女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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旅立ちはにぎやかに 3

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「こちらは料理長から預かりました、焼き菓子でございます。 アリスお嬢さまがお気に召していたとモレーノさまからお聞きして、菓子職人が張り切った結果がこの量でございます」

 すました顔の執事さんが大量のマドレーヌをアイテムボックスから取り出すのを見て、ハクとライムが大喜びだ。

「嬉しい! ありがとうって、伝えてね!」

「かしこまりました。お嬢さまはくれぐれもお気をつけて…」

「うん!」

 フィリップとのお別れをすませると、

「お~い、アリス! 勝手に決めて悪かったよ。 反省してるから、いい加減にこっちを向いてくれよ~!」

 さっきから何度目かのイザックからの呼びかけだ。 仕方がないから、そろそろ振り向いてあげようかな。

「イザック! どこへ行っていたのかと思ったら、すごい荷物だね? イザックもどこかへ行くの?」

「えっ…? あ、ああ! スフェーンもり経由でラリマーまちへ行こうと思ってな。 一緒に行こうぜ!」

「いや!」

「ああ、よか……はっ!? 嫌……?」

 イザックの誘いをにこやかかつきっぱりと断ると、まさか断られるとは思っていなかったらしいイザックがびっくりした顔で私を見る。 

 私にだって、都合があるんだよ!

「うん、嫌。 そういうことなら私が行き先か出発日を変えるよ。 イザックはこの馬車で先に行ったらいい」

 視線を合わせてきっぱり言うと、イザックはショックを受けたように項垂れる。

「俺は、そんなに嫌われていたのか……?」

 ……きっぱりと断りすぎて誤解を与えたらしい。 急いで説明を口にする。

「そうじゃないよ! 私は森でしたいことがあるから、護衛代わりに一緒に来られたら邪魔なだけ」

「スフェーンは結構厄介な魔物が出る森なんだ。 何をするつもりかは知らないが、護衛がいる方が安全じゃないか! 護衛じゃなくて臨時パーティーならどうだ?」

 やっぱりイザックは私の護衛をするつもりだったらしい。 気持ちは嬉しいんだけどね、実際にはちょっと迷惑。

 どう言ったら諦めてくれるのかとしばらく考えたけど、それらしい理由を思いつかなかったので少しだけ本当のことを話すことにした。

「今回は、自分の実力の把握をする為に森に行くの。 だから、魔物の不意打ちも一対多の戦闘も大歓迎だし、野営中に襲われるのも大歓迎。 そこに護衛だのパーティーメンバーだのがいたら、逆に邪魔なの」

 本当は別にも理由があるけど、ここではちょっと言えないし。 これで納得してくれたらいいんだけど……。

 イザックの顔を見たら、不服に思っているのが丸わかり。 さて、どうしたものか。

「『スフェーン』はアリスが思っている以上に危険な森なんだ! ハクやライムを危険な目に遭わせるつもりか!?」

「だから、危険な目に遭いに行くんだよっ! ハクやライムは私の従魔なの。イザックが思っている以上に優秀だし、強いんだよ! 
 それに私はしばらくはソロ活動をするつもりだって言っておいたでしょう? ソロの活動にも慣れていないうちにイザックみたいな高ランク冒険者とパーティーなんか組んでいたら、私の為にはならないってわかるよね!?」

「だが…っ」

「イザック! そこまでだ!」

 強く断っても聞いてくれる様子のないイザックを止めたのは、ベルトランギルドマスターだった。

「それ以上は❝付き纏い❞と判断して、処罰の対象になるぞ。
 お前たちはアリスさんの保護者にでもなったつもりか? 過剰な援助は逆に新米を伸び悩ませることもあるんだ。今回は引きなさい」

「あたしは何も言ってないわよ!」

 一緒くたに叱られたマルタが不服そうに声を上げるが、

「お前たちが誰一人イザックを止めようとしなかったのは、イザックと同意見だったからだろう? 
 ったく、揃いも揃って何をしているんだ。 己一人で戦えない冒険者が誰かとパーティーを組んでも、長生きはできないぞ! お前たちならそれくらいわかっているだろう?」

 ギルドマスターに静かに叱られて、黙り込むしかなかった。

 イザックもしばらく考え込んでいたけど、ギルドマスターの言葉に納得したようで諦め顔になる。

「わかった……。 だが、俺がラリマーに行くのは、あの街に元のパーティーメンバーがいるからでもあるんだ。 途中までは一緒に行ってもいいだろう?」

 初めからそう言ってくれていたら同行を拒んだりしなかったんだけど。 イザックや護衛組のみんなの心配のしようを考えると、森の前で素直にお別れできるかが心配になってくる。

 やっぱり断ろうかな?と思っていると、

「アリスさんは乗合馬車に乗ったことはあるのか?」

 今度はギルドマスターが心配そうに聞いてきた。 素直に首を横に振ると、マルタが元気を取り戻す。

「だったら、イザックを護衛代わりにするといいわ! 若い女が一人で旅をしているのを見てちょっかいをかけてくるバカもいるからね! イザックを隣に置いておけば余計なちょっかいをかけられずに済むし、イザックがうっとおしくなったら、馬車から蹴り落とせばいいんだし!」

 マルタはイザックに対して結構酷いことを言っているんだけど、アルバロもエミルもギルドマスターも、楽し気に頷いて同意を示している。 

 イザックまでが笑顔で何度も頷いているのを見て、なんだか力が抜けてしまった。

「森に行くときには、引き留めたりしないで別れてくれる?」

「ああ、わかった!」

「いったん別れた後に、こっそり付いてくるのもなしだよ?」

「……ああ、わかった」

 返事の前に一瞬の沈黙があったことが気にはなったけど、まあ、きちんと約束をすれば、破るようなこともないだろう。

 イザックの人間性を信用してゆっくりと頷くと、

「「「「「「よっしゃーっ!!」」」」」」

 護衛組だけでなく、大勢の人たちの雄叫びおたけびが響いた。

 ……私はどれだけ頼りなく思われているのかな?  ちょっと面白くない気分だけど、一度了承してしまったものは仕方がない。


 私と従魔たちの道行きに、臨時の仲間が増えました!
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