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ホストと秒速で仲直りしたらしい。1
しおりを挟む俺はどちらかというとクールな方だと思って生きてきたし、これまでの人生では他人からもそう言われることが多かった。それがスバルと出会ってからというもの、自分のクールではない部分が公になってきて、ショックを受けることもしばしばだ。
特に女々しい一面に出会うと死にたくなる。女々しい自分だけは絶対に許すことができない。スバルじゃあるまいし、なにをグズグズ思い悩んでいるんだ、と自らに活を入れることだって何度もあった。
でも俺は、スバルの女々しさを舐めていた。スバルの女々しさは一周回って、逆に男らしくすらあった。
◆
「優也あ……ごめん……ぐずっ……怒んないで……僕、優也のことが好きなんだよぉ……」
「わかったから泣くなって。怒ってないし。俺が悪かったよ」
絶対に言えないと思っていた言葉は、号泣する恋人を目の前にしたら存外あっさり口にできた。
もう終電もないというのに、スバルは泣きながらタクシーに乗って俺の家まで来たのだという。
頭がおかしいとしか思えない。
「だって、だって、っ……ポチもいなく、なってるしっ……」
「いるって、クローゼットの中。まず泣き止んでくれよ。そして話しよう」
「っ、ぐすん……わかった」
別れたいと思っているのかという問いかけに対し、俺は違うと断言したというのに、スバルはもう終わりなのではないかと不安に思っていたらしい。そういうことじゃないんだ、というのを、俺はうまく伝えられずにいた。
「俺、多分……嫉妬したんだよ。ごめんな」
泣いているスバルの頭をポンポンと軽く叩いてみる。
世の中の恋人は、喧嘩をしたら冷却期間を設けるのが通例ではないのか?
そう思うが、スバルだったら時間をおけないで特攻してくるのもわかる気がした。
泣き止んだスバルは、目が真っ赤になって腫れている。なぜか急に俺も泣きたい気持ちになってきた。好きな相手を泣かせてしまうのは苦しいことなんだと、こんなタイミングで実感したからだ。
「僕、月島先輩と付き合ってたんじゃないんだよ」
「そうなのか」
そのことはもうどうでもいい、という気持ちになっていたが、聞かずにいて後悔するよりは聞いてみよう、と思い直した。
「……片想いだったんだ。僕がおとこおんなって言っていじめられてたとき、先輩が助けてくれた。それで、僕はみんなと同じで女の子が好きなのに、外見が中性的だから誤解されてるんですって、嘘をついたんだ」
そう言わなければいけないような環境と、当時のスバルの気持ちを想像して、また泣きそうになるのをこらえる。くだらない嫉妬をしていた俺だが、そんな日常の中で高校生のスバルが少しでも救われたなら、そこに月島さんがいてくれてよかったと心から思えた。
「そしたら先輩は、そんなのどっちでもいいよって言った。関係ないよって。そして、卒業まで僕と普通に接してくれた。だから僕はなおさら、男として男を好きになることもあるなんてこと、言えなかった」
スバルの話はぽつりぽつりと続き、俺は黙ってそれを聞いていた。
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