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第三話 ゴールデンバディと金継ぎ縁
2.
しおりを挟む「俺が言うことじゃないけど、ほんと気を付けろよな、お前。妖怪は妖怪、やっぱり人間とはいろいろ考え方の基準も違うんだから。……まあ、けど。あるじはたぶん、こいつのこういう、呑気で大雑把なところを気に入ってんだろうなあ」
「え、なに?」
「なんでもない、独り言!」
途中からうまく聞こえなくてかがんでみたけど、コン吉パイセンはすたすたと歩いて行ってしまう。油揚げみたいな美味しそうな色のもふもふの尻尾がふりふりと揺れて、思わず頬が緩んでしまいそうになる。
「んで、俺の話だけど。俺は狐月家に仕える野狐の一族、寺川一族のきつねだ」
「野狐??」
「野狐って言っても、侮るんじゃねえぞ。俺たち寺川一族はな、狐月家の血筋を代々お仕え見守るために、玉姫様がおんみずから生み出した一族なんだからな」
頭の上にキュウ助を乗せたまま、コン吉先輩はえへんと胸を張る。誇らしいことであるのは伝わったけれども、最近詳しくなってきたとはいえ、まだまだ妖怪知識に乏しい私にはいまいちわからない。
「えっと……質問! その『玉姫さま』ってどなた? 妖狐の世界の偉いひと??」
「おま! 玉姫さまも知らないで縁結びカフェで働いてたのか!?」
「いやだって! 何回も言うけど、私普通の人間! 狐月さんに連れてこられるまで、キュウ助のことも見えなかったんだから!」
「きゅう!」
頭の上で喜ぶキュウ助をよそに、コン吉先輩はびしりと肉球を突き出した。
「いいか。玉姫さまというのは、京よりこの地に移り住んできた狐月家の当主、忠行様と夫婦となられた妖狐だ!」
コン吉先輩によると、玉姫さまと忠行様は、とても仲睦まじい夫婦だったそうだ。だから玉姫さまは、忠行様が人間としての生を終えるとき、自分も御霊になってあの世についていくことを決めた。
その時、自分がいなくなったあとも狐月家を守るため、自分の身体を分けて生み出した眷属が、コン吉先輩たち寺川一族だという。
「以来、我ら寺川一族は、代々狐月家の陰陽師の式神となりて、陰陽道の継承をお支えする傍ら、あやかし共の面倒を見てきたのだ」
「へえ……」
以外にしっかりとしたエピソードが聞けて、私はふむふむと感心した。狐月さんの周囲をちょこまかと走り回る世話焼きさんぐらいにしか思っていなかったけれども、コン吉先輩と狐月さんの間にそんな切っても切れないご縁があったなんて。
そこまで考えたところで、私は「ん?」と首を傾げた。
「待ってください。いま、狐月家の『陰陽師』の式神って言ってましたけど、狐月さんは趣味でおじさんのやっていた喫茶店を継いだんですよね。たしか、陰陽道の継承は従兄弟に任せてるって……。それなのに、コン吉先輩はどうして狐月さんのところにいるんですか?」
私は純粋な疑問で尋ねただけなのだが、コン吉先輩は言葉に詰まって嫌な顔をした。
「お前、へんなところで鋭いよな」
「だって変ですもん。そばで見ていても、狐月さんが裏で陰陽師をやってる気配もないですし」
つまりコン吉先輩は、本当は別の誰かの式神ということになる。けれども、どうしてその『誰か』のところではなく、狐月さんのカフェにいるのだろう。
(そういえばパイセン、前に狐月さんが従兄弟さんの話をしたとき、なぜか不機嫌そうに黙っちゃったような……?)
これは、尋ねてもいいのだろうか。そう私が踏み込もうとしたとき、ふいに後ろから慌てまくった声が聞こえた。
「大変、たいへん! 大変であります~~~!!!!」
「トオノさん? そんなに慌ててどうしたの?」
私たちはいつのまにか、大学の正門前にいたらしい。その正門から、縁結びカフェの常連・カッパのトオノさんが飛び出してきた。
「縁結びカフェのスズ殿に、コン吉殿ではありませぬか! これはこれは、地獄に仏とはこのこと。お助けください、お助けくださいであります~!」
「あほんだら! 何があったかわからないと、助けてやりようもないだろ。まずは話してみろよ」
これまた常識的なコン吉先輩の発言である。するとトオノさんは、縋るように私たちを見た。
「このままだと大学が……大学が消し飛んでしまうであります~!」
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