Dreamen

くり

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第一部 罪人の涙

ガラスのツバキ 3

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 目を瞑ると、いつもどこか深い穴に落ちたかのような感覚がして、そうやって夢の中に入っていく。穴には分かれ道があって、そこを曲がらずに行くと意識と無意識のサイクル、つまり普通の睡眠が始まる。分かれ道に行くと、追夢の作ってくれたターミナルへと繋がり、そこから他人の夢へと干渉していた。
 夢というのは聖域だ。
 本来なら誰にも汚されることのない、絶対不可侵の領域。
 それを守るためとはいえ、彼等は土足で聖域に上がり込む。
 ゆえに、彼らは干渉することを『侵入』といい、侵入したものを『犯人』と呼んでいた。
「おい、魔追」
「ん?」
 ターミナルに入ると、追夢はかなりいらついているようで、腕組みをしながら貧乏揺すりをしていた。
「あれ? まだ、そんご来てないの?」
 もう一人の仲間の名前を挙げると、追夢はむっつりしたまま頷いた。約束の時間から既に三十分が経過している。魔追は侵入でかなりのエネルギーを使うので、実はいったん起きて補給をしてからまた戻ってきたのだが、それにしたって遅すぎる。魔追はまだいいのだ。追夢も起きてしまうとターミナルが崩れて誰も入れなくなるため、彼女はずっと待機していなければならない。よって、ストレスが一番溜まる。
「メールとか電話とか来てた?」
「いや、全く」
 肩を竦める。すると、それが追夢の癇に障ったのか、創造した椅子に腰掛けて足を組み、じっと睨んできた。
「ところで、ちゃんと言っただろうな」
「…………」
 視線がさまよう。
「今日、ちょっと辜露ちゃんと喋ったんだけど。何も進展してないような気がするんだけど」
 体ごとそおっとそっぽを向くと、いきなり耳を引っ張られた。
「痛あああああ!? もげるうーっ!?」
 見ると、追夢の座っている椅子が浮かんでおり、それで音もなくひそかに接近したらしかった。
「い、いったあ……。急にそういうことするの、まじ、やめて……」
 赤くなった耳を労わりながら抗議する。夢は肉体と切っても切れない関係にある。現実の自分の耳が心配だった。
 すると、ものすごくドスの利いた声が降ってきた。
「……ああ?」
 ぴたっ、と魔追は固まる。
 怖くて顔を上げられなかった。
「貴様、誰のせいで辜露ちゃんが感染したのか、分かってんのか……?」
「オレデス……」
「いつもアフターケアまで含めてとか言ってんのは、誰だ……?」
「スイマセン……」
 認めるたびに蹴られる頭。受験生の大事な脳味噌が、とは思うが、とても文句は言えなかった。その筋合いすらなかった。
 偶然だが、知ってしまった辜露の気持ち。
 何か、ほんの小さなアクションでもいいから起こさなければとは思うのだ。なのに臆病な自分が出てきて、あっさりと尻込みしてしまう。
 言われるまでもなく、こんな情けない自分が嫌だった。
 嫌だ嫌だと言って何もやらない自分が、もっと嫌だった。
「夢の中なら、気取った台詞も言えるのにな……」
 ぼそりと呟いた言葉も、言い訳がましくて。
「へたれ」
 また蹴られる。
 でも、そうやってまだ相手してくれることに、オレは安心してしまうんだ。
 その時、鋭く風を裂く音がした。
「すっ、すっ、すいませんっしたー!」
 小さな影が飛び込んできて、ターミナルにダイブした。ぐしゃっ、とか本来ならしない筈の音がして、二転三転してから止まる。それでも、タフな彼はすぐに起き上がって、ぺこぺことお辞儀をした。
「すいませんっした! 母ちゃんと父ちゃんにちょっと捕まってしまって……!」
「いくつだったんだ」
「平均二・一です。って、なんで成績だって分かったんですか!?」
「前もそうだったし」
 魔追はしゃがみ込むと、彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。ちっちゃい子扱いしないで、と悲鳴を上げつつおとなしくしたままのところが、なんというかおかしい。だが、夢の中の彼は本当にちっちゃいのだ。身長は幼稚園児並みで、頭の少し大きい四頭身。赤色を基調にした中国風の着物を纏い、金の棒を持ち、金の環を頭に嵌めている。そして、極め付きが大きな丸っこい耳と茶色いふさふさの毛に覆われた尻尾。それは完全に孫悟空の格好だった。
 ただし、ちっちゃい。
 だから、最初のあだ名は『チビそんご』で、次が『チビ』で、本人の反対により今は『そんご』に収まっている。
 しかし、やっぱり『チビ』という茶色くてちっちゃい犬を相手にしているような気分になる。
 ストレートに言おう。
 かわいい。
「さっさと終わらせて帰って寝るぞ」
「あっ、追夢さんっ」
 ぱっと顔を輝かせるところが、とっても分かりやすかった。
「えっと、あの、追夢さん、その……」
 暫くもじもじとしてから、そんごは思い切ったようにほぼ真上で空飛ぶ椅子に座る追夢にカミングアウトした。
「そっ、その位置だと、ちょうど組んだ足の隙間からおぱんつさんが、ぎゃう!」
 三転どころか十転した。
 さすがに失神していた。
「あーあ……。手加減してやれよ」
「いくら馬鹿正直だと分かっていても、我慢できることとできないことがある」
「そりゃ、まあ……」
 でも、これ、オレも言っちゃうかも、という言葉は呑み込んでおいた。
「救出してくるよ。うさぎ穴、準備しておいて」
「魔追」
 追夢の声は先程と打って変わって落ち着いたものだった。
「さっきの話、あれで終わりじゃないからな」
「……分かってる」
 くてっと伸びているそんごの頬をぺちぺち叩くと、むにゅう、とか言いながら目を覚ました。
「ああ、魔追さん……。オレ、憧れの人に蹴られる夢を見ました……」
「……まあ、夢っちゃ夢だよな」
 ダメージは小さかったようなので、自分で歩かせた。寧ろ精神的にはプラスだったと思う。
「――それじゃ、もう一度確認するよ。対象は高城硝子。症状はおそらくつぼみから花。担当はいつも通り、追夢がサポート、そんごが追夢の護衛、オレが本体の駆除。あとは状況に応じて臨機応変に。なにかある?」
 はい、と挙手したのは追夢だ。
「他の犯人の反応がある」
「他の?」
「そう。症状も予定より進行してるかも」
 追夢は語尾を濁したが、魔追の眉間は自然と寄っていた。追夢の侵入に関する能力はトップレベルだ。軽視することはできない。
「そんご」
「はい、万全です! 任せてください!」
 さっそく觔斗雲に乗って胸を張るそんご。そんごも二人の手伝いを始めてから三年目だ。いくつかの修羅場も乗り越えている。その点は心配なかった。ただ、
「調子乗って孤立するなよ」
「ぜ、善処します……」
「……」
 いろいろと不安だった。
「開けるよ」
 追夢が椅子から下りるのとそれが始まったのはほぼ同時だった。
 伸びる、伸びる、伸びる。
 隙間なんかどこにもない床から生えだした植物は、まるで早送りのようにぐんぐん成長し、あっという間に背の高い生垣になって三人を中に閉じ込めた。そして、唐突に現れた大穴が、觔斗雲で飛んでいるそんごをも吸い込むかのように三人を暗闇へといざなう。このうさぎ穴には何も無い。オレンジマーマレードも本も、それらをしまう棚も。壁だってあるのかどうか。その代わり、落下はいつまでも続かない。終わるのもまた唐突だ。
 電車が長いトンネルを抜ける時のように、小さな光点は一瞬で大きくなった。二、三回ほど強くまばたきをし、徐々にそこが夜の世界だと分かってきた。
「海……」
 辺りにはさざなみの音だけが満ちている。恐れていた光景は見当たらず、それが逆に不審感を煽った。
「追夢、これ、花だよな……?」
「それどころか、もう花粉が始まっているはず」
 見返してくる赤い瞳も心なしか動揺しているようだ。
「なんか不気味ですねー。夢とはいえ、ここまで暗くて静かだと、何か出てきそうで……」
 ぺたりと座り込むそんごをたしなめるが、そんごの言うことにも一理ある。これでは、ただ新月の夜を表した、ごく普通の夢のようだ。
「まさか」
 空を仰ぎ見る。赤や青、白や紫にデコレーションされた、一見普通の星空。だが、そこに月はない。夜といったら、誰もがまず思い浮かべるのが月だろう。それは夢においても変わらない。少なくとも、魔追がこれまで侵入してきた夜の夢の中ではそうだった。夜と月はイコールで結べるといっても過言ではない。
 じっと目を凝らす。
 ――動いた。
「追夢、星だ。や、星じゃなくて、あれが花粉だ」
 ここからではあまりに遠くて細かくは視認できないが、二人も星々が絶えずぶるぶると震えていることに気付いたようだった。もっと近づけば、あれが蟻の大群のように群れている『アリス』だと分かるだろう。そして、聴こえてくるに違いない。
 心に傷を抱えた硝子を深い眠りへ引き込む歌が。
 どんな時でも、追夢の仕事は早い。髪が風になびかれたようにふわりと動き、その間に精査を終えていた。
「魔追の言うとおり。あれが花粉で間違いない。本体はもっと近くにいる。進行が早いだけで花粉自体はそこまで成長しきってないから、放っておいても大丈夫なんだけど……」
 何故か言いにくそうに言葉を切り、忌々しげに舌打ちをした。
「あの中に、犯人がいる」
「あの中って、あの大群のこと?」
「高城の逆鱗に触れて、加速現象が起きたっぽい。放っとけば第二の感染は確実。進行が速かったのも、たぶん、そのせい。どうする?」
「オレが行く」
 ほとんど考えずに答えていた。しまった、と思ったが、そんごではあの数に対応しきれないだろうし、本体を倒してから急いで加わるにしても、まず体力がもたない。道はこれしかないように思えた。
「ん? てことは」
 そんごがぎょっとした顔になって、慌てて立ち上がった。
「オ、オ、オレが本体やるんですかっ!?」
「そう」
「は、初めてですよっ!?」
「なんとかなる」
「なるんですかっ!? 本当にっ!? 信じちゃいますよ、いだああああっ!?」
 あんまりにしつこいので、追夢の手が伸びた。
 耳に。
 悶絶するそんごに、ああ、あれめっちゃ痛いよねーと共感するが、怖いので助けない。
 追夢は釣り上げた耳に向かって怒鳴った。
「いいからやれ!」
「は、はひっ! すいませんっした!」
 めそめそするそんごだが、腹をくくったのか、觔斗雲を大きくして追夢を一緒に乗せた。二人は本体のいる方へと飛び去って行った。
 一人になると、たちまち不安と心細さが湧いてきた。
 頭を振り、両頬を挟むように打つ。気合を入れなおすと、むむを呼んだ。
「はいな~」
 むむは手作りの小人さん人形といった感じの夢の妖精で、今回も定位置とばかりに肩に座ってきた。
「ありゃりゃ、なんかいっぱいいるね。ぼくちゃんの仕事多そう」
 めんどっちいな~、とだらけようとするむむを小突き、いつものを出すように要求する。だらだらしながらも、むむは素直に応じた。
 先程のうさぎ穴に似た、しかしそれよりも小さな穴が開いて、中から幅広の大剣が飛び出してくる。やけに装飾の凝った、ごてごてしすぎて逆に剣とは言えないような、そんな代物だった。ところが、魔追がそれを手に取った途端、星空もどきがざわりと波打つ。この剣が何をもたらすかを知っているのだ。
「次のが必要になったら、また地面に立ってね。分かってると思うけど、そうじゃないと穴を開けられないから」
「ああ、いつも通りだね」
 答えながら大剣を構える。星の姿がだんだんと大きくなり、その輪郭を浮き彫りにしていった。それは、目を塞がれたぬいぐるみだ。右目を眼帯で、左目の瞼を縫い付けられて盲目となった女の子だ。もっとも、それは夢の中における仮の姿であって、本当の姿も名前も分かっていない。だから、魔追達はそれをこう呼ぶ。
 夢の森の案内人、アリスと。
「さあて」
 感触を確かめるように軽く振り回してから、魔追も夜空へと走り出した。
 まずは、謎の犯人の確保だ。












 ……うたいましょう ユメのように
 ……おどりましょう ユメのように


「あれ?」
 ほんの一瞬、景色がだぶついた気がして、わたくしは目をこすりました。
 気のせいでしょうか。
 首を傾げつつ、再び小径を歩きだします。森の中の、暗くて寂しい、小さな小径でした。冷たい夜気が肩から染みてきて、体をぶるりと震わせます。どうして足がちくちくするのだろうと思ったら、靴がありません。そうです。置いてきたのです。とにかく、ないものは仕方ありませんから、わたくしは寒さに耐えながら、一人、歩んでいきました。
 どのぐらい歩いたでしょうか。
 木々の合間から時折灯りが見え始め、わたくしは足を速めます。何かに押されるように歩調はだんだんと速くなり、耐え切れずに駆けだしました。木々はあっという間にみな背後へと流れ、わたくしは森の外へと飛び出します。そこにあったのは、大きなお屋敷でした。玄関の前には何頭もの馬とそれを操る人達、そのお付きの人達がいて、夜なのに賑やかな様相を呈しています。わたくしは不思議に思って、そろそろと近付きました。騒がしさが増したのは、ちょうどその時です。
 お屋敷の扉が開かれます。
 逆光の中に浮かび上がったシルエットは、男と女のものでした。男は女の手を引いていて、二人の姿がはっきりと視認できるようになった途端、夜闇を打ち破るような歓声の嵐が巻き起こりました。
「あっ……」
 わたくしは慌てて辺りを見回し、そして広い庭にぽつんと佇むお墓を見つけます。
「王子様、おめでとう! ご結婚、おめでとう!」
 あれは姉の方でしょうか、妹の方でしょうか。わたくしに分かる訳がありません。そのわたくしとそっくりな女の子は、頬を薄桃色に染めて、それを隠すように俯いていました。足下には、あの時置いていった靴がありました。
 花嫁を連れた一行はわたくしの横を通り過ぎ、お城へと帰っていきます。ちらとでもわたくしに目を向ける者はいません。当たり前です。何故なら、わたくしは惨めで汚い、“悪い子”なのですから。
 その子は、本物じゃないのに。
 本物は、わたくしなのに!
 居ても立ってもいられず、激情のままに叫びました。
「わたくしは――――ここにいますっ!!」
 誰も止まりませんでした。
「ああう……」
 わたくしは頭を抱えて座り込みます。涙がぼろぼろと零れ落ち、意味の分からない言葉でみっともなくわめきながら、髪の毛を引っ張り、爪を噛み、ひたすら何かを吐き出し続けます。
 あれが本物ではないということは、よく、知ってるのに。
 それじゃあ、見向きもされなかったこのわたくしも偽物……?
 本物は、いったい、どこに……?
 息が苦しくなって、呼吸ができなくなって、地面に倒れ伏します。あうあうとよだれを垂らしながら、すがるように地面を掻き毟り、土を噛み、のたうち、掠れた悲鳴のような喘ぎが零れ、わたくしは、もう何も見えなくて、何も見つけられなくて、わたくしは、誰でもいいから見つけて……!
 
 ぺろり。

 何かひんやりと濡れたものが頬に当たり、わたくしは目を覚ましました。そう時間は経っていない筈なのに、その感触はとても懐かしくて、腕を伸ばして抱きつきます。
「つば、き」
「ぅわんっ」
「つばき……!」
 縋りつくと、ツバキはぐいぐいと鼻を擦りつけ、ぺろぺろと顔中を舐めてきます。それがくすぐったくって、わたくしは声を上げて笑っていました。
 ギィッ、と扉の軋む音がしました。
「ツバキ! おいで!」
「ぅわんっ」
 するりとツバキは離れると、もう一人のわたくしに向かって走ります。目の前が真っ暗になって、わたくしは慌ててツバキを止めました。
「だめ! ツバキ、行かないで!」
 振り向くツバキ。すかさず、もう一人がツバキを呼び、わたくしも負けじと声を張り上げ、うろうろとしていたツバキは結局困ったように座り込んでしまいました。
「くうん」
 その悲しげな声に胸を突かれ、わたくし達は一斉にツバキに飛びつきました。
「「ツバキ!」」
 ごめんね、ツバキ。ごめんね。わたくし達、あなたのことを忘れていたのに、いまさら取り合いなんてして。ごめんね。許して、ツバキ。
 ツバキはくんくん泣きながら、可愛らしい前足をわたくし達の腕にそれぞれ掛けます。そして、嬉しそうに目を細めるのでした。
「ゴールデンレトリバーはどうでしょう?」
 女性の店員さんは、金色の毛に包まれた子犬を抱かせてくれました。
「ゴールデンレトリバーはおとなしいですし、飼い主さんに本当によく懐くんですよ。大型犬なので初めては大変だと思いますけど、言うこともよく聞くので、慣れれば本当にかわいいパートナーになります」
 ツバキには、わたくしが誰で、誰がわたくしなのか、絶対に分かるのです。
「ありがとう」
「ありがとう、ツバキ」
 わたくしはここにいる。
 見失っても、ツバキが必ず探しに来てくれる。
 大好きだよ、ツバキ。
 世界で一番、いえ、宇宙一可愛いわたくしのお友達。
「ぅわんっ」
「えっ……?」
 誰かの声が聞こえたような気がして、わたくしはじゃれてくるツバキをまじまじと見ました。もちろん、ツバキが喋った訳がないのですが。

 違うよ。
 ツバキじゃなくて、椿。

 こんな声が。


 


 …うたいましょう ユメだから



 おどりましょう ユメだから



「……いた……!」

 紅玉のような双眸が輝き、その妖しい視線に射抜かれたそいつは、びくりと震え、ゴールデンレトリバーの中から幽体離脱でもするかのように抜け出してきた。とはいうものの、そいつは半透明に透けていたりなどしないし、犬の姿すらしていない。今頃はもう散らされているだろう夜空のアリスよりももっと大きくて、そのチビアリスを生んだ親である本体のアリスだった。
 逃げ出すアリスに、觔斗雲に乗ったそんごが迫る。
「だああああああああっ!」
 ぱこーん、と間抜けな音とともに、アリスは体当たりを食らって宙に舞った。
「しゃあああああ! あ、あれ?」
「阿呆!」
 ガッツポーズを決めようとするそんごに、追夢の叱責が飛ぶ。
「本体はいつものと違う! そんなんで消えるか、馬鹿! その棒はおもちゃか!」
「はっ! そうでした!」
 急いで追跡を再開するが、既にアリスの背中は遠い。その前方に黒々としたうさぎ穴が開き、硝子の夢からまんまと逃げていった。そんごも穴に入ろうとしたが一歩遅く、しょんぼりと戻ってくる。
「す、すいませんっした……」
「もういい。最初から期待してなかったし」
「あ、あう~……」
 猿のくせして、反応がいちいち犬っぽい。
 硝子はこちらになど目もくれず――そもそも見えていないので当然だが――、椿、椿、とペットと遊んでいる。アリスがいなくなり、精神的にも持ち直したようだ。追夢はこの夢が終わりに近いことを感じ取っていた。
「魔追を回収して帰るぞ。超眠い……」
「あっ、寝不足は美容の大敵ですもんね! 帰りましょう帰りましょう! どうぞ、追夢さん乗ってください!」
「美容なんかどうでもいいし。ほら、さっさと行け」
「いっきまーす!」
 二人を乗せた觔斗雲は海の方へと飛んでいく。気持ちのいい風に吹かれながら、しかし追夢はどうにも嫌な予感がして緊張を解ききることができないのだった……。









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