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◆第一幕 一ヵ月だけのクラスメイト◆
金木犀③
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「何? そんな顔して、また何か考えてたでしょ」
陸の視線に気づいた哲治が口元を緩めた。穏やかに流れる空気が心地よくて、陸は嬉しそうにふにゃっと笑う。
「うん。清虎は猫に似ていて、哲治は警察犬みたいだなって考えてた」
「あはは。ホンマやな、哲治はシェパードみたいや。陸は、そうやなぁ。ハムスターってとこかな」
「ああ、確かに」
清虎の言葉に哲治が吹き出す。陸は頬を膨らませながら、不満そうに二人を見た。
「ハムスター? もっと虎とか豹とか強そうなのがいい」
「ほら、今まさにハムスターみたいやで。頬っぺた膨らまして可愛いやん」
清虎がテーブルに身を乗り出して、陸の顔を楽しそうにのぞき込む。急に人形のように端正な顔が近づいて、陸は思わず息を止めた。照れくさくて顔を逸らしたいのに、清虎の大きな黒目に思わず魅入ってしまう。
「もう九時半過ぎたな。二人とも、時間大丈夫?」
哲治の静かな声で我に返り、陸は金縛りが解けたように清虎から目線を外した。止めていた息をぷはっと吐き出す。
「ああ、俺もう帰らな。まだ稽古残ってんねん。めっちゃ楽しかったのに、残念や」
「転校する前に、また来ようよ」
「……せやな」
清虎が静かにほほ笑んだ。
清虎は陸の言葉に同意はしたが、恐らくその機会はもうないのだろう。そう悟った陸は、立ち上がった清虎を追うように椅子から腰を上げた。
「清虎、途中まで一緒に帰ろ。俺もあんまり遅くなるとマズイから」
少しでも長く一緒にいたい。そんな思いを抱きながら会計を済ませ、哲治を振り返る。
「じゃあ、また月曜日に学校でね」
「何言ってんだ、明日塾でテストがあるだろ。忘れんなよ」
「あ、そうだった」
舞い上がってしまい、すっかり忘れていた。哲治の大きな手に頭をぐりぐり撫でまわされながら店の外に出る。停めていた自転車を取り出し、改めて哲治に「じゃあ」と告げた。
「気を付けて帰れよ」
哲治が陸と清虎の顔を順番に見る。心なしか、清虎を見ている時間の方が長い気がした。清虎もそれに気づいたようで、片眉を上げて不審そうな表情をする。
「なんや珍しいな。今日はここで見送りなん? いつもなら絶対、一緒に行くって言うやろ」
「だって、こうして一緒に飯食うのも最後だろ? 陸が思い残すことのないように、さ」
哲治の含みを持たせた言い方に、清虎は「はー、なるほど」と頭を掻いた。
「哲治はホンマに策士やなぁ。いつの間にか俺も生贄にされとったし。まあ、ええけど。どんな形でも輪っかの中に入れてもろて、楽しかったしな」
「また生贄? 何のことなの」
話について行けず、陸は面白くなさそうな顔をする。
「んー? そうやな、陸の防波堤になるってハナシ。深い意味はないねん、気にせんといて。ほな、帰ろ」
清虎に促され、陸は渋々と自転車を押して歩き出す。二、三歩進んだところで清虎が急に立ち止まった。
「哲治、ありがとうな」
夜の暗い道に、清虎のよく通る声が響いた。突然礼を言われた哲治は一瞬目を見開いたが、すぐに余裕あり気に「ああ」と答える。
清虎はそれで満足したらしく、もう気が済んだとばかりに来た時と同じように陸を置き去りにして駆け出した。
まだ一緒にいたいと思ったのに、走って帰られてはすぐ家に着いてしまう。そんな焦る気持ちが表れてしまったのか、追いかけながら「待ってよ!」と叫んだ陸の声は、まるで怒っているかのようだった。
陸の視線に気づいた哲治が口元を緩めた。穏やかに流れる空気が心地よくて、陸は嬉しそうにふにゃっと笑う。
「うん。清虎は猫に似ていて、哲治は警察犬みたいだなって考えてた」
「あはは。ホンマやな、哲治はシェパードみたいや。陸は、そうやなぁ。ハムスターってとこかな」
「ああ、確かに」
清虎の言葉に哲治が吹き出す。陸は頬を膨らませながら、不満そうに二人を見た。
「ハムスター? もっと虎とか豹とか強そうなのがいい」
「ほら、今まさにハムスターみたいやで。頬っぺた膨らまして可愛いやん」
清虎がテーブルに身を乗り出して、陸の顔を楽しそうにのぞき込む。急に人形のように端正な顔が近づいて、陸は思わず息を止めた。照れくさくて顔を逸らしたいのに、清虎の大きな黒目に思わず魅入ってしまう。
「もう九時半過ぎたな。二人とも、時間大丈夫?」
哲治の静かな声で我に返り、陸は金縛りが解けたように清虎から目線を外した。止めていた息をぷはっと吐き出す。
「ああ、俺もう帰らな。まだ稽古残ってんねん。めっちゃ楽しかったのに、残念や」
「転校する前に、また来ようよ」
「……せやな」
清虎が静かにほほ笑んだ。
清虎は陸の言葉に同意はしたが、恐らくその機会はもうないのだろう。そう悟った陸は、立ち上がった清虎を追うように椅子から腰を上げた。
「清虎、途中まで一緒に帰ろ。俺もあんまり遅くなるとマズイから」
少しでも長く一緒にいたい。そんな思いを抱きながら会計を済ませ、哲治を振り返る。
「じゃあ、また月曜日に学校でね」
「何言ってんだ、明日塾でテストがあるだろ。忘れんなよ」
「あ、そうだった」
舞い上がってしまい、すっかり忘れていた。哲治の大きな手に頭をぐりぐり撫でまわされながら店の外に出る。停めていた自転車を取り出し、改めて哲治に「じゃあ」と告げた。
「気を付けて帰れよ」
哲治が陸と清虎の顔を順番に見る。心なしか、清虎を見ている時間の方が長い気がした。清虎もそれに気づいたようで、片眉を上げて不審そうな表情をする。
「なんや珍しいな。今日はここで見送りなん? いつもなら絶対、一緒に行くって言うやろ」
「だって、こうして一緒に飯食うのも最後だろ? 陸が思い残すことのないように、さ」
哲治の含みを持たせた言い方に、清虎は「はー、なるほど」と頭を掻いた。
「哲治はホンマに策士やなぁ。いつの間にか俺も生贄にされとったし。まあ、ええけど。どんな形でも輪っかの中に入れてもろて、楽しかったしな」
「また生贄? 何のことなの」
話について行けず、陸は面白くなさそうな顔をする。
「んー? そうやな、陸の防波堤になるってハナシ。深い意味はないねん、気にせんといて。ほな、帰ろ」
清虎に促され、陸は渋々と自転車を押して歩き出す。二、三歩進んだところで清虎が急に立ち止まった。
「哲治、ありがとうな」
夜の暗い道に、清虎のよく通る声が響いた。突然礼を言われた哲治は一瞬目を見開いたが、すぐに余裕あり気に「ああ」と答える。
清虎はそれで満足したらしく、もう気が済んだとばかりに来た時と同じように陸を置き去りにして駆け出した。
まだ一緒にいたいと思ったのに、走って帰られてはすぐ家に着いてしまう。そんな焦る気持ちが表れてしまったのか、追いかけながら「待ってよ!」と叫んだ陸の声は、まるで怒っているかのようだった。
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