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幸せな日

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 朝目覚めると、隣のベッドでジョシュアがぐっすり寝ていた。カーテンの隙間から日差しが舞い込み、ジョシュアの少しカールした前髪とまっすぐに通った鼻筋と、長いまつ毛を朝日が浮き上がらせている。

 私の鼓動は跳ね上がる。

 昨日プロポーズされて、オリヴィアたちの大聖堂で結婚式を挙げさせてもらったことを思い出した。こんな綺麗な男性は見たことがないと思う。寝ているジョシュアの表情には屋敷で再会した時の険しさや暗さはもうない。

「なあに?」

 ふと目を覚ましたジョシュアが、ゆっくり微笑んで私を見つめた。ジョシュアの瞳の中に私が煌めくように映っているのが見える。綺麗で魅惑的なペガサスの瞳に吸い込まれそうな気持ちになり、私は心臓が止まりそうになる。今、私の瞳は龍の輝きを放っているのかもしれない。

「おはよう、俺の奥さま」

 ジョシュアは嬉しそうに、でも恥ずかしそうに頬を一瞬赤らめてささやいた。私も身が震えるほどのときめきを感じて、シーツに突っ伏して恥ずかしがってしまう。

 嬉しさも過ぎると、耐えられないほどの喜びが襲ってくるのだと生まれて初めて知った。

 小鳥の羽ばたきのような軽い口付けをして、私たちは朝食の席に向かった。山合宿の朝とは大違いだった。フルーツ大盛りにジュースに肉料理に卵料理と、濃厚なバターに焼きたてパン、甘いケーキと続き、王妃と国王の食事と変わらないレベルで朝食を食べることができた。

 今日の夜もワールドツアー第二夜のコンサートが開幕する。今日は少しだけ音合わせの予定が入っていた。朝食の席で、私は頭の中で王妃としての務めを組み立てていた。どうやったら短時間でたくさんの量をこなせるかを考える。とにかく、王妃としての国務を抜かりなく行うことで、私がバリイエル王朝の王妃となることへの不満を減らせるのだ。私は真剣だった。

「おっ!ロンドンとパリの公演が追加になったわよ。おっ……セレブリティからメッセージが来ているわ。ホテルはもっとグレードアップよっ」

 メロンは上機嫌でしきりにぶつぶつ言いながら、朝食の席で何か四角い小さな板を持って指で操作していた。スマホというものだと、小声でアイラが教えてくれた。

 私はジョシュアの隣で朝食を食べながら、時々ジョシュアと意味もなく目を合わせて新鮮な幸せに浸った。世界が輝いて見える。気をつけなければ、過去の辛いな思いを忘れてしまって、歌の魔力を発揮できなくなりそうだ。

「そうだわ。インスタにあげる動画を撮るから、ジョシュアとグレースはウィンクと投げキッスの練習をして」

 ブドウを次から次に口に放り込みながらメロンが私とジョシュアに微笑みながら言った。

「ウィンクと投げキッス?」

 メロンの指示に従って、朝食の後に私とジョシュアはウィンクと投げキッスの練習を繰り返した。今までやったことはなかったが、ミラとオリヴィアの指導で完璧にできるようになった。

 そしてメロンの掲げるスマホに向かって、ファンへのメッセージを話してウィンクをして、最後に投げキッスをした。

「素敵すぎるわ……」
「心がときめくわよね」
「二人一緒に並ぶと無敵ですね……」

 メロンは今日も地味なスーツを着てひっつめ髪に眼鏡をかけていたが、私たちの動きに大満足したようだった。メンバーも一緒に動画というものを撮ったのだが、出来上がったものをメンバーも口々にみな絶賛してくれた。

 こうして時間は過ぎていき、私は自分の指に輝く指輪が目に入るたびにジョシュアの妻となった喜びにふわふわとした高揚感に包まれて、リハーサルに向かった。

「コンサートの映像が売れたのよ。さすが凄いわ」

 メロンがぶつぶつ呟いている姿を背に、私とジョシュアはリハーサルに余念がなかった。金塊の契約を一刻も早く果たそうとより一層気合が入っていた。

 リハーサルの合間に手を繋いでカフェにも行って、飲み物を注文して二人で飲んでみた。初めての経験だった。

「それはデートよ」

 栗色の巻毛のミラがこっそり教えてくれた。私の心は浮き立った。何かをするたびに手にした指輪が目に入り、ジョシュアのプロポーズを受けたことを思い出して幸せに浸る。

 恋の行方に打ちひしがれて公爵家の部屋に泣いてひきこもっていた自分に、今の幸せを教えてあげたいと思った。

 夕刻になって城に戻ると、私とジョシュアはたまっている国務に一心不乱に打ち込んだ。未来の国のために学校は建てなければならないし、貧しい家の補助もしなければならないし、農作物が無事に育ち、国の食料は十分に確保できるのか、災害が出ている場所への救助派遣や、あらゆることを手分けして決めていかなければならない。

 バリイエルによるチュゴアート一門への嫌がらせや不当な扱いがないかも、私は詳しく報告を受けた。せっかくジョシュアが国王になったのだから、今度はクーデーターを起こされてしまうような政権にはしたくなかった。どんな家に生まれようとも、皆に平等にチャンスが与えられて幸せになれる国を目指そうと私は決めていた。家と家の間で結婚が禁止されるのもやめとほしいと思っていた。

「奥さま。そろそろどうかな?」

 ジョシュアが王妃の執務室にドアをノックして入ってきて、私の唇にキスをして聞いた。

「あぁ、もう少しだけ仕事を片付けたいのよ」

 私は今まで見ていた書類にサインをして決済箱に入れた。

 椅子に座った私は首筋をゆっくりと撫でられ、そのままジョシュアに肩を揉んでもらった。
 
 凝り固まった体がほぐれて幸せな気持ちだ。
 
「コンサートが始まるから本当に戻ろう」
「そうね」

 私はジョシュアに手を引かれて立ち上がり、くるっと体を回転させられて体をピタッとくっつけてワルツを踊った。抱き抱えられてジョシュアの瞳を見上げる。

「毎日こんな日々が続くなら、本当に幸せだな」 

 ジョシュは私にウィンクをした。それは膝が崩れ落ちるほどの、心を撃ち抜かれる破壊力のあるときめきに溢れていた。

「本当に」
 
 1時間後、ワールドツアー二日目のコンサートが華々しく幕を開けて、私たちは信じられないほどの喝采を浴びた。着実に私たちは金塊の契約を果たせるほどの大スターに近づいて行った。
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