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「何をやっている?」
「あ」
私は座り込んだまま、魔王を見上げる。
「……ごめんなさい。ちょっと動けるのが嬉しくて」
一応謝っておこう。
カークは大きなため息を吐いて、私を結構乱暴に抱き上げベッドに戻してくれた。
「頼むから、大人しくしていてくれ。無駄な体力を使うな。また動けなくなる」
そうなんだ。いや、そうだよね。
動けないだけで、なまじ心も体も元気なもんだから、つい動けるようになったのが嬉しくて動いちゃったけ ど、病み上がり――じゃない、まだ病気療養中(?)には違いない。
カークは掛け布団を直してから、ベッドの縁に腰掛けた。
ん? なんとなく顔色が悪いような。
「あの、なんか顔色悪いけど、もしかしなくても、私のせい?」
布団の中からおずおずとそう言うと、カークは少し驚くような表情になる。
「……何でそう思う?」
「え、だって、魔力を取られて死にそうになるんだから、その魔力を分けているならカークだって消耗しているのかもって」
「分かっているんだったら、もう無理はしないでくれ」
笑って、ぽんぽんって頭を叩かれる。それから、今度は眉を寄せた。
「……侯爵から、キーラを“返す”よう要請が来ている」
「え? 何で」
素でそう言ってしまう。
あの家で、キーラのことを気にするのはアーサーとマリーくらいだ。
それだって表立って何か言うことはないはず。
「……私なんて気にくわない時以外、いてもいなくても気にしない人なのに」
「一応、こちらの不手際で、キーラの体調が悪くなったからと、王家預かりにすることは連絡した」
「それで、どうして? 」
「王家にいつまでも面倒をかけるのは申し訳ないとかなんとか、書かれていたな」
何と言っていいか分からずに カークを見つめてしまう。
「その顔は、本当は帰りたくないのか? あの時帰りたいと言ったろう?」
あ、覚えていてくれたんだ。
「あの時は、貴方達も信頼できなかったし。一応、あんな家でも私を心配してくれる人が何人かはいるので」
私的にはアーサーとマリーに連絡したかっただけなんだけど。
「信頼、か。そうだな。……初対面、だったからな」
自嘲気味にカークが笑った。
なんかムカつく。
「初対面、だけじゃない。貴方達こそ私を、キーラを信じていないでしょう?」
「それは……」
「それに、貴方達はリーナを守っていた。 あげくにこんな目にあわせた」
それなのに、どう信じてもらおうとしているんだろう。信じられないに決まっているじゃないか。
デリックがいい見本だ。
あの日、問答無用でキーラを殴ったし、フランクだってそうだ。
リーナが泣いていると言うだけの理由で、キーラをこんなにもひどい目にあわせている。
「キーラ……」
泣きそうになってしまった。
キーラがあまりにかわいそうで仕方がない。
さっきの練習を活かして、寝返りでカークに背を向ける。
キーラの記憶が、それまでの気持ちや感情を伝えてくる。
それは自分の記憶でもあるのに、まるで他人事のようなのだ。
デリックに殴られてからは、キーラではなく私が受けたことだけど、やっぱり自分のことじゃないみたいなんだ。
もし自分がこんな目に遭ったら、きっと悔しくて眠れないはずだ。
だからこの涙は、私の涙じゃない。キーラの涙なのだ。
「私たちがしたことを考えれば、家に帰りたくなるのが当たり前か……君が家に帰りたいと言うなら、なるべく早く帰れるよう取り計らおう」
カークがぼそぼそと言った。
帰れと言われると、それも違う気がする。帰っても、こんな生活は待っていない。
「帰りたいわけじゃない」
まさか、キーラになって二日目で、こんなにも直接的な被害をこうむると思わなかったとはいえ、あの家に本当に帰りたいかと言えば、正直帰りたくない。
こうなってしまっては生かすも殺すもこの人たち次第だろう。
リーナのために殺すつもりなら、あのまま殺した方がよかっただろうし。
いろいろ問題はあるけど、今の状態が続くならあの家よりはずっといい。
それに何より、今更、だ。
「……帰りたいわけじゃない」
大切なことなので二度言いました。
「そう、か」
ほっとしたような、そんな雰囲気で、カークが言った。
「……君の家のことは、前から調べていた。だから帰りたいと聞いて、調査結果を疑った。帰りたいと言うとは思わなかったから。」
「調べていたって、いつから」
カークの聞き捨てならない言葉を、聞き返す。
「調査を入れたのは、カーラが亡くなってからだ。その前はカーラから聞いていたから」
「……何故? 家は没落寸前ですよ? 悪いことだって、してませんよ。今は分からないけど」
「それは分かっている」
「じゃあ何故」
「君のためだ」
キーラのため? 何言っちゃってんの、この人!?
「あ」
私は座り込んだまま、魔王を見上げる。
「……ごめんなさい。ちょっと動けるのが嬉しくて」
一応謝っておこう。
カークは大きなため息を吐いて、私を結構乱暴に抱き上げベッドに戻してくれた。
「頼むから、大人しくしていてくれ。無駄な体力を使うな。また動けなくなる」
そうなんだ。いや、そうだよね。
動けないだけで、なまじ心も体も元気なもんだから、つい動けるようになったのが嬉しくて動いちゃったけ ど、病み上がり――じゃない、まだ病気療養中(?)には違いない。
カークは掛け布団を直してから、ベッドの縁に腰掛けた。
ん? なんとなく顔色が悪いような。
「あの、なんか顔色悪いけど、もしかしなくても、私のせい?」
布団の中からおずおずとそう言うと、カークは少し驚くような表情になる。
「……何でそう思う?」
「え、だって、魔力を取られて死にそうになるんだから、その魔力を分けているならカークだって消耗しているのかもって」
「分かっているんだったら、もう無理はしないでくれ」
笑って、ぽんぽんって頭を叩かれる。それから、今度は眉を寄せた。
「……侯爵から、キーラを“返す”よう要請が来ている」
「え? 何で」
素でそう言ってしまう。
あの家で、キーラのことを気にするのはアーサーとマリーくらいだ。
それだって表立って何か言うことはないはず。
「……私なんて気にくわない時以外、いてもいなくても気にしない人なのに」
「一応、こちらの不手際で、キーラの体調が悪くなったからと、王家預かりにすることは連絡した」
「それで、どうして? 」
「王家にいつまでも面倒をかけるのは申し訳ないとかなんとか、書かれていたな」
何と言っていいか分からずに カークを見つめてしまう。
「その顔は、本当は帰りたくないのか? あの時帰りたいと言ったろう?」
あ、覚えていてくれたんだ。
「あの時は、貴方達も信頼できなかったし。一応、あんな家でも私を心配してくれる人が何人かはいるので」
私的にはアーサーとマリーに連絡したかっただけなんだけど。
「信頼、か。そうだな。……初対面、だったからな」
自嘲気味にカークが笑った。
なんかムカつく。
「初対面、だけじゃない。貴方達こそ私を、キーラを信じていないでしょう?」
「それは……」
「それに、貴方達はリーナを守っていた。 あげくにこんな目にあわせた」
それなのに、どう信じてもらおうとしているんだろう。信じられないに決まっているじゃないか。
デリックがいい見本だ。
あの日、問答無用でキーラを殴ったし、フランクだってそうだ。
リーナが泣いていると言うだけの理由で、キーラをこんなにもひどい目にあわせている。
「キーラ……」
泣きそうになってしまった。
キーラがあまりにかわいそうで仕方がない。
さっきの練習を活かして、寝返りでカークに背を向ける。
キーラの記憶が、それまでの気持ちや感情を伝えてくる。
それは自分の記憶でもあるのに、まるで他人事のようなのだ。
デリックに殴られてからは、キーラではなく私が受けたことだけど、やっぱり自分のことじゃないみたいなんだ。
もし自分がこんな目に遭ったら、きっと悔しくて眠れないはずだ。
だからこの涙は、私の涙じゃない。キーラの涙なのだ。
「私たちがしたことを考えれば、家に帰りたくなるのが当たり前か……君が家に帰りたいと言うなら、なるべく早く帰れるよう取り計らおう」
カークがぼそぼそと言った。
帰れと言われると、それも違う気がする。帰っても、こんな生活は待っていない。
「帰りたいわけじゃない」
まさか、キーラになって二日目で、こんなにも直接的な被害をこうむると思わなかったとはいえ、あの家に本当に帰りたいかと言えば、正直帰りたくない。
こうなってしまっては生かすも殺すもこの人たち次第だろう。
リーナのために殺すつもりなら、あのまま殺した方がよかっただろうし。
いろいろ問題はあるけど、今の状態が続くならあの家よりはずっといい。
それに何より、今更、だ。
「……帰りたいわけじゃない」
大切なことなので二度言いました。
「そう、か」
ほっとしたような、そんな雰囲気で、カークが言った。
「……君の家のことは、前から調べていた。だから帰りたいと聞いて、調査結果を疑った。帰りたいと言うとは思わなかったから。」
「調べていたって、いつから」
カークの聞き捨てならない言葉を、聞き返す。
「調査を入れたのは、カーラが亡くなってからだ。その前はカーラから聞いていたから」
「……何故? 家は没落寸前ですよ? 悪いことだって、してませんよ。今は分からないけど」
「それは分かっている」
「じゃあ何故」
「君のためだ」
キーラのため? 何言っちゃってんの、この人!?
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