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◆第三幕 同窓会◆
まるで、だまし絵③
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辿り着いた先は、予想通り大衆劇場だった。役者たちの顔写真が載っている看板を見上げ「やっぱり」と哲治が呟く。
「なるほど、美少年がそのまま成長するとこうなるのか。何か綺麗過ぎて怖いな。で、昨日は清虎に会って何か話したの?」
「送り出しの時に少し。深澤さんと佐々木さんのどっちが恋人かって聞かれたから、どっちも違うって答えただけだよ」
「それで、清虎は何て?」
「『別にどうでもええけど』だって」
不貞腐れたような陸の言葉に、哲治がくくっと喉を鳴らした。
「どうでもいいと思ってる奴が、わざわざそんなこと聞かないだろうに。相変わらずだな」
「何それ」
陸の問いには答えず、哲治はチケット売り場の方へ移動する。すぐ店に戻ると言っていたのに舞台を観るつもりなのかと疑問に思っていたら、係員らしき年配の男性に「こんばんは」と声をかけた。
「突然すみません。俺たち、清虎くんと中学の時、同じクラスだった者です。一度だけここに来たこともあるんですが……」
それを聞いて陸はハッとした。この老人は、むかし食事に誘いに来た時に、清虎が「じぃちゃん」と呼んでいた人だ。老人の方も哲治と陸の顔を見比べて、ああと思い出したように手を叩いた。
「まさか、陸君と哲治君」
「そうです。名前まで憶えていてくださったんですか」
驚きながら哲治が手を差し出し、老人と握手を交わす。老人は嬉しそうに目を細めながら、何度も頷いた。
「覚えているとも。後にも先にも、遊びに誘いに来てくれたのは君達だけだったからね。今回もまた会いに来てくれたのかい。本当にありがとう」
哲治の手を握りながら、ありがとうと何度も繰り返す。その老人の反応だけで、いかに清虎の置かれている環境が特殊なのか理解できた。
「今日も食事に誘いに来たんです。何時になっても構わないので、うちの店に来てくれと伝えて頂けませんか」
「ありがとう。必ず伝えるよ」
涙ぐむ老人に別れを告げて、哲治と二人で歩き出す。
「陸もこのまま店で清虎を待てばいいよ。一緒に戻ろう」
「うん」
言葉少なに答えると、哲治が重たい息を吐いた。
「何だかタイムスリップしたみたいだ。俺たち、中身はあの頃と大して変わってないな。何やってんだか」
自嘲めいた呟きに、陸は「本当だね」と返す。久しぶりにちゃんと会話が成立している気がしたが、哲治の底の知れない黒い目に胸が騒いだ。
もしかすると、陸の目も同じように仄暗い色をしていたのかもしれない。哲治から陸を警戒するような気配が感じられたが、お互い様だなと小さく息を吐いた。
無言のまま歩き続け、店に着いた陸は哲治に促されてカウンター席に座る。
店内には五組ほどの客がいたが、哲治の言った通り混んでいると言うほどでもなく、休日らしいゆったりとした空気が流れていた。
「おう。陸、いらっしゃい。土曜に来るのは珍しいな。飯は食って来たのか? まだなら唐揚げ定食にするか」
「ああ、えっと。飯はまだだけど唐揚げ定食って気分でもないから、とりあえずビールください」
せっかく唐揚げを勧めてくれた哲治の父親に、申し訳なさそうに告げた。腹が空いてない訳ではないが食欲が湧かず、食べたいものが思い付かない。
「陸、何か食ってから飲め。そのうち本当に体壊すぞ。腹減ってない訳じゃないんだろ? オヤジ、いいよ。陸のは俺がやるから」
カウンターの中に戻り調理用の白衣に袖を通しながら、哲治が陸の内心を見透かしたように言う。手際よく調理を始めたかと思ったら、あっという間にどんぶりを目の前に置かれた。
中を覗けばそれはマグロの漬け丼で、赤味の上に散らされた白ゴマと大葉の緑が食欲をそそる。
「これなら食えるだろ。卵黄も落とす?」
「うん」
白米の量が少なめなのも有難い。「美味そう」と思わず呟いてしまい、何もかもお見通しの絶妙なチョイスに少し悔しくなった。
一口頬張ると哲治が満足そうな笑みを浮かべる。うっかりしていたら、またいつものペースに流されてしまいそうだ。
「なんで清虎をここに呼んだの」
流れに逆らうために、聞きたいことを口にした。
以前なら気になっても黙っているか、もしくはもっと遠回しな言い方で尋ねたかもしれない。単刀直入な陸の質問に、哲治が無表情のまま首を傾げる。
「陸は会いたくなかったの?」
「会いたかったけど、会えない。多分、清虎は俺の顔なんか見たくもないだろうから。哲治は清虎に会いたかったの?」
「会いたかったよ。ずっと」
「どうして」
哲治は陸から視線を外し、虚ろに笑った。
「だって、記憶の中のあいつには勝てないから。だから、あいつがまた陸の前に現れてくれて、良かったと思ってる」
「なるほど、美少年がそのまま成長するとこうなるのか。何か綺麗過ぎて怖いな。で、昨日は清虎に会って何か話したの?」
「送り出しの時に少し。深澤さんと佐々木さんのどっちが恋人かって聞かれたから、どっちも違うって答えただけだよ」
「それで、清虎は何て?」
「『別にどうでもええけど』だって」
不貞腐れたような陸の言葉に、哲治がくくっと喉を鳴らした。
「どうでもいいと思ってる奴が、わざわざそんなこと聞かないだろうに。相変わらずだな」
「何それ」
陸の問いには答えず、哲治はチケット売り場の方へ移動する。すぐ店に戻ると言っていたのに舞台を観るつもりなのかと疑問に思っていたら、係員らしき年配の男性に「こんばんは」と声をかけた。
「突然すみません。俺たち、清虎くんと中学の時、同じクラスだった者です。一度だけここに来たこともあるんですが……」
それを聞いて陸はハッとした。この老人は、むかし食事に誘いに来た時に、清虎が「じぃちゃん」と呼んでいた人だ。老人の方も哲治と陸の顔を見比べて、ああと思い出したように手を叩いた。
「まさか、陸君と哲治君」
「そうです。名前まで憶えていてくださったんですか」
驚きながら哲治が手を差し出し、老人と握手を交わす。老人は嬉しそうに目を細めながら、何度も頷いた。
「覚えているとも。後にも先にも、遊びに誘いに来てくれたのは君達だけだったからね。今回もまた会いに来てくれたのかい。本当にありがとう」
哲治の手を握りながら、ありがとうと何度も繰り返す。その老人の反応だけで、いかに清虎の置かれている環境が特殊なのか理解できた。
「今日も食事に誘いに来たんです。何時になっても構わないので、うちの店に来てくれと伝えて頂けませんか」
「ありがとう。必ず伝えるよ」
涙ぐむ老人に別れを告げて、哲治と二人で歩き出す。
「陸もこのまま店で清虎を待てばいいよ。一緒に戻ろう」
「うん」
言葉少なに答えると、哲治が重たい息を吐いた。
「何だかタイムスリップしたみたいだ。俺たち、中身はあの頃と大して変わってないな。何やってんだか」
自嘲めいた呟きに、陸は「本当だね」と返す。久しぶりにちゃんと会話が成立している気がしたが、哲治の底の知れない黒い目に胸が騒いだ。
もしかすると、陸の目も同じように仄暗い色をしていたのかもしれない。哲治から陸を警戒するような気配が感じられたが、お互い様だなと小さく息を吐いた。
無言のまま歩き続け、店に着いた陸は哲治に促されてカウンター席に座る。
店内には五組ほどの客がいたが、哲治の言った通り混んでいると言うほどでもなく、休日らしいゆったりとした空気が流れていた。
「おう。陸、いらっしゃい。土曜に来るのは珍しいな。飯は食って来たのか? まだなら唐揚げ定食にするか」
「ああ、えっと。飯はまだだけど唐揚げ定食って気分でもないから、とりあえずビールください」
せっかく唐揚げを勧めてくれた哲治の父親に、申し訳なさそうに告げた。腹が空いてない訳ではないが食欲が湧かず、食べたいものが思い付かない。
「陸、何か食ってから飲め。そのうち本当に体壊すぞ。腹減ってない訳じゃないんだろ? オヤジ、いいよ。陸のは俺がやるから」
カウンターの中に戻り調理用の白衣に袖を通しながら、哲治が陸の内心を見透かしたように言う。手際よく調理を始めたかと思ったら、あっという間にどんぶりを目の前に置かれた。
中を覗けばそれはマグロの漬け丼で、赤味の上に散らされた白ゴマと大葉の緑が食欲をそそる。
「これなら食えるだろ。卵黄も落とす?」
「うん」
白米の量が少なめなのも有難い。「美味そう」と思わず呟いてしまい、何もかもお見通しの絶妙なチョイスに少し悔しくなった。
一口頬張ると哲治が満足そうな笑みを浮かべる。うっかりしていたら、またいつものペースに流されてしまいそうだ。
「なんで清虎をここに呼んだの」
流れに逆らうために、聞きたいことを口にした。
以前なら気になっても黙っているか、もしくはもっと遠回しな言い方で尋ねたかもしれない。単刀直入な陸の質問に、哲治が無表情のまま首を傾げる。
「陸は会いたくなかったの?」
「会いたかったけど、会えない。多分、清虎は俺の顔なんか見たくもないだろうから。哲治は清虎に会いたかったの?」
「会いたかったよ。ずっと」
「どうして」
哲治は陸から視線を外し、虚ろに笑った。
「だって、記憶の中のあいつには勝てないから。だから、あいつがまた陸の前に現れてくれて、良かったと思ってる」
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