神様のお楽しみ!

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第三章 転生編

変わらぬ日常

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 まだ日が昇ってすぐの時間帯、キョロキョロしながら平民区を歩く人影があった。まるで見つかりたくないかのような。
 その人影はオシャレとは言い難いが、シンプルな木造の建物の前で立ち止まった。周囲の建物は全て、平民区であるにもかかわらずレンガで出来ており、木造より丈夫なのは一目瞭然だ。
 しかしどういう訳か時代遅れの木造建築なのに、五百年以上残っている上、一部の従業員は長寿なのだ。エルフ族ではなく人族が、だ。

 扉を開けて入るその人影は、長い髪に魔法使いが着るローブ姿から女性だと思われる。背の高さから小柄だとわかるが、それ以外はわからない。
 普段はその人影が建物に侵入し、毎週恒例のイベントを起こすのだが今回は違った。
 女性の後を貴族街から追う少年がいた。はたから見れば不審者の後を追う不審者という図だが、貴族街から来たというのが問題だった。貴族は基本的に体面を気にする為、不審な行動はもちろん女性の後を追うなど、非難を浴びること間違いなしである。

 他の建物と造りが違うだけと判断して、扉の取っ手に手をかけた。表札がないことに気がつかず。

 「うわぁぁあ!!」

 少年の悲鳴が突如、平民区に響いた。その悲鳴は周辺の住人の目覚ましとなるのと同時に、巡回中の衛兵を呼ぶきっかけにもなった。
 到着した衛兵は困惑したに違いない。何故なら、植物のツルのようなものに身動きを封じられた少年がいたからだ。首、両脇、胴、両手首、両足首をツルで縛られている少年が涙している。

 巡回中の衛兵が新人だった為か、その衛兵は少年を捕らえるではなくあろうことか、店内に入ろうとして取っ手に手をかけた。
 
 「うおおおおぉぉぉ!!」

 二度目の大声にさすがの住民も確認の為に、外へ出て現場を見て立ち止まった。
 少年だけでなく若い衛兵までもが、ツルのようなものに縛られていた。明らかな異常事態。にもかかわらず周辺の住民達は、冷静に衛兵を呼ぶ者と見物する者と自宅に戻る者の三つに別れた。

 少年と若い衛兵は駆けつけた衛兵達によって連行された。



 そこは、アルバ王国が建国してすぐの頃に作られた自宅兼飲食店『食の棚』。王国の食文化を発展させた、食の発信地でありスイーツの聖地でもある。
 王国民の老若男女が知る憩いの地を中心に、早朝から二人の者の悲鳴と共に目覚めていく。


 今週のイベントは少し騒がしかったな、といった感想を皆が持っていた。
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