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◆第三幕 同窓会◆
まるで、だまし絵①
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『このままじゃ二人で共倒れだ。すぐに離れた方が良い。痛みを誤魔化す為に新しい傷を作り続けて、この先は破滅しかないだろう』
深澤から放たれた言葉が、胸に刺さったまま抜けない。
遠藤の親身なアドバイスとはまた違い、深澤のは最終宣告のようだった。もう猶予はないのだと迫られているような気がしてくる。
結局、陸はメッセージを送らずに、スマホをベッドに放り投げてからバスルームへ向かった。
中学の頃からずっと続けて来たルーティーン。メッセージを一つ送らないだけで、こんなにも落ち着かないものか。
体の中に沈殿した毒を洗い流すように、熱い湯を浴び続ける。今までだって、何度か距離を置こうと試みた。それでもいつも強迫観念に負け、結局離れられなかったのだ。
シャワーを止め水滴を拭うと、憑き物が落ちたように思考までスッキリしていた。
「そっか。清虎がまた現れてくれたから、喪失感を義務感で埋める必要がないのか……」
清虎が手の届くところにいると言うだけで、用無しとばかりにあっさり哲治から離れられそうな自分が最低に思えた。
それでも、この機を逃してはいけないと自分に言い聞かせる。
部屋に戻った陸は、無造作に置かれたスマホに視線を落とす。着信が一件あり、かけ直そうと思った矢先に再び鳴り出した。もしこれが昨日なら、ビクビクしながら慌てて電話を取っていただろう。でも今、陸の心は凪いている。
「もしもし。哲治、どうしたの」
『どうしたのはこっちのセリフ。もう家にいるの? 何で連絡してくれないんだよ』
「心配させてごめんね。でも、もう『ただいま』ってメッセージを送るのは止めようと思って」
静かな声で告げる陸の言葉に、哲治は直ぐ反応できなかった。少し間が空いた後、「なんで」と低く問い返す。
「もう友情って呼ぶのも可笑しいくらい、俺たちの関係は煮詰まってるだろ。そろそろ距離を置いた方がいい。薄々感じてたでしょ? このままじゃ駄目なことくらい」
『アイツに何か言われたのか』
アイツとは深澤のことだろうかと考えながら「うん」と答えた。
「色々助言を貰ったのは事実だけど、俺自身も目が覚めたんだよ。今までさんざん哲治に甘えて来たのに、勝手なこと言ってるのは自覚してる。でも、今が潮時だと思う」
陸の真剣な訴えにも哲治は鼻を鳴らし、小馬鹿にしたようにせせら笑う。
『目が覚めたって何だよ。まるで俺たちが、まやかしの中にいるみたいじゃないか。陸のことを一番理解してるのは俺だし、俺のことを一番理解してくれてるのは陸だ。そうだろ? 俺たちは、今のままいるのが一番幸せなんだよ』
いつものように、威圧的にまくしたてられた。平行線の議論に嫌気がさして、普段ならここで陸が折れていただろう。けれど、陸は怯まず反論した。
「お互い探り合うような、信頼なんか全くないこの状態が幸せなの? こんな息苦しい関係じゃなく、普通の友人に戻りたいよ」
『普通の友人? そもそも俺たちの関係は、友人とか恋人とか、そんな表面的な言葉では表せないだろ。もっと深く繋がってるんだから』
「違う、繋がってるんじゃない。繋がれてるんだ。もうお終いにしよう」
きっぱりと陸が言い切った後、しばらく沈黙が続いた。ようやく哲治がいつもの陸とは違うと理解したようで、先ほどとは打って変わって優しい声色で語りかける。
『陸。この話はまた今度、ゆっくりしよう。まだ酒が残ってるんじゃない? 金曜だし、疲れも出ただろ。もう寝た方が良いよ。こんな遅くに電話してごめんね。おやすみ』
威圧された後の優しさにホッとして、早く解放されるために「おやすみ」と告げてしまいそうになる。それを何とか堪えて、陸は話を続けた。
「しばらく距離を置こう。少し離れれば、哲治も冷静さを取り戻せるよ。そうしたら、また友人として会おう。ねぇ哲治お願いだよ。解って」
陸は懇願したが、電話の向こうの哲治は溜め息を吐いただけだった。伝わらないもどかしさに涙が出そうになる。
『誰に何を言われたのか知らないけど、そんなの到底受け入れられないよ。とにかく、また明日改めて話そう。冷静さを取り戻さなきゃいけないのは、陸の方だ』
じゃあねという言葉を残して、電話は一方的に切られた。何一つ話を聞いてもらえず、虚しくて天井を仰ぐ。
突拍子もないと思ったルームシェアという案が、急に現実味を帯びた。
深澤から放たれた言葉が、胸に刺さったまま抜けない。
遠藤の親身なアドバイスとはまた違い、深澤のは最終宣告のようだった。もう猶予はないのだと迫られているような気がしてくる。
結局、陸はメッセージを送らずに、スマホをベッドに放り投げてからバスルームへ向かった。
中学の頃からずっと続けて来たルーティーン。メッセージを一つ送らないだけで、こんなにも落ち着かないものか。
体の中に沈殿した毒を洗い流すように、熱い湯を浴び続ける。今までだって、何度か距離を置こうと試みた。それでもいつも強迫観念に負け、結局離れられなかったのだ。
シャワーを止め水滴を拭うと、憑き物が落ちたように思考までスッキリしていた。
「そっか。清虎がまた現れてくれたから、喪失感を義務感で埋める必要がないのか……」
清虎が手の届くところにいると言うだけで、用無しとばかりにあっさり哲治から離れられそうな自分が最低に思えた。
それでも、この機を逃してはいけないと自分に言い聞かせる。
部屋に戻った陸は、無造作に置かれたスマホに視線を落とす。着信が一件あり、かけ直そうと思った矢先に再び鳴り出した。もしこれが昨日なら、ビクビクしながら慌てて電話を取っていただろう。でも今、陸の心は凪いている。
「もしもし。哲治、どうしたの」
『どうしたのはこっちのセリフ。もう家にいるの? 何で連絡してくれないんだよ』
「心配させてごめんね。でも、もう『ただいま』ってメッセージを送るのは止めようと思って」
静かな声で告げる陸の言葉に、哲治は直ぐ反応できなかった。少し間が空いた後、「なんで」と低く問い返す。
「もう友情って呼ぶのも可笑しいくらい、俺たちの関係は煮詰まってるだろ。そろそろ距離を置いた方がいい。薄々感じてたでしょ? このままじゃ駄目なことくらい」
『アイツに何か言われたのか』
アイツとは深澤のことだろうかと考えながら「うん」と答えた。
「色々助言を貰ったのは事実だけど、俺自身も目が覚めたんだよ。今までさんざん哲治に甘えて来たのに、勝手なこと言ってるのは自覚してる。でも、今が潮時だと思う」
陸の真剣な訴えにも哲治は鼻を鳴らし、小馬鹿にしたようにせせら笑う。
『目が覚めたって何だよ。まるで俺たちが、まやかしの中にいるみたいじゃないか。陸のことを一番理解してるのは俺だし、俺のことを一番理解してくれてるのは陸だ。そうだろ? 俺たちは、今のままいるのが一番幸せなんだよ』
いつものように、威圧的にまくしたてられた。平行線の議論に嫌気がさして、普段ならここで陸が折れていただろう。けれど、陸は怯まず反論した。
「お互い探り合うような、信頼なんか全くないこの状態が幸せなの? こんな息苦しい関係じゃなく、普通の友人に戻りたいよ」
『普通の友人? そもそも俺たちの関係は、友人とか恋人とか、そんな表面的な言葉では表せないだろ。もっと深く繋がってるんだから』
「違う、繋がってるんじゃない。繋がれてるんだ。もうお終いにしよう」
きっぱりと陸が言い切った後、しばらく沈黙が続いた。ようやく哲治がいつもの陸とは違うと理解したようで、先ほどとは打って変わって優しい声色で語りかける。
『陸。この話はまた今度、ゆっくりしよう。まだ酒が残ってるんじゃない? 金曜だし、疲れも出ただろ。もう寝た方が良いよ。こんな遅くに電話してごめんね。おやすみ』
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「しばらく距離を置こう。少し離れれば、哲治も冷静さを取り戻せるよ。そうしたら、また友人として会おう。ねぇ哲治お願いだよ。解って」
陸は懇願したが、電話の向こうの哲治は溜め息を吐いただけだった。伝わらないもどかしさに涙が出そうになる。
『誰に何を言われたのか知らないけど、そんなの到底受け入れられないよ。とにかく、また明日改めて話そう。冷静さを取り戻さなきゃいけないのは、陸の方だ』
じゃあねという言葉を残して、電話は一方的に切られた。何一つ話を聞いてもらえず、虚しくて天井を仰ぐ。
突拍子もないと思ったルームシェアという案が、急に現実味を帯びた。
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