桃太郎の真実

式羽 紺次郎

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第八章

鬼退治の真実①

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桃太郎は鬼ヶ島攻略戦に向けて、海賊と呼ばれるガラの悪い連中を雇うことにした。
ただし彼らには、鬼ヶ島で得た報酬をびた一文と分けてやるつもりはなかったが。
桃太郎の作戦はこうだった。
まず、雇った海賊を鬼ヶ島の正面から突入させる。これは陽動と攪乱を目的としていた。
この攻撃でいくらかでも鬼に損害を与えることが出来れば儲けものとも考えていた。
海賊たちの攻撃中に、桃太郎一味は裏口から侵入、お宝の奪取を第一の目的としていた。
その最中に出くわした敵は、基本的に暗殺。暗殺できないような強敵の場合、強行突破もしくは囮を使って
強行突破。
そうして、鬼たちからも情報収集を行い、お宝を奪う。
そうすれば、あとは鬼の殲滅作戦に移行する。殲滅に当たっては、桃太郎は秘策を用意していた。
当時南蛮から伝わってきたばかりの、火薬を使用するつもりだったのだ。
桃太郎は竹を器用にくり抜き、中身が空洞の丸い形の入れ物を作った。そしてその中に、粉々に砕いた鉄の破片を
火薬と一緒に敷き詰めて、入り口には油を染み込ませた縄を埋め込んだ。
そう、桃太郎は日本に鉄砲が伝来するより前に、簡易の手榴弾を作ってしまったのだ。

決戦前夜、桃太郎一味は瀬戸内のある村で壮行会を行ってもらっていた。
この頃にはすっかり、桃太郎一味は盗賊団としてではなく、義賊として名を広めていた。
地道な広報活動の賜物である。
「いやー、桃太郎さん!ついにあの鬼どもを退治してくださるとは、本当に頭があがりませんですわ。」
酔った村長は、桃太郎を持ち上げる。
「嫌だな、村長。僕らは、当たりまえのことをするだけです。困っている人を助け、悪人を退ける。普通ですよ。」
「いやいや!あなた方がいなければ、この村はどうなっていたことか。先代の村長が家族ごと鬼どもに八つ裂きにされてからも
 奴らは略奪を繰り返し、殿様に収める税にまで手を付けようとしていたっていうじゃないですか。桃太郎さんらがあの鬼を
 止めてくれていなかったら、この村は今頃・・・」
村長は涙ぐみながら、桃太郎に感謝する。すべては、桃太郎が仕組んだこととも知らずに。
桃太郎は、鬼の評価をどん底まで下げる為に、様々な噂を広めてきた。その仕上げとして、この村で惨劇を引き起こしたのだ。
まずは、当時村長だった男を一家皆殺しにした。実行犯は桃太郎と、雉だ。
桃太郎は、笑いながら村長の目の前で娘をなぶり殺し、それをみた雉は泣きながら、謝りながら村長の妻の体を切り裂いた。
村長殺害の罪を桃太郎に擦り付けられた鬼たちは、その村に抗議に行く。実際は、鬼たちは話し合いでの解決を求めていたが
頭に血が上った村人が聞き入れるはずなく鬼を追い返す。そのどさくさに紛れて、桃太郎は村から金品や食料を盗み出し、それをまた鬼の罪とした。
タイミングといい、動機も十分であると見た村人は犯人は鬼であると疑いもせず、彼らの怒りは頂点に達した。
そして、誰からともなく鬼討伐の声が上がり始めた。そして、桃太郎が名乗り声を上げたのだ。
すべては、桃太郎の思惑通りだった。
おばあさんの家を出たころの子悪党は、今や人を自分の意のままに操る悪魔になっていた。
犬と猿と雉は、目の前の見えない仮面を被り、笑う悪魔を見て、三人が皆同じ事を考えた。
「「「ああ、この世には救いはないのだ。」」」

そして、決戦の日
先行した雇われ海賊の少し後ろを桃太郎一味は船で付いて行った。
船には、宝物を入れる頑丈な箱と、桃太郎が作った大量の竹製手榴弾、そしてこれまた大量の火薬が積んであった。
「ついにこの時がやってきたな!お前ら!俺がただの盗賊から、この国の英雄に生まれ変わる日だ!」
いつになく桃太郎は上機嫌だった。
「そ、そうですね。鬼ヶ島までもう少しです。」
「・・・なぁ、桃太郎。本当に鬼を根絶やしにするのか?」
「あたりめぇだろ。バカ雉。何のための火薬だよ。島ごと吹っ飛ばしてやるのさ。」
「ちっ、乗り気しねぇ・・・」
「雉君、私だってそうよ。でも、あいつには・・・」
「わかってるよ。猿姉。あいつは、桃太郎は許せねぇ。そう頭では理解しているのに、あいつに刀を向けることすら出来ないんだよ。」
「何ぶつくさ言ってやがる、お前ら。おい、雉、刀でも研いどけよ。今日は、何10匹と化け物退治しないといけないんだぜ?」
「・・・・わかってる。」
この時、笑顔なのは桃太郎だけであった。三匹の家来は皆、重い表情をしていた。
鬼ヶ島の方角から、怒号や悲鳴が聞こえてきた。海賊が上陸し、攻めているのだろう。
桃太郎は海賊には特に作戦を与えず、とにかく派手に暴れろと伝えてあった。
彼らをそれをよく守り、囮として充分過ぎる役割を果たしていた。
桃太郎一味が乗る船は、海賊が上陸した反対側に上陸した。
そこは、波も穏やかでとても静かな海岸だった。普段は、ここから鬼たちが漁に出ているのだろうか、小舟が
いくつか停泊しており、その中には、魚を捕るための網や釣り竿が入っていた。
その船を見た雉は、故郷の海を思い出し、一層胸が痛くなった。
「よしよし、こっちには誰もいないみたいだな。表の騒ぎに鬼どもが向かっているみたいだ。ここまでは上々っと。」
対照的に桃太郎は相変わらずの上機嫌だった。
「おい、雉、犬、お前らは先頭だ。作戦通り、敵に出くわしたらまずは雉がやれ。敵が複数、もしくは雉が
 一撃で敵を仕留めそこなったら犬が、仕留めてやれ。いいな。」
二人は頷く。
「よし、行け。猿は戦闘では役に立たないからな。火薬と破裂玉を運べ。気を付けろよ、刺激を与えると
 爆発するかもしれねぇからな。」
桃太郎はこの木製の手榴弾を破裂玉と呼んでいた。
破裂玉の効果については、以前手軽な村を見つけて実験済だった。破裂玉一つで、農民の家なら壊滅状態にすることが
可能な威力を有していることを確認していた。
桃太郎一味は、海岸を抜け、鬼たちが住んでいると思われる家が立ち並ぶ住宅地に入った。
そこは少々入り組んでおり、死角が多く、雉の得意とする環境だった。
まだ、1匹の鬼とも遭遇していなかった。桃太郎の計画通り、海賊の襲来に掛かりきりの様だ。
(このまま、誰も出てこないでくれ。)
雉は、そう願っていた。
しかし、そんな彼の願いも虚しく1匹の鬼が一行の前に現れた。
それは小さな赤鬼だった。雉は、小鬼と目が合ってしまい、彼に太刀を浴びせることが出来なかった。
そんな様子をみた、赤い小鬼は人間と友達になろうと思ったのだろうか、一行に向けて無邪気な笑顔を向けた。
雉も、元々悪党であったはずの犬でさえ、その笑顔の刃を向けることは出来なかった。
ただ一人の男を除いては。
桃太郎は、雉と犬が殺意を失ったことを察すると、刀を抜き、赤い小鬼の喉に刃を突き刺した。
それは、最短の攻撃で、且つ小鬼から声を発する手段を奪う為の効率的で、残酷な一太刀だった。
桃太郎が刀を小鬼の喉から抜くと、刃が抜かれた所から、小鬼の肌よりも少し黒みがかった赤い血が噴き出した。
そして、桃太郎は即座に小鬼に二の太刀を浴びせ、首と胴体を切り離した。
その一連の出来事を他の三人はただ見ているしかなかった。
桃太郎が、三人を振り返る。
「てめぇら、何してやがる。俺の命令を忘れたのか!ああ!?雉!!なんで、その小太刀を突き立てなかった!
 犬!てめぇも雉がやり損ねたならすぐに切りかかれ!ふざけやがって・・・」
雉が答える。
「桃太郎。その子、子供だぜ。俺たちをみて笑ったんだよ。あの笑顔には悪意なんてなかった、そんな子をどうして切れる!!」
彼は、泣きながら訴えた。それは、初めての桃太郎に対する反抗だった。
「なるほど?殺し屋様ともあろうお前が、情を抱いちまったわけだ。お前もか、犬。」
犬もゆっくりと頷く。
「そうか、それは俺が悪かったな。」
犬と雉は驚いて、桃太郎の顔を見る。彼が、過ちを認めたのか?
「俺が、甘かった。おい、犬、雉。お前ら、この鬼の死骸をバラバラにしろ。」
信じられない言葉を前に、猿と雉は言葉を発することが出来なかった。
「あ?聞こえなかったか?こいつをバラバラに切り刻め。そして、そうだな。犬は、切り離した手を、
 雉は頭を自分の腰に括り付けろ。これは戒めだ。わかってるな?お前らが招いた結果だ。」
まだ、二人は動けない。ただ、目の前の切り殺された小鬼を見つめるしか出来なかった。
「も、桃太郎さん。お、俺には出来ねぇよ。いくら鬼でも子供の死体を、更に切るなんて。」
「黙れ!!最近、てめぇらに恐怖を与えてなかった、俺の間違いだったな。これ以上俺を怒らせるなら、
 このガキの肉を猿に食わせるぞ!!」
猿の顔面が蒼白になる。
「・・・わかったよ。だから、それはやめてくれ。頼む。」
雉が項垂れながら、桃太郎の要求を飲んだ。
そして、犬と雉は震える手を抑えながら、小さな鬼の解体を始めた。
桃太郎は、嫌がる猿に無理矢理、解体の様子を見せつけ、満足そうな表情を浮かべていた。
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