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第三章 転生編
貴族の少年と若い衛兵
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俺はゼイネル・ラーウス。ラーウス銀家の次男なんだ。貴族の位は白金家がトップになる。白金家、金家、白銀家、銀家、銅家の五家しかない。その代わり下位家程多くて白金家はアルブスの一家だけ。
ラーウス銀家に生を受けた俺の特技は、遅寝早起き。睡眠時間が短くても十分なんだ。
今日は何故か日が昇る頃に目が覚めた。こういう時は何かが起こる日と経験でわかる。カーテンを開けて窓を開けると、冷たい風が頬を撫で室内の空気を循環させる。
通りの右方向に人影が見えた気がして、薄暗い中に目を凝らすとその人影が、グランツ家特有の水色髪だとわかった。
急ぎ身支度をして、窓から庭の木を伝い壁を越えた。忍び足で人影の後を追った。
「……って訳だよ。もう良いだろ?」
「話はわかった。だが、後を追い侵入しようとする行為は、貴族であっても許されることではない。それに侵入しようとした場所が問題だ」
「平民区だろ?こっちは貴族だぜ」
衛兵はため息を吐きながら頭を振る。
「グランツ家の者の後を追うのもしてはいけない行為だ。しかも相手が悪い…はあぁぁ」
確かにそれは軽率だった。なにせ、グランツ家は金家で、ラーウス銀家より上位家になる。
「君が後を追った相手は、五百年以上生きるアクロ・グランツ様だ」
「うそ…だろ?」
アクロ・グランツ様だと?!アクロ様は三属性を巧みに使い様々な魔物を討伐した過去を持ち、上級ポーションの開発者でもある賢女だ。
そんな方の後を俺は追ったのか!絶句し身体を震わせる俺に構わず、衛兵は言葉を続けた。
「更に君が侵入しようとした場所は、飲食店『食の棚』だ。盗みに入ったと思われても文句は言えない」
「は?…………食の棚?食の棚ってことは……」
「食文化の発信地だ。人によっては聖地と呼ばれているな」
終わった。
父上が気に入っている店に…俺はなんてことを…。
絶望に打ちひしがれてたら、取り調べ室に連絡が入った。父上が来たようだ。
◆
自分の名は、グラウ。南西方向の平民区で生まれ育ちました。両親は他界し弟のトルテと二人暮しです。
初めて夜勤を担当し、巡回中に東大通りの方向から子供の悲鳴を聞き駆けつけました。どういった物かはわかりませんが魔法が使用され、身なりの良い少年がツルに縛られていました。少年の救出よりも犯人の確保を優先し、建物に入ろうとしました。
「自分からは以上です」
「新人教育不足だな」
キッパリと話す衛兵にホッとしたのも一瞬で、建物に入ろうとしたことが良くなかったと言われた。
「あそこは特別なんだよ。南東の平民区で表札がない木造建築は、あの場所しかない。あれは一般住宅ではなく住宅兼飲食店だ、まぁここまで言えばわかるだろ」
聞いたことがある。建国した頃から存在する伝説の場所。一切の侵入を許さず倒壊したこともないという。訪れたことはないが、一度は行ってみたいと思っていた。
「あそこの店主代理の対応によるが、何もないことは期待しない方が良い」
「はい。この度はご迷惑を…」
退出を促された自分は、重い足取りで南西の自宅へと戻った。
「ただいま」
「おかえり、兄さん。今日は早いね」
弟のトルテは、今年でもう十五歳になった。両親が他界してから五年で少しずつ成長し、今では自分よりも精神が大人に思える。
アルバ魔法学園の高等部国防科Aクラスに通っていて、将来は国の為か国に仕える形で働きたいと言っていた。自分も国防科を選んだがBクラスだった。それを思うとトルテは自分よりも遥かに、優秀だ。物覚えも良く適正魔法は四属性で、期待の新人と学園で言われている。
「トルテ、実は今日……」
弟は悲しむだろうか、呆れるだろうか。
あぁ、自分を呪いたい気分だ。
ラーウス銀家に生を受けた俺の特技は、遅寝早起き。睡眠時間が短くても十分なんだ。
今日は何故か日が昇る頃に目が覚めた。こういう時は何かが起こる日と経験でわかる。カーテンを開けて窓を開けると、冷たい風が頬を撫で室内の空気を循環させる。
通りの右方向に人影が見えた気がして、薄暗い中に目を凝らすとその人影が、グランツ家特有の水色髪だとわかった。
急ぎ身支度をして、窓から庭の木を伝い壁を越えた。忍び足で人影の後を追った。
「……って訳だよ。もう良いだろ?」
「話はわかった。だが、後を追い侵入しようとする行為は、貴族であっても許されることではない。それに侵入しようとした場所が問題だ」
「平民区だろ?こっちは貴族だぜ」
衛兵はため息を吐きながら頭を振る。
「グランツ家の者の後を追うのもしてはいけない行為だ。しかも相手が悪い…はあぁぁ」
確かにそれは軽率だった。なにせ、グランツ家は金家で、ラーウス銀家より上位家になる。
「君が後を追った相手は、五百年以上生きるアクロ・グランツ様だ」
「うそ…だろ?」
アクロ・グランツ様だと?!アクロ様は三属性を巧みに使い様々な魔物を討伐した過去を持ち、上級ポーションの開発者でもある賢女だ。
そんな方の後を俺は追ったのか!絶句し身体を震わせる俺に構わず、衛兵は言葉を続けた。
「更に君が侵入しようとした場所は、飲食店『食の棚』だ。盗みに入ったと思われても文句は言えない」
「は?…………食の棚?食の棚ってことは……」
「食文化の発信地だ。人によっては聖地と呼ばれているな」
終わった。
父上が気に入っている店に…俺はなんてことを…。
絶望に打ちひしがれてたら、取り調べ室に連絡が入った。父上が来たようだ。
◆
自分の名は、グラウ。南西方向の平民区で生まれ育ちました。両親は他界し弟のトルテと二人暮しです。
初めて夜勤を担当し、巡回中に東大通りの方向から子供の悲鳴を聞き駆けつけました。どういった物かはわかりませんが魔法が使用され、身なりの良い少年がツルに縛られていました。少年の救出よりも犯人の確保を優先し、建物に入ろうとしました。
「自分からは以上です」
「新人教育不足だな」
キッパリと話す衛兵にホッとしたのも一瞬で、建物に入ろうとしたことが良くなかったと言われた。
「あそこは特別なんだよ。南東の平民区で表札がない木造建築は、あの場所しかない。あれは一般住宅ではなく住宅兼飲食店だ、まぁここまで言えばわかるだろ」
聞いたことがある。建国した頃から存在する伝説の場所。一切の侵入を許さず倒壊したこともないという。訪れたことはないが、一度は行ってみたいと思っていた。
「あそこの店主代理の対応によるが、何もないことは期待しない方が良い」
「はい。この度はご迷惑を…」
退出を促された自分は、重い足取りで南西の自宅へと戻った。
「ただいま」
「おかえり、兄さん。今日は早いね」
弟のトルテは、今年でもう十五歳になった。両親が他界してから五年で少しずつ成長し、今では自分よりも精神が大人に思える。
アルバ魔法学園の高等部国防科Aクラスに通っていて、将来は国の為か国に仕える形で働きたいと言っていた。自分も国防科を選んだがBクラスだった。それを思うとトルテは自分よりも遥かに、優秀だ。物覚えも良く適正魔法は四属性で、期待の新人と学園で言われている。
「トルテ、実は今日……」
弟は悲しむだろうか、呆れるだろうか。
あぁ、自分を呪いたい気分だ。
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