会いたいが情、見たいが病

雪華

文字の大きさ
55 / 86
◆第三幕 同窓会◆

まるで、だまし絵③

しおりを挟む
 辿り着いた先は、予想通り大衆劇場だった。役者たちの顔写真が載っている看板を見上げ「やっぱり」と哲治が呟く。

「なるほど、美少年がそのまま成長するとこうなるのか。何か綺麗過ぎて怖いな。で、昨日は清虎に会って何か話したの?」
「送り出しの時に少し。深澤さんと佐々木さんのどっちが恋人かって聞かれたから、どっちも違うって答えただけだよ」
「それで、清虎は何て?」
「『別にどうでもええけど』だって」

 不貞腐れたような陸の言葉に、哲治がくくっと喉を鳴らした。

「どうでもいいと思ってる奴が、わざわざそんなこと聞かないだろうに。相変わらずだな」
「何それ」

 陸の問いには答えず、哲治はチケット売り場の方へ移動する。すぐ店に戻ると言っていたのに舞台を観るつもりなのかと疑問に思っていたら、係員らしき年配の男性に「こんばんは」と声をかけた。

「突然すみません。俺たち、清虎くんと中学の時、同じクラスだった者です。一度だけここに来たこともあるんですが……」

 それを聞いて陸はハッとした。この老人は、むかし食事に誘いに来た時に、清虎が「じぃちゃん」と呼んでいた人だ。老人の方も哲治と陸の顔を見比べて、ああと思い出したように手を叩いた。

「まさか、陸君と哲治君」
「そうです。名前まで憶えていてくださったんですか」

 驚きながら哲治が手を差し出し、老人と握手を交わす。老人は嬉しそうに目を細めながら、何度も頷いた。

「覚えているとも。後にも先にも、遊びに誘いに来てくれたのは君達だけだったからね。今回もまた会いに来てくれたのかい。本当にありがとう」

 哲治の手を握りながら、ありがとうと何度も繰り返す。その老人の反応だけで、いかに清虎の置かれている環境が特殊なのか理解できた。

「今日も食事に誘いに来たんです。何時になっても構わないので、うちの店に来てくれと伝えて頂けませんか」
「ありがとう。必ず伝えるよ」

 涙ぐむ老人に別れを告げて、哲治と二人で歩き出す。

「陸もこのまま店で清虎を待てばいいよ。一緒に戻ろう」
「うん」

 言葉少なに答えると、哲治が重たい息を吐いた。

「何だかタイムスリップしたみたいだ。俺たち、中身はあの頃と大して変わってないな。何やってんだか」

 自嘲めいた呟きに、陸は「本当だね」と返す。久しぶりにちゃんと会話が成立している気がしたが、哲治の底の知れない黒い目に胸が騒いだ。

 もしかすると、陸の目も同じように仄暗い色をしていたのかもしれない。哲治から陸を警戒するような気配が感じられたが、お互い様だなと小さく息を吐いた。
 無言のまま歩き続け、店に着いた陸は哲治に促されてカウンター席に座る。
 店内には五組ほどの客がいたが、哲治の言った通り混んでいると言うほどでもなく、休日らしいゆったりとした空気が流れていた。

「おう。陸、いらっしゃい。土曜に来るのは珍しいな。飯は食って来たのか? まだなら唐揚げ定食にするか」
「ああ、えっと。飯はまだだけど唐揚げ定食って気分でもないから、とりあえずビールください」

 せっかく唐揚げを勧めてくれた哲治の父親に、申し訳なさそうに告げた。腹が空いてない訳ではないが食欲が湧かず、食べたいものが思い付かない。

「陸、何か食ってから飲め。そのうち本当に体壊すぞ。腹減ってない訳じゃないんだろ? オヤジ、いいよ。陸のは俺がやるから」

 カウンターの中に戻り調理用の白衣に袖を通しながら、哲治が陸の内心を見透かしたように言う。手際よく調理を始めたかと思ったら、あっという間にどんぶりを目の前に置かれた。
 中を覗けばそれはマグロの漬け丼で、赤味の上に散らされた白ゴマと大葉の緑が食欲をそそる。

「これなら食えるだろ。卵黄も落とす?」
「うん」

 白米の量が少なめなのも有難い。「美味そう」と思わず呟いてしまい、何もかもお見通しの絶妙なチョイスに少し悔しくなった。
 一口頬張ると哲治が満足そうな笑みを浮かべる。うっかりしていたら、またいつものペースに流されてしまいそうだ。

「なんで清虎をここに呼んだの」

 流れに逆らうために、聞きたいことを口にした。
 以前なら気になっても黙っているか、もしくはもっと遠回しな言い方で尋ねたかもしれない。単刀直入な陸の質問に、哲治が無表情のまま首を傾げる。

「陸は会いたくなかったの?」
「会いたかったけど、会えない。多分、清虎は俺の顔なんか見たくもないだろうから。哲治は清虎に会いたかったの?」
「会いたかったよ。ずっと」
「どうして」

 哲治は陸から視線を外し、虚ろに笑った。

「だって、記憶の中のあいつには勝てないから。だから、あいつがまた陸の前に現れてくれて、良かったと思ってる」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...