雲生みモックじいさん

おぷてぃ

文字の大きさ
7 / 13

第7話『雲にのって』

しおりを挟む
「この雲に? おれが乗るのか。あんたそんなこと……ほんとうにできるのか」

    なんだかふたりのようすが変わったことに気がついた雲は、さっきまでのきげんの悪さはどこへやら。かんし員とモックじいさんの話をじっと聞いていました。

「そんなことは、わたしにはわからんよ。たった今、そう思いついただけさ。できるかどうか、その雲に聞いてみればいいじゃないか」
「それもそうだ」

    モックじいさんはおずおずと、しかし、すがるように雲に話しかけました。

「なあ雲や。今の話は聞いておっただろう? その……おれを乗せて飛ぶなんてこと、できるんだろうか」
「わかんないよ、そんなの。だっておいらが生まれたばかりだってこと、じいさんが一番よく知ってるはずじゃないか」
「そうか。そうだったな」モックじいさんは頭をかきました。

「だからさ、ためしてみればいいじゃないか」雲はなんでもない風に言いました。

    行き先なんてものはこれっぽっちも思い当たりませんが、ここでぷかぷかしているくらいなら、いっそのことモックじいさんを連れてあちこち見てまわるのもいいかもしれない。そう考えたのです。
    雲はそっとモックじいさんの足もとの高さまでおりてくると、ひざの裏にまわってトントンとふくらはぎのあたりに体当たりして、座ってみるようにうながしました。
    かんし員が見守る中、モックじいさんはおそるおそる雲の上に腰をおろしました。

「わっ!」

    モックじいさんは飛び上がりました。おしりのあたりを触ると、ズボンがしっとり濡れています。ついさっきまで、雲が泣きべそをかいていたことを思いだしました。

「そうだった。ごめんよ!」

    雲はそう言って、ぶるぶると身ぶるいしました。雲のからだから飛び出た水しぶきが、モックじいさんのひざから下と、あたりの床を濡らしました。かんし員は少しだけ眉をひそめましたが、なにも言いはしませんでした。

「ごめんなさい」

    今度は雲があやまる番でした。そしてもう一度、モックじいさんはゆっくり腰をおろしました。今度は濡れることも、ひんやりすることもありませんでした。
    おしりの下の柔らかな感触を確かめると、モックじいさんは思いきって両足を放りだしました。

「わわっ!」

モックじいさんを乗せて、雲はぷかぷかと浮きました。さっきより、ちょっぴり床が近くなっていましたが。

「うまく乗れたかい?」

    雲がようすをうかがうように聞きました。

「ああ、乗れた乗れた。まさか、おれが雲に乗る日がくるなんてな」

    そう言ってモックじいさんは、はあはあと肩で息をしました。実は緊張のあまり、腰を下ろす最中は息をとめていたのです。

「それじゃあ、これで一緒に出かけることもできるわけだ」

    雲も心なしか嬉しそうに、部屋の中をすうっと一周してみました。

「そうか……そうだな。うむ」

    モックじいさんはようやくかくごを決めたようで、ひとりうなずきました。

「話がすんだのなら出て行ってくれるかい。これでわたしもいそがしいんだ」

    モックじいさんがかんし員に目を向けると、彼はとっくにもとどおり。望遠鏡をのぞき込んで、またどこかの空に浮かぶ雲のようすをながめています。

「ああ、そうするよ。仕事の邪魔をしてすまなかった」

    あやまるモックじいさんの顔を、かんし員はやっぱりちらとも見ませんでしたが、その口もとは優しくほほえんでいるようにも見えました。

「良かったな」

    そう言ったあと、もうこれで本当に仕事に戻るぞとばかりに、いずまいを正し、口をぎゅっと結びました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

魔女は小鳥を慈しむ

石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。 本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。 当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。 こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

ふしぎなえんぴつ

八神真哉
児童書・童話
テストが返ってきた。40点だった。 お父さんに見つかったらげんこつだ。 ぼくは、神さまにお願いした。 おさいせんをふんぱつして、「100点取らせてください」と。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...