会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第一幕 一ヵ月だけのクラスメイト◆

ごちゃ混ぜの感情①

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 翌日から昼休みに校庭で応援団の練習が始まると、清虎の名はあっという間に学校中に知れ渡った。
 清虎にはとにかく華がある。パッと目を引く容姿に舞台で鍛えた発声。指先までピンと伸びた応援の振りは、通りすがりの生徒たちの足を止めるには充分過ぎる威力があった。

 そうしてギャラリーが増えてくると、遠藤はこれ見よがしに清虎に話しかけ、仲の良さを周囲にアピールする。「今年の団長と副団長もお似合いだね」と声を掛けられれば、遠藤は大袈裟に照れて見せ、「お似合いって言われちゃったね」と、困ったように首を傾げて清虎を見上げた。
 そんな時、清虎はいつも否定も肯定もせず、ただにっこり微笑んでやり過ごす。それから哲治の肩を叩いて「お前が俺を団長に推した理由がよお解ったわ。今度は俺が生贄か」と愚痴をこぼした。

「清虎って、去年の応援合戦の映像を一回観ただけで、振りも口上も覚えちゃったの? 凄いね」

 汗を拭いながら、陸が清虎の隣に並ぶ。練習が終わって教室へ向かう途中、すれ違う生徒たちはチラチラと清虎を目で追っていた。それに気づいた陸は「どうだ、清虎は凄いだろ」と誇らしい気持ちになる。

「大衆演劇は台本なんて無くてな、稽古中に座長が台詞や流れを口で説明するだけなんや。だから聞いて覚えるんは慣れとんねん」
「そっか。俺の知らない世界だ」
「ホンマに今度舞台見に来てや。入り口で名前言うたらチケット要らんようにしておくし。なんなら哲治も一緒に」

 清虎はすぐ後ろを歩く哲治を振り返りながら、ニヤッと笑った。哲治は仏頂面のまま、「ああ」とだけ答える。

「俺たちが見ても清虎は緊張しないの?」
「そんなん、するかいな。赤ん坊の頃から舞台に乗っとんのやで」

 陸の問いに呆れ顔でため息を吐いた清虎が、教室のドアを開ける。席に着くなりそのまま帰り支度を始めたので、陸は驚いて清虎の元へ駆け寄った。

「何してんの」
「ん? 俺、今日は昼公演で出番があんねん。せやから早退。先生にはもう言うてあるで」
「公演の為に早退しちゃうの……?」

 学業よりも舞台が優先されることに戸惑った陸は、そこまで何もかも犠牲にしなければいけないのだろうかと唇を噛む。
 清虎は陸の心情を察したように、僅かに微笑んだ。

「陸、俺のこと可哀相とか思わんとってな。陸がこの先、高校や大学行って探すもんを俺はもう見つけとるだけや。俺の本分は学生やない、役者。俺はそれを誇らしく思うとるんよ」

 穏やかな笑みを浮かべながら陸の頭に手を乗せる清虎が、酷く大人びて見えた。反面、自分はまだまだ幼いと言われているような気がして視線を落とす。

「陸は何考えとるのか丸わかりで可愛いなぁ。そんな、置いてけぼりされる子どもみたいな顔せんとって」

 清虎が両手で陸の頬を挟んで力を入れるので、唇がタコのように突き出た。その顔が可笑しかったのか、清虎がケラケラ笑う。陸はムッとした表情を作って、自分の頬を押さえる清虎の手首を掴んで外した。

「俺の顔で遊ぶなよ」
「せやけど、可愛いねんもん」

 掴まれた手首を押し戻しながら、清虎が再び陸に手を伸ばす。もう少しで頬に届きそうだった清虎の指先を、今度は哲治が掴んだ。

「清虎、あと十分でバスが来る。乗り遅れんぞ」

 スッと笑顔を消した清虎が、首をゆっくり回して哲治を見た。

「そら親切にどうも。せやな、もう行かんと」

 教科書の詰まった鞄を背負い「また明日な!」と告げ、陸が声を掛ける間もなく教室を飛び出した。陸は慌てて廊下に顔を出し「舞台頑張ってね」と叫ぶ。清虎は走りながら、嬉しそうに手を振った。

「陸……」

 陸を廊下から引き戻した哲治は何か言いたげだったが、結局ため息を一つ吐いただけだった。

「何? どうしたの」
「いや、なんでもない。もうチャイム鳴るぞ」
 
 すぐにいつもの顔に戻った哲治は、さっさと席に着き教科書を机から取り出す。首を傾げながらも陸は、「ま、いっか」と気を取り直して着席した。
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