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第64話 魔法の説明をしよう

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 お城の入り口にいたのは『クマパン』店主のジョエルさんだった。なぜここに!?

 近づいてきて僕の背丈に合わせるようにかがんで聞いてきた。

「ニコ? 女物の制服着てどうしたんだ?」

 理由が有るのだろうと配慮してくれているのかな? でも迫力ある顔がものすごく近い。

「それは着させられたんですよ……でも、どうして僕だと分かったんですか!?」

 かつらも被っているからすぐには分からない! ……と思ったのに!! 

「変装のつもりだったのか!? 背丈も顔も雰囲気も同じじゃ分かるぞ!」

 気にしてなかった……変装にはなっていないですか。

「今日は魔法研究所のお手伝いでお城に来ました。ジョエルさんは?」

「あぁ、パンの納品とちょっと運動、だな」

 気付けばジョエルさんの少し後ろに騎士たちが並んで敬礼をしていた。
 僕が元近衛騎士隊長だって知らないって事でいいんだよね……。

「じゃ、俺は店に戻る。ニコ、パン買いに来いよ!」

「はい! ぜひ!」

 手を振り去っていく……と思ったら振り返り、

「ニコ、その格好、似合い過ぎだぞ! じゃあな!!」

 サムズアップですか! 褒めてもらったけど微妙です!

「ニコ、超絶美少女なのに苦笑いは可愛くないぞ」

 レインさんまで!?

「それはいいですから、さっさとお仕事しましょう!」

「誤魔化さなくていいのに」

 とにかくお仕事を早く終わらせないとマズい。知った顔にこれ以上会いたくない。

 ジョエルさんを見送っていた騎士たちの声が聞こえた。

「ニコって子、美人だな!」
「絶世の、ってあの子の為にあるんだな!」
「隊長と仲が良さそうだったから紹介してもらうか!?」
「お前じゃ無理だ! 俺も無理だが!」


 ……盛り上がるのは勝手だけど僕、男ですからね!?

 ……繰り返しますが男ですからね!?

「性別はいいから行くよー」

 レインさんに首根っこを掴まれて引っ張られる。

「また、心を読まれている!?」

「顔に出ているんだよ。顔に」

 ……そうでしたか。


 城内に入るとたくさんの人が忙しそうにしていた。
 どの人も走る事無く、優雅な身のこなしをしているのはさずが王城だと思える。
 思わず見入ってしまった。

 結構長いこと歩き、大きな扉の前でレインさんは止まった。

「ここですか?」

「そう。部門長だけならいいんだけど……」

「え?」

 扉が開かれた。



 中は広い会議室のようで十人以上がテーブルに着いていた。知った顔は……いた。

 シュバリア公爵!

 そういえばこの国の宰相だった!
 いてもおかしくはないか……バレないようにしよう! 公爵からアーカムさんに知られて「まるいひつじ亭」に話しが広まったら大変だ!

 公爵から見えにくいようレインさんに隠れるように立つ。公爵はこちらを見ているが何も言ってこないという事は僕だと気付いていないと思われる。思いたい。

「レイン、よく来てくれた。上級と思われる魔法の決裁について早速概要を教えてくれ……その前に隣にいるのは? うちの職員にいたか?」

 少し長い黒髪で険しい顔をした男の人がこちらを見ている。

「はい。補助で入ってもらっているニコ……」

 僕はとっさにレインさんの裾を引っ張った。察してくれたようだ。

「……ニコルです」

 僕はペコリとお辞儀をする。

「ニコル、君が査定したんだね?」
「(こくん)」
「ん?しゃべれないのかね?」
「ワタシガサテイシマシタ」
「他国の者かね?」
「(ボソリ)私が査定しました」
「しゃべれるなら大きな声で!」

 会議室が静まった。

 高い声で誤魔化せるかな? 女性っぽい声なんて出したこと無いよ!? でも一か八か……。

「ふふ」

 誰かの、

「ははっ!」

 笑い声が響いた。

「公爵……様……?」

 思わず僕は声を漏らす。

「はははっ! あ、ニコ、笑ってすまない。その格好には事情があるんだろう? 誰も言及させないから普通にしてくれ」

「気付いてらしたんですね……」

「それは、化粧をしてなければニコそのものだからな! 化粧をしても分かるだろうがな」
「この格好について他意は無いので改めて説明させて頂きます……ここにいる方以外には他言無用でお願いします」

 ペコリと頭を下げる。

「ここにいる者は大丈夫だ。ニコ自身が気をつけていれば、な」

 そこから、公爵様は僕との繋がりを娘のミリア様の病気を僕が直した事を要所要所ボカしながら説明してくれた。

「おおよその話しは聞いていたけれど、ニコだったんだね……」

 レインさんは少し驚いていた。少しだけ事情は知っていたようだ。

「なるほど、君だったのか。詳しいことを聞きたいと思っていたが、今日は魔法についてだ。早速説明を」

 部門長は事務的に進めてくれるみたいで助かる。

「はい。説明させて頂きます」

 気を取り直し、背筋を伸ばして巻物の魔法について説明をする。

「魔法の名称は『グラビティ』(ピカッ!)と言いまして……!?」

 あ、魔法名を言った瞬間、部屋が発光してる!
 もしかして魔法が発動する!?

『今の無し!』

 ……光が止まった。良かった!

 皆さん、こちらに注目しながら固まっている……。

 フォローしないと!

「えーっ、と、ですね。実践するには屋内は危険……です」

「ニコ、今、何か詠唱したか? それもとその魔法は名称だけでよいのか?」

 部門長さん、そこに食い付きます!? 食い付くか……。

「詠唱は必要です。相当長い……です」

 レインさんが補足? をしてくれた。

「僕はたまたまだと思います……ははっ!」

 笑って誤魔化せるかな?

「シェール卿、今はそれについて触れないでくれ、長くなる」

 公爵様がフォローしてくれた。シェール卿? スキル『鑑定』。

>ギルレイ・シェール:魔法研究所 魔法部門長。シェール伯爵家当主。厳しいように見えるが表情だけで実際は優しい。魔法が好き過ぎて、談義になると力尽きるまで話し続ける。


 ……根っからの魔法マニアですか。

「公爵様、ありがとうございます。部門長、落ち着いた頃に改めてお話させてくださいね」

「……分かった。では演習場に行こう。見たい者は来て頂いて構わない」

 部門長が率先して立ち上がり、部屋を出る。

 レインさんと僕もお辞儀をして出ていこうとしたら他の方々も「気になる」と言って続いて出ていった。公爵様も見られるようだ。

「ニコ、さっきの私も驚いた。詠唱無しで使えるものなの?」

 レインさんが聞いてきた。聞きたいですよね……。

「まあ、それは改めてで、お願いします!」

 笑って誤魔化そう!

「むむ……しょうがないなぁ」

 誤魔化せた!?

「その代わり次にお手伝いに来る時も『ニコル』だからね!」

「そ、それは……」

 他の人に見られるのはやはり抵抗感じるな。

「急ぐよ! 私達が準備しなきゃいけないし」

 レインは早歩きを始めた。


 やはりお城の中は走っちゃいけないんだね。
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