このやってられない世界で

みなせ

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 エマさんに持ってきてもらった薄いオレンジ色の紙を前に、しばし固まる。

 手紙なんて書きなれてないから、なんて書けばいいか分からない。
 メールっぽくていいのかな?
 長く書くのも面倒だから、用件だけでいいか。
 えーっと。


『ケビンへ

ピーちゃんが必要になったので連れて行きます。
突然いなくなりますが、心配しないでください。


               キーラ  』

 うん、これでいい。
 持ち上げて読み返す。

「流石にちょっと短すぎるか……私の事も書いた方がいいかな」



『追伸……私は元気です。
必ず帰るので、待っていてください』



 名前の下につけたして、もう一度読み返す。

「うん、もういい、これで……」

 折りたたんで、フェイを振り返る。

「手紙書いたけど、すぐ行く?」
「うん、すぐ行けるよ」

 山盛りのお菓子の間から顔を出したフェイは子供の姿だ。
 外を見るともう暗くなりかけている。

「もう外、暗いよ」
「大丈夫。急ぐんだよね?」
「急ぐけど、無理しなくてもいいよ」
「暗いのは大丈夫。でも、ルテルまで行って帰るのに二日はかかるから」
「二日も?」
「うん。だって飛んで行くでしょ?」
「飛んでって……魔法で?」
「ううん。僕移動の魔法は使えないんだ」

 えーっと、じゃあ、飛んで行くって言うのは文字通り空を飛んで行くってこと、だよね。

「ルテルってそんなに遠いの?」
「うーん、僕ちょっと分からないや。でも前行った時はそのくらいかかったよ」
「そうなんだ」

 初めて見たフェイは森の中をふよふよとゆっくりと近付いてきていた。
 ……もしかしてフェイはあれが最高速度なの?
 ヒュッって行って、ヒュッて帰ってくると思ってたけど。


―――――まぁ、でも、デルフィー経由よりは、早い?


「あとは、あ、ピアスだね……魔法でつけてもらったから、取り方が分からないの」
「大丈夫、僕がとるよ」

 お菓子片手に私の側に来る。そして軽く耳に触れた。

「はい、取れたよ」

 アイスブルーの石のピアスが渡される。封代わりに手紙に突き刺して、ピアスが取れないことを確認する。

「じゃあ、これ、お願いします」
「分かった。ピーちゃんの側にいるのはケビンだっけ?」
「うん……まだ、ルテルにいてくれるといいんだけど、王都が攻撃を受けたからもしかしたら帰ったかも知れない……もしいなかったらすぐ帰ってきてね」
「分かった。お菓子食べたら行くね」



 お菓子、食べるんだ……。









 エマさんの一人分を、この間より少ないと文句を言いながらもすべてたいらげ、フェイは白い犬に戻って空に消えて行った。
 空に昇るのは意外と速く見えるんだけどなぁ。

「お嬢様」

 フェイが消えた空を見上げていると、アーサーがやってきた。
 今は呼んでないんだけど。

「もう何か分かったの?」
「いえ、まだ何も……」
「どうしたの?」
「お菓子と紙を望まれたと聞いたので」

 と、すっかりお菓子が食べつくされたテーブルを見る。

「もしかして守護者がいらっしゃったのかと」
「来てたけど、もう帰ったよ」
「何をしに、と伺っても?」
「間違って呼んだら来ちゃった。近くにいたんだって」

 アーサーが眉を寄せた。

「何? 何か言いたいことあるの?」
「お嬢様は……」

 言いかけてやめる。そして首を振る。
 なんだろう。こういう態度ってイライラする。

「いいえ、何でもありません」
「そう」

 話は終わったと思うのに、アーサーは動かない。

「ねぇ、アーサー、どうしてフォルナトルのことすぐ教えてくれなかったの?」

 空気を読んだわけじゃないよ。ふと思い出したのだ。

「それは、心配されると思いましたので」
「そりゃあ心配するでしょ。一応フォルナトルの国民だし」
「王太子がいるから、ですか?」
「マリーもいる」

 意地悪な言い方にアーサーを睨みつける。

「もっと動揺すると思っていました」
「動揺はしたよ」

 目の前が真っ暗になるくらい。
 でも、どこかで分かったんだ。大丈夫だって。
 それにキーラは、

「そんなに弱くないよ」
「そうでしたね」

 アーサーは肩をすくめて、少し笑った。

「アーサー。私毎日お父さんに会いに行きたいんだけど、いいかな?」
「それは構いません。エマに行っていただければ、いつでもお連れします。他に何かありますか?」
「フォルナトルのことが分かったらすぐ教えて」
「……分かりました」

 本当かな。ちゃんと教えてくれるかな?
 あとでフェリさんたちにもお願いしておこう。
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