神様のお楽しみ!

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第三章 転生編

初テイム

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 「前世の本でよく見るのは、子狼がフェンリルでしたってパターンだけど、初心者用の森にいる訳ないからなぁ」

 俺は今、ヒンセク国の近くにある、初心者冒険者が講習や依頼でよく来る森にいる。
 魔法のない星から転生して目覚めたての俺が、魔法に慣れてる訳がない。だからまずは慣れようとここに来た。

 「森って涼しいイメージがあるけど、暑いな」

 汗が溢れるという訳ではないが、森には魔物が住み着いている為、熱がある。奥に行けば行く程、生き物の熱を感知し、獲物を捕食する魔物が増える為、気をつけねばならない。
 
 気を張り詰めた緊張状態のタイヨウの背後で草木が揺れる音がした。


 ガサッ


 「ッ!」

 慌てて構えるタイヨウだったが、飛び出してきたのは中心に魔石が輝く半透明ボディのスライム。透明度の高い水と少しぼやけたフィルムが合わさったような、液体の性質である粘性と固体の性質である弾性、その両方の性質を合わせ持った”粘弾性物質ねんだんせいぶっしつ”であった。

 「良かった、スライムか」

 しかし最弱認定されているスライムであっても、魔物には変わりない為……

 「ぉわっ…あっぶねぇ」

 水弾を飛ばして来る。

 威力はレベルによって異なり、水鉄砲のような水弾から木に穴を開けられるものまでいる。更に進化先が多様で、環境によって適正魔法も進化と同様で変化する。

 「よし、まずはスライムだ」

 彼は意気込んでスライムと向き合ったーー。




 「遅いな」

 「ギルマス、あの冒険者のこと気に入ってるんスね」

 ヒンセク国王都の冒険者ギルドでは、ギルドマスターのアズラクと副ギルドマスターのガルセクが、ギルドマスター室で書類整理をしつつ雑談していた。
 話の中心はタイヨウが持つ未知のスキル。実はガルセクも気になっていたりするが、それを表には今のところ出していない。

 コンコンッ

 「ギルドマスター、タイヨウさんが戻られました」

 「入ってくれ」

 ギルドマスターの声を合図に扉が開く。
 タイヨウが一人で入室し、案内の職員は去っていった。

 「失礼します。タイヨウです戻りました」

 「行きとは違ってずいぶん、ボロボロだな」

 ギルドマスターが言うように、転んだのか服は土で汚れていたり、草の中を進んだ為か葉っぱがヒラリと落ちる。
 それ以外は変化がなく…いや、少し喜んでいるように見える。

 「テイムには成功したか?」

 「あー、はい。えっと…スライムを」

 「練習っスね?となると、初心者が向かう森以外なさそうっスわ」

 しかしタイヨウは何やら、腕を組み考えを巡らせていた。何を?と思いガルセクが尋ねた。

 「何か悩みごとっスか?」

 「あー、とりあえずスライム出しますね。[召喚サモン]キングさん」

 タイヨウが座る前に置かれた机に手をかざし、召喚魔法を唱えると水色の魔法陣が出現。魔法陣からズズッと出て来たのは、森で見かける拳サイズのスライムではなく、両手で丸を作ったくらいのスライムがその場で大人しく丸くなっていた。
 二人は魔物を連れて歩いていると思っていた為、突然の魔法陣に立ち上がった。

 「スライム、なのか?拳サイズには見えないが……」

 「スライムはスライムなんですけど、実は森の中で見つかったスライム百匹をテイムしたら、キングスライムになりまして……」

 『な!?』

 アズラクとガルセクの二人は机上のスライムを凝視。目を離さずに口だけは動かすという器用なことをしだした。

 「キングスライムと言えばスライムの王っスけど、そういう魔物がいるのかと思ってたっス。まさか、合わさった姿だとは……」

 「キングといゃぁ俺達よりデカいハズだが、小さくなってるとか言わないよな?」

 「普通のスライムと大きさが違うとわかるくらいに、小さくなってもらってます」

 この時ばかりは二人とも、スライムから目を離し盛大にため息を吐いた。
 小さくともスライム。しかも王であるキングスライム。元のサイズになれば二人は窒息死になり得る上、このサイズで放たれる水弾の威力は計り知れない。

 タイヨウにその気はなくとも、主を守る為に水弾を放てば即死は免れない。スライムと言えども魔物なんだと、再認識した二人であった。
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