その令嬢、危険にて

ペン銀太郎

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第二部:1章:お騒がせ新学期

146話:邂逅

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「ネルカ・コールマンとやらに会いたい。」

その言葉を聞いて、真っ先に反応した者がいた。
その男の名前は――トムス・ダッカール。

彼はこっそりとその場を離れると、慌ててネルカを探し始めたのだった。彼は確かにバカで空気も読めないが、デインとの仲は十年ほどで――アイコンタクトを正しく受け取ったのだった。

(ネルカ嬢を隠せ。)
(了解っす!)

トムスは人伝手にネルカの位置を聞き出し、向かった先は普通科棟のとある空き教室だった。辿り着いた彼は確認することもせず、教室のドアを豪快に開け中へと入って行った。

「ネネネ、ネ、ネルカ嬢! 大変っす!」

教室には男女複数人がいた。
しかし、ネルカだけは見当たらない。

その中の一人の男がトムスへと近づいた。

「おや、どうしたんだい?」

「あのっ、ネルカ嬢はどこっすか!」

「私ならここにいるじゃないか。」

「え…?」

トムスは呆けながらも、男を上から下まで眺めた。

身長は非常に高く、細いように見えて筋肉がしっかりと付いており、顔立ちも非常にネルカに似ていた。髪と声、そして口調を変えただけで、こうも別人のように見えてしまうのかと、思わずトムスは感心してしまった。

そう、間違いなく男はネルカなのだ。

男装した姿――ネルカの双子の兄――コルネルの復活である。
ローラとのデートから、ほぼ一年ぶりだ。

「ほへ~、びっくりっす。」

「フフフッ…うまく騙されたのなら成功だね。」

「でもどうして男装を?」

「マリを狙う男がいっぱいいてね、その対策さ。」

そう、ロズレアが立てた作戦とは――

ネルカを男装させることだった。
決して趣味ではない! ……はず。

1・皆にコルネルを見せつける。
2・男として勝てない。絶望する。
3・そんなコルネルに勝つダーデキシュ。
4・誰もダーデキシュに歯向かわなくなる。
5・ついでに男たちはコルネルに惚れる。
6・ハッピーエンド

「愚腐腐腐、完璧な、作戦。」

「すごいっす! 頭いいんすね!」

ちなみにその他の男女たちは、皆がロズレアの同士である。
そして、傷心のネルカに馬鹿なトムス、止める人は不在だ。

「でも、ちょうどよかったっす!」

「どうしたんだい?」

「嫁探しをしている人がいるんすよ!」

「えっと、嫁探し? それと私に何の関係があるんだい?」

「なんと、その人物が―――」

トムスが言い終わる前に、廊下の方からドタドタと騒がしい足音がし、そうかと思うと空き教室の扉が激しく開け放たれた。トムスよりも激しく解放されたことにより、衝撃で上部のガラスが割れる始末だった。

バンッ! パリィン!

「死神鴉! この部屋にいると聞いたぞ!」

案の定、登場した人物はギウスレアだった。
ネルカは冷静に現れた男を観察した。

(トムス様が動いたということは、目の前の人物は殿下に関係する人物ってことね。この年取った感じの顔…帝国北部特有のもの…なるほど、蛮族国家などと揶揄されることが多い国だけど、確かにこの男を見たらそうも言いたくなるわね。)

呆気に取られる一同を横に、ネルカは対応へと動き出す。

「失礼しますが、ネルカをお探しで?」

ネルカとしてではなく、コルネルとしての対応だ。
トムスからの情報どおりなら、ネルカとして会うわけにはいかない。

「むっ、貴様は誰だ?」

「ネルカの双子の兄、コルネルと申します。」

「ほう? 双子だと? 初めて知ったが?」

「妹と違って養子には入らなかったので、ただのコルネルです。」

「おぉ! そうか! それで情報がなかったのか! 俺の名はギウスレア・パラナン・ガリッド。まぁ、言ってしまえば帝国の皇太子をやっている。よろしく頼むぞ、コルネルよ。」

「あー。まさかの王太子様…想定外…。」

「恐縮などするな。素直に受け取れ。」

そう言って差し出された右手をネルカはジッと見る。
彼女はこの手の意味、帝国流の挨拶を理解していた。

――初対面は指だけで握手を交わす。
――二度目以降は胸下の位置で握手を交わす。
――少しでも信用できると思ったのなら胸上で。
――親しい者とは拳と拳を合わせ。
――さらに親しみが深まると、追加で肘同士も合わせる。

そして、もう一つ――

「ぬんっ!」

指同士で握手しようとしたネルカだったが、ギウスレアは彼女の手首を掴んで力を込めた。一瞬だけ驚いた彼女であったが、すぐに心を切り替えて対するギウスレアの手首をつかむ。

互いに膨れる魔力と前腕二頭筋。

これもまた帝国流の挨拶の一つだ。
お前はいかほどの戦士だ?――そう問いかける挨拶だ。
互いの手からミチミチという音が鳴る。

それでも二人は爽やかな笑顔を崩さなかった。

「フハッハ~! なるほど! 兄妹そろって強者というわけか!」
「殿下こそ…相当な手練れのようで。正直、驚きましたよ。」

たった一つの握手。ただそれだけ。
しかし、それだけで分かることはたくさんある。
敵意も悪意もない、そして、強い。

同じほどの修羅場を潜ってきた、同い年二人。

爽やかな笑顔から、不敵な笑みへと移り変わる。

「「おもしろい。」」

二人は同時に手を離すと、拳を握りしめて接触させ、その後に互いの肘も合わせたのだった。まさかの初対面にして、熱い友情を交わしたネルカとギウスレアの高身長イケメンコンビに、周囲にいた薔薇好きの面々は大歓喜の騒ぎとなるのだった。



「「いや、どういう状況…?」」



遅れて到着したデインとセシルは、ただ困惑するばかりだった。



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