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第二章 幼少期~領地編
24.領都
しおりを挟むお披露目パーティーが無事に終わり、生まれてから初めてカネッティ家の領地に入る。王領の街で一泊してからカネッティ領に入り四日。領内の様子を眺めつつ、お尻の痛みに耐えてようやく領都に到着した。
領都フォルツは、王都ほどではないけれど、かなり大きい城郭都市だ。
一番外側の城壁は高さ十二M、幅三Mくらいあるだろうか。城壁の上から弓で狙えるように、狭間が縦長に等間隔に開いていた。弓兵用に向こう側は二Mほど低いのだろう。
街道沿いに大きな正門があった。ここでも、長い列を無視して前に進む。
エリアに聞いたら、貴族は時間短縮はもちろんだが、安全面も考慮して、列に並ぶことはないそうだ。
貴族専用門に着いた。
私達の乗っている馬車には、カネッティ家の家紋が施されている。
「カネッティ侯爵家の馬車が通る」
「はっ、領主様より伺っております。カードをお預かりします」
「ご苦労。こちらだ」
「はい。終わりました。ようこそ、アルフォンス様。皆様、お帰りなさいませ」
「ありがとう。ただいま」
領主の家紋があってもきちんとカードチェックしたぞ。よしよし♪
小隊長さんと門番さんのやり取りが、どこか暖かくて嬉しいね。私も窓から手を振っちゃった。エリアにメってされたけど…。
正門を抜けると広場があり、そこから中心部に向かって広い石畳の馬車道が通っている。両脇には歩道があり、商店と宿屋が軒を連ねている。
(わあ~♪ 道広いし街路樹が綺麗! あっ、たくさん獣人さんがいる♪ うわーっ、蜥蜴の獣人さんは初めて見る…。ちょっと顔が怖い…。あーっ、露店何売っているんだろう? 滞在中に城下に下りて買い物したいなぁ♪ うん。楽しみ♪)
《ルカモー♪》
(ルカも街に下りるの?)
《ウン!》
(うーん。ルカはお爺様の許可が出たらかなぁー?)
《エーッ! ジャア、ルカガオネガイチテミリュ!》
ルカが街に出たら騒ぎにならないかな?もう猫で通らないくらいの大きさになっているからね。お爺様に聞いてみよう。
窓から覗いちゃいけないとエリアに何度注意されても、領主館に着くまで、一人と一匹は、瞳をキラキラさせて外を観察することをやめられなかった。
中央の広場の周りにはギルドの建物や教会があるようだ。そこから緩い上り坂になっており、その両側は広い家が多い。
突き当りに堀に囲まれた高い城壁が見える。あれが領主館かな?
城壁は外壁より少し高いみたい。やっぱり縦長の狭間がある。城壁の周りを十M程の幅の堀が囲んでいる。水は綺麗なようだ。魚が泳いでいるのが見える。水源はどうなっているんだろう?後で聞いてみよう。
跳ね橋を渡り、検問所で正門と同じやり取りがあり、城壁の中に入った。
(うわーっ! 凄い!!凄い!!!)
《ヒロイー! ネエネエ、ルカ、ハチッチェイイ?》
(今はダメ! 後で聞いてみてからね)
正門を入ってすぐには、広い石畳の広場があった。その周りは所々に樹が植えられ、芝生が敷き詰められている。その向こうに見えるのは、厩や馬場、騎士の宿舎だろうか? 訓練場もあるね。反対側には、大きな倉庫が何棟も見える。裏には領主館の野菜畑が広がっており、薬草園や温室や使用人宿舎もあるそうだ。
領主館の前庭が石畳と芝生なのは、領民が避難してきたときのためだそうだ。広大な畑も薬草園も倉庫も。
倉庫群は年貢の為もあるが、食料やテントも十分備蓄しておく必要があるためだ。
領主館は小高い山の上に建っている。領都の裏側は外壁の向こうに、豊かな農地と果樹園が広がっており、農村が点在している。
領内には大きな街が五つと大小の村々がある。
今回の滞在では、領都以外の街や村にも行ってみたい。できれば、領主家の子供とは知られずにだ。ありのままの人々の暮らしを見てみたいと思う。何かいい方法がないだろうか?
私は、王都では実戦以外でまだ外出したことがない。街を散策したことがないんだ。
こちらでは、どうやって過ごそうか? 楽しみでしようがない。
もちろん、毎日の勉強や訓練はしなければならない。その合間をぬって、まずは街に下りてみるでしょ? 買い物したり、市場を覗いたり、防具や魔道具屋も見たいでしょ? 露店で買い食いもしてみたいし。ギルドや教会にも入ってみたい。
明日、リヒト先生が長距離転移で飛んできてくれる。勉強はリヒト先生に教えてもらうんだ。
私も長距離転移で領都に来れば良かったのにって思うでしょ? わざわざ辛い思いをして馬車に乗らなくてもって。でも、貴族の旅は、その旅程でお金を使うことも大切なことなんだって。だから、今回は転移はダメだとお父様に言われたんだ。
確かに、私一人だけの移動でも、護衛を含め総勢二十数名の集団になる。宿泊費や食費や補給などで、途中の街では大金を使うことになる。貴族の移動には経済効果があるんだね。
それでも、私は、次からは長距離転移で飛んでくるけれどね。だってお尻痛いし…。
そうだ。リヒト先生に、お忍びで他の街や村に行ってみたいって相談してみようか。先生だったら連れて行ってくれそうな気がする。
うわーっ、すっごく楽しみになってきた。
これからの二ヶ月を、思いっきり楽しもうと思う。
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