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イロハ_04
2.痛覚校正
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15分ほどの休憩を終えると、幻智はイロハの椅子の向きを変えた。
さっきは、机に向かうようになっていたものが、身体の右側を机に向け、横を向く形だ。
そうしてイロハの右腕を机に載せる。
それから幻智は、もう一度イロハに目隠しをした。
「次は痛覚だ。義肢の強度に対して危険な力を、痛覚として認識させる……まあ生体の仕組みと同じだ」
うなずくイロハ。
「痛みがある場合もあるが、危険はない。安心しろ」
「……はい」
幻智がイロハの右腕に機械を取り付けた。
ウィーンという機械音と智に、右腕が左右から圧迫されていく。
「……」
イロハは眉を寄せた。痛みはないが、ややキツい。
「脳波でもモニタリングしてはいるが、痛みがあれば言え」
「はい……」
それから少しして、痛みがやってきた。
「……痛いです」
幻智がモニタを確認する。
「まだ安全域内だ。続ける」
「……はい」
目隠しの中でまぶたを伏せて、イロハはうなずく。
機械音と共に、さらに圧迫感と痛みが増す。イロハの眉がキツく寄せられた。
「我慢しろ」
「っ、はい……」
イロハの額に汗が浮き、逃げようとするように反射的に身体がよじれる。
幻智がイロハの右肩を抑える。
「動くな、もう少しだ」
「ぅう……はいっ」
さらに機械からの力は強くなる。
痛みが増す。
腕を食いちぎらたときよりはマシだったが、それでも腕にかかる強い痛みは、その瞬間を思い出させた。
イロハは悪夢から逃げようとするように首を振った。
機械音が止まる。
だが圧迫の力は緩まない。
「そのまま、もう少し我慢しろ」
幻智が言って、パソコンを操作する音がした。
腕に、ザっとしびれが走り、痛みが少し軽減する。
耐えがたいレベルから、何とかギリギリで耐えられそうなレベルに。
イロハは細く息を吐き出した。
「……これくらいから、やや危険になる。痛みとしてはこの程度が妥当だろう」
それから幻智がまたパソコンを操作した。
強まる圧迫。痛みが突き抜ける。
「ああっ……」
思わず動きそうになるイロハの肩を抑えて、幻智が言った。
「これ以上は、できるだけ避けてほしいレベルだ。覚えておけ」
「……っはい」
同じような試験が、手首と指先でも行われた。
さらには指の関節を逆方向に曲げたり、突き刺すような力に対しても、同じような試験が行われる。
幻智は、イロハの申告と脳波を見ながら、痛みの強さを弱めたり、強めたりした。
一通りの調整が終わるころには、イロハはうっすらと汗をかいていた。
「最後の調整だ」
幻智がイロハの右腕にバンドのようなものを巻き付ける。
イロハは、義肢に触れる幻智の指が、軍手のような手袋に包まれているのに気がついた。だが、その疑問を口にしても、何も変わりはしないだろう。
幻智がパソコンを操作する。
バンドがふっと温かくなった気がした。
しかし次の瞬間。
「ぁ、熱っ……!」
イロハは叫び声を上げた。
反射的に身を引こうとするが、しっかりと巻かれたバンドは離れない。
幻智がイロハの肩を抑える。
「動くな。まだ大した温度ではない」
「っああっ……」
イロハは左手で右肩をわしづかみにして、熱さに耐えた。
あまりの痛みに、目の前がチカチカする。
イロハの脳波と心拍数を確認していた幻智がパソコンを操作した。
じわりとしたしびれと共に少しだけ熱さがマシになる。
再び上昇していくバンドの温度。
「っ……ううあぁ」
悲鳴を上げるイロハ。
「安心しろ、義肢は生体よりもはるかに熱に強い。……ただし、つながっている身体を守るために熱を認識させている。その痛みはただの信号だ」
「……」
そんなことを言われても、熱いものは熱いのだ。
自由な身体だったら、反射的に手を引くような熱さ。それでもバンドを外すことは許されない。
目隠しの中、キツく閉じたイロハの眦に生理的な涙が浮かんだ。
やがてバンドの温度の上昇が止まった。
幻智がパソコンを操作し、少しだけ痛みが増す。
「っあああ……熱い」
抑えた叫びを上げるイロハ。幻智が小さく息をついて、イロハの腕からバンドを外した。
同じ試験が、手のひらでも行われた。
全ての試験が終わり、目隠しが外されると、イロハは大きく息をつき、椅子に沈み込んだ。
「……飲むといい」
幻智が、水が入ったコップを差し出す。
「……」
イロハは目を伏せ、左手でそれを受け取った。
さっきは、机に向かうようになっていたものが、身体の右側を机に向け、横を向く形だ。
そうしてイロハの右腕を机に載せる。
それから幻智は、もう一度イロハに目隠しをした。
「次は痛覚だ。義肢の強度に対して危険な力を、痛覚として認識させる……まあ生体の仕組みと同じだ」
うなずくイロハ。
「痛みがある場合もあるが、危険はない。安心しろ」
「……はい」
幻智がイロハの右腕に機械を取り付けた。
ウィーンという機械音と智に、右腕が左右から圧迫されていく。
「……」
イロハは眉を寄せた。痛みはないが、ややキツい。
「脳波でもモニタリングしてはいるが、痛みがあれば言え」
「はい……」
それから少しして、痛みがやってきた。
「……痛いです」
幻智がモニタを確認する。
「まだ安全域内だ。続ける」
「……はい」
目隠しの中でまぶたを伏せて、イロハはうなずく。
機械音と共に、さらに圧迫感と痛みが増す。イロハの眉がキツく寄せられた。
「我慢しろ」
「っ、はい……」
イロハの額に汗が浮き、逃げようとするように反射的に身体がよじれる。
幻智がイロハの右肩を抑える。
「動くな、もう少しだ」
「ぅう……はいっ」
さらに機械からの力は強くなる。
痛みが増す。
腕を食いちぎらたときよりはマシだったが、それでも腕にかかる強い痛みは、その瞬間を思い出させた。
イロハは悪夢から逃げようとするように首を振った。
機械音が止まる。
だが圧迫の力は緩まない。
「そのまま、もう少し我慢しろ」
幻智が言って、パソコンを操作する音がした。
腕に、ザっとしびれが走り、痛みが少し軽減する。
耐えがたいレベルから、何とかギリギリで耐えられそうなレベルに。
イロハは細く息を吐き出した。
「……これくらいから、やや危険になる。痛みとしてはこの程度が妥当だろう」
それから幻智がまたパソコンを操作した。
強まる圧迫。痛みが突き抜ける。
「ああっ……」
思わず動きそうになるイロハの肩を抑えて、幻智が言った。
「これ以上は、できるだけ避けてほしいレベルだ。覚えておけ」
「……っはい」
同じような試験が、手首と指先でも行われた。
さらには指の関節を逆方向に曲げたり、突き刺すような力に対しても、同じような試験が行われる。
幻智は、イロハの申告と脳波を見ながら、痛みの強さを弱めたり、強めたりした。
一通りの調整が終わるころには、イロハはうっすらと汗をかいていた。
「最後の調整だ」
幻智がイロハの右腕にバンドのようなものを巻き付ける。
イロハは、義肢に触れる幻智の指が、軍手のような手袋に包まれているのに気がついた。だが、その疑問を口にしても、何も変わりはしないだろう。
幻智がパソコンを操作する。
バンドがふっと温かくなった気がした。
しかし次の瞬間。
「ぁ、熱っ……!」
イロハは叫び声を上げた。
反射的に身を引こうとするが、しっかりと巻かれたバンドは離れない。
幻智がイロハの肩を抑える。
「動くな。まだ大した温度ではない」
「っああっ……」
イロハは左手で右肩をわしづかみにして、熱さに耐えた。
あまりの痛みに、目の前がチカチカする。
イロハの脳波と心拍数を確認していた幻智がパソコンを操作した。
じわりとしたしびれと共に少しだけ熱さがマシになる。
再び上昇していくバンドの温度。
「っ……ううあぁ」
悲鳴を上げるイロハ。
「安心しろ、義肢は生体よりもはるかに熱に強い。……ただし、つながっている身体を守るために熱を認識させている。その痛みはただの信号だ」
「……」
そんなことを言われても、熱いものは熱いのだ。
自由な身体だったら、反射的に手を引くような熱さ。それでもバンドを外すことは許されない。
目隠しの中、キツく閉じたイロハの眦に生理的な涙が浮かんだ。
やがてバンドの温度の上昇が止まった。
幻智がパソコンを操作し、少しだけ痛みが増す。
「っあああ……熱い」
抑えた叫びを上げるイロハ。幻智が小さく息をついて、イロハの腕からバンドを外した。
同じ試験が、手のひらでも行われた。
全ての試験が終わり、目隠しが外されると、イロハは大きく息をつき、椅子に沈み込んだ。
「……飲むといい」
幻智が、水が入ったコップを差し出す。
「……」
イロハは目を伏せ、左手でそれを受け取った。
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