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第二章 幼少期~領地編
47.温泉の地
しおりを挟むフォルツの南東二十キロ余りに広大な草原があった。
地下に水温の高い巨大な帯水層があり、掘れば間違いなく温泉が出る土地だ。
しかし、フォルツの街にそう遠くない場所にあるにもかかわらず、手付かずの状態であるのには周りを囲む森に訳があるらしい。
この森は周辺より少しだけ魔素が濃いんだ。
この世界、魔素濃度が高いところには魔獣が生まれる。そしてそこを住処にする魔獣は、高い魔素ゆえに強い個体となる。
こうして、魔素濃度がほんの少し高いだけの場所も、一般的には十分な脅威となるのである。
温泉を見つけた草原を囲む四方の森には、その魔素濃度のため他よりランクが高い魔獣が多く生息している。
そのため、領都に近い広い草原も豊かな森も手をつけることができずにいた。
フォルツの冒険者ギルドでは、常にランクの高い魔獣の討伐依頼があるので、多くの高ランク冒険者が拠点としている。
もちろん、領の騎士団もこの森を常に警戒しており、森にほど近い場所に簡易砦も置いている。
そんな場所に、先生と二人で転移してきた。
転移した場所は草原の端だ。草原の端ということは森の端でもある。
温泉探査の途中で陽が沈んでしまったので、今はもう夜である。
夜行性の魔獣も多いようで、餌を求めてうろついている。
探査の時から気配遮断はしているし、転移の時には結界も張って飛ぶため、転移直後にうっかりやられるなんてことはない。
ないが、魔獣の群れの近くに飛んでしまったらしい。こちらに向かってくる魔狼がおよそ50匹。大きな群れだ。
「先生、魔狼が来ます!」
「うん。51匹だね。後100M。視察の旅費を稼ごうかな? アル君、綺麗な状態で回収しよう」
「はい。わかりました。先生、試したいことがあるので、初撃はやらせてください」
「…うん。いいよ。やってみなさい」
先生の返答に一瞬の間があった。自分がやりたいんだろうな?
先生は、見た目や普段のおっとりした感じから、まわりはほとんど気づいていないが、かなり手が早い。一番最初に攻撃したいらしい。気が短いわけではないんだが、私と二人の時は初撃を自分でやりたがる人である。
戦争の時は、戦略的にマズいので、シュテファン先生か総団長さんが傍にいて、こちらから(先生が)先に手を出すのを押さえていたそうだ。
『今は分別も付いたが、もっと若いときは大変じゃった…』と、シュテファン先生が遠い目をしてこっそり教えてくれた。
(どうしようかな~? 魔法がいいよね? 傷つけない魔法…。うん。決めた。初めて使うけど、これやってみよう!)
転移と同時に発動した<探索>魔法で、魔狼の数と位置は瞬時に把握している。こちらに向かってきている個体のそれぞれの位置がわかる。私は瞬時に魔法を発動した。
発動した魔法は2つ。まずは、魔狼をいくつかのグループごとに結界に閉じ込める。次に結界内の空気中の酸素を抜く。真空も考えたけど、真空にしちゃうと潰れちゃうよね?
魔狼はランクが低く結構野獣よりなので、常に呼吸をしているからこの方法が使えるけれど、高ランクになると呼吸を必要としない個体がいるらしい。そんなのには出会いたくないよね。アンデッドでもないのに息してないんだよ?怖いでしょ?
そうして待つこと10分。携帯のアラームほしいな?って思っていたからか、なぜか耳に『チン!』とあの音が響く。
(えっ??? 気のせいかな…うん)
私はチン!音は気にしないことにして、意識の奥に追いやった。
魔狼がどのくらい息をしないで平気なのかがわからないから、10分経って結界を解いた。一応、結界内での生体反応がないことは確認済みだ。
「アル君、全部やっちゃったのかい?」
「あっ…」
「まぁいい。次は私の出番も残しておいて? 剥ぎ取りせずそのままギルドに持っていこう。とりあえず、全部無限収納に入れようか。後で今使った魔法の説明もしてくれるかい?」
「はい。わかりました」
(マズったなぁ。魔法をどうするかばかり考えていて、全部やっつけちゃったなぁ…。次は気をつけよう)
それから、どんどん魔狼を収納していったのだが、最後の一匹が通常より大きな個体だった。
(この個体がいたからか、転移直後に気づかれたんだよね。ランクが高い個体は、気配遮断してもダメってことかしら? う~ん? 今後のためにも要確認だなぁ?)
「これが、ボスだね。一番最後までもがいていた個体だね。アル君が窒息という方法をとらなかったら、ボスのいる魔狼の群れは、統率が取れた攻撃をしてくるから楽しめたのにね?」
(えっっっ??? 今、聞いてはいけない言葉を聞いたような…)
私は、突っ込んで聞くと怖いものが出てきそうなので、全力でスルーした。
その後、結構な数の魔獣を倒しながら、転移で草原を一周して、地形図を完成させつつ、森や草原の状況を把握しながら、温泉都市計画を練っていった。
大体の構想が出来上がった頃には、親月が真上に来ていた。因みに、この世界の月は親子月だ。大小二つの月が回っているようだ。
遅くなるって言っていないから、そこから急いで帰った。まぁ、転移で一瞬なんだけれど…。
それでも、夕ご飯には遅れてしまったので、エリアとレオンにガッツリと怒られた。
それから、調理場の端の使用人が食べるテーブルに夕ご飯を用意してもらって、先生と二人で食べた。屋敷の夕ご飯は今日も美味しかった。
さて、お腹もいっぱいになったところで、お爺様に今日の報告をしよう。
エルンストさんに確認したら、お爺様とお婆様は談話室でお茶を楽しんでいるところだそうだ。今日の報告をしたい旨を伝えてもらい、取り次ぎを頼んだ。
執務室で話を聞いてくださるそうだ。
さて、どう報告しようかな?
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