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第一部 罪人の涙
罪人の憤怒 5
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翌日、魔追は学校に着くと、教室に鞄を置いて図書室に向かった。一応ノックをしてからノブに手を掛けると、やはりというか鍵は開いていた。
「おはよう、本間さん」
美伽はカウンターに腰掛けて本を読んでいた。厳つい装丁の古そうな本だ。美伽は顔を上げ、静かな声でおはようと返した。魔追はそばの椅子に座った。
「昨日は大丈夫だった? 家のこととか」
「全然。うち、放任だから」
美伽の返事は素っ気ない。魔追は一瞬言葉に詰まったが、一方的に話しているよりはましかと思うことにした。
「本間さん、その鍵って学校は知ってるの?」
「いいえ」
「まさか、自分で作ったの?」
「ええ」
「こっそり?」
「そう」
「でも、そんなに大量にいらなくない?」
「あると便利でしょう」
そう言うと、美伽は本を閉じた。
「そのマスク、落書きが取れなかったから?」
魔追は顔の半分を覆い隠すような大きなマスクをしていた。引っ張って下にずらすと、ノアの書いたカバンクイオマ教の花丸に加えて、ハートや髭がうっすらと残っていた。まさか、別れ際の言葉を有言実行されているとは思わなかった。
「眼鏡は頑張ったんだけどね」
「ごめんなさい」
わずかに下を向く美伽に魔追は慌てて首を振った。
「い、いいよ、別に。そんな」
「今度は水性ペンにするわ」
「なにそれやめてもう書かないで」
かなり本気で懇願すると、美伽は冗談よと口元を緩めた。正直、新手のいじめっ子にしか見えなかった。
「冗談に決まってるでしょう。今度は金豚にやるもの」
「金豚?」
「岩倉よ。あの、本の扱いのなっていない見た目だけの空っぽ脳味噌。あいつがここを片付けたんですってね」
気のせいか、美伽の背後から黒いオーラが放たれているように見える。
昨日魔追に、美伽ちゃんに殺されるぞへっへーと呑気に笑っていたノアを思い出した。
……まあ、ラッキーということでいいかと忘れることにした。
「それで? 本題は?」
魔追は居住まいを正すと、美伽に頭を下げた。
「ありがとう。辜露のこと、ノア達に黙っててくれて」
「……なんのこと」
「辜露がモデルをやってたの知ってるんなら、やめることになった原因も知ってるんだろ」
辜露の父親は、犯罪者だ。
罪状は魔追も知らない。捕まったのは辜露が生まれてすぐの頃だという。だからというわけでもないが、魔追にとってはそんなの些細な事だったし、周りの大人たちも誰も気にしていなかった。ただ、世間一般の人はそうは思わなかったというだけの話だ。
それだけだと思っていたのに、辜露にとってはそうじゃなかった。
あの頃の落ち込んでいた姿を思い出して唇を噛む。何もできなかった自分がひたすら憎かった。
そんな魔追の様子をじっと見ていた美伽だったが、本を持ってカウンターから下りた。
「あの子の名前の意味、知ってる?」
「意味?」
「私が初めてあの子のことを知ったのは、小学校でクラスの子がこっそり持ってきていたファッション雑誌にたまたま載っていたから。なんとなく不思議な名前だなと思って調べて、それから少ししたらどこにもいなくなっていた」
美伽は本を棚に戻し、別の本を取る。
「露の意味はなんとなく分かるでしょ。つゆとか、要はしたたるもののこと。辜は、無辜の民っていえば分かるかしら」
「無辜の民……? あっ」
はっとして美伽を見る。何も言わないので、おそるおそる思いついたことを言ってみた。
「罪人の涙……?」
「大方そんなところでしょうね」
美伽はさらに二、三冊増やすと、山盛りの本をいきなりたたきつけるように机に置いた。
「信じらんないわ。子どもにそんな名前を付けるなんて。子どもの気持ち、全然考えてない」
「本間さん……」
「だって、そうでしょ? 目立つ名前だし、本人だって気になるに決まってる。名前は親からの贈り物よ。ちゃんと知っておきたいものでしょう、普通は。それを、子どもの負担を増やすだけ増やして、一体何を考えてるのかしら」
美伽の言い分はもっともで魔追は俯いた。その通りだ。罪人の涙なんて、そんなあからさまな名前を付けられて喜べるはずがない。
「でも……」
顔を上げると目が合った。眼鏡の奥の瞳は心なしかうるんで見えた。
「パパがつけてくれた名前なんだって、辜露、前に自慢してきたことがあったよ。お父さんと面会した時のことも話してくれるし。――確かに辛いかもしれないけど、でもそれだけじゃないとも思うんだ」
美伽は微動だにしなかった。やがて、すとんと肩を落とし、本を持ってカウンターに戻ってきた。
「あの子のこと、よく知ってるのね」
「幼馴染だから」
「そういうことじゃないでしょう」
貸し出し手続きを済ませ、鞄を持つ。魔追も立ち上がった。
瞬間、顔面を殴打された。
「っ!?」
バランスを崩し、椅子の上に倒れこむ。美伽は重たいカバンを下ろし、鍵束を取り出して魔追に放った。
「戸締りよろしく。死になさい、クズ」
魔追は唖然として頬に手をやった。マスクのゴムが切れている。口の中に血の味が広がった。夢の中で感じるのとは違う、リアルな痛みだった。
美伽は足音荒く出ていった。
「なんなんだよ……」
そう漏らしたら、徐々に腹が立ってきて、今度は大声で怒鳴っていた。
「なんなんだよ! オレが何をしたっていうんだよ!?」
当然美伽に届くはずもなく、コンクリートに反響して自分に返ってくる。
ただ――ただ、辜露を振っただけだ。
どうして責められなくちゃいけない。
もう、引き返せないんだ。
教室に戻ると、ノアがいた。長い包みを持って出ていこうとしているところだった。
「おはよう、魔追くん。って、どうしたんだよ」
「ああ。ちょっと……殴られて」
「尻といい、災難だな」
「そっちはもうだいぶ良くなったよ。……それ、なに?」
包みを見ると、ノアは手早くほどいて中身を見せてくれた。薙刀だった。
「部活。今日、朝練なんだ」
「へえ、サッカーとかだと思ってた」
「かっこいいだろ?」
そう言って構える姿は様になっていて、魔追は素直に頷いた。
「ノアってすごいな」
「ん? なにが?」
「だって、それ、初めてじゃないだろ?」
「あ、分かる?」
「うん。それに、これから受験もあるし。よくやる気になるなって」
すると、ノアは何故か気まずそうに視線をそらし、ぽりぽりと頬を掻いた。
「あー……それなんだけどさ。オレ、たぶん、卒業までここにいないと思う」
「……え?」
「ほら、うち、転勤多いだろ」
魔追は暫し呆然として、それからようやくそうなんだと呟いた。
「そうなの。だから、またアメリカとかイギリスになるかと思うんだ。そしたら、その先の大学に編入して、今度はひとり暮らししようかなって」
「アメリカ、か……」
なんだか、心にぽっかりと穴が開いた気分だった。魔追は戸惑い、思ったことをついそのまま口に出していた。
「日本じゃ、だめなのか? 日本で進学は」
「まあ、日本は食べ物は美味しいし、治安もいいから好きなんだけど」
その続きは言わなくても明らかだった。
「そ……か……」
「ごめんな、魔追くん」
「なんで謝るんだよ」
「だって、すっげー泣きそうな顔してる」
魔追は目元をごしごし擦った。
「泣いてない」
「そりゃそうだ、俺、泣きそうって言ったんだから」
ノアは薙刀をしまい、背に担いだ。
「まっ、まだ先のことだしさ。気楽にいこうぜ。十一月の文化祭で演舞やるんだ。絶対に見にこいよ」
「うん」
じゃ、朝練行ってくる、とノアは手を振って歩きだす。魔追は散々悩んだ末に、追いかけて隣に並んだ。
「ちょっとだけいいか? 歩きながらでいいから」
ほかに相談できる人なんていなかった。
「なに?」
「さっき、殴られたんだ。本間さんに」
辜露の父親のことは伏せて説明すると、ノアは少しだけ考え込んでから言った。
「つまり、魔追くんはあの子のことが好きなわけ?」
「っ……」
喉がぐふっと変な音を出す。昨日の辜露の傷ついた表情を思い出して、罪悪感にまた胸がじくじくと切り刻まれる。こんな魔追に言う資格なんてないのは分かっていたが、それでも事実を端的に述べるだけだと、深く息を吐き出してから答えた。
「……ああ、好きだよ」
言ってから、もしかしたらこうして言葉にするのは初めてだったかもしれないと気付き、妙な感慨深さに襲われる。
ノアはまたふうむと唸って、あっけらかんと告げた。
「なんとも言えないわ」
「……ええー?」
「じゃあさ、どうして魔追くんはあの子振ったわけよ。なんかいろいろごちゃごちゃ言ってたけどさ、結局肝心なことが伝わんないんですけど」
「それは……だから、いろいろあって」
「ほら、そうやってすぐごまかす。蹴られたり殴られたり、当然だよ」
ノアの呆れたような声音に、魔追自身もその通りだと思ってしまった。
「でも、言いたくないんだ。辜露には」
「じゃあ、俺は?」
灰色の双眸が睨むように見据えてくる。魔追は息を呑み、暫し逡巡したのち、観念して口を開いた。
「オレ。大学は東京にするつもりなんだ」
「まさか、遠距離が辛いからとか言わないよな?」
首を振る。
「治療するんだ」
「治療?」
「東京の大きい病院に行くから、大学も東京がよくて」
ノアは二、三回まばたきして、さっきの魔追みたいな質問をした。
「この辺じゃ、だめなのか?」
「東京に専門の病院があるんだ」
「そっか……」
「まだ、ちゃんと診てもらってなくてさ。通院は確実だと思うんだけど」
「そんなに悪いのか」
「まだ、分からない」
魔追は安心させるように微笑んだつもりだったのだが、ノアは表情を僅かに硬くした。
「魔追くん……」
「ん?」
「もしかして、夢視か?」
夢視による身体への負担。
その影響力は、人を異形へと変えうる。
魔追はどう答えたものかと悩んで、だがふっと肩の力を抜いた。
「まあ、因果応報ってことだよな」
もう、そのことはどうしようもないものだ。
ならせめて、一人ぐらいはこの胸の内を共有してくれたっていいじゃないか……。
二人は立ち止まる。武道場はもう目の前だった。
「魔追くん、やっぱり俺はなんとも言えない。魔追くんの気持ちも美伽ちゃんの気持ちも、どっちが正しいとか間違ってるとか、そんなの分からない」
「いいよ。ありがとう。聞いてくれて」
「でもさ」
まさか続くとは思わなかったため、魔追は目を瞠った。
「な、なに?」
「俺、思うんだよ。魔追くんはもっと楽にしていいって。魔追くんはなんでも一人で背負いすぎなんだよ。みんなで分担して、みんなで共有すれば、もっと軽くなるんじゃないのか」
「それは」
考えたことがないわけではない。だが、今まではそれができる相手がいなかった。だから、他人への振り分け方なんて分かるはずがない。
「別に、どうしてもって言うんならそれでいいけどさ。支え合ったり、励まし合ったり、たまに放り出したり、そんなの一人じゃできない」
それに、魔追くんがみんなのことを好きなように、俺達だって魔追くんのことが大好きなんだよ。
「だから、もっと頼れ。もっと使え。そうすれば、俺たちみんな嬉しいんだから」
ノアと別れ、魔追はとぼとぼと教室に帰る。まだ、他に誰も来ていなかった。魔追は自分の椅子の上で体育座りをし、膝と膝の間に顔を埋める。
できるのだろうか。
今までなら絶対考えなかったことが頭から離れない。オレに仲間がいる。みんなと一緒に戦って、みんなともがいていく。そんなことしていいのだろうか。魔追の都合に巻き込んでもいいのだろうか。それは、魔追にとって都合が良すぎはしないか。
無理だよ。無理だ。そんなことできない。
だって、オレはもう退路を断ってしまったんだ。覚悟も決めた。いまさら変えたって、もうあの子には届かない。
なのに。
なのに、二人の顔が、言葉が、脳裏にこびりついて離れない。
どうして、オレはまだあの夢を見ているんだろう。
その時、スマホが鳴った。
のろのろとポケットから出すと、追夢からだった。
魔追は固まった。
『約束 してたんじゃないのか』
約束。
そうだ。だから、この一週間ずっと早起きをしてて。おかげで寝不足で。でも、全然苦じゃなくて。むしろ、間に合わなかったことの方が辛かった。
行かなきゃ。
唐突に思った。
迎えに行かなきゃ。
電車を降りると、奏良は急いで電話を掛けた。
「あっ、もしもし、追夢さん! オレです!」
『おそい、馬鹿! 寝坊か!?』
「電車ですよ! やっぱり、魔追さんに一言がつんと言ってあげようと思って、今日は頑張って早起きしたんです! ほら、まだ六時半前ですよ! 女バスさんと一緒ですよ!」
電話の向こうから感心したような声が聞こえて、内心でガッツポーズをした時だった。
『残念だけど、あいつ、もう学校行った』
「え?」
『待ち伏せは無理だ。諦めろ』
早すぎでしょおおおっ!? と思わず叫んでいた。
『っ、うるさいっ、黙れポチ! 吠えるな!』
「す、すいませんっしたぁ!」
『そういうことだから、今から学校まで走れ』
「え? どういうことですか?」
首を傾げる。かすかにだが、しっかりと舌打ちが聞こえた。
『辜露ちゃんを連れ戻せ』
「辜露さんを?」
『もう家にいないんだよ。たぶん、学校に向かってるところだと思う』
「それがどうかし――」
奏良はさあっと青ざめた。
「ま、まさかじさ」
『お前からそうしてやろうか』
「す、すいませんっ、冗談ですっ」
他殺だとばれないような算段までつけている気がして、奏良はぶるりと震えあがる。
「で、でも、どうして辜露さんを?」
『あいつが最近早起きしてた理由ぐらい知ってるだろ』
「あ、ああ。なるほど」
奏良はどんっと胸を叩いた。
「任せてください! 必ず捕まえます!」
電話を切ると、リュックサックを背負い直して走り出した。
「こらっ、そこの中学生、走るな!」
「すいませんっ!」
そして駅員に怒られた。早足に切り替えて急いで改札を出る。と、見覚えのある二人組を見つけて思わず立ち止まっていた。
「あっ」
「おはよう、そんごくん!」
「ぐはっ!」
飛びついてきたルナの額がみぞおちのあたりを直撃する。痛みとおにーさん呼びをしてくれなくなった悲しみで涙が出た。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよ。おはよう……」
「おはよう、そんごくん」
「おはようございます。えっと、テラさん」
テラはルナを引き剥がすと、電話、ちょっと聞いちゃったと笑った。
「そ、そうなんですか。聞いちゃったんですか」
その笑顔に見惚れて、だめだだめだと首を振っていると、テラが手を差し出した。どういうことだろうと、とりあえずお手をしてみる。
キュッと握り返された。
「ほあっ!?」
「そんごくん、おもしろい」
くすくすと自然と零れた笑みがあまりにも素敵で、まだ走り出してもいないのに、奏良の心臓はばくばくと暴れ始める。だが、すっと手は離れてしまって、ほんのちょっとだけがっかりした。
テラは何故かまた手を差し出した。
「リュック」
「リュック?」
「走りにくいでしょ」
慌ててリュックを下ろすと、テラは奪うように持っていき、奏良の背中を強めに押した。
「急いでっ」
「はいっ」
「がんばって、そんごくん!」
「うん!」
階段を駆け下りる。どうしてテラたちがいたのかなんてどうでもよかった。ただ足がすごく軽かった。韋駄天走りだ、と思った。足の速い、仏教の神様。って、追夢さんが言ってた。
「ありがとう、韋駄天さま!」
声は天へと昇っていく。それを追うように奏良も駆けたら、きつい坂もあっという間だった。平気の平左だった。そして、奏良はついに見つけた。三つ編みを垂らし、ゆったりと歩く姿。間違いない。奏良は大きく息を吸って、
「辜露さ――」
「おっはよう、辜露ちゃん!」
月音に先を越された。
「へ?」
呆然とする奏良の目の前で、月音は華麗に辜露をお姫様抱っこすると、そのまま一度も止まることなく走って行ってしまった。速かった。韋駄天もびっくりだった。奏良はぐんぐん引き離された。
「え? ええー? えええええええええーっ! 待ってー!?」
慌ててスピードを上げるが、月音は弾むような足取りでどんどん行ってしまう。荷物なんて関係なかった。単純な実力差だった。奏良は打ちひしがれかけたが、ぐっと歯を食い縛って追いかけた。大丈夫だ。確かに実力差はあるが、圧倒的ではない。まだ追いつく。そうだ。行け。
段々と距離が縮まる。あと何メートルだ。校門が見える。でも、もうすぐ。
「届いたっ――!」
直後、月音が飛んだ。
反射的に身をかがめたら、つんのめってごろごろと地面を転がった。背中を月音のスポーツシューズの裏が掠めていく。アスファルトの上での前転は後頭部を容赦なく削り、奏良は頭を抱えてのたうち回った。
「髪がっ! オレのはげがーっ!」
「えっ、奏良!? なんで、今ぼくの下転がってたよね!?」
遅れて着地した月音が辜露を下ろして慌てて駆け寄ってくる。相変わらずの跳躍力だった。だが、今の奏良にはそこまで気を配れなかった。
「なにやってんの? ていうか、大丈夫?」
「しぇ、しぇんぱい、オレ、はげてませんか!?」
「あ、うん。ちょっと赤いけどはげてない」
「よかったああああ。ありがとう、韋駄天さま!」
何故韋駄天、と眉を顰める月音。奏良は一気に元気になって立ち上がると、一緒にそばに来ていた辜露に勢い良く頭を下げた。
「おはようございます! 中等部三年、番田奏良です! さっそくですが、帰りましょう!」
「えっ、わたしが?」
奏良は混乱する辜露の手を引っ張って構わず走りだそうとした。
「ちょっと待った!」
「げふっ!?」
月音に制服の襟首を掴まれて、首が絞まる。
「ねえ、話が見えないんだけど」
「わたしも、説明してほしいかな」
「す、すいませんっした。ちょっと先走りすぎました」
タンマタンマと手の平を向けて呼吸を整えてから、奏良は口を開いた。
「オレは、その、えーと、夜に魔追さんと一緒に寝ている仲間です! 昨日みたいに!」
月音が無言で拳を固めた。
「ひいっ!? 待ってなんで!?」
「あ、待って、月音くん。違うよ。そういうことじゃないよ」
辜露が間に割って入り、奏良はなんとか命拾いした。
「ありがとうございます。なんか、すいません……」
「ううん。それより、どうしたの? わたし勉強したいから、できれば早く済ましてほしいかな」
「あ……」
はっきりと示された拒絶に奏良は怯む。なにしてんですか、魔追さん! と脳内で叫ぶ。それでも、ぎゅっと手を握ってなんとか訴えた。
「あの、確かに勉強は大事です。分かります。オレも試験前はひいってなります。で、でも、今はまだ試験じゃないから、家に帰って、魔追さんを待ってあげてくれませんか? 魔追さんは絶対に来るんで!」
「なに言ってるの、来ないよ」
辜露は笑った。
「昨日のこと知ってるんでしょ? どう考えたって来る訳ないよ」
「そんなことないです!」
「どうして?」
「だって、まおっ――」
奏良ははっとして口をつぐんだ。月音が部外者であることをすっかり忘れていた。口をもごもごとさせていると、月音が時計を見て、あーとわざとらしく言った。
「朝練行かなきゃ。ごめんね、辜露ちゃん。この馬鹿がなんかやったらすぐ言うんだよ。とっちめるから」
「ありがとう、月音くん。朝練頑張ってね」
「うん。辜露ちゃんのおかげでエネルギーは満タンだよ」
じゃあね、と手を振って月音はいなくなる。最後に分かっているなと睨みを利かせてくる月音に、奏良は心の中で必死に土下座を繰り返しながら感謝しまくった。
「だって、で、どうしたの?」
「あ、はい。だって、――」
正直、奏良がそれを言っていいのか分からない。
でも、魔追さんはすごく不器用なんだ。ひょっとすると、オレよりもひどいんだ。
たぶん、この人も。
「――だって、魔追さんは辜露さんのことが大好きだからです!」
「うん。知ってるよ。妹みたいって言ってくれたもん」
「いや、ライクじゃなくてラブです!」
「顔赤いよ? 恥ずかしいの?」
「違います! 恥ずかしくなんかないです!」
「じゃあ、お熱かな? ちょっと額出して?」
「ひえええっ、それやったら魔追さんじゃなくて追夢さんに殺されます!!」
この人手強いっ、と震えおののく奏良を、辜露はおかしそうに見ていた。
どうして、笑っていられるんだろう。
好きな人に振られて、全然知らない奴にそれを言われて、辛くないはずがない。奏良だったら絶対殴りかかっている。
なのに、辜露は怒りもしない。笑ってる。にこにこしている。
「ねえ、もう行っていいかな」
「よく、ないです」
「どうして?」
「追夢さんに約束しちゃったからです。必ず連れてくって」
「じゃあ、つーちゃんにはわたしから連絡しとくね」
そう言って携帯電話を出した手を奏良は掴んだ。
「辜露さん」
「なあに?」
「女の人が嘘をつくときの特徴って知ってますか?」
「え?」
「視線を逸らさないんだそうです。相手のことを真っ直ぐ見るんです。自分はやましいところなんてないよーって。逆に男の人は逸らします。後ろめたくて、目を見られたらバレると思うから。辜露さん、さっき、視線を逸らさなかった。オレが魔追さんは来るって言ったら、全然視線を逸らさなかった!」
「そんなの、たまたま……」
「じゃあ、思い出してください! 昨日、魔追さん、辜露さんのこと見ました?」
辜露は何も言わなかった。ただ、さっきまでにっこりとしていたはずの口元が、見る影もなくなっていた。やっぱりじゃないかと奏良は思った。
「辜露さん、帰りましょう。魔追さんは必ず来ます」
「来ないよ」
「あーもう、じゃあ、魔追さんは辜露さんを妹として好きってことでいいです! とにかく行きましょう! 約束したんでしょう? だったら、魔追さんは来ます絶対!」
だって、そういう人なんだ。
辜露さんも、いや、辜露さんの方がそれをよく分かっているから、目を逸らさなかったんじゃないのか。
「手、痛いよ」
「あ、す、すいませんっ」
手を離すと、辜露はすんなりと携帯電話をポケットに戻した。どこか諦めたように溜め息をついた。
「……分かったよ。帰る」
「ほ、本当ですか?」
「でも、一人で帰るから」
思わず身を乗り出すと、辜露は苦笑した。かわいいというよりも、どこか大人っぽい表情だった。
「まーくんはいいね。こんなかわいい後輩がいて」
「か、かわいい……」
「うーん。でも、どっちかというと、めんどくさいかな」
「めんどっ……」
あからさまに落ち込んだ奏良の二の腕のあたりを労るようにぽんぽんと叩いて、辜露はゆっくりと来た道を引き返す。奏良はぼんやりとその後姿を見送りそうになって、我に返って慌てて辜露を引き留めた。
「あっ、あのっ、辜露さん、最後にもう一つだけいいですか?」
「なに?」
「人魚姫の話って、泡になって終わりじゃないんです」
辜露はぱちくりと目を瞬かせる。
「……そうなの?」
「はい。泡になるってことは、空気になるってことじゃないですか。人魚姫は空気の精になるんです。それで子どもたちを見守って生きていくんです。だから」
一度言葉を切り、辜露を真っ直ぐに見つめる。
「だから、辜露さんだって、ここで終わりじゃないんです」
希望は頼ることはできない。
形が無いから。
でも、離してはいけない。離すことはできない。
希望はいつだってそこにあるものだから。
走っていく辜露の姿が見えなくなると、奏良は一気に脱力して座り込んだ。
「つ、つかれたー」
「お疲れ」
うん、と普通に返事をしかけ、奏良はばっと振り返る。
「つ、つ、つ、追夢さん!?」
いつの間にかすぐ後ろに立っていた追夢はにやにやと意地悪い笑みを浮かべ、奏良の肩に手を回してきた。ぐっと近づく透き通った赤い瞳にどきりとした瞬間、
「嘘をつくと男は目を逸らしながらも多弁になり、女は目を合わせて口数が少なる傾向がある。この実験を行ったのは?」
「へっ!? え、えーと、その、……」
うろうろと視線をさまよわせると、首に回る腕の力が強くなった。
「はいっ! えっと、エクスタシー博士ですね!」
「エクスタインだ、馬鹿野郎」
「痛い痛い痛い痛いごめんなさいっ! 追夢さ、ごめっ、ごめんしゃいーっ!」
プロレス技のように首をきめられ、ばしばしと追夢の腕を叩いて降参する。いつもなら、これで少し我慢すれば離してくれることが多いのだが、今日はさらに拘束が強まった。
「追夢さんっ!?」
「そういえば、お前、さっき辜露ちゃんとおでこくっつけようとしてたなあ」
「見てたんですかっ!? てか、追夢さんいつからここに……」
「テラからも聞いたよ。手握られて喜んでたって」
「冤罪です! オレは追夢さん一筋です! 信じて! アーッ!!」
青空の下、奏良の悲鳴が響いていく。
「最近の子はませてるねえ」
「青春だねえ」
そして、それだけ校門で騒げば守衛さんに見つからないわけがなく、あとでそれを知った奏良がさらにじたばたともがくことになるのはまた別の話――。
「おはよう、本間さん」
美伽はカウンターに腰掛けて本を読んでいた。厳つい装丁の古そうな本だ。美伽は顔を上げ、静かな声でおはようと返した。魔追はそばの椅子に座った。
「昨日は大丈夫だった? 家のこととか」
「全然。うち、放任だから」
美伽の返事は素っ気ない。魔追は一瞬言葉に詰まったが、一方的に話しているよりはましかと思うことにした。
「本間さん、その鍵って学校は知ってるの?」
「いいえ」
「まさか、自分で作ったの?」
「ええ」
「こっそり?」
「そう」
「でも、そんなに大量にいらなくない?」
「あると便利でしょう」
そう言うと、美伽は本を閉じた。
「そのマスク、落書きが取れなかったから?」
魔追は顔の半分を覆い隠すような大きなマスクをしていた。引っ張って下にずらすと、ノアの書いたカバンクイオマ教の花丸に加えて、ハートや髭がうっすらと残っていた。まさか、別れ際の言葉を有言実行されているとは思わなかった。
「眼鏡は頑張ったんだけどね」
「ごめんなさい」
わずかに下を向く美伽に魔追は慌てて首を振った。
「い、いいよ、別に。そんな」
「今度は水性ペンにするわ」
「なにそれやめてもう書かないで」
かなり本気で懇願すると、美伽は冗談よと口元を緩めた。正直、新手のいじめっ子にしか見えなかった。
「冗談に決まってるでしょう。今度は金豚にやるもの」
「金豚?」
「岩倉よ。あの、本の扱いのなっていない見た目だけの空っぽ脳味噌。あいつがここを片付けたんですってね」
気のせいか、美伽の背後から黒いオーラが放たれているように見える。
昨日魔追に、美伽ちゃんに殺されるぞへっへーと呑気に笑っていたノアを思い出した。
……まあ、ラッキーということでいいかと忘れることにした。
「それで? 本題は?」
魔追は居住まいを正すと、美伽に頭を下げた。
「ありがとう。辜露のこと、ノア達に黙っててくれて」
「……なんのこと」
「辜露がモデルをやってたの知ってるんなら、やめることになった原因も知ってるんだろ」
辜露の父親は、犯罪者だ。
罪状は魔追も知らない。捕まったのは辜露が生まれてすぐの頃だという。だからというわけでもないが、魔追にとってはそんなの些細な事だったし、周りの大人たちも誰も気にしていなかった。ただ、世間一般の人はそうは思わなかったというだけの話だ。
それだけだと思っていたのに、辜露にとってはそうじゃなかった。
あの頃の落ち込んでいた姿を思い出して唇を噛む。何もできなかった自分がひたすら憎かった。
そんな魔追の様子をじっと見ていた美伽だったが、本を持ってカウンターから下りた。
「あの子の名前の意味、知ってる?」
「意味?」
「私が初めてあの子のことを知ったのは、小学校でクラスの子がこっそり持ってきていたファッション雑誌にたまたま載っていたから。なんとなく不思議な名前だなと思って調べて、それから少ししたらどこにもいなくなっていた」
美伽は本を棚に戻し、別の本を取る。
「露の意味はなんとなく分かるでしょ。つゆとか、要はしたたるもののこと。辜は、無辜の民っていえば分かるかしら」
「無辜の民……? あっ」
はっとして美伽を見る。何も言わないので、おそるおそる思いついたことを言ってみた。
「罪人の涙……?」
「大方そんなところでしょうね」
美伽はさらに二、三冊増やすと、山盛りの本をいきなりたたきつけるように机に置いた。
「信じらんないわ。子どもにそんな名前を付けるなんて。子どもの気持ち、全然考えてない」
「本間さん……」
「だって、そうでしょ? 目立つ名前だし、本人だって気になるに決まってる。名前は親からの贈り物よ。ちゃんと知っておきたいものでしょう、普通は。それを、子どもの負担を増やすだけ増やして、一体何を考えてるのかしら」
美伽の言い分はもっともで魔追は俯いた。その通りだ。罪人の涙なんて、そんなあからさまな名前を付けられて喜べるはずがない。
「でも……」
顔を上げると目が合った。眼鏡の奥の瞳は心なしかうるんで見えた。
「パパがつけてくれた名前なんだって、辜露、前に自慢してきたことがあったよ。お父さんと面会した時のことも話してくれるし。――確かに辛いかもしれないけど、でもそれだけじゃないとも思うんだ」
美伽は微動だにしなかった。やがて、すとんと肩を落とし、本を持ってカウンターに戻ってきた。
「あの子のこと、よく知ってるのね」
「幼馴染だから」
「そういうことじゃないでしょう」
貸し出し手続きを済ませ、鞄を持つ。魔追も立ち上がった。
瞬間、顔面を殴打された。
「っ!?」
バランスを崩し、椅子の上に倒れこむ。美伽は重たいカバンを下ろし、鍵束を取り出して魔追に放った。
「戸締りよろしく。死になさい、クズ」
魔追は唖然として頬に手をやった。マスクのゴムが切れている。口の中に血の味が広がった。夢の中で感じるのとは違う、リアルな痛みだった。
美伽は足音荒く出ていった。
「なんなんだよ……」
そう漏らしたら、徐々に腹が立ってきて、今度は大声で怒鳴っていた。
「なんなんだよ! オレが何をしたっていうんだよ!?」
当然美伽に届くはずもなく、コンクリートに反響して自分に返ってくる。
ただ――ただ、辜露を振っただけだ。
どうして責められなくちゃいけない。
もう、引き返せないんだ。
教室に戻ると、ノアがいた。長い包みを持って出ていこうとしているところだった。
「おはよう、魔追くん。って、どうしたんだよ」
「ああ。ちょっと……殴られて」
「尻といい、災難だな」
「そっちはもうだいぶ良くなったよ。……それ、なに?」
包みを見ると、ノアは手早くほどいて中身を見せてくれた。薙刀だった。
「部活。今日、朝練なんだ」
「へえ、サッカーとかだと思ってた」
「かっこいいだろ?」
そう言って構える姿は様になっていて、魔追は素直に頷いた。
「ノアってすごいな」
「ん? なにが?」
「だって、それ、初めてじゃないだろ?」
「あ、分かる?」
「うん。それに、これから受験もあるし。よくやる気になるなって」
すると、ノアは何故か気まずそうに視線をそらし、ぽりぽりと頬を掻いた。
「あー……それなんだけどさ。オレ、たぶん、卒業までここにいないと思う」
「……え?」
「ほら、うち、転勤多いだろ」
魔追は暫し呆然として、それからようやくそうなんだと呟いた。
「そうなの。だから、またアメリカとかイギリスになるかと思うんだ。そしたら、その先の大学に編入して、今度はひとり暮らししようかなって」
「アメリカ、か……」
なんだか、心にぽっかりと穴が開いた気分だった。魔追は戸惑い、思ったことをついそのまま口に出していた。
「日本じゃ、だめなのか? 日本で進学は」
「まあ、日本は食べ物は美味しいし、治安もいいから好きなんだけど」
その続きは言わなくても明らかだった。
「そ……か……」
「ごめんな、魔追くん」
「なんで謝るんだよ」
「だって、すっげー泣きそうな顔してる」
魔追は目元をごしごし擦った。
「泣いてない」
「そりゃそうだ、俺、泣きそうって言ったんだから」
ノアは薙刀をしまい、背に担いだ。
「まっ、まだ先のことだしさ。気楽にいこうぜ。十一月の文化祭で演舞やるんだ。絶対に見にこいよ」
「うん」
じゃ、朝練行ってくる、とノアは手を振って歩きだす。魔追は散々悩んだ末に、追いかけて隣に並んだ。
「ちょっとだけいいか? 歩きながらでいいから」
ほかに相談できる人なんていなかった。
「なに?」
「さっき、殴られたんだ。本間さんに」
辜露の父親のことは伏せて説明すると、ノアは少しだけ考え込んでから言った。
「つまり、魔追くんはあの子のことが好きなわけ?」
「っ……」
喉がぐふっと変な音を出す。昨日の辜露の傷ついた表情を思い出して、罪悪感にまた胸がじくじくと切り刻まれる。こんな魔追に言う資格なんてないのは分かっていたが、それでも事実を端的に述べるだけだと、深く息を吐き出してから答えた。
「……ああ、好きだよ」
言ってから、もしかしたらこうして言葉にするのは初めてだったかもしれないと気付き、妙な感慨深さに襲われる。
ノアはまたふうむと唸って、あっけらかんと告げた。
「なんとも言えないわ」
「……ええー?」
「じゃあさ、どうして魔追くんはあの子振ったわけよ。なんかいろいろごちゃごちゃ言ってたけどさ、結局肝心なことが伝わんないんですけど」
「それは……だから、いろいろあって」
「ほら、そうやってすぐごまかす。蹴られたり殴られたり、当然だよ」
ノアの呆れたような声音に、魔追自身もその通りだと思ってしまった。
「でも、言いたくないんだ。辜露には」
「じゃあ、俺は?」
灰色の双眸が睨むように見据えてくる。魔追は息を呑み、暫し逡巡したのち、観念して口を開いた。
「オレ。大学は東京にするつもりなんだ」
「まさか、遠距離が辛いからとか言わないよな?」
首を振る。
「治療するんだ」
「治療?」
「東京の大きい病院に行くから、大学も東京がよくて」
ノアは二、三回まばたきして、さっきの魔追みたいな質問をした。
「この辺じゃ、だめなのか?」
「東京に専門の病院があるんだ」
「そっか……」
「まだ、ちゃんと診てもらってなくてさ。通院は確実だと思うんだけど」
「そんなに悪いのか」
「まだ、分からない」
魔追は安心させるように微笑んだつもりだったのだが、ノアは表情を僅かに硬くした。
「魔追くん……」
「ん?」
「もしかして、夢視か?」
夢視による身体への負担。
その影響力は、人を異形へと変えうる。
魔追はどう答えたものかと悩んで、だがふっと肩の力を抜いた。
「まあ、因果応報ってことだよな」
もう、そのことはどうしようもないものだ。
ならせめて、一人ぐらいはこの胸の内を共有してくれたっていいじゃないか……。
二人は立ち止まる。武道場はもう目の前だった。
「魔追くん、やっぱり俺はなんとも言えない。魔追くんの気持ちも美伽ちゃんの気持ちも、どっちが正しいとか間違ってるとか、そんなの分からない」
「いいよ。ありがとう。聞いてくれて」
「でもさ」
まさか続くとは思わなかったため、魔追は目を瞠った。
「な、なに?」
「俺、思うんだよ。魔追くんはもっと楽にしていいって。魔追くんはなんでも一人で背負いすぎなんだよ。みんなで分担して、みんなで共有すれば、もっと軽くなるんじゃないのか」
「それは」
考えたことがないわけではない。だが、今まではそれができる相手がいなかった。だから、他人への振り分け方なんて分かるはずがない。
「別に、どうしてもって言うんならそれでいいけどさ。支え合ったり、励まし合ったり、たまに放り出したり、そんなの一人じゃできない」
それに、魔追くんがみんなのことを好きなように、俺達だって魔追くんのことが大好きなんだよ。
「だから、もっと頼れ。もっと使え。そうすれば、俺たちみんな嬉しいんだから」
ノアと別れ、魔追はとぼとぼと教室に帰る。まだ、他に誰も来ていなかった。魔追は自分の椅子の上で体育座りをし、膝と膝の間に顔を埋める。
できるのだろうか。
今までなら絶対考えなかったことが頭から離れない。オレに仲間がいる。みんなと一緒に戦って、みんなともがいていく。そんなことしていいのだろうか。魔追の都合に巻き込んでもいいのだろうか。それは、魔追にとって都合が良すぎはしないか。
無理だよ。無理だ。そんなことできない。
だって、オレはもう退路を断ってしまったんだ。覚悟も決めた。いまさら変えたって、もうあの子には届かない。
なのに。
なのに、二人の顔が、言葉が、脳裏にこびりついて離れない。
どうして、オレはまだあの夢を見ているんだろう。
その時、スマホが鳴った。
のろのろとポケットから出すと、追夢からだった。
魔追は固まった。
『約束 してたんじゃないのか』
約束。
そうだ。だから、この一週間ずっと早起きをしてて。おかげで寝不足で。でも、全然苦じゃなくて。むしろ、間に合わなかったことの方が辛かった。
行かなきゃ。
唐突に思った。
迎えに行かなきゃ。
電車を降りると、奏良は急いで電話を掛けた。
「あっ、もしもし、追夢さん! オレです!」
『おそい、馬鹿! 寝坊か!?』
「電車ですよ! やっぱり、魔追さんに一言がつんと言ってあげようと思って、今日は頑張って早起きしたんです! ほら、まだ六時半前ですよ! 女バスさんと一緒ですよ!」
電話の向こうから感心したような声が聞こえて、内心でガッツポーズをした時だった。
『残念だけど、あいつ、もう学校行った』
「え?」
『待ち伏せは無理だ。諦めろ』
早すぎでしょおおおっ!? と思わず叫んでいた。
『っ、うるさいっ、黙れポチ! 吠えるな!』
「す、すいませんっしたぁ!」
『そういうことだから、今から学校まで走れ』
「え? どういうことですか?」
首を傾げる。かすかにだが、しっかりと舌打ちが聞こえた。
『辜露ちゃんを連れ戻せ』
「辜露さんを?」
『もう家にいないんだよ。たぶん、学校に向かってるところだと思う』
「それがどうかし――」
奏良はさあっと青ざめた。
「ま、まさかじさ」
『お前からそうしてやろうか』
「す、すいませんっ、冗談ですっ」
他殺だとばれないような算段までつけている気がして、奏良はぶるりと震えあがる。
「で、でも、どうして辜露さんを?」
『あいつが最近早起きしてた理由ぐらい知ってるだろ』
「あ、ああ。なるほど」
奏良はどんっと胸を叩いた。
「任せてください! 必ず捕まえます!」
電話を切ると、リュックサックを背負い直して走り出した。
「こらっ、そこの中学生、走るな!」
「すいませんっ!」
そして駅員に怒られた。早足に切り替えて急いで改札を出る。と、見覚えのある二人組を見つけて思わず立ち止まっていた。
「あっ」
「おはよう、そんごくん!」
「ぐはっ!」
飛びついてきたルナの額がみぞおちのあたりを直撃する。痛みとおにーさん呼びをしてくれなくなった悲しみで涙が出た。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよ。おはよう……」
「おはよう、そんごくん」
「おはようございます。えっと、テラさん」
テラはルナを引き剥がすと、電話、ちょっと聞いちゃったと笑った。
「そ、そうなんですか。聞いちゃったんですか」
その笑顔に見惚れて、だめだだめだと首を振っていると、テラが手を差し出した。どういうことだろうと、とりあえずお手をしてみる。
キュッと握り返された。
「ほあっ!?」
「そんごくん、おもしろい」
くすくすと自然と零れた笑みがあまりにも素敵で、まだ走り出してもいないのに、奏良の心臓はばくばくと暴れ始める。だが、すっと手は離れてしまって、ほんのちょっとだけがっかりした。
テラは何故かまた手を差し出した。
「リュック」
「リュック?」
「走りにくいでしょ」
慌ててリュックを下ろすと、テラは奪うように持っていき、奏良の背中を強めに押した。
「急いでっ」
「はいっ」
「がんばって、そんごくん!」
「うん!」
階段を駆け下りる。どうしてテラたちがいたのかなんてどうでもよかった。ただ足がすごく軽かった。韋駄天走りだ、と思った。足の速い、仏教の神様。って、追夢さんが言ってた。
「ありがとう、韋駄天さま!」
声は天へと昇っていく。それを追うように奏良も駆けたら、きつい坂もあっという間だった。平気の平左だった。そして、奏良はついに見つけた。三つ編みを垂らし、ゆったりと歩く姿。間違いない。奏良は大きく息を吸って、
「辜露さ――」
「おっはよう、辜露ちゃん!」
月音に先を越された。
「へ?」
呆然とする奏良の目の前で、月音は華麗に辜露をお姫様抱っこすると、そのまま一度も止まることなく走って行ってしまった。速かった。韋駄天もびっくりだった。奏良はぐんぐん引き離された。
「え? ええー? えええええええええーっ! 待ってー!?」
慌ててスピードを上げるが、月音は弾むような足取りでどんどん行ってしまう。荷物なんて関係なかった。単純な実力差だった。奏良は打ちひしがれかけたが、ぐっと歯を食い縛って追いかけた。大丈夫だ。確かに実力差はあるが、圧倒的ではない。まだ追いつく。そうだ。行け。
段々と距離が縮まる。あと何メートルだ。校門が見える。でも、もうすぐ。
「届いたっ――!」
直後、月音が飛んだ。
反射的に身をかがめたら、つんのめってごろごろと地面を転がった。背中を月音のスポーツシューズの裏が掠めていく。アスファルトの上での前転は後頭部を容赦なく削り、奏良は頭を抱えてのたうち回った。
「髪がっ! オレのはげがーっ!」
「えっ、奏良!? なんで、今ぼくの下転がってたよね!?」
遅れて着地した月音が辜露を下ろして慌てて駆け寄ってくる。相変わらずの跳躍力だった。だが、今の奏良にはそこまで気を配れなかった。
「なにやってんの? ていうか、大丈夫?」
「しぇ、しぇんぱい、オレ、はげてませんか!?」
「あ、うん。ちょっと赤いけどはげてない」
「よかったああああ。ありがとう、韋駄天さま!」
何故韋駄天、と眉を顰める月音。奏良は一気に元気になって立ち上がると、一緒にそばに来ていた辜露に勢い良く頭を下げた。
「おはようございます! 中等部三年、番田奏良です! さっそくですが、帰りましょう!」
「えっ、わたしが?」
奏良は混乱する辜露の手を引っ張って構わず走りだそうとした。
「ちょっと待った!」
「げふっ!?」
月音に制服の襟首を掴まれて、首が絞まる。
「ねえ、話が見えないんだけど」
「わたしも、説明してほしいかな」
「す、すいませんっした。ちょっと先走りすぎました」
タンマタンマと手の平を向けて呼吸を整えてから、奏良は口を開いた。
「オレは、その、えーと、夜に魔追さんと一緒に寝ている仲間です! 昨日みたいに!」
月音が無言で拳を固めた。
「ひいっ!? 待ってなんで!?」
「あ、待って、月音くん。違うよ。そういうことじゃないよ」
辜露が間に割って入り、奏良はなんとか命拾いした。
「ありがとうございます。なんか、すいません……」
「ううん。それより、どうしたの? わたし勉強したいから、できれば早く済ましてほしいかな」
「あ……」
はっきりと示された拒絶に奏良は怯む。なにしてんですか、魔追さん! と脳内で叫ぶ。それでも、ぎゅっと手を握ってなんとか訴えた。
「あの、確かに勉強は大事です。分かります。オレも試験前はひいってなります。で、でも、今はまだ試験じゃないから、家に帰って、魔追さんを待ってあげてくれませんか? 魔追さんは絶対に来るんで!」
「なに言ってるの、来ないよ」
辜露は笑った。
「昨日のこと知ってるんでしょ? どう考えたって来る訳ないよ」
「そんなことないです!」
「どうして?」
「だって、まおっ――」
奏良ははっとして口をつぐんだ。月音が部外者であることをすっかり忘れていた。口をもごもごとさせていると、月音が時計を見て、あーとわざとらしく言った。
「朝練行かなきゃ。ごめんね、辜露ちゃん。この馬鹿がなんかやったらすぐ言うんだよ。とっちめるから」
「ありがとう、月音くん。朝練頑張ってね」
「うん。辜露ちゃんのおかげでエネルギーは満タンだよ」
じゃあね、と手を振って月音はいなくなる。最後に分かっているなと睨みを利かせてくる月音に、奏良は心の中で必死に土下座を繰り返しながら感謝しまくった。
「だって、で、どうしたの?」
「あ、はい。だって、――」
正直、奏良がそれを言っていいのか分からない。
でも、魔追さんはすごく不器用なんだ。ひょっとすると、オレよりもひどいんだ。
たぶん、この人も。
「――だって、魔追さんは辜露さんのことが大好きだからです!」
「うん。知ってるよ。妹みたいって言ってくれたもん」
「いや、ライクじゃなくてラブです!」
「顔赤いよ? 恥ずかしいの?」
「違います! 恥ずかしくなんかないです!」
「じゃあ、お熱かな? ちょっと額出して?」
「ひえええっ、それやったら魔追さんじゃなくて追夢さんに殺されます!!」
この人手強いっ、と震えおののく奏良を、辜露はおかしそうに見ていた。
どうして、笑っていられるんだろう。
好きな人に振られて、全然知らない奴にそれを言われて、辛くないはずがない。奏良だったら絶対殴りかかっている。
なのに、辜露は怒りもしない。笑ってる。にこにこしている。
「ねえ、もう行っていいかな」
「よく、ないです」
「どうして?」
「追夢さんに約束しちゃったからです。必ず連れてくって」
「じゃあ、つーちゃんにはわたしから連絡しとくね」
そう言って携帯電話を出した手を奏良は掴んだ。
「辜露さん」
「なあに?」
「女の人が嘘をつくときの特徴って知ってますか?」
「え?」
「視線を逸らさないんだそうです。相手のことを真っ直ぐ見るんです。自分はやましいところなんてないよーって。逆に男の人は逸らします。後ろめたくて、目を見られたらバレると思うから。辜露さん、さっき、視線を逸らさなかった。オレが魔追さんは来るって言ったら、全然視線を逸らさなかった!」
「そんなの、たまたま……」
「じゃあ、思い出してください! 昨日、魔追さん、辜露さんのこと見ました?」
辜露は何も言わなかった。ただ、さっきまでにっこりとしていたはずの口元が、見る影もなくなっていた。やっぱりじゃないかと奏良は思った。
「辜露さん、帰りましょう。魔追さんは必ず来ます」
「来ないよ」
「あーもう、じゃあ、魔追さんは辜露さんを妹として好きってことでいいです! とにかく行きましょう! 約束したんでしょう? だったら、魔追さんは来ます絶対!」
だって、そういう人なんだ。
辜露さんも、いや、辜露さんの方がそれをよく分かっているから、目を逸らさなかったんじゃないのか。
「手、痛いよ」
「あ、す、すいませんっ」
手を離すと、辜露はすんなりと携帯電話をポケットに戻した。どこか諦めたように溜め息をついた。
「……分かったよ。帰る」
「ほ、本当ですか?」
「でも、一人で帰るから」
思わず身を乗り出すと、辜露は苦笑した。かわいいというよりも、どこか大人っぽい表情だった。
「まーくんはいいね。こんなかわいい後輩がいて」
「か、かわいい……」
「うーん。でも、どっちかというと、めんどくさいかな」
「めんどっ……」
あからさまに落ち込んだ奏良の二の腕のあたりを労るようにぽんぽんと叩いて、辜露はゆっくりと来た道を引き返す。奏良はぼんやりとその後姿を見送りそうになって、我に返って慌てて辜露を引き留めた。
「あっ、あのっ、辜露さん、最後にもう一つだけいいですか?」
「なに?」
「人魚姫の話って、泡になって終わりじゃないんです」
辜露はぱちくりと目を瞬かせる。
「……そうなの?」
「はい。泡になるってことは、空気になるってことじゃないですか。人魚姫は空気の精になるんです。それで子どもたちを見守って生きていくんです。だから」
一度言葉を切り、辜露を真っ直ぐに見つめる。
「だから、辜露さんだって、ここで終わりじゃないんです」
希望は頼ることはできない。
形が無いから。
でも、離してはいけない。離すことはできない。
希望はいつだってそこにあるものだから。
走っていく辜露の姿が見えなくなると、奏良は一気に脱力して座り込んだ。
「つ、つかれたー」
「お疲れ」
うん、と普通に返事をしかけ、奏良はばっと振り返る。
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「見てたんですかっ!? てか、追夢さんいつからここに……」
「テラからも聞いたよ。手握られて喜んでたって」
「冤罪です! オレは追夢さん一筋です! 信じて! アーッ!!」
青空の下、奏良の悲鳴が響いていく。
「最近の子はませてるねえ」
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0
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