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「貴方はこの部屋に住んでいるのか?」
デリックの問いに、
きたっ!!! と思わずまっすぐ彼を見てしまった。
目が笑いそうになるのを堪えて、慌ててうつむく。
「ええ、そうです。リーナお嬢様がいらしてからは、ここに住まわせていただいています」
「お嬢様って、貴方もこの家の娘だろう?」
デリックが信じられないと言う声を出す。
「父と母は政略結婚で……私は前妻の子供ですから」
「でも」
「父……旦那様は私を嫌いなのです。学園へ通わせていただき、ここに住まわせていただけるだけありがたいことです」
「噂では君が、リーナ嬢を虐げていると……」
「そう言われているのは知っています。でもよくある話です」
そう、よくある話だ。
貴族社会は、政略結婚と恋愛は別物。何人も愛人を囲ったり、外に子供がいるなんて普通のこと。そしてその家で一番強い者が選んだ者だけが家族になる。
我が家では今、父が強く、その愛を受けるのは義母と義妹と言うだけだ。
「世の皆さんのお家では、正妻の子供の方が大事にされている、それだけのことです」
デリックが何か言いかけて、止めた。
何も言えないよね~
好きな女を守るなんて言って、噂を鵜呑みにしたあげく、理由も聞かないで、フルスイングで女の子殴ったんだもんね~
それも、義妹に虐げられている、かわいそうな姉を。
「……本当に、すまなかった」
「私はアディソン様に謝っていただくようなことはされていません」
「何を言って……」
デリックが目を見張る。
「今日はリーナお嬢様が心配でこちらにいらしたと言うことですよね」
「どうして」
「困るんです。アディソン様のような方が私の所に来られたと、リーナお嬢様や、この家の者に知られるのは」
「君が殴られたことよりもか?」
「そうです。私が……怒られるんです。私が殴られるのは当たり前なんです。リーナお嬢様にご迷惑をおかけしたんですから」
「そんなこと……」
「他は知りませんが、家はそうなんです」
強く言うと、デリックが、困ったように顔を歪めた。
「だが、それでは」
そうですよね、貴方の気持ちが収まりませんよね。
私は、わざと聞こえるようにため息をついて、デリックをまっすぐに見る。
「……お気持ちがおさまらないようでしたら、いくつかお願いしてもよろしいでしょうか?」
軽く首を傾げて、伺うような仕草をすると、デリックはすぐに頷いた。
「あぁ、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。お願いはリーナお嬢様のことなんです」
「リーナ嬢の?」
「はい、リーナお嬢様が学園で嫌がらせを受けていると聞いています」
「俺も聞いた。……君がやっている、と言う話もある」
「私もそう言われた事がありますけど、私は何もしていませんし、出来ません」
憮然として言い返す。
「すまない。そう言う意味じゃないんだ」
じゃあどう言う意味だよ、と言いたいが、ここも我慢だ。
「……とにかく、誰でもいいので、学園でリーナお嬢様がいじめられないよう、いつも側に誰かがいるようにして頂きたいのです。出来ますよね?」
「それは、たぶん出来ると思うが、君はそれでいいのか?」
それでいいも何も、貴方達がリーナと一緒にいてくれれば、リーナは私のところに来ないから、それが一番ありがたい。
「リーナお嬢様が健やかでいらっしゃればそれで良いのです」
「君たちは仲が悪いと聞いているが、そうでもないのか? その、私が君を殴った時、リーナ嬢は泣いていたろう? あれは何故なんだ?」
「それは、私にも分かりません」
「分からないって……」
「今日は、リーナお嬢様が私の教室にいらっしゃって、急にこれからお茶をしようと言われたのです。私は授業があるから今は無理です、と……」
嘘は言っていない、と言うか、それが真実だ。
リーナは攻略対象者たちに、キーラと同じ対応をしている筈だ。
そうでもしないと、対象者を個別に攻略するなんて、無理だもの。
デリックも授業中にリーナとイベントして、攻略されたんだよね。
「そしたら、急に泣かれてしまって……」
「……」
デリックは、何かを思い出したように口を押さえた。
デリックの問いに、
きたっ!!! と思わずまっすぐ彼を見てしまった。
目が笑いそうになるのを堪えて、慌ててうつむく。
「ええ、そうです。リーナお嬢様がいらしてからは、ここに住まわせていただいています」
「お嬢様って、貴方もこの家の娘だろう?」
デリックが信じられないと言う声を出す。
「父と母は政略結婚で……私は前妻の子供ですから」
「でも」
「父……旦那様は私を嫌いなのです。学園へ通わせていただき、ここに住まわせていただけるだけありがたいことです」
「噂では君が、リーナ嬢を虐げていると……」
「そう言われているのは知っています。でもよくある話です」
そう、よくある話だ。
貴族社会は、政略結婚と恋愛は別物。何人も愛人を囲ったり、外に子供がいるなんて普通のこと。そしてその家で一番強い者が選んだ者だけが家族になる。
我が家では今、父が強く、その愛を受けるのは義母と義妹と言うだけだ。
「世の皆さんのお家では、正妻の子供の方が大事にされている、それだけのことです」
デリックが何か言いかけて、止めた。
何も言えないよね~
好きな女を守るなんて言って、噂を鵜呑みにしたあげく、理由も聞かないで、フルスイングで女の子殴ったんだもんね~
それも、義妹に虐げられている、かわいそうな姉を。
「……本当に、すまなかった」
「私はアディソン様に謝っていただくようなことはされていません」
「何を言って……」
デリックが目を見張る。
「今日はリーナお嬢様が心配でこちらにいらしたと言うことですよね」
「どうして」
「困るんです。アディソン様のような方が私の所に来られたと、リーナお嬢様や、この家の者に知られるのは」
「君が殴られたことよりもか?」
「そうです。私が……怒られるんです。私が殴られるのは当たり前なんです。リーナお嬢様にご迷惑をおかけしたんですから」
「そんなこと……」
「他は知りませんが、家はそうなんです」
強く言うと、デリックが、困ったように顔を歪めた。
「だが、それでは」
そうですよね、貴方の気持ちが収まりませんよね。
私は、わざと聞こえるようにため息をついて、デリックをまっすぐに見る。
「……お気持ちがおさまらないようでしたら、いくつかお願いしてもよろしいでしょうか?」
軽く首を傾げて、伺うような仕草をすると、デリックはすぐに頷いた。
「あぁ、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。お願いはリーナお嬢様のことなんです」
「リーナ嬢の?」
「はい、リーナお嬢様が学園で嫌がらせを受けていると聞いています」
「俺も聞いた。……君がやっている、と言う話もある」
「私もそう言われた事がありますけど、私は何もしていませんし、出来ません」
憮然として言い返す。
「すまない。そう言う意味じゃないんだ」
じゃあどう言う意味だよ、と言いたいが、ここも我慢だ。
「……とにかく、誰でもいいので、学園でリーナお嬢様がいじめられないよう、いつも側に誰かがいるようにして頂きたいのです。出来ますよね?」
「それは、たぶん出来ると思うが、君はそれでいいのか?」
それでいいも何も、貴方達がリーナと一緒にいてくれれば、リーナは私のところに来ないから、それが一番ありがたい。
「リーナお嬢様が健やかでいらっしゃればそれで良いのです」
「君たちは仲が悪いと聞いているが、そうでもないのか? その、私が君を殴った時、リーナ嬢は泣いていたろう? あれは何故なんだ?」
「それは、私にも分かりません」
「分からないって……」
「今日は、リーナお嬢様が私の教室にいらっしゃって、急にこれからお茶をしようと言われたのです。私は授業があるから今は無理です、と……」
嘘は言っていない、と言うか、それが真実だ。
リーナは攻略対象者たちに、キーラと同じ対応をしている筈だ。
そうでもしないと、対象者を個別に攻略するなんて、無理だもの。
デリックも授業中にリーナとイベントして、攻略されたんだよね。
「そしたら、急に泣かれてしまって……」
「……」
デリックは、何かを思い出したように口を押さえた。
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