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◆最終幕 依依恋恋◆
嫉妬くらいさせてよ③
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「ねぇ佐伯くん。心配かけてすみませんなんて、水臭いこと言うなよ。こう見えても俺、結構、頭に来てんだよね。佐伯くんに怪我をさせた哲治くんにも、その時助けてあげられなかった、不甲斐ない自分自身にも」
「いや、そんな。だって、深澤さんはその場にいなかったんだし、不甲斐ないだなんて言わないでください」
「うん。だから、金曜の夜に無理にでも避難させておけばよかった、って思ってさ。解決済みって言うけど、やっぱり一緒に住もうよ。本格的な引っ越しはまだ先でも構わないから、取り敢えず身の回りの物だけ持って、今日にでもウチに来ればいい」
ルームシェアという単語ではなく「一緒に住もう」と言われると、同じ意味合いなのに少しドキリとしてしまう。
「……凄く有難いお申し出なのですが、やっぱりルームシェアは遠慮しようかと。気遣って頂いたのに、すみません」
心配してくれている深澤に申し訳ない気持ちで、陸は再び頭を下げた。
「それは、もう哲治くんの件は解決したから? だとしても、物理的に一旦距離を置いた方がいいだろう。それとも、また別の問題があるのかな。例えば、零とか」
一瞬言葉に詰まったが、ここまで世話になった深澤に隠し事をするのも気が引けて、陸は素直に「はい」とうなずいた。深澤の片眉がぴくりと上がる。
「それは、零が俺と一緒に住むことを反対してるから、ってこと?」
「それもありますけど、零が反対しなくても、お断りしようと思ってました。そこまで深澤さんに迷惑はかけられないし」
「俺は全然迷惑じゃないんだけどなぁ。むしろ、断られた方がよっぽど悲しいよ」
深澤がテーブルに身を乗り出して、陸と目線を合わせる。微笑みながら、言葉を続けた。
「助けて貰ったのがきっかけで、零と距離が縮んだのかな。……あれ、首にキスマーク付いてるよ。もしかして、零につけられた?」
「えっ」
陸は咄嗟に首を押さえて隠す。深澤はくすりと笑い「嘘だよ」と言い放った。カマをかけられたことに気付いて、陸は赤面しながら唇を噛む。
「そっか、そう言う関係なワケか。それじゃ、俺とは一緒に住めないよな。それにしても、佐伯くんと零だなんて、随分可愛らしい組み合わせだねぇ。まるでおままごとみたい」
からかって反応を楽しむような深澤の態度に、陸は苛立ちながら鰻重の最後の一口を掻き込んだ。それから伝票を掴むと、無言で立ち上がりレジへ真っ直ぐ向かう。
背後で深澤のため息が聞こえた。
「佐伯くん、ここは俺がご馳走するって言ったでしょ?」
「いえ、俺が出します」
財布を取り出そうとした手を、深澤に掴まれて制される。涼しい顔をしているのでそれほど力を入れているようには見えないのだが、陸がどんなに押し返そうとしてもピクリとも動かなかった。
「先輩の言うことは聞きなって」
結局、陸は支払わせて貰えず、不本意そうに「ご馳走様です」と小声で言った。
「ごめんね、からかうような真似して。でもさ、佐伯くんに感情があるのが何か嬉しくて、つい」
「感情があるって、どういうことですか」
憤慨しながら尋ねると、深澤は陸の肩を叩きながら口角を上げる。
「そういう所だよ。今までずっと表情も乏しいし従順だし、人形みたいだと思ってたんだよね。でも最近は、ちゃんと反応を返してくれるから凄く良い」
言葉とは裏腹に、なぜか深澤の笑顔は寂しそうだった。陸の肩に手を置いたまま、ポツリとこぼす。
「それにさ、嫉妬くらいさせてよ」
「嫉妬……?」
誰が、誰に。
陸はポカンとしたまま深澤の顔を見上げた。深澤は眉を下げて、ははっと笑う。
「まぁ、急に言ってもピンと来ないか。今のは気にしないで。それより、あの店の企画を佐伯くんに任せたいんだけど、どうかな」
「えっ、今の店ですか。俺に?」
「そう。佐伯くんだったら、どんなメニュー考える?」
嫉妬の意味を深く考えようとした矢先、急に企画を任せると聞いて、陸は思考を切り替えた。
「そうですね。ランチタイムではそれほどデザートが出ている感じではなかったので、夜の居酒屋形態の方に照準を絞りたいです。デートで利用する人も多そうだから、見た目は大人っぽく、高級感を意識して。フルーツソースを使用したカクテルの提案も良いかも」
深澤は陸の提案を聞きながら、「良いね」と満足そうにうなずく。
「やっぱり佐伯くんは向いてるよ、この仕事。その方向で進めてくれるかな。今後もガンガン任せるからね。期待してるよ」
「はい、頑張ります。……でも、何で急に?」
「急にってこともないでしょ。前から佐伯くんには頼ってたし。入社して二年目なんだから、そろそろ責任のある仕事も増えていくのは自然だと思うよ」
それもそうかと納得しながら、車を停めたパーキングにたどり着く。陸は頭の中でデザートのプランを練りながら、助手席に座った。
運転席のドアに手を掛けた深澤は、窓越しに車内の陸を見つめる。
「今は仕事へのやり甲斐でもいいから、とにかく引き留めておかないとね。キミが零を追って、ここから離れて行かないように」
小さな独り言は、もちろん陸の耳には届かない。
深澤は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。車はゆっくり走り出す。
「今度、夜に来よう。どんな酒や料理なのか、実際に味見したいだろ」
「そうですね。提供されている料理とのバランスも考えたいですし」
「じゃあ空いてる日、教えてね。そうそう、気になってる店、他にもあるんだけどさぁ、また昼飯で付き合ってもらってもいい?」
「それは構いませんけど、ちゃんと俺にも払わせてくださいよ」
陸が念を押すように言うと、深澤は「律義だねぇ」と肩をすくめた。
「いや、そんな。だって、深澤さんはその場にいなかったんだし、不甲斐ないだなんて言わないでください」
「うん。だから、金曜の夜に無理にでも避難させておけばよかった、って思ってさ。解決済みって言うけど、やっぱり一緒に住もうよ。本格的な引っ越しはまだ先でも構わないから、取り敢えず身の回りの物だけ持って、今日にでもウチに来ればいい」
ルームシェアという単語ではなく「一緒に住もう」と言われると、同じ意味合いなのに少しドキリとしてしまう。
「……凄く有難いお申し出なのですが、やっぱりルームシェアは遠慮しようかと。気遣って頂いたのに、すみません」
心配してくれている深澤に申し訳ない気持ちで、陸は再び頭を下げた。
「それは、もう哲治くんの件は解決したから? だとしても、物理的に一旦距離を置いた方がいいだろう。それとも、また別の問題があるのかな。例えば、零とか」
一瞬言葉に詰まったが、ここまで世話になった深澤に隠し事をするのも気が引けて、陸は素直に「はい」とうなずいた。深澤の片眉がぴくりと上がる。
「それは、零が俺と一緒に住むことを反対してるから、ってこと?」
「それもありますけど、零が反対しなくても、お断りしようと思ってました。そこまで深澤さんに迷惑はかけられないし」
「俺は全然迷惑じゃないんだけどなぁ。むしろ、断られた方がよっぽど悲しいよ」
深澤がテーブルに身を乗り出して、陸と目線を合わせる。微笑みながら、言葉を続けた。
「助けて貰ったのがきっかけで、零と距離が縮んだのかな。……あれ、首にキスマーク付いてるよ。もしかして、零につけられた?」
「えっ」
陸は咄嗟に首を押さえて隠す。深澤はくすりと笑い「嘘だよ」と言い放った。カマをかけられたことに気付いて、陸は赤面しながら唇を噛む。
「そっか、そう言う関係なワケか。それじゃ、俺とは一緒に住めないよな。それにしても、佐伯くんと零だなんて、随分可愛らしい組み合わせだねぇ。まるでおままごとみたい」
からかって反応を楽しむような深澤の態度に、陸は苛立ちながら鰻重の最後の一口を掻き込んだ。それから伝票を掴むと、無言で立ち上がりレジへ真っ直ぐ向かう。
背後で深澤のため息が聞こえた。
「佐伯くん、ここは俺がご馳走するって言ったでしょ?」
「いえ、俺が出します」
財布を取り出そうとした手を、深澤に掴まれて制される。涼しい顔をしているのでそれほど力を入れているようには見えないのだが、陸がどんなに押し返そうとしてもピクリとも動かなかった。
「先輩の言うことは聞きなって」
結局、陸は支払わせて貰えず、不本意そうに「ご馳走様です」と小声で言った。
「ごめんね、からかうような真似して。でもさ、佐伯くんに感情があるのが何か嬉しくて、つい」
「感情があるって、どういうことですか」
憤慨しながら尋ねると、深澤は陸の肩を叩きながら口角を上げる。
「そういう所だよ。今までずっと表情も乏しいし従順だし、人形みたいだと思ってたんだよね。でも最近は、ちゃんと反応を返してくれるから凄く良い」
言葉とは裏腹に、なぜか深澤の笑顔は寂しそうだった。陸の肩に手を置いたまま、ポツリとこぼす。
「それにさ、嫉妬くらいさせてよ」
「嫉妬……?」
誰が、誰に。
陸はポカンとしたまま深澤の顔を見上げた。深澤は眉を下げて、ははっと笑う。
「まぁ、急に言ってもピンと来ないか。今のは気にしないで。それより、あの店の企画を佐伯くんに任せたいんだけど、どうかな」
「えっ、今の店ですか。俺に?」
「そう。佐伯くんだったら、どんなメニュー考える?」
嫉妬の意味を深く考えようとした矢先、急に企画を任せると聞いて、陸は思考を切り替えた。
「そうですね。ランチタイムではそれほどデザートが出ている感じではなかったので、夜の居酒屋形態の方に照準を絞りたいです。デートで利用する人も多そうだから、見た目は大人っぽく、高級感を意識して。フルーツソースを使用したカクテルの提案も良いかも」
深澤は陸の提案を聞きながら、「良いね」と満足そうにうなずく。
「やっぱり佐伯くんは向いてるよ、この仕事。その方向で進めてくれるかな。今後もガンガン任せるからね。期待してるよ」
「はい、頑張ります。……でも、何で急に?」
「急にってこともないでしょ。前から佐伯くんには頼ってたし。入社して二年目なんだから、そろそろ責任のある仕事も増えていくのは自然だと思うよ」
それもそうかと納得しながら、車を停めたパーキングにたどり着く。陸は頭の中でデザートのプランを練りながら、助手席に座った。
運転席のドアに手を掛けた深澤は、窓越しに車内の陸を見つめる。
「今は仕事へのやり甲斐でもいいから、とにかく引き留めておかないとね。キミが零を追って、ここから離れて行かないように」
小さな独り言は、もちろん陸の耳には届かない。
深澤は運転席に乗り込み、エンジンをかけた。車はゆっくり走り出す。
「今度、夜に来よう。どんな酒や料理なのか、実際に味見したいだろ」
「そうですね。提供されている料理とのバランスも考えたいですし」
「じゃあ空いてる日、教えてね。そうそう、気になってる店、他にもあるんだけどさぁ、また昼飯で付き合ってもらってもいい?」
「それは構いませんけど、ちゃんと俺にも払わせてくださいよ」
陸が念を押すように言うと、深澤は「律義だねぇ」と肩をすくめた。
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