47 / 76
第二章 幼少期~領地編
44.小さな命
しおりを挟む「アル。魔法をかけてくれるか?」
先生は、シスターがいるためハッキリ言葉にはしなかったが、<隠蔽>の魔法をかけてほしいと言った。そして、シュテファン先生のところに連れて行くという。
自分では他に良い選択肢を思いつかないから、先生の言う通りにしよう。
「はい。わかりました」
魔法を見られないために、シスターには部屋を出てもらうようにお願いすることも忘れてはいけない。
「シスター。ここに居合わせたのも何かの縁だろう。この子は俺が引き取ることにするがいいかい? それから、母親の埋葬の手配をこれで頼む」
そう言って、リヒト先生はシスターに少しのお金を渡して、部屋を出る用事を頼んだ。
「わかりました。きっと、このご縁は神の御引き合わせでしょう。埋葬の手配をした後は、この赤子に幸あれと祈りましょう」
シスターはそう言うと部屋を出て行った。
「アル君。今のうちに<隠蔽>の魔法をかけてくれるかい? この子が成長しても解けないようにね。それから、母親にもかけてくれるかい? 外見も人族に近づけてほしい」
「わかりました」
母親にもかけるのか? なんでだろう? でも、今は時間が無いしここでは詳しい話もできない。シュテファン先生のところに行った時に聞けるだろう。
まずは、赤ちゃんからだ。
先に、部屋に結界を張る。外からは、音はもちろんのこと、気配も探れないような強力なやつだ。
次に、ユーリさんやお婆様にかけたように、魔法にも、水晶にも、何物にも見破られないように、成長しても弱まらないようにと願いながら、ステータスから外見までハーフエルフと勘繰られないように、<隠蔽>魔法で”偽装”をしていった。
獣人族の幼体なので、エルフの特徴が成長に合わせてどう出てくるのかがわからないため、成長しても特徴が出ないように願って<隠蔽>をかけてみた。今後は、成長を見守っていくしかない。場合によっては、また<隠蔽>魔法をかけることも必要になるかもしれないね。
そして、母親にも<隠蔽>魔法をかけて、ステータスも外見もエルフとわからないように”偽装”を施し終わった。
「アル君。ありがとう。これで追手が母親の墓を暴く可能性が減ると思う」
そうか。エルフ族とハッキリわかる状態だと、いくら口止めしても、埋葬を手伝う男たちから秘密は漏れるだろう。そうなると追手に墓を暴かれる可能性が高いのか…。そういう理由だったのか。
「でも先生。ここで亡くなったという事実を確認できないと、いつまでも追手は無くならないんじゃないでしょうか?」
「うん。そうだね…。ただ、母親の墓を暴いて死者を冒涜しても、それで終わらないと思っているんだ。赤子の存在が知られているだろうから、この赤子を確実に葬り去るまで追ってくるだろうね。それならば、母親が少しでも安らかに眠れるようにしようと思ったんだ」
先生はそう言うと、もう一つ付け加えるように言ったその内容に驚いた。
「そうだ。シスターには、この親子がエルフ族だったという記憶を内緒で人族に書き換えさせてもらったから、話を合わせておいて」
(えっ? えっっ?? えーーーーっ???)
(先生。何サラッと言ってくれちゃってんの? いつ魔法かけたのかわからなかったよ? すっごいなーっ! でも、記憶の書き換えなんてどうやるんだろう…。 禁忌魔法っぽいけど…。 今度絶対教えてもらう!!!)
記憶の操作なので、先生も余程のことがなければ使わない魔法だと教えてもらった。少しでも目撃者が少ない方がこの赤ちゃんの生存率があがるため、今回は特別措置だそうだ。
もう一度、母子ともにちゃんと魔法がかかっていることを確認し、持ち物などにエルフ族の痕跡がないことを確認し終わったところに、シスターが戻ってきた。
「手配ができました。埋葬は今日の夕方行います。お二人は参列なさいますか?」
シスターが聞いてきたが、
「いや。やめておこう。赤子も別れをすませただろうし、先を急ぐのでこれから出発しようと思う」
先生は断わった。
それから、母親の埋葬をきちんと行うように再度お願いして、教会を後にした。
母子の持ち物はほとんどなかったが、母親の首にロケットが下がっていたので、それと髪の毛の一房を形見として持ってきた。はめていた指輪は、獣人族の父親と対の指輪だと思われたので、<隠蔽>魔法で追手に対だとばれないように”偽装”して、身に着けたまま埋葬してもらった。もちろん盗まれないように魔法をかけるのも忘れずにやった。神の御許で再会した時に指輪をはめていないとケンカになるとマズイしね。
赤ちゃんは、移動の間に泣いて見つかるといけないので、睡眠魔法をかけて先生が抱えてマントの中に隠している。
教会を出てからは、スラムを足早に抜ける。
すぐにも転移で飛びたいが、魔法の痕跡をたどられないように広場の近くまで移動してから、シュテファン先生のところに長距離転移で飛んだ。
リヒト先生は、まず最初に、一回の転移で王都まで半日の距離にある草原に飛んだ。そこから更に、魔法士団のリヒト先生の研究室に飛んで、それからシュテファン先生の研究室に到着した。今回、念には念を入れて、痕跡をたどられないようにしたようだ。本当は一回でシュテファン先生の研究室まで飛べるのを迂回したし、魔力の痕跡を消して飛んでいたもの。
改めて思うが、馬車で五日の距離を一回の転移で飛べる人が、いったい何人いるというのだろう?
先生は『今回は二人半だからな』って言って平気な顔をしている。
いつになったら追いつけるんだろうか…。
先生の大きな背中がとても遠く感じる…。
118
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる