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第二章 幼少期~領地編
23.領地へ行こう!
しおりを挟む今朝、王都を出発して、カネッティ家の領地へ向かう馬車の中にいる。
私の隣には、ルカが丸くなって眠っている。
馬車に揺られ、寝ているルカを撫でながら、先月の五歳のお披露目を思い出していた。なんとか無事?に終わったが、もうあんなのは御免だなと思う。
やけに肉食系の女の子が三人いたしな……〈遠い目〉
アーレント王国の貴族は、子供が五歳になったら、お披露目のパーティーを開くんだ。
面倒くさい話だけど、正式な国民登録をしたから、これから貴族のお付き合いをヨロシクねっていうことで開くらしい。
一歳の時にお姉様のパーティーがあったようだが、そういう日は、部屋から一切出ることができないので、見たことがないんだ。
その日は、部屋でエリアにがっしり抱えられて、尻尾で遊ばれていたように思う。
当日は、夕方から玄関前の車寄せに次々と馬車が到着して、王都にいるたくさんの貴族が、招待されて集まってきた。
私のお披露目パーティーということで、五歳から九歳の子供も一緒に招待された。この世界に転生して初めてたくさんの子供を見た。
魔法学院で同級生になる子もいるだろうから、仲よくしておこうと思って愛想よくしていた。イジメられると怖いし。
お父様が開宴の挨拶をして、私の挨拶も失敗せずになんとか終わり、肩の力が抜けた。人前で話すのは前世から苦手なんだ。
苦手な挨拶が終わり、飲み物で喉を潤していると、子供を連れた集団が押し寄せてきた。
そこからが大変だった。ご両親と一緒に来た子供達と挨拶したんだが、その中に肉食女子と嫌味君がいた…。
肉食女子筆頭が一歳年上の侯爵令嬢。それと同じ年齢の伯爵令嬢と子爵令嬢。
三人とも綺麗なんだが、自分の魅力を既に十分わかっていて、私を選びなさいって感じで、グイグイ来るところがめちゃくちゃ恐かった。
良かったよ侯爵令嬢で。これが、我が家より家格が上の公爵令嬢だったら、対応に苦慮するところだった。
嫌味君は、侯爵令息とその腰ぎんちゃくの子爵令息。それと伯爵令息。
親に煽られたんだか何かわからないけど、とにかく嫌味な感じで突っかかってきたんだ。
伯爵令息は普通にしてたらおとなしそうな感じだから、親に何か言われてやってみた感じだったね。
侯爵令息と腰ぎんちゃくは、五歳にしてもう顔が歪んでいたから、矯正は無理な気がする。
気が良さそうな同い年の子供も二人いて友達になった。伯爵令息と男爵で第三騎士団団長の令息だ。
この二人は、嫌味攻撃やグイグイ攻撃から、それとなく救い出してくれたんだ。ホントに助かった。
後日、お互いの家に遊びに行く仲になった。王子以外では、今生で初めての同い年の友達だ。これが一番嬉しかった。
いろいろあったお披露目パーティーの後、しばらくして、お爺様から『領地に遊びにおいで』とお誘いの手紙が届いた。お兄様達もみんな五歳になるのを待って領地へ行ったらしい。
お爺様とお婆様は、どうしても欠席できない国王主催の晩餐会に出席するために、毎年一回だけ王都の屋敷に来てすぐに帰っていく。
今回、私が領地に行き、二ヶ月後に一緒に王都に来ようということらしい。
馬車の前後左右を総勢二十人の騎士さんの騎馬に囲まれて、アーレント王国の南東に位置する、カネッティ領の領都フォルツに向かっている。
馬車はやっぱり揺れる。侯爵家の馬車なので、まだ揺れない方なんだろうけど、舗装されていない街道ではかなり揺れる。
乗り物酔いの方は、酔い止め薬を調合してきたので、それを一つ朝に飲んだから大丈夫のはず。もし酔っても<ヒール>をかければ、割とすんなり治るはずだ。
今現在、私の悩みは他にある。自分で騎馬で駈けた時は気にならなかったんだけど、馬車だと……辛い。コッソリ<ヒール>をかけていても辛い。
領都まで馬車で五日。私のお尻は持つのだろうか…?
午前中で、既に私のお尻は悲鳴をあげ始めている。
宿泊する街で、埋もれるほどクッションを買ってもらおうか。そうすればルカも気持ち良く眠れるよね。うんうん。
向かいに座る、エリアとレオンは平気そうな顔をしているんだよねー。痛くないのかな?
ちょっと泣きそうになって、夕方やっと宿泊する街に着いた。
お尻は痛いが、王都以外の街に入るのも、宿屋に泊まるのも初めてだから楽しみだ。
街を囲む街壁はそんなに高くないな。街道に臨む門の検問所に並ぶ?かと思ったら、列の横を走って門まで着いちゃった。
「カネッティ侯爵家の馬車である」
「はい。カードを拝見します」
「ここに」
「はい。ありがとうございます。はい。終了しました。ようこそヴゥーラーへ」
「ありがとう」
なんと、貴族専用の門があったんだ。小隊長の騎士さんが代表して手続きをして街に入った。
王都まで一日の距離にある街道沿いの街は、結構大きくて賑わっている。道幅も広く露店も出ている。
ゆっくり進んで、本日の宿屋に着いたようだ。そんなに大きくないけれど、清潔そうな宿屋だ。
そして、安全面を考慮して貸し切りになっている。宿屋の主人夫婦が、カネッティ領の出身だから融通も利く。我が家の定宿だそうだ。
召喚獣の首輪をしているからか、ルカを部屋に入れることについては、何も言われなかった。
(やっと、お尻が楽になった…。<ヒール>かけながら乗ってたけどやっぱり痛い……涙)
《アル。オチリイチャイノ?ダイジョブ?》
(うん。今はもう大丈夫だよ。明日のためにクッションを買ってきてもらうことにするね)
そうして、ルカと話してから、エリアに向き直った。
「エリア、お願いがあるんだけど」
「はい。なんでしょうか?」
「馬車で使うクッションを用意してほしいんだ」
「クッションですか?」
「うん。ちょっと痛くて…。たくさん用意して?エリアとレオンの分も用意して良いからね」
「はい!わかりました!」
「うん。お願い。それと、部屋に<ピュリフィケーション>かけた?」
「いえ、掃除がきちんとされているようですので、かけていません」
「そうなの?わかった。僕がかけておくよ」
「あっ、アル様がかけてくださるのでしたら、私の部屋もお願いします」
「えーっ?わかったーっ。じゃ、クッションお願いね!たくさんだからね!!あっ、小隊長さん。エリアの護衛に騎士さん二人つけてくれる?うん。よろしく~」
「はい、わかりました」
「「「行ってまいります」」」
エリアも嬉しそうだったから、やっぱり痛かったんだろうね?
騎士さんを二人つけたから、クッションはたくさん買ってくるだろう。ホントは護衛なんだけど、きっと騎士さん達は、両手一杯の荷物を持たされて帰ってくるな。
宿屋の部屋は綺麗に掃除されていたけれど、ダニとか心配じゃないのかな?誰かに浄化の魔法かけさせたかと思ったんだが、気にしないようだ。
(私はとっても気になるんだよ。ダニは嫌だもんね。アレルギーも心配だし。じゃあ、ちゃっちゃと部屋に魔法かけちゃおうか!)
《カケチャオー!》
ルカもこう言ってるしね。よし!
浄化は、やっぱり日本語の方がイメージし易いよね。
<浄化>
部屋に白い光が溢れて…消えた。
《アル。マリョクリョウ、コメシュギー!》
(うわっ……壁や床まで新品みたいになっちゃたよ。あちゃ~。かけすぎた…。でも綺麗になったんだし、まぁ、いっかー!)
《イッカー!》
私は、その後、全く自重せずに全部の部屋に<浄化>をかけたんだ。
みんなは喜んでくれたけれど、帰ってきたエリアにコッテリとお説教された。隣にルカも座らされていた…。
でも、翌日からの馬車移動は、フカフカのクッションに座っていくことができた。ルカもクッションの上で、気持ちよさそうに丸くなっていた。エリアも、無表情のレオンもどこか嬉しそうだ。
お尻も一日目ほど辛くなく、無事に残り四日間を乗り切り、領都に到着することができたんだ。
やっぱり、恥を忍んでクッションお願いして良かったーっ!!
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