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ごはん屋オープン!
しおりを挟む「これは嬢ちゃんのモンだ」
「いいえ、攻撃はほぼ同時。山分けです」
「俺のナイフは、嬢ちゃんの魔法の着弾より遅かった。嬢ちゃんの獲物だ」
オスカーさんが投げ捨てた剣と肩当てを回収したあと、さっき倒したハーピーの所有権で言い争いになった。
「俺も、父さんの攻撃の方が遅かったと思う。アリスさんの獲物だよ」
「ああ、おやっさんの言うとおり、アリスちゃんの獲物だ。だから早く回収して、俺たちに何か食い物を売ってくれ~!」
オースティンさんや男性陣まで参戦してきて、私の敗色が濃厚だ。 仕方がない。ハーピーは貰っておいて、商品を値引きしよう。
「わかりました。ハーピーはいただきます。 さて、ではそろそろ、お店を開きましょうか!」
にっこり笑ってオープンを告げると、拍手が沸き起こった。 皆さんノリがよろしいことで♪
「では、最初の商品はお水から! 普通のお水は大鍋1杯150メレ。美味しいお水はぐっとお高く大鍋1杯500メレです。いかがです?」
「「「「「激安じゃねぇか!」」」」」
え、大鍋1杯の水が500メレなら、そんなに安くないと思うんだけど…。 ちょっと安いくらいでしょ?
「何か文句でも?」
「嬢ちゃんは男を立てるって事を知らねぇな!? いいか? 旅先で水は貴重なんだっ! それも、さっきのあのとんでもなく美味い水だろう?
大鍋1杯5万メレで買おうじゃねぇか!」
「はぁ? バカ言っちゃ困りますよ、お客さん。こっちも商売です。一旦出した金額を、そうほいほい値上げなんて、商人のプライドに掛けて、できませんよ!
それに、水ならこの先に川が流れてるんだから、そこまで行けば無料でいくらでも汲めるでしょう!?」
「いつから商売人になったんだよ? さっきは旅人だって言っていたじゃねぇか!」
「つい先ほどからですが何か? 店舗はなくても私の初めてのお店なんだから、1メレだって値上げできませんよっ。 さあ、買いますか? 買いませんか!?」
「畜生! 買うよ! 嬢ちゃんが困らないだけ買わせてくれ!!」
「3tも買ってどうするんです?」
「ああっ!? 3tも飲めねぇよ! どんだけ水を持ってるんだ!? …ちっ、じゃあ、とりあえず大鍋に3杯くれっ」
「大鍋3杯でも多いと思うけど…。 毎度あり! 鍋が少ないので飲み切ってから注ぎ足しますね。 では、お次は炒飯を!」
どうして、こんな喧嘩腰になっているのかはわからないけど、気分は悪くない……って言うか、正直楽しい♪
湯気の立っているフライパンを2つ取り出して、売値を言おうとすると、
「なんだよっ! 美味そうじゃねぇか!! 1個8,000メレで2個ともお買い上げだ!」
「食べてないのに味なんてわからないでしょ! フライパン1個分で2,000メレ! フライパンは返して下さいね!?」
「ざけんじゃねぇ! こんなの美味いに決まってるじゃねぇか! 匂いが違うんだよ! それ以上言うなら1個1万メレだ! 負けねぇぞ!?」
「…ちっ! 仕方がないですねぇ。 1個8,000メレで売りましょう。2個ともお買い上げ、毎度ありっ!」
「なあ、何で2人ともこんな喧嘩腰なんだ?」
「さあな~? おやっさん、勝ち星おめでとう! カッコいいぜっ!」
「父さん、頑張れ! 父さんの勇姿は母さんに伝えるからなっ!」
…ギャラリーまで盛り上がっている。
(オスカー、頑張るにゃ! アリスに負けるにゃ!!)
ウチの従魔までオスカーさんの応援をしてるし…。 私の従魔なら、私の応援をしてよっ!
「お次は…、食べ終わって、腹具合と相談しながらにしましょうか?」
「おおっ! これも美味ぇ! 嬢ちゃん、水、お代わりだ!」
返事の前に食べ始めてた。 お腹空いていたんだなぁ…。
「ちょっと! 水を飲むのが早すぎますよ! 水の飲みすぎは“水中毒”の元! ほどほどに!」
水を補充しながら、一応の注意はしておく。
「あ…? 水中毒って、なんだ?」
「え? ああ、大量のお水を一気に飲むことで、体が悲鳴を上げることです」
「水を飲まない方が良いのか…?」
気が付くと、食事の手を止めて皆が注目している。
しまった、言い方が悪かった…。
「いえ、水分補給は大切です。なにも無くても、1日に2ℓ~2.5ℓは必要ですからね。ただ、『一度に大量に』は飲まない方が良いって言うだけです」
「おい、聞いていたな? いくら美味くても、飲みすぎは良くないらしい。味わってほどほどに飲めよ?」
「わかったよ。父さんも飲みすぎるなよ?」
「「「ああ、わかった!」」」
お水の話がお酒の話に聞こえてきた。何でだ? ひげか!? ひげがむさいからか!?
炒飯はあっと言う間になくなり、悲しそうな視線でフライパンを見ているむさい男たち…。
「お次はお米の炊いたのと、おかずになりますが、いかが?」
「買った!! 10万メレだ!」
「商品も見ずに、値段をつけるなーっ!」
「おやっさん! 俺らの手持ちも考えて値段を付けてくれ! そろそろ払えなくなるっ」
ああ、まともな金銭感覚の人がいたっ! がんばれーっ!
「ああ? 何言ってんだ? ウチのオースティンの為にここまで強行軍で荷車を引いてくれたお前らに、金なんて使わせるかよ! 全部俺が出すに決まってんだろ?」
オスカーさん、かっこいい! さすが、マルゴさんの旦那さん!!
「おやっさん…」
「「ごちになりやす!」」
男性たちが嬉しそうにお礼を言ってるのを見ながら気付いた。
予算、1,500万メレ以上との戦い? 厳しそうだな、と。
(稼ぎ時にゃ~!)
ハクは気合を入れてるけど…。 マルゴさんの旦那さんから暴利は貪らないよ?
「で、嬢ちゃん、次は何を食わしてくれるんだ?」
オスカーさんは“ニヤリ”と笑って言った。 これは気を引き締めて掛からないと、高値で買われてしまう!
次は…、
「まずは、食器をクリーンしますね。敷物の上に置いてくださ~い」
食器を綺麗にした所で、次は、
「この鍋に残っているご飯を全てで700メレ! おかずにワイルドボアの生姜焼きが、フライパン1つで2,000メレ! 煮ボアを2本で」
「1万メレだっ!」
「3,500メレ…」
「俺の勝ちだな。二ボア?ってその鍋だろう? 美味そうな匂いじゃねえか! 1万メレだ!」
勝ち負けって、早く言った者勝ちなの?
「3,500メレ…」
「ダメだ、嬢ちゃん。今回は俺の勝ちだ! 認めねぇなら、ショウガヤキ?も値上げを要求するぜ?」
くっ、何、この押しの強さ…。
(アリスの負けにゃ! オスカー、偉いにゃ♪)
ハクまで…。 私は孤立無援なの?
「…わかりました。 煮ボアは2本1万メレでお買い上げ。その代わり、ご飯と生姜焼きは私の言った値段で良いですね?」
「ああ、それでいい」
「デザートに木苺はどうです?」
お皿に山と盛って差し出してみる。
「すげぇ! さっきはりんごで今度は木苺だ! 摘みたてみたいにつやつやだぜ!?」
「よし! 5万メレだ!」
「一皿、5,000メレ! 加工なしで摘んで洗っただけなんだから、5,000メレ!」
「……わかったよ。5,000メレだ!」
勝った♪
「では、煮ボアは切ってお出しするので、それまではご飯と生姜焼きを召し上がれ! 木苺も置いておきますよ♪」
「「「「「おおっ!!」」」」」
「なんだよ、これも美味いじゃねえか!」
「米がこんなに美味いなんて…。 ショウガヤキを乗せて食べると最高だっ」
「はい、煮ボアお待ちどおさま!」
「おおおおっ! これも美味そうだぁ!」
「水、おかわり~♪」
……女3人寄れば姦しいって言うけど、男が5人集まってもやかましいな。
応援ありがとうございます!
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