Dreamen

くり

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第一部 罪人の涙

クピドとプシュケ 3

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「魔追さん、大丈夫ですか」
 すいません、オレ、創造へたくそで、とそんごは代わりに藁を集める。ありがたく受け取って膝にかけると、少し暖かくなったような気がした。
 ここはけものの城の馬小屋だ。馬はおらず、代わりに魔追達が隠れている。馬小屋なのになかなかしっかりした造りだ。魔追とそんごは一番奥の隅に並んで座っていた。向かいには追夢がいて、壁にもたれかかって目を瞑っている。この馬小屋に逃げ込むなり、もう一度調べ直すと言ってからずっとあの格好だ。自分にできることをしているだけと言うのだろうが、その素っ気なくもさりげない気づかいに自然と頬が緩んだ。
 良い妹がいて、後輩がいて、友達がいて、自分は本当に恵まれているなあと思う。恵まれすぎていて、もったいないくらいだとも思っていた。
 魔追は臆病なのだ。
 魔追は友達がいなかったわけじゃない。ノアが来る前は四、五人のグループでよくつるんでいたし、小学校の友達とも今も年賀状のやりとりをしている。仲良しだ。自信を持ってそう言える。
 だが、仲良しなのと心を許せるのは少し違う。
 もちろん、なにもかも――例えば、引き出しの奥に隠してある秘密ボックスの中身など――を教える気はないし、知られたくもない。魔追はこれまでに夢のことを誰かに知ってほしいと思ったことはあった。あったが、話すことはなかった。
 彼らとノア達の違いは、タイミングだろうか。
 追夢を飽きもせずじっと見つめているそんごを見て、違うな、と思った。
 オレは言い訳をしていただけだった。
 理解者がほしかったのなら、自分から歩み寄ればよかったのだ。そうしなかったのは、魔追の弱さだ。知られることを、そして知ることを恐れた。挙句の果てに、信じてもらえるわけがないと思い込んでいた。
 ノアは信じてくれた。魔追にはない勇気を持っていた。ノアが勇気を分けてくれたから、魔追は今ここにいる。
 ノアのようになりたい。
 そのためには、魔追はあのアリスを倒して無事に帰らなければならない。
 この一週間でたくさんの花粉をばらまいてきたあいつを。
 夢視師と人間の先を行こうとしているあいつを。
 魔追は震えを抑え込むように肩を抱いた。
 本間美伽。
 単純な力比べなら魔追の方が上だ。だが、美伽は中途半端に強い。無理に抑え込もうとすれば、どちらかが壊れてしまうかもしれない。
 できるのだろうか。
「魔追さん? 寒いですか?」
 はっと顔を上げたら、そんごがもぞもぞと膝の上に乗ってきた。魔追をソファー代わりににしてくつろぎ始めるが、触れた部分から藁よりも確かな熱が伝わってくる。
「……あったかい」
「オレもですー」
「お前……」
「はい?」
「確か、お兄さんいたよね?」
「はい」
「こういうこと、普段からやってるの?」
「や、やってませんよ! 恥ずかしいじゃないですか!」
「え、じゃあ、なんで?」
「あれ? なんででしょう?」
「自分のことだろ?」
 そんごは振り向き、つぶらな瞳をきょとんとさせてくる。なんとなく目を逸らしてしまった。
 そんごも同じだ。
 そんごが嘘を付けないのはそういう性格だからだが、彼には相手を信じきれる真心がある。本当に、本当に魔追にはもったいない後輩で、仲間で、友達なのだ。
 そんな彼らに魔追ができることなんてあるのだろうか。
「やっぱり、人徳じゃないですか?」
「じ、……」
 思いがけない言葉に、魔追は一瞬なんのことかと呆気にとられた。
「人徳?」
「魔追さんがいると、なんか落ち着くっていうか、安心感っていうか、そんなのありますよね」
「ね、て言われても……」
「追夢さんもそう思って、いつも魔追さんに色々任せているのかと、オレはてっきり」
 魔追は息を呑み、微動だにしない追夢を見た。
「なんだかんだ言われてますけど、それはそれで魔追さんには貫禄みたいなのありますしね」
「ああ……うん」
「す、すいません。オレ、言い方へたくそで」
 首を引っ込めるそんごの頭に、魔追は手を置いて首を振った。
 そうだ。言われなくても、魔追は分かっていた。自分がどういうふうに見えているのかよく知っていて、それを踏まえて行動してきたはずだった。
 ふうう、と長く息を吐き出した。不安は残る。でも、魔追はいつも通りに頭を働かせてちまちまやるしかないのだ。一足飛びに成長できるほどの才は、残念ながら持ち合わせてはいないのだから。そこまで考えると、どうしてあんなに考え込んでいたのか分からないくらいに頭がすっきりして、慣れることはしたり考えたりするものじゃないな、と魔追は小さく笑った。
 見計らったかのようなタイミングで――おそらく、そうなのだろうが――追夢が目を開ける。その表情が微妙なものとなり、それからだんだんと軽蔑のこもったものへと変化していった。
 はっと硬直し、慌てて膝から下りようとしたそんごの腕を魔追は掴んだ。
「ま、魔追さん!?」
 焦って目を白黒させるそんごの腕を操り人形のように動かす。そして、最後に二つの円を描くように両手を頭のてっぺんに当てて、
「うっきーっ」
「目障りだ即刻消してやる」
「いや、待って、冗談ッ――!!」
 リンチ。
 ……数分後、魔追とそんごはぐったりと藁の上に倒れ伏していた。
「魔追さん……ひどいですよ……ていうか、こうなるって分かってたじゃないですか……」
「ごめん。お詫びに笑いとった方がいいかな、と……」
「ですよね……魔追さんらしいです。でも、オレのことも考えて……」
「……ごめん。マジでごめん」
 そんな会話を交わしつつ、二人とも日頃の暴虐でかなり鍛えられているので、いそいそと起き上がって正座した。
「えっと、追夢」
「なんだ親猿」
 仁王立ちする追夢のこめかみがぴくぴくしている。魔追は震えあがってもう一度謝罪すると、それから言った。
「また、いつもの創ってくれる?」
 追夢は暫し無言で魔追を見つめ返したが、すっと両手を掲げた。そこには、装飾のごてごてしたいつもの大剣があった。魔追は立ち上がって柄を握ると、軽々と肩に担いだ。弩より軽いが、ずっしりと手に馴染む。長い付き合いだ。相棒と言ってもいいかもしれない。
 負けない。
 負けてたまるか。
 視線が合うと、追夢はしっかりと頷き返してくれた。
「追夢。それで、どうだった?」
「今回の原因は、恋愛じゃない」
 追夢は断言した。
「現実逃避だ」
「これが、ですか?」
「そして、もう一つ」
 そんごはさらりと無視される。
「こいつは間違いなく耐性のある者。これまでの感染もたぶん同じモチーフを使って、自分でアリスを倒してる」
「倒す……? 追い出すんじゃなくて?」
 めげずに声を上げるそんご。それもやはり、無視された。
「まだ一体の花粉も外に出て行ってない。夢に閉じ込めて、ストレスを解消したところでまとめて押し潰す気なんだと思う。そういった意味では、こいつにとって私たちは完全にイレギュラーで、邪魔者」
「あ、だからさっき魔追さんに斬りかかったんですね!」
「排除する気満々、てことか」
「そういうこと」
「え? あの、追夢さん……?」
 そんごの声が泣きそうなものになっていく。
「つ、追夢さ」
「じゃあ、やっぱり、さっきのはその意思の表れってことなんだな?」
「気づいてたか」
「たったいまだけどね」
「つ」
「けど、今回のストレスじゃ時間がかかる。私たちが終わらせないと」
「そうだな……。このまま放置したら、また同じことやらかしそうだしな」
「……」
「……」
「……」
「……あのさ、追夢」
「なんだ」
 耐えきれなくなって、魔追はとうとう口を開いた。
「そんごが、この世の終わりみたいな顔してる」
「ふうん」
 ようやく、追夢の視線がそんごに向く。一縷の希望に、そんごは目を輝かせた。
「追夢さんっ……!」
「あら、ぼくどこの子?」
「追夢さああああああああああああああああーーーーーーんっ!?」
 完全に余所行きの猫なで声に、そんごはついに泣き崩れた。悲哀に満ちた絶叫に、こいつも筋金入りだよな、なんて思っていると、追夢が小屋の入り口を振り返った。
「来た」
「追ってきたのか」
「好都合だ」
 いつになく好戦的な態度で唇を舐めてみせる。魔追は呆れつつ、つられてにやりと笑った。
「そんご」
 めそめそするそんごに手を差し出す。
「ほら、行くぞ」
「……あい! 行ぎまず! 追夢ざんにっ、ううっ、追夢ざんに認めてもらえるように頑張でぃまずうう!」
 ぐしぐしと鼻を鳴らす。情けない姿に、追夢はただふんと鼻を鳴らした。
 外は相変わらずの雪だ。だが、どことなく温かい。
 雪解けはもうすぐだ。










「お父さん!」
 商人が家に着くと、娘たちが駆け寄ってきた。もう限界だった。商人はわっと泣き出してしまった。
「お父さん? どうしたの?」
「しっかりして、お父さん」
 三人は父親を抱えて家の中に入った。父親はひとしきり涙を流すと、ふと握り続けていたばらの枝に目をやった。美しい娘や、と末娘を呼んだ。
「ほら、ばらだよ。――でも、悲しいことに、このばらはお父さんにとってはとても高くついたんだ」
「どういうこと?」
 父親は己の身に起こった不幸を物語った。自分はばらを取った代わりに、自分の命か娘の命を差し出すように言われたのだと。二人の姉は大声で泣いたが、美しい娘は泣かなかった。二人は美しい娘を睨み、罵った。
「まあ、なんてこの子は高慢ちきなんでしょう。わたしたちみたいに、装身具か何かお願いできなかったの。できないはずだわね。お嬢様は何か特別変わったものがお望みだったのね。お父さんが亡くなったら、いくらなんでも良心がとがめるでしょうに、泣きもしないなんて」
「どうしてお父さんのことを悲しんで、泣かなければならないのでしょう」
 美しい娘はきっぱりと言い返した。
「お父さんが死ぬなんて! 死ぬはずはありません。その怪物は、娘のうちだれかひとりが来るのを望んでいるのでしょう。だったらわたしがまいります。わたしはお父さんが大好きです。そうやってこの気持ちのあかしをお見せできるなら、どんなにうれしいことでしょう」
 美しい娘の大きな心に父親は胸がいっぱいになり、その犠牲の申し出を断った。
「わたしは年をとって、これから生きたとしても、そう長くはないのだから。だから美しい娘や、城にはわたし一人で行くよ」
「いいえ」
 しかし、美しい娘は耳を貸さなかった。
「お父さんがいなくなって、その悲しみのために死ぬよりも、怪物に食べられてしまうほうがまだましです」
 美しい娘が父親と一緒に家を出るとき、悪い姉達は目にたまねぎをこすりつけて泣いた。父親も泣いた。末娘は父親の悲しみをこれ以上大きくしたくなかったので泣かなかった。夕方近く、明かりのともったお城が見えてきた。
 商人は娘と大広間の中へ入っていった。広間には二人分の素晴らしいごちそうが用意されていた。商人はとても食べる気にならなかったが、娘は努めて落ち着いているように見せようと思ったので、進んで食卓についた。食事が済むと、すさまじい物音がした。けものがやって来た。美しい娘はけものの恐ろしい顔に怖くて震えたけれども、できるだけ気持ちを落ち着かせた。けものが尋ねた。
「ここへは、自分から進んで来たのですか」
「そうです」
「あなたは、やさしい心を持っている。お礼を言います。ところで、お父さんはあすの朝帰りなさい。二度とこなくてけっこうです。ではおやすみ、娘さん」
「おやすみ、けものさん」
 怪物は見えなくなった。商人は、美しい娘を胸に抱き寄せて叫んだ。
「ああ、恐ろしくて、いまにも死にそうな気持だ。でも、ここに残らなければならないのは、このわたしなのだよ」
「とんでもないわ、お父さん。お父さんはあすの朝帰ってください。わたしのことはわたしの運にまかせましょう」
 その夜、夢に一人の女が現れ、美しい娘に向かって言った。
「あなたは、やさしい心を持っています。お父さんを助けるために自分の命を捧げようとしているあなたには、きっと良い報いがあるでしょう」
 あくる朝、美しい娘はこの夢のことを父親に話した。それを聞いて少しは慰められたような気がしたけれども、いよいよ別れなければならない時が来たとき、父親は胸が張り裂けんばかりに激しく泣いた。
 父親が帰ってしまうと、美しい娘も広間に座って泣き始めた。しかし、なかなかしっかりしていたので、残った短い時間を泣きながら過ごしてはならないと心に決めた。娘はお城の中を見て歩いた。
「美しい娘のおへや」と書かれたドアがあった。中には、本がぎっしりと並べられてあり、それにピアノと、何冊かの楽譜も置かれていた。一冊の本を開けてみると、金の文字で「してもらいたいことは、命令しなさい。あなたはここの女王さまで、ご主人さまです」とあった。
「わたしがしてもらいたいことといっても、お父さんに会いたい、いま、お父さんが何をしているか知りたい、ということだけなのに」
 すると、大きな鏡に自分の家が映っていて、ちょうどいま、父親がすっかりしょげきって帰宅したところだった。出迎えた姉達は、悲しそうな顔は作っているけれども、妹がいなくなった嬉しさは隠しようもなかった。ほんの一瞬のことだった。
 夕方、食卓につこうとすると、けものの動く物音がしたので、娘はわなわな震え始めた。
「美しい娘さん。食事のとき、わたしが姿を見せてはいけないでしょうか」
「あなたは、ここのご主人なんですから」
「いいえ、ここには、女主人しかおりません。それは、あなたです。もしお邪魔でしたらそうおっしゃればいいのです。すぐ出ていきますから。ところでおっしゃってくださいませんか。わたしはやはり醜いでしょうか」
「そのとおりです。うそは申し上げられませんから。でも、あなたは、たいへんいいかただと思います」
「おっしゃるとおりです。しかし、醜いことはしかたがないとしても、わたしは、頭だって良くありません。自分がただのけものにすぎないことは、わかっております」
「頭が良くないと思うなんて、その人はばかでないということでしょう。ほんとうにばかな人なら、そんなこと考えもしないでしょうから」
「ともかく、召しあがってください。この家でたいくつしないように、なんとかやってみてください。ここにあるものは、みんなあなたのものですから。もしご満足いかないとしたらわたしが悲しい思いをします」
「あなたは、とても親切なかたです。ほんとうのことを言いますと、あなたがいいかたなので喜んでいるのです。あなたの良い心のことを考えたら、とても醜いなんて思われなくなります」
「そう思ってくれますか」
 美しい娘は大きくうなずいてみせた。
「わたしは、良い心を持っています。しかし、やはり怪物には変わりありません」
「あなたよりも、もっともっと悪い怪物の人間がおおぜいいます。人間の顔のかげに、いんちきで、うそつきで、恩知らずの心を隠している人たちよりも、そんな姿をしていたってあなたのほうがずっと好きです」
「もし、機知のある男なら、うまいお世辞を使って、お礼をのべるところですが、わたしは、ばかです。わたしの言えることは、あなたにたいへん感謝しているということだけです」
 美しい娘は、おいしく食事をした。もう、けものが怖いとは思わなくなっていた。しかし、けものが「わたしのお嫁さんになってくれませんか」と尋ねたときは、死ぬかと思うくらいにびっくりした。
 やがて、震えながらこう答えた。
「いやです」
 どなるような、ものすごい声が宮殿中に大きく響き渡った。けものは溜め息をつくつもりだったのだった。まもなく、けものが悲しそうに「では、おやすみ」と言ったので、美しい娘は、ほっとして胸を撫で下ろした。
 怪物は、ときどき名残惜しそうに振り返って美しい娘を見ながら、広間から出ていった。




 うたいましょう ユメのように
 おどりましょう ユメのように
 いやいや これはユメなのだ
 いやいや ここがユメなのだ
 なにをしても ユメだから
 なにがあっても ユメだから
 うたいましょう ユメだから
 おどりましょう ユメだから




「……みかちゃん、いっしょに遊ぼうよ」
「いいよ」
 美伽は頷いた。
「じゃあ、学校終わったら、南門に集合ね。どこで遊ぶ?」
「あ、うち来る? お父さんが新しいゲーム買ってくれたの」
「それ知ってるっ。いいなあ」
「いっしょにやろうよ。通信できるから」
「じゃあ、めいちゃんちね。みかちゃん、知らないよね」
「うん」
「じゃあ、いっしょに行こうね。またあとで、南門だよ」
 美伽はぼんやりと頷いた。
 どこか上の空だった。
 置いてきぼりだった。
 それでも構わないと、ぼんやりと思っていた。
「みかちゃん、こっちだよ」
「あれだよ。あれ、うちんち」
「おじゃましまーす!」
「お母さーん、ただいまー」
「いらっしゃい。ジュース何飲む?」
「コーラとオレンジとリンゴがあるよ」
「コーラが三つ、オレンジが二つね」
 初めての誰かの家は、知らない匂いがした。
 めいちゃんの匂いがしていた。
 めいちゃんの部屋は、いちばん、めいちゃんだらけだった。
 どこもかしこも、めいちゃんだった。
「じゃーん、『カステイランド』!」
「はやくやろー」
「みせてー」
 カステイランド。
 聞いたことがある。
 確か、カス・テイラー氏のゲーム。
 ボンジュール! と渋い声が流れた。
 きゃあっ! と笑い声が上がった。
 ボンジュールって、フランス語なのに。
 思ったけど、気にならなかった。
 みんなの隙間から顔を出して覗き込んでいた。
「みかちゃん」
 肩を叩かれた。
「みかちゃん、TS」
「え?」
「TS。通信できないよ」
「ぁ……」
 心臓をきゅっと掴まれた気がした。
 言い訳するかのように目が動いた。
 そんなつもりはなかった。
 美伽は、やはりぼんやりしていたのだと思う。
「……ごめん。持ってない」
「ええー!」
「やるって言ったじゃーん!」
「ごめん。言うの、忘れてた」
「なにそれ? あ、もしかして壊れちゃったとか?」
「ううん。そうじゃなくて。持ってなくて」
「あ。そーゆーことかあ」
「じゃあ、しょうがないねー」
「みかちゃん、もっとこっち来なよ。見える?」
「あとでやらせてあげるね」
「……うん」
 痛かった。
 怖かった。
 何がは分からない。
 ただ、痛くて、怖かった。
 胸が詰まった。
 何も悪いことしてないのに。
 肌がぴりぴりとする。
 浮いている。
 後悔した。
 こんなところ来なきゃよかった。

 じいっ、とめいちゃんのTSの画面を見つめていた。
 ひたすら見つめていた。


 あなたのたのしい ワールドを
 あなただけの ワールドを
 すべてゆるされる ワールドを
 じゆうのための ワールドを
 つくって ワールド
 きずいて ワールド
 さかえて ワールド
 まもって ワールド


「みかちゃん、いっしょに遊ぼうよ」
「……うん」
 返事は僅かに遅れた。
 仕方ない。
“いっしょ”には遊べないのだから。
「ボンジュールって」
 口が動いていた。
「フランス語だよね」
「うん」
「それが?」
「カステラは、スペインのおかし」
「そうなの?」
「オランダじゃないんだあ」
 美伽は口を開いた。
 暗い満足感と後悔があった。
 止まれなかった。
「変だよね。フランスのおかしじゃないのに、ボンジュールなんて」
 言ってしまえば、でもすっきりした。
 誰もすぐには反応しなかった。
 ばーか、ばーか。
 お前ら、みーんなばーか。
「みかちゃん、いっしょに遊ぼうよ」
 翌日だった。
 懲りないな、と思った。
「ごめん」
 さらりと口をついた。
「この前帰るの遅くなって、お母さんに駄目って言われた」
「そっか……」
 ごめんね、めいちゃん。
 嘘だよ。
「みかちゃんは……」
 まだ続くのか。
 さっさと消えてほしい。
 自分が消えてもいい。
 どちらにせよ、もう誰ともいっしょにいたくなかった。
 放っといてくれないかな。
 無理なんだ。
 馬鹿だもんね、めいちゃん。
 あっち行ってよ。
「ゲーム嫌い?」
「嫌いってわけじゃ……」
 なんとなく本を掴む。
 図書室で借りてきて、まだ一回も読んでない。
「本よりは、好きじゃない」
「本好きなの?」
「うん」
 そうだ。
「大好き」
 ゲームは嫌いだ。

 さあ イマがそのとき
 さあ イマこそとぼう
 ほら イマはあっというまだから
 ほら イマはいっしゅんだから

「美伽」
 振り向く。
 母親は、何故か、ゲームコーナーにいた。
 困ったような、何かを決めたような顔をしていた。
「なに」
 ぶっきらぼうな言い方になった。
 仕方ない。
 仕方ないんだ。
 そうとしか言いようがない。
「ゲーム、ほしい?」
「なんで?」
「美伽も四年生になったし、やりたいかな、と思って」
 一瞬、歯を食いしばる。
「いらない」
「いいの?」
「好きじゃないもん」
 嫌い。
 大っ嫌い。
 みーんなみーんな。

 消えちゃえ。



 その大剣は雪の中に突き立っていた。装飾のごてごてした実用性皆無な代物だ。だが、だからこそ、普通の刀剣には生み出せない威力があるのかもしれない。
 柄を握り、力を込めた。
「重っ……」
 ぴくりともしなかった。アーサー王伝説を思い出した。エクスカリバー。あの赤目の男にだけ扱える特別品。これを創ったのは女の方か。凄い力だ。思わず笑っていた。
 渾身の力で持ち上げようとすると、ふいに手の中から感触が抜け落ちていった。気が付くと、そこには何もなかった。創造解除。近くにいなくてもできるのか。夢には距離なんて関係ない。魂に物質世界の法則は通用しない。それでも、分かりやすくするために当てはめる。そこからどれだけ己を解放できるかが、能力の差につながるのだ。やはり、侮れない。彼らは強い。
 排除せねばならない。
 さもなければ、彼女の夢は完遂しないだろう。
 右手に長剣をぶら下げて歩き出すと、子アリス達が寄ってきた。幼い第四次と僅かに生き残った第一次から三次のアリス達。戦力としては心許ないが、最悪、排除はできなくても妨害さえできればいいのだ。それにもう、第五次の生成が始まっている。快調なペースだ。それなのに、まだストレスは残っている。
 夢の終わりとともに、彼女は解放されるのだ。







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