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第二部:1章:お騒がせ新学期
149話:令嬢たちの恋愛事情
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ダーデキシュには平民に想い人がいる。
そのことに気が付いたマリアンネは、あの日からまともにダーデキシュと会話をすることができなくなってしまっていた。さすがに研究室に行かないという選択を取るわけにもいかないのだが、どんな顔をしたらいいか分からない。また、オドラもどう声を掛けるべきなのか分からず、部屋の空気はどんよりしていった。
「はぁ…アタシ…どうしよう…。」
そうして、とある休日。
マリアンネは王宮庭園にて、桃色の花をツンツンと突きながらイジけていた。護衛や侍女たちが心配そうに見守る中、彼女に近づく一つの人影があった。
「マリアンネさん? 大丈夫でして?」
その人物はアイナ・デーレン。
デイン殿下の婚約者である。
「あっ! お、お久しぶりです! アイナ様!」
「そうですわね、お久しぶりですわ。」
「どうして王宮…って、殿下ですか?」
「そうですの! 今後、ワタクシの王子妃教育も本格的になりますので、こうして王城でお会いする機会も増えますわね! え、えっと、その…今は暇ですし…御茶でもしませんこと?」
返事を待たずしてネルカの腕を取ったアイナは、ぐいぐいと引っ張って近くのガゼボへとマリアンネを連行していく。優秀な王宮な侍女たちは指示もないのに、茶のための準備を開始していた。
「それで? お元気ありませんわね。どうか致しまして?」
「い、いえ、アイナ様に聞いていただくような話では…。」
「あら、ワタクシたち、お友達ですわよね。」
「うっ………あのぉ、アタシ…失恋したかもしれないんです。」
マリアンネはすべてをアイナに曝け出した。
自身がダーデキシュが好きで学園に入ったことから始まり、魔力を使うことが出来るようになり今は近くにいることが増えたことまで話した。アイナ及び周囲の人たちは、他人の甘酸っぱい恋愛話にキュンキュンとなっていた。
しかしながら、仮爵の話になると一転、まるで自分の事のように共に悲しむことになってまう。それでも、アイナだけは力ある目でマリアンネを見つめ、何かを決心したのかガタッと立ち上がった。
アイナはマリアンネの両手をガッシリと握った。
「あなたはワタクシの恩人。命の恩人でもあり、恋の恩人でもありましてよ! ここで返さないで、いつ返すと言いますの! それに、あなたはマーカス殿下の養女、ならば将来はワタクシの!」
「で、ですが、ダーデ様には想い人が…。」
「ご安心くださいまし。ワタクシに妙案がありますわ!」
アイナはそう言うと握っていた手を離した。
そして、近くの椅子に足を乗せ、空を指差す。
はしたないと怒る者はいなかった。
「寝取った者勝ちですわぁ!」
こうして、ダーデキシュ寝取り大作戦が始まった。
― ― ― ― ― ―
戦いの基本、まずは情報戦。
ダーデキシュを知ることから始まる。
ということで彼女たちはネルカの元へ突撃した。
「ネルカ様? 少し、お時間よろしいかしら?」
「おや、アイナ嬢。今の私はコルネルと呼ぶようお願いするよ。」
相変わらず男装しているネルカ。
彼女は騎士の訓練場におり、若手たちを指導していた。
そして、彼女たちは端の方へと移動した。
ちなみに、ネルカがどうして男装をしているのか、どうして王宮騎士団の服を着ているのか、どうして指導側に立っているのか――アイナは聞きたいことは山ほどあったが、周囲が当然のように過ごしているので無視することに決めた。
「ネル…コルネル様。単刀直入にお聞きしますわ! あなたのお兄様の好きな方は、どこのどなたでございまして! 寝取り大作戦を決行致しますわよ!」
「え~っと…ナハス兄さんかい?」
「ダーデキシュ様ですわッ!」
「ダーデ兄さんの好きな人…それって…。」
マリじゃないのか?――とネルカは言いかけてやめた。
誰がどう考えても、相手はマリアンネだ。
見たことがある人なら一瞬で分かる。
それほどのイチャイチャ具合なのだ。
他の人が好きなど絶対にありえない。
(だけど、言っていいのか…コレ…。)
ダーデキシュとの間に何かがあって落ち込んでいたマリアンネを、アイナが見かけたことで暴走しているのだとネルカは推測した。しかも、その内容はダーデキシュはマリアンネとは別の女性が好きだと、勘違いさせてしまうものなのだろうとも。
実際、彼女の推測は正解である。
(でも…たったそれだけのことなら、きっとオドラ様が仲介してくれているはず…。ということは、私の推測よりももっと複雑なことが起きている、そう考えるのが妥当か。)
しかし、あろうことか、彼女は別の結論へと至ってしまった。
ちなみに、オドラもオドラで彼女が何とかするはずなのにと思ったことで、事態を重く受け止めてしまっており、そのせいで何も言えずになってしまっていた。しかし、両者はそんなことを知らない。
(周囲をどうにかしようと思っていたど、やっぱり当人たちをどうにかするのが先だったか…。さて、どうしようか…。)
ネルカはアイナを見た。
それはもう、普段のアイナからは想像もできないほど、乙女丸出しのキラキラした目でネルカをじっと見ているのだ。放っておいたら何をしでかすか分からない、ネルカは悩んだ。
(アイナ様もデイン殿下とすれ違っていたような人だし、今はこんな感じだし…任すのはちょっと不安だ…。だいたい寝取り大作戦ってなんだよ…淑女がしていい発想じゃないって…。)
デインとアイナの一件では彼女たちも『そっち側』だったわけだし、今だって男装するなんて暴走もしているのだが、ネルカは自分のことは棚に上げ、冷静に目の前の二人を見ていた。
「分かった。僕からも探りを入れておくよ。」
だから、勝手に動かないように。
そう答えるしかなかった。
そのことに気が付いたマリアンネは、あの日からまともにダーデキシュと会話をすることができなくなってしまっていた。さすがに研究室に行かないという選択を取るわけにもいかないのだが、どんな顔をしたらいいか分からない。また、オドラもどう声を掛けるべきなのか分からず、部屋の空気はどんよりしていった。
「はぁ…アタシ…どうしよう…。」
そうして、とある休日。
マリアンネは王宮庭園にて、桃色の花をツンツンと突きながらイジけていた。護衛や侍女たちが心配そうに見守る中、彼女に近づく一つの人影があった。
「マリアンネさん? 大丈夫でして?」
その人物はアイナ・デーレン。
デイン殿下の婚約者である。
「あっ! お、お久しぶりです! アイナ様!」
「そうですわね、お久しぶりですわ。」
「どうして王宮…って、殿下ですか?」
「そうですの! 今後、ワタクシの王子妃教育も本格的になりますので、こうして王城でお会いする機会も増えますわね! え、えっと、その…今は暇ですし…御茶でもしませんこと?」
返事を待たずしてネルカの腕を取ったアイナは、ぐいぐいと引っ張って近くのガゼボへとマリアンネを連行していく。優秀な王宮な侍女たちは指示もないのに、茶のための準備を開始していた。
「それで? お元気ありませんわね。どうか致しまして?」
「い、いえ、アイナ様に聞いていただくような話では…。」
「あら、ワタクシたち、お友達ですわよね。」
「うっ………あのぉ、アタシ…失恋したかもしれないんです。」
マリアンネはすべてをアイナに曝け出した。
自身がダーデキシュが好きで学園に入ったことから始まり、魔力を使うことが出来るようになり今は近くにいることが増えたことまで話した。アイナ及び周囲の人たちは、他人の甘酸っぱい恋愛話にキュンキュンとなっていた。
しかしながら、仮爵の話になると一転、まるで自分の事のように共に悲しむことになってまう。それでも、アイナだけは力ある目でマリアンネを見つめ、何かを決心したのかガタッと立ち上がった。
アイナはマリアンネの両手をガッシリと握った。
「あなたはワタクシの恩人。命の恩人でもあり、恋の恩人でもありましてよ! ここで返さないで、いつ返すと言いますの! それに、あなたはマーカス殿下の養女、ならば将来はワタクシの!」
「で、ですが、ダーデ様には想い人が…。」
「ご安心くださいまし。ワタクシに妙案がありますわ!」
アイナはそう言うと握っていた手を離した。
そして、近くの椅子に足を乗せ、空を指差す。
はしたないと怒る者はいなかった。
「寝取った者勝ちですわぁ!」
こうして、ダーデキシュ寝取り大作戦が始まった。
― ― ― ― ― ―
戦いの基本、まずは情報戦。
ダーデキシュを知ることから始まる。
ということで彼女たちはネルカの元へ突撃した。
「ネルカ様? 少し、お時間よろしいかしら?」
「おや、アイナ嬢。今の私はコルネルと呼ぶようお願いするよ。」
相変わらず男装しているネルカ。
彼女は騎士の訓練場におり、若手たちを指導していた。
そして、彼女たちは端の方へと移動した。
ちなみに、ネルカがどうして男装をしているのか、どうして王宮騎士団の服を着ているのか、どうして指導側に立っているのか――アイナは聞きたいことは山ほどあったが、周囲が当然のように過ごしているので無視することに決めた。
「ネル…コルネル様。単刀直入にお聞きしますわ! あなたのお兄様の好きな方は、どこのどなたでございまして! 寝取り大作戦を決行致しますわよ!」
「え~っと…ナハス兄さんかい?」
「ダーデキシュ様ですわッ!」
「ダーデ兄さんの好きな人…それって…。」
マリじゃないのか?――とネルカは言いかけてやめた。
誰がどう考えても、相手はマリアンネだ。
見たことがある人なら一瞬で分かる。
それほどのイチャイチャ具合なのだ。
他の人が好きなど絶対にありえない。
(だけど、言っていいのか…コレ…。)
ダーデキシュとの間に何かがあって落ち込んでいたマリアンネを、アイナが見かけたことで暴走しているのだとネルカは推測した。しかも、その内容はダーデキシュはマリアンネとは別の女性が好きだと、勘違いさせてしまうものなのだろうとも。
実際、彼女の推測は正解である。
(でも…たったそれだけのことなら、きっとオドラ様が仲介してくれているはず…。ということは、私の推測よりももっと複雑なことが起きている、そう考えるのが妥当か。)
しかし、あろうことか、彼女は別の結論へと至ってしまった。
ちなみに、オドラもオドラで彼女が何とかするはずなのにと思ったことで、事態を重く受け止めてしまっており、そのせいで何も言えずになってしまっていた。しかし、両者はそんなことを知らない。
(周囲をどうにかしようと思っていたど、やっぱり当人たちをどうにかするのが先だったか…。さて、どうしようか…。)
ネルカはアイナを見た。
それはもう、普段のアイナからは想像もできないほど、乙女丸出しのキラキラした目でネルカをじっと見ているのだ。放っておいたら何をしでかすか分からない、ネルカは悩んだ。
(アイナ様もデイン殿下とすれ違っていたような人だし、今はこんな感じだし…任すのはちょっと不安だ…。だいたい寝取り大作戦ってなんだよ…淑女がしていい発想じゃないって…。)
デインとアイナの一件では彼女たちも『そっち側』だったわけだし、今だって男装するなんて暴走もしているのだが、ネルカは自分のことは棚に上げ、冷静に目の前の二人を見ていた。
「分かった。僕からも探りを入れておくよ。」
だから、勝手に動かないように。
そう答えるしかなかった。
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