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椅子があったので、とりあえず座った。
ルキッシュ側はアーサーが一人。こっち側には私とケビンとバルトルさん。
「知り合いか?」
「オンリンナ家の家令……」
「は?」
こそこそと話しながら、真向かいに座るアーサーを見る。
民族衣装を着て髪をおろしてしまうと、外にいるルキッシュの人たちと見かけはそんなに変わらない。
それでも、目の前にいるのは間違いなくオンリンナ家の家令・アーサーだった。
民族衣装はいつもの制服姿よりもコスプレ感が強く、それをアーサーが着ているというその破壊力は半端なかった。怒っていなければ、恥ずかしさで床を転げまわっているところだ。
「ケビンは会ったことなかったっけ?」
「ダリルさんから噂では聞いていたけど。本当に? 何で?」
「何でって……それは」
答えながらも、アーサーを見た瞬間になんとなく予想はしたんだ。
そんな筈はないと思いたいけれど。
「アーサー、どう言うことか説明して」
深く息を吐き出して私はそう尋ねる。
いつもと違う雰囲気のアーサーは、困ったような顔をした。
「貴女に、ルキッシュへ至急来て頂く必要がありました」
「どうしてこんな面倒な方法を? 私に用があるなら直接言ってくれればよかったのに」
「こちらにも事情があるのです」
「事情って何? こんなにたくさんの人に迷惑をかけて」
「今回のことは、貴女がフォルナトルから出るために必要な措置でした。これでもかなり考えたんですよ」
私の文句に心外だとでも言うように、アーサーが肩をすくめる。
「全然意味が分からない。分かるように説明して」
「……詳しいことは王都へ着いてからお話します」
と、私の横に座る二人に視線を走らせた。
「二人がいるから話せないってこと?」
「それもありますが、ここでは話せないこともあるのです。来て頂ければ分かります」
「行かないって言ったら?」
「行っていただきますよ。こちらの人質はチェルノ氏だけじゃありませんが大丈夫ですか?」
「!?」
その言い方に眉が寄る。
バルトルさんとケビンも身を固くした。
「それ、どう言う意味?」
「そのままの意味です。まぁ、そんなことしなくても、ここはルキッシュに近いですから無理矢理連れて行くことも可能ですが、できればご自身の意思でこちらに来てほしいのです」
「理由を話してくれれば行くって言ってる」
「ここでは話せないのです」
私はかなりイラついているのに、アーサーは淡々としている。
「それが本当のことか分からない」
「誓って、嘘は言いません」
「何に誓うつもりなの? あの家で言っていたこと全部ウソだったってことでしょ? 私が信じると思う?」
そう睨みつけると、目を反らす。
「……状況が変わったのです」
「何が変わったの? 私との関係? それとも、リーナとの関係? そんなに私をカークから引き離したかったの?」
「違います。 確かに彼女を利用しましたが、そんなことじゃありません。言えないのです。本当に」
「契約……とかがあるの?」
ふと誰かの言葉を思い出して、言ってみた。
アーサーが頷く。
「そう」
私は目を閉じて、両手で顔を覆った。
何だか何も考えられなかった。
頭が空っぽになったみたいで、それでも、答えは決まってた。
さっきよりも深く、深呼吸して、告げる。
「分かった。じゃあ、行く」
「キーラ?」
ケビンが声を上げた。その隣でバルトルさんも目を見張っている。
「大丈夫」
安心させるためにそう言って、アーサーに向かう。
ケビン達にもこれだけは知っておいてもらわないと。
「アーサー、これだけは答えて」
「何でしょう?」
「これって、私のお父さんに関係してるよね?」
私の質問にアーサーは答えなかった。
でも答えないって、答えだよね。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日の更新はお休みします。
次回更新は10月7日になります。
次回もよろしくお願いします。
ルキッシュ側はアーサーが一人。こっち側には私とケビンとバルトルさん。
「知り合いか?」
「オンリンナ家の家令……」
「は?」
こそこそと話しながら、真向かいに座るアーサーを見る。
民族衣装を着て髪をおろしてしまうと、外にいるルキッシュの人たちと見かけはそんなに変わらない。
それでも、目の前にいるのは間違いなくオンリンナ家の家令・アーサーだった。
民族衣装はいつもの制服姿よりもコスプレ感が強く、それをアーサーが着ているというその破壊力は半端なかった。怒っていなければ、恥ずかしさで床を転げまわっているところだ。
「ケビンは会ったことなかったっけ?」
「ダリルさんから噂では聞いていたけど。本当に? 何で?」
「何でって……それは」
答えながらも、アーサーを見た瞬間になんとなく予想はしたんだ。
そんな筈はないと思いたいけれど。
「アーサー、どう言うことか説明して」
深く息を吐き出して私はそう尋ねる。
いつもと違う雰囲気のアーサーは、困ったような顔をした。
「貴女に、ルキッシュへ至急来て頂く必要がありました」
「どうしてこんな面倒な方法を? 私に用があるなら直接言ってくれればよかったのに」
「こちらにも事情があるのです」
「事情って何? こんなにたくさんの人に迷惑をかけて」
「今回のことは、貴女がフォルナトルから出るために必要な措置でした。これでもかなり考えたんですよ」
私の文句に心外だとでも言うように、アーサーが肩をすくめる。
「全然意味が分からない。分かるように説明して」
「……詳しいことは王都へ着いてからお話します」
と、私の横に座る二人に視線を走らせた。
「二人がいるから話せないってこと?」
「それもありますが、ここでは話せないこともあるのです。来て頂ければ分かります」
「行かないって言ったら?」
「行っていただきますよ。こちらの人質はチェルノ氏だけじゃありませんが大丈夫ですか?」
「!?」
その言い方に眉が寄る。
バルトルさんとケビンも身を固くした。
「それ、どう言う意味?」
「そのままの意味です。まぁ、そんなことしなくても、ここはルキッシュに近いですから無理矢理連れて行くことも可能ですが、できればご自身の意思でこちらに来てほしいのです」
「理由を話してくれれば行くって言ってる」
「ここでは話せないのです」
私はかなりイラついているのに、アーサーは淡々としている。
「それが本当のことか分からない」
「誓って、嘘は言いません」
「何に誓うつもりなの? あの家で言っていたこと全部ウソだったってことでしょ? 私が信じると思う?」
そう睨みつけると、目を反らす。
「……状況が変わったのです」
「何が変わったの? 私との関係? それとも、リーナとの関係? そんなに私をカークから引き離したかったの?」
「違います。 確かに彼女を利用しましたが、そんなことじゃありません。言えないのです。本当に」
「契約……とかがあるの?」
ふと誰かの言葉を思い出して、言ってみた。
アーサーが頷く。
「そう」
私は目を閉じて、両手で顔を覆った。
何だか何も考えられなかった。
頭が空っぽになったみたいで、それでも、答えは決まってた。
さっきよりも深く、深呼吸して、告げる。
「分かった。じゃあ、行く」
「キーラ?」
ケビンが声を上げた。その隣でバルトルさんも目を見張っている。
「大丈夫」
安心させるためにそう言って、アーサーに向かう。
ケビン達にもこれだけは知っておいてもらわないと。
「アーサー、これだけは答えて」
「何でしょう?」
「これって、私のお父さんに関係してるよね?」
私の質問にアーサーは答えなかった。
でも答えないって、答えだよね。
――――作者より一言―――――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
明日の更新はお休みします。
次回更新は10月7日になります。
次回もよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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