その令嬢、危険にて

ペン銀太郎

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第一部:10-2章:祭と友と恋と戦と(前編)

103話:どっちの方がエレナから愛されているかを決めるためのガチンコバトル

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「うぅ、負けました…師匠…。」

マックスに負けてしまったマリアンネだったが、ネルカはそんな彼女の頭を撫でて許すのだった。そして、今度は未だに名も知らぬ坊主頭の騎士へと目を向けた。

「さぁ、名前も知らない騎士! あなたの出番よ!」

そう、こちらの手勢はネルカ含めて三人。
たかが、一敗ごときでは優位は覆らないのだ。

「いや…普通に考えて、不戦敗っスよ。知らない人だし。」

彼は本日初対面の赤の他人、そりゃそうだ。
こんなくだらない茶番に付き合う義理もない。

これで、マックスの二勝ということである。

「ふ、ふん! ザコ二人に勝ったからと言って、調子に乗らないことね。」

「一人は戦ってすらいないけどね。」

「私は実質三人分。つまり、私が勝てば、あなたの総合負けよ!」

それでも負けを認めないのがネルカという女。
彼女にとっての負けとは、心の底からマックスを認めたときだけ。
それ以外ではどのような結果になっても負けではないのだ。

人と人の間での勝ち負けは、個人の勝ち負けには直結しない。

「さっきの勝負は…愛しているかどうかの戦い。だったけど…ここから先は愛されているかどうかの戦いよ。覚悟しなさい!」

彼女は黒魔法を発動させると、部屋一帯を暗くなるようにする。
それぞれが動揺の声を出す中、闇の時間はほんの数秒で終わった。

晴れた視界。

そこにはコルネルの姿があった。

「さぁ…『イケメン勝負』をしようじゃないかッ!」


 ― ― ― ― ― ―


勝負の行方は――

「ま、負けた…。」

「し、師匠が…瞬殺された…だと!?」

――コルネルの負けだった。

勝負はおよそ5分ほど。
二人がやったことはエレナに対して甘々にしただけ。
しかし、彼女はコルネルには一切になびかなかったのだ。

というのも、エレナは普段のネルカの態度を知っている。だからこそ、自身に向けられた言葉や行動が微糖であると気づいてしまったからだ。

壁際まで押しやる?
耳元で愛を囁く?
顎を持ち上げる?
恋人繋ぎする?

そんなことがネルカの糖質過多?

いいや違う。

頭を撫で、
顎を撫で、
背中を撫で、
手を撫でる。

撫でに撫でまわす。

そんな変態オヤジみたいなことが、ネルカの愛情ではないか。
普段から二人してマリアンネを可愛がっているのは、他でもないエレナ自身なのだから、それがネルカの本気の愛情ではないことは理解していた。ゆえに萎える。

本音を言えば、エレナはネルカに撫でられてみたかった。

「いやぁ、それにしても、マックスがボクのことを、あそこまで愛してくれているなんて知らなかったよ。てっきり、親同士のもので仕方なくなんじゃないかと思ってたからね。」

「あ、それは俺も…同じだ。エレナと両思いだったとは…。」

対してマックスの方はと言うと、やったこと自体はコルネルと大差はなかった。しかしながら、こちらは普段の彼とは違う一面を見せ、なおかつマリアンネとの一戦でのブーストもあったのだ。

エレナの仲でのマックス株は急上昇となった。

萎えさせたコルネル――燃え上がったマックス。
勝敗など誰がどう見ても明らかだろう。

「僕…いえ…私たちは…エレナの傍にいる資格など…ないわ。」

「コルネ…あっ…師匠…。」

「行きましょうマリ、これ以上に邪魔するわけにはいかないわ。」

悔しいが認めざるを得ない。
コルネル――もといネルカの完全敗北。
そうとなればすることは潔い撤退だ。

彼女はマリアンネの背中を押すと、店から出るように促す。

「ま、待ってくれ!」

しかし、そんな彼女たちを呼び止めたのはマックスだった。

「そんなことはねぇ、邪魔なんかじゃねぇ!」

「マックスさん…?」

「実は俺。嬉しかったよ…こんなにエレナのことを思ってくれる人がいるんだって。ネルカさんとマリアンネさん、あとコルネルさん。あなた方のエレナに対する愛はじゅうぶんに理解した! だから、これからも、エレナの親友でいてやってくれ! むしろ、こっちからお願いしてぇくらいだ!」

マックスはそう叫ぶと、二人に対して深いお辞儀をした。
この国において腰を折るという行為は軽い会釈程度しか存在しない。
しかし、外国の文化も知識として持っているネルカと、前世に近い文化があったマリアンネは、マックスの心を理解することができる。二人は彼の肩に手を置くと、顔を上げさせる。

「マックスさん。あなたは私たちの仲間よ。」
「エレナちゃんを大事にする同士です!」

「ネルカさん…マリアンネさん…ッ!」

「エレナ! あなたの婚約を私は認めるわ。」
「はい! アタシも認めます!」

「ボクたちの仲を認めてくれてありがとぉぉぉぉぉ!」

彼女たちなら婚約者を託せる。
彼なら親友を託せる。

通じ合った想いが仲を深める。

「「「「よし! 美味いものでも食べよう!」」」」

彼女たちは今日使用した服を購入すると店を出た。
次はどこに行こうかと話し合う四人の姿は、誰がどう見ても微笑ましいものである。祭の日にふさわしい、心温まる光景だった。


 ― ― ― ― ― ―


そこに取り残されたものが一人。
坊主頭の騎士だった。

「何を見せられたんスかねぇ…。」

その問いに答える者はいなかった。



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