会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第二幕 月に叢雲、花に風◆

痛みを感じないで済む場所②

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「違う。そんなんじゃない」

 哲治の言う「演じる」とは訳が違う。
 自分に言い聞かせるように「違う」と何度も声に出した。清虎を信じたいのに、哲治の言葉が心の奥の方にまで根を張る。そうして少しずつ浸食され、いつも気付くと思考を奪われているのだ。

「陸、顔色が悪いよ。何か思い当たることがあるんじゃないの」
「ないよ。これ以上、つまんないこと言うな」

 その根を引きちぎるように哲治から離れた。足早に応援席へ向かい、クラスメイトの輪の中に混ざる。一年生のリレーはいつの間にかアンカーまでバトンが渡っていた。赤組と白組が競っていて、陸はモヤモヤした気持ちを発散させるように大きな声で声援を送る。

「あ、清虎だ」

 クラスメイトの声を聞き、陸はグラウンドに清虎の姿を探した。道着を脱いで体操服に戻った清虎が、遠藤と並んで歩いている。随分と会話が弾んでいるのか、二人の距離は近かった。

「あいつら仲良いよな。付き合ってるんだろ?」
「えっ、なにそれ」

 驚いた陸が聞き返す。陸が好奇心から興味を持ったと勘違いしたクラスメイトは、「噂だけどさ」と前置きした後、興奮気味に続けた。

「遠藤が猛アタックしてたのはみんな知ってるだろ? で、清虎がほだされたらしいよ。毎年応援団の中でカップル誕生するし、今年もかぁって感じだよな」

 何も言えない陸をよそに、また別のクラスメイトが会話に加わる。

「あ、俺もその噂聞いた。でもさ、あの二人が一緒にいるところあんまり見たことなくない?」
「いや、でも遠藤はかなり劇場に通ってたらしいよ。公演の後に会ってたんじゃないの。いいなぁ、俺もカノジョ欲しい」

 他愛のないただの雑談に、なぜこうも心が掻き乱されるのかわからない。
 噂が事実かどうかはさておき、誰と恋愛しようとそれは清虎の自由だ。なのになぜ、裏切られたような気分になるのだろう。

「おー! 二人ともおかえり。仲良くて羨ましいよ。結婚式には呼んでくれよな」
「清虎、転校しても浮気すんなよ!」
「やだぁ、何言ってんの。ねぇ? 清虎くん」

 戻って早々に囃し立てられた遠藤が、頬を赤く染めて清虎を見上げる。清虎は首を傾げながら、困惑気味に笑った。

「ホンマに、なんのこっちゃ」
「またまた。照れんなって」

 クラスメイトが清虎の肩に腕を回し、楽しそうに顔を見合わせる。遠藤は相変わらず清虎の横に居座って、くすぐったそうに微笑んでいた。

 それはまるでレースのカーテン越しに眺めているような、そんな隔たりを感じる光景だった。
 清虎の隣で笑っているのが自分ではない。
 たったそれだけのことで、こんなにも孤独になるなんて。

 手を伸ばせばいい。声を掛ければいい。すぐそこにいるのだから。
 なのに体は少しも動かない。
 頭から垂れ流されたコールタールのように黒くて粘着質な液体が、べったりと張り付いて徐々に体を覆っていくようだ。
 上手く息が吸えず、飲み込まれてしまいそうで、陸は思わず目を閉じる。
 
「陸、大丈夫? 酷い顔してるよ」

 耳元で哲治の声がした。
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