかけ、ムツミの脚を押し開いた。
 ムツミの蕾に、セクサロイドの男根が迫る。
「あ……やだっ、やだ。こわい……助けて!」
 ムツミは悲鳴を上げ、すがるように夜凍を見たが、夜凍は軽く肩をすくめるばかりだ。
「『はじめて』を売り物にすると、システムがややこしくなるんだ。我慢しろ」
 そうしてついにセクサロイドの男根がムツミの蕾を貫いた。
 見開いた目で涙を流すムツミ。
「632番は、どうやって男をくわえ込むか、身体で覚えておけ。素直に反応すれば、客が喜ぶからな……」
 泣き叫ぶムツミにそう言い残し、夜凍と警備員は部屋を出て行った。

 あとはときおり、看護師が点滴に訪れるばかり。
 ムツミは、疲れを知らぬセクサロイドの、ゆるゆるとした腰づかいに、ただひたすらに泣き続けた。
 いやだ、こわい、やめてほしい
 満たされる、きもちいい、もっとほしい
 快楽の波の中、相反する感情が渦巻く。
 いつ終わるとも知れない地獄の中で啼きわめくムツミを、医師たちが隣の観察室から代わる代わる眺め、データを確認していた。
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